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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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パニック関連

雑魚のゴブリンも数の暴力で襲ってくれば、最悪の脅威になる

作者: よぎそーと

「駄目だ、押し込まれる」

「諦めるな、ここで食い止めろ」

「ちくしょう、ゴブリンのくせに!」

 怒号と悲鳴があちこちであがる。

 塹壕の中で戦う兵士と冒険者達は、死に物狂いで戦っていた。

 しかし、圧倒的な数に打ちのめされていく。



 どこでどう繁殖したのか。

 数え切れないほど大量のゴブリンが突如押し寄せてきた。

 山を越えてあらわれたそれは、山間の集落を飲み込み、その麓にある村や町へと襲いかかった。

 いち早く発見した者達は即座に逃げだしたが、間に合わずに襲われた者達もいる。

 男は殺され、女は犯され。

 悲惨という点ではどちらも等しい扱いを受けていった。



 そんなゴブリンの急襲を聞いても、人は即座に動かなかった。

 数え切れないほどたくさんの、何十万何百万ともいえるゴブリン。

 その数が信憑性を大きく落としていた。

「そんな馬鹿な」

 話を聞いた者達は概ねそう言った。



 例外的な小数もいるにはいたが。それらは即座に逃げだしていった。

「とてもかなわねえよ」

 現実が見えてるだけに、安全な所まで撤退していく。

 少しでも食い止めるために努力するという事はしなかった。

 努力しても結果に繋がらないのも分かっていたから。



 そこに襲いかかったゴブリンは、瞬く間に山地に接する地域を破壊していく。

 田畑は踏み荒らされ、倉庫も中身を奪われる。

 住居はゴブリンの巣になり、そこでは女が饗宴の材料にされていった。



 山の裾野一帯を制圧され、さすがに国も動き出した。

 無数のゴブリンというのは信じがたいが、逃げ延びてきた者達が口々に同じ事を言う。

 さすがに信じないわけにはいかなかった。

 偵察が出され、軍の出動が始められる。

 その中で、まずは先遣隊として編成がいち早く終わった部隊が出撃する。



 強行偵察もかねた部隊は、まずは目に付くゴブリン達を蹴散らそうとした。

 しかし、その考えを寸での所で止める。

 目で見ただけでもかなりの数のゴブリンがいた。

 武装をととのえた軍勢でも、さすがに対処しきれないほどに。

 一個大隊600人余りでは、何千何万のゴブリンを相手にするのは困難だった。



「これほどとは」

 事前に出された偵察隊により、相手が本当に大軍なのは分かっていた。

 それでも実際に見るまでは半信半疑だった。

 あまりにも信じがたい数に現実味を見いだせなかったのだ。

 しかし、実際に目にした以上は否定するわけにはいかない。

 本当に膨大な数のゴブリンが攻めてきた事を。



 それでも何もしないわけにはいかない。

 さすがに押し返す事は出来ないが、少しでも数を減らすために動き出す。

 弓による遠距離攻撃で少しずつ数を減らす。

 そうして注意を引きつけて引きずりまわす。

 ゴブリンの侵攻を少しでも遅らせるために。

 焼け石に水であろうが、やらないよりはマシだった。



 そうして本隊が到着するまでの時間を稼ぐ。

 第一陣、一個旅団2000人あまりが到着。

 これらと合同でゴブリンを引っかき回していく。



 数が多いとはいえ、烏合の衆なのも確か。

 陽動や誘導に面白いように引っかかっていく。

 そんなゴブリンを効果的に倒し、切り伏せ、数を減らしていく。



 だが、多勢に無勢というのも明らか。

 周りを囲まれれば全滅の危機もありえる。

 そうならないように動き回っているが、それにも限界がある。

 時に四方を囲まれる事もあった。

 そういう時は、兵力の薄いところを強行突破することもある。

 その度に、損害が増えていく。



 しかし、押しては引き、引いては押し返す事で、ゴブリンの侵攻をある程度は止めた。

 広く分布するゴブリン全部を引きつける事は出来なかったが。

 これにより貴重な時間を稼ぐ事は出来た。



 遅れて到着する第二陣や第三陣と共に、人々はゴブリンの撃退に勤しむことになる。

 生気の軍隊の他に、住む場所を追われた者達による民兵も加わって。

 それらは接触するゴブリン達を次々に葬り去っていく。

 正面からぶつかれば、能力の劣るゴブリンは簡単に撃破出来た。



 だが、ゴブリンの数は圧倒的だ。

 戦ってる者達の横を、あふれたゴブリンが通過していく。

 それらは戦う事無く人間の部隊を通り抜け、後方にある村や町、都市に向かっていく。

 簡単に浸透していくゴブリン共は、人々の国を飲み込んでいく。



 戦えば勝てる。

 しかし、戦わずして広範囲を制圧されてしまう。

 気付けば常に人類側の部隊はゴブリンに囲まれている。



 そうして戦線を突破するゴブリンは、田畑を、工房を、商会を破壊していく。

 物資の補給にやってきた輸送部隊の足を止める。



 戦場においては敗北するゴブリンではある。

 しかし、戦争そのものには勝利していく。

 物資を消費し尽くした部隊は、戦う力を失っていく。

 田畑や工房、商会などを破壊されれば、生産活動そのものが消えていく。

 そうなれば戦争継続以前の問題になる。



 食い物もなく、装備も道具もなく、それらを運ぶ手段もない。

 こうなれば戦争どころか、そもそもの生活が、命が危ぶまれる。

 まずは生き残るために必要な物資の確保に乗り出さねばならなくなる。



 なお、ゴブリンは狙ってこんな事をしてるわけではない。

 そこに食い物がある、女がいる、だから襲いかかる。

 そういった本能としか言いようのない思考によって動いてる。

 とてつもなく短絡的で近視眼だ。

 自分の都合しか考えてない。



 だが、それに徹してる事が、結果として良い方向に動いてる。

 あくまで大量にいるから上手くいってるのだが。

 それでも、対処できないほど大量の敵が、勝手にあちこちで悪さをする。

 それに対処できる者などいるわけもなかった。



 かくてゴブリンに人々は飲み込まれていく。

 阿鼻叫喚の地獄絵図がそこかしこに生まれる。

 そんな中を、人々は必死に抵抗し、死に物狂いで逃げだし。

 それに成功してわずかばかりの安堵を得るものもいる。

 反面、逃れる事も出来ずになぶり殺されるか、気が狂うまで犯されるものもいる。

 どちらにしても地獄である事にかわりはない。



 逃げたところで、そこが安住の地であるわけもなく。

 捕まればそれこそ死ぬか死ぬまで苦痛に苛まれる。

 どちらも等しく地獄だった。



 それをもたらしたのが、何十万とも何百万ともいわれるゴブリンだった。

 人間の子供くらいの体躯の、智慧もない残虐な人型の魔物。

 本来なら雑魚として一掃される存在だ。

 それが大量の数によって人を圧倒していく。



 狙ってこのような大群が作り出されたわけではない。

 ただ、運良く繁殖に成功した。

 運良く多くのゴブリンが成人になるまで生きのびた。

 運良く、人の居る場所を知っていた。

 そこが豊かである事も。



 本来の居住地で食えるものを食い尽くしたゴブリンである。

 あらたな餌場を求めて大移動を始めた。

 そうして自然発生した大侵攻は、人々を地獄に叩き落とした。



 さすがにこれには人類各国も対応を始める。

 軍隊を派遣しゴブリン殲滅に動き出す。

 志願して戦闘に参加する民兵も加わる。

 傭兵として雇われた冒険者もそこにいる。



 この時、人類は一丸となってやってくる脅威に対抗していった。

 数十万の軍勢がゴブリンに向かっていく。

 それでも苦戦は免れず、人類は多くの犠牲を出す事となった。



 それでも時を費やし、大量の血を流し、屍の山を築き上げ。

 人は何とか勝利した。

 荒れ果てた大地を取り戻し、目処の立たない再建に向かっていく。

 そんな人類は、絶望しながらも荒れた土地の復旧に乗り出していった。

 再び山の向こうからゴブリンがやってこないよう願いながら。

 いずれまたやってくると諦めつつ。

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