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第7話 「クリスの願い」

西方暦325年6月12日

プルゼニア王国 カレドニク公都ドルッセン

冒険・探索者ギルド ドルッセン支部


 レオ率いる臨時パーティがB級パーティ向けの塩漬け依頼を受けてから1週間後、ギルドの窓口でクリスは驚愕していた。


 え?あれだけの依頼をたったの3日で終わらせていた!?

 残りの3日間はゆっくりと過ごしていた・・・って。

 幾らレオ君がC級とは思えないとんでもない実力を持っていたからといって、これはあまりにも・・・。


 しかし、たしかに忍蜂についていえば翌日には達成の報告があったのは確かだ。あまりにも規模の大きな巣であったことから思わず青くなったことも覚えている。


 ワイバーンについてはまだ報告は受けていないまでも、北の山で巨大なワイバーンの雄が討伐され、複数の商会が素材の確保のために慌てて飛び出していったのを見ている。


 ・・・そういえば、今朝もとある商会の前を通った時に、今度はシーサーペントだ、それも亜種だ、急げっ!と慌ただしかった・・・。あれも彼らの仕業だったのか・・・。


 もしかして、レオ君は「C級とは思えない」どころではなく、冒険者全体の中でも尋常ではない実力を秘めている・・・?


 だとすると・・・だとすると・・・もしかしたら、あの依頼を何とかできるかも・・・。



 それぞれの素材についても買い取ったあとで、ずっしりと重い金袋を渡す。ワイバーン、シーサーペントを合わせて金貨12枚になったが、全員の希望で大銀貨での支払いとなったのだ。

 ちなみにレオの報酬は無い。それぞれの村に渡したために、「俺はいらん」と言って受け取らなかった。


 が、「そうだ、前に狩っておいた奴の素材の買い取りもお願いしていいかな?」とレオが言い出す。


 レオの出したものを見た時、クリスは心臓が止まるかと思った。なんてものを、なんて良いタイミングで出すんだ、この男は・・・。

 クリスの目は、いつもの気弱さではなく決意を秘めていた。


 出てきたのはやたらと大きな雪白熊の素材だった。肉や内臓などはまだホカホカと温かい。毛皮に至っては、どう仕留めたのか分からないが血の汚れが一切付いておらず、最高の腕を持つ職人が剥ぎ取りと一次処理を済ませたかのような見事さだ。


 しかもこの大きさ、毛並みの美しさ・・・これほど質の高いものとなるとどれほどの値が付くか・・・。滅多に狩られることのない個体、しかも処理は完璧。貴族家によっては白金貨10枚出してでも買う、と言いそうだった。


 臨時パーティのドルフ以下3名は口をあんぐりと開けたままだ。それはそうだろう。金貨12枚をそれぞれ分け合ってホクホク顔だと思ったら、最低でも白金貨が4,5枚は手に入りそうな素材がポンと目の前に出てきたのだから・・・。


「オークションに出すよ、これは。そうしないと君に払えない」

「分かった。それでいいよ。まとまったお金が欲しくてね」

「今から招集を掛けて・・・そうだな、きっと王都にも声が掛かって広まってからだから、オークションは早くても2週間後だな。おそらくは3週間後くらいになる」


 それでもいいかな?と問うクリスに、レオはひらひらと手を振って応える。構いはしないよ、との意だろう。


「ところで・・・レオ君、君はこれを自分で狩ったと言ったね?」

「ん?そうだよ」

「ならば・・・ちょっと待っててくれ。・・・この依頼を受けてみないか?」

「お、どれどれ・・・雪華抄、雪光草、氷牙樹の夜花、シルマージュの生き血・・・。これはまた・・・。

 ・・・誰かがケマカチュラの毒にでも当たったのかね・・・。しかし、あんなもん誰が作れるんだ・・・?何百年前に失伝してるだろうに・・・」


 何かぶつぶつと言っていたレオがクリスに向き直って告げる。

「クリちゃん、これさ、B級パーティじゃ無理でしょ?A級のトップクラスじゃないと採ってこれないよ」

「!!!やっぱり・・・君は知っているんだね?この素材を!これがどこにあるかを!」

「・・・あーぁ、やっちゃった。クリちゃん、性格悪いわー。カマかけたね?」

「いや、ごめんなさい。・・・でも、どうしても・・・これは受けてもらいたいんだ」


 そう語るクリスの顔はとても真剣だった。


 その顔を同じく真剣な、何かを見極めようとする目で見ていたレオは・・・途中で、フッと笑うと

「分かったよ、クリちゃん。・・・誰かのためなんだろ?」

「なっ・・・!なんでそれをっ??」

「俺は見れば大体分かるのさ。クリちゃんの想いに応えて、俺が取りに行ってきてやるよ」

「・・・あ、ありがとう。よろしくお願いします」

「いいさ。俺もそろそろ行こうと思ってたからちょうどいい」

「そろそろ・・・?」

「あぁ、この素材が取れる場所の近くに現れる奴を狩りに行きたくてね」


 ここでドルフがたまらず口を挟む。

「おい!二人で話してねーでちゃんと説明しろ。何だかA級のトップクラスじゃないと、とか不穏な言葉も聞こえてくるしよ」

「あー、すまんすまん。俺一人で行ってこようかと思ってるから、まぁいいかな、と」

「よくねぇ!・・・レオ、そこは俺が一人で行って生き延びられる場所か?」

「んー、その場所にいるだけなら大丈夫かもしれない。装備がちゃんとしてれば」

「いるだけなら?」

「うん、ドルフ一人だと、その場所にそもそも辿り着けない」

「・・・そうか。俺たち3人のお守りをしながらそこへ行くのは手間か?レオの身に危険が及ぶほど邪魔になるか?」

「うんにゃ、そんなに手間ではない」

「連れてってくれねーか?」

「いいよ。いい経験になると思うよ」

「ありがとよ」

「はいよ~。あ、ミカエラはお漏らししてもいいように・・・へぶっ」


 ミカエラの張り手がレオの口に決まっていた。ミカエラの顔が薄っすらと赤くなって、プルプル震えている。レオ、それは言っちゃダメなやつだよ。。。


「クリちゃん、これはいつまでに達成すればいい?」

「・・・できるだけ早く・・・と言いたいところだけど、無理のない範囲で構わない」

「分かったよ。まぁ、モノがモノだし、そうだろうと思ったよ。ちゃちゃっと取ってくるから大船に乗ったつもりで待つがよい・・・なーんてな」

「頼みます」

 クリスの顔は、これまでギルド職員の誰もが見たことのないほどに決然としたものだった。


 で、ギルドから出たレオは、3人に囲まれていた。

「レオ、乙女の秘密をばらそうとしたのはこの際許してあ・げ・る。でも、この依頼のこと、洗いざらいしゃべってもらうわよ」

「あら・・・まだ怒ってる?・・・あー、怒ってるね。分かったよ。依頼についてもちゃんと話すさ。今日は俺がおごるよ」


途端にミカエラの機嫌が良くなる。現金な女である。


 で、どこの店よ?へ?あの・・・あのル・フィロッテ?・・・マジで?やったー!!!

あそこ、一回行ってみたかったのよね~

あん?行きゃいいじゃねーか?・・・誰とよ?

女友達はいるけど、あんな高いところに一緒に行けるほど稼いでる子いないし、私がおごったら気を遣うだろうし。。。

なによ?・・・寂しい女だって言いたいんでしょ?わぁーってるわよ、私だって!

あーぁ、どこかにいい男でも居ないかしら・・・

そういえば、あんた・・・顔はちょっと見ないくらいに美形だし、男ぶりはいいのよねぇ・・・

レオ、あんた娼館通いやめるならお姉さんが恋人になってあげても・・・

ちょっと、途中で断るなっ!!私のプライドがっ!!


 姦しいものである。

まぁ、これがミカエラの良いところであり・・・きっと、恋人ができない理由であろう。

おっと、殺気が飛んできた。。。


 何はともあれ、レオの案内によりドルッセンの街でも貴族や、よほど大店の主人などでなければ入ることが敵わない高級食事処「ル・フィロッテ」へやってきた4人。


 レオが「やぁ」と手を上げると、美男美女揃いの案内係や給仕が皆、花の咲いたような笑みを浮かべて挨拶をしてくる。

「これはこれは、レオナール様。ようこそお越しくださいました。おいでいただくのを一日千秋の思いでお待ち申し上げておりました」

「いやいや、大げさだなぁ。・・・今日はこちらの、臨時でパーティを組んでる仲間と一緒に食事をしに来たんだ。できれば個室がありがたいんだけど、空いてるかな?」

「もちろんでございますとも。レオナール様のためでしたら、いつでも特別室をご用意致しますとも」

「特別室じゃなくてもいいけど・・・いや、わかった、ありがとう。ありがたく使わせてもらうからさ、そんな悲しそうな顔をしないで、マリーさん。美人は笑顔が一番だよ」

「もう、お上手なんですから。それではご案内いたしますね」


 ・・・なんだろう、この違和感の無さは。もともとキラキラオーラの出ているレオが、この場で圧倒的な存在感を示していて、この高級店で全く物怖じせずにスタッフに応対し、しかも滅茶苦茶歓迎されている。・・・なんだろう、こいつは。何者なんだろう。


 と、疑問を抱きつつ、完全に気圧されている3人は改めてレオに対する敗北感に打ちのめされるのだった。


 マリーというスタッフに案内されたそこは、完全に貴族用だろうと伺える全てが上質な調度によって統一された部屋だった。ただ、絢爛豪華、というよりは落ち着いたシックなトーンでまとめられている。


「レ、レオ・・・本当に俺たちがこの部屋使っていいのか?」

「うん、いいんじゃない。使わないって言うとマリーちゃんが泣くし」

「・・・お前ってやつは・・・。そのうち、女に刺されそうだな」

「そういうことにはならないように気を付けてるから」


 そのうちにマリーが戻ってくる。給仕の女の子を一人連れて。

「本日はこちらのシオーネが給仕を担当致しますのでよろしくお願い致します。内密のお話をされる時には合図していただければ外で待機させていただきます。

 この部屋には防音の結界が張られておりますので、またお呼びの際はこちらのボタンを押していただきますと、シオーネが気付けるようになっております。

 ご注文などはシオーネが承りますので、何でもお申し付け下さいませ。それではごゆっくりどうぞ」

マリーは優雅に一礼してから退室する。何というか絵になる所作である。


「じゃ、頼もうかな。シェフのおまかせコースを4つで。で、料理に合うワインをボトルでよろしく。」

「はい、かしこまりました。コースの中でそれぞれ合うワインが異なりますが、全てボトルでお出ししてもよろしいですか?」

「うん、それでお願い」

「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」


 シオーネがにっこりと笑って一礼したのちに一旦下がる。しばらくするとシオーネがテキパキと、見た目にも美しく盛り付けられた、そして、見た目に分かるくらいにお高い感じのする料理を各人の前に配膳する。


「・・・お、おい。大丈夫なのか?」

「ん?ここはシェフのおまかせを頼んでおけば問題ないよ。どれも美味しいから。酒もシェフに料理に合うものを、って言っておけば一番いいのを持ってきてくれるから大丈夫」

「そういう意味じゃねぇって。こんな高そうな料理、幾らするんだ・・・。お前幾ら金持ってるからってちゃんと払えるのか?」

「あー、お金の話?それなら問題ないよ。俺、この店にはむしろ貸しがいっぱいあるからさ。いつでも食べに来てくれていい、ってシェフに言われてるんだよ」

「・・・お前って、ホントにとんでもないな。こんな貴族御用達みたいなとこに貸しを作るって。。。」


 料理はどれも素晴らしかった。赤尾鳥の香草焼き・春苺のソース、唐黍のスープ、カミナリエビのフリット、フィロッテサラダ、蒼月熊のソテー・肝ソースを添えて・・・などなど。

 それだけでなく、ボトルで提供されるワインもどれも素晴らしく、ミカエラもドルフも言葉を失いつつ、うっとりしながら飲んでいた。


 とりあえず食事中はみんな食べることに夢中だったので、その後で話すことにする。


 あのクリスから頼まれた依頼、あの採取物はこの辺りでは見ることのできないものだということ。あれを集めるためには、もっとずっと北に行かねばならないこと。

 北の大森林を越えて、さらに北に行った山にあるのだということ。そこまで行くには尋常な方法では時間が掛かりすぎるので、ずっと飛んでいくこと。


 途中で飛竜だとか、ゼー・ファルケなどのような危険な魔獣に襲われる可能性もあるが、そこは結界を張りながら行くので特に危険はないこと。


 北にひたすら飛ぶと、いずれ周りが白一色の世界が広がっていること。そこにある山脈の高山帯に目的とする素材があること。ただし、今の装備では寒すぎて凍え死んでしまうので、防寒対策をしっかりとしておかなければいけないこと。


 高山帯には雪白熊は現れないが、もう少し下の方に行くと現れること。

 今回、自分が狩りに行きたい氷角バイソンはこの時期に近くに群れを伴ってやってくることがあるため、自分の舌を満たすために狩りに行きたいこと。場所が場所だけにほとんどの人間が知らないが、食べたことのない人間からすると気を失うほどの美味さであること。


 今回、3人には特に何もさせるつもりがないこと。自分のやることを見ておくだけでも、白銀の世界での戦い方、過ごし方の参考になるであろうこと。・・・などなどを話した。


 既にずいぶん酒が入っているから、どれだけのことが頭に残っているかは分からないが・・・。レオは、3人からまたも呆れたような目で見られたことに納得がいかなさそうだった。ちゃんと洗いざらい話したじゃないか!なのにその態度はひどい!




西方暦325年6月13日

プルゼニア王国 カレドニク公都ドルッセン

新市街 北中央門



 翌日、北中央門に集まった4人は一度城門の外に出てしばらく走る。2ジロサクスほど走り、一旦街道の脇道に入ったレオは、「ここなら大丈夫かな」と言いながらあっさりと全員に結界魔法による堅固な防護結界を張った。そして・・・


「よし、全員で手を繋ぐぞ。離したら空の上に置いていくから絶対に離すなよ~」

と言いながら、徐にヴィゴとミカエラの手を繋いで、ドルフが仕方なしにヴィゴの手を握るや否や、「じゃ、いっくよ~」と気軽に声を掛けて、ぐんぐんと上昇した。空へ。


 とある異世界では飛行機なる乗り物があるが、その中でもとりわけ戦闘機と呼ばれる戦う飛行機はほぼ垂直に近い角度で上昇することができる。

 この時、4人が体験していたのはそれと全く同等の経験であった。速度は1刻あたりで500ジロサクスほどなのでそれほどでもないが、とはいえ、この世界、セントアークの人間にとってみれば異次元の速度である。(ちなみにこの速度は上昇の時だけで、水平に移動する時はもっと速くなる)


 瞬く間に遠くなる地面を見て、ミカエラは「ひっ・・・」と言ったまま固まってしまった。ドルフもかなり焦っている。


「ちょっ、ちょっとレオっ!!いつまで上に行くつもりだ?」

「もうちょい。もうちょい上まで行かないと、急に飛竜とかゼー・ファルケに襲われるかもしれないからね~」

「ちょっ、寒い!!寒すぎる!!凍え死ぬっ!!」

「あー、悪い悪い。・・・今、結果の中の温度を地上と同じにしたから大丈夫でしょ?」

「あ、あぁ・・・。高いところに行くと寒くなるんだな・・・とてつもなく」

ヴィゴが冷静に感想を述べる。


「そうだねぇ・・・。気温を測る魔道具で一回測ったことがあるんだよね。1000サクス上にいくと大体6度くらい下がるんだよ」

「そ、そうか・・・ん?上昇が止まったか?」

「うん。今でちょうど1万サクスくらいだ。これから目的地まで大体2500ジロサクスくらいあるからね。2刻あれば着くけど」

「・・・なんか、色々とすごいな、レオは。この前のワイバーンのことがあるから、そこまで驚きは無いが・・・人が空を飛べるとは」

「まぁねぇ・・・もっと早く行く方法が無いわけじゃないんだけど。。。それはまた今度だね」


 ミカエラは上昇中は下を見なければいいと思っていたが、前進が始まると身体の向きが変わり、否応なしに下を見ざるを得なくなったことで死にそうな顔をしている。


 だが・・・

「上から見る世界、結構綺麗だろ?」

「・・・あぁ」

「ミカエラもどう?雲よりも上の世界は綺麗だろ。上を見ればどこまでも続く蒼い空だ」

「・・・そ、そうね。思っていたより怖くなかったことは認めるわ」

「ま、そのうち慣れるよ」

「な、慣れる・・・?慣れなきゃいけないの・・・?これに?」

ミカエラが呆然としている。


「マジかよ・・・。慣れたくはないよな・・・。・・・おい、レオ。何かこっちに向かってくる奴がいるぞ」

「ん?あれは飛竜だな。大丈夫だよ、俺たちの速さには付いてこれないから。それよりも・・・前からくるゼー・ファルケの方が正面からぶつかるコースだね。ちょいと待ってよ・・・ほいっと。・・・あっ、素材拾わなきゃ。ちゃんと捕まっててね~」

「え?まっ・・・きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 正面からくるゼー・ファルケの頭を謎の光で貫いて撃ち落とすと・・・どうやって?

 きっと、この場に居たもの以外に言ったとて信じてはもらえないだろう。レオは、口から光を撃ちだしたのだから。


 それはさておき、落下し始めた巨鳥に向かってレオが突如急降下と急加速をし始めたからドルフとミカエラにとっては悪夢でしかない。そして、レオ以外の全員が「ぶつかるっ!!」と叫んで目を閉じた瞬間、レオがゼー・ファルケを回収してまた元のコースへと戻った。


 しばらくはドルフとミカエラの恨み言が続いたのは言うまでもない。

 そんなこんながあった後に、次第に下界の景色が白一色に包まれていく。一度海の上に出た後で、また陸地へと戻り、そして・・・上空から見てもかなり高い山々が連なっていることが分かる場所に差し掛かると、レオは徐々に高度を下げていった。


「あ、下がるときはこうやって下げていくのね」

「ん?やってほしければ落ちていく感じにもできるけど・・・そっちが良かった?」

「「絶対にやめて下さいっ!!お願いしますっ!!」

ミカエラとドルフの声がハモった。


 ヴィゴは一人、俺は落ちてくやつも好きなんだけどなぁ、などと言っているが。


 そして、とある山の頂に近い尾根に降り立った4人は・・・いや、そのうちの3人は、レオが結界を解除した瞬間にあまりの寒さに死にそうになる。


「さ、さむい・・・」

「レオ・・・助けて・・・」

「えー、昨日、防寒対策はバッチリしないとだめだよ、って言ったじゃん。何ももってきてないの?」

「だ、だって・・・昨日は気持ちよく飲んでたしぃ・・・あんまり覚えてないってゆーかぁ・・・」


 はぁ、とため息をつきながら、レオは3人の鎧に対して魔法の付与をしていく。


「こ、これは・・・?全然寒くなくなったぞ・・・」

「あぁ、全員の鎧に環境最適化の付与をしたんだよ。その人が一番快適に感じられる環境にしてくれるの」

「はぁ!?そんな付与、国宝級の鎧とか、ローブくらいにしか付いてないもんだぞ!そんなん、俺ら如きの鎧にほいほいと付けていいもんじゃないだろ!」

「だって、俺は別に大した手間でもなく出来るんだもん。やらないと、3人とも凍え死にそうだし」

「うっ・・・」


「さて、とりあえず素材の採取から行きますか。えーと、まずは・・・雪華抄ね。んー・・・あ、あった。こっちだよ」


 レオに連れられて歩くことしばし。雪華抄とやらがある場所についたらしいのだが、何もない。周りは雪と氷の山肌があるばかりだ。


 と、思っていたら、レオが徐に雪と氷の部分に2サクス四方ほど、深さは1サクスほどの穴をあけた。穴の中を覗き込むと、注意してみないと分からないが、たしかに華がある。

 葉のようなものもあるが、全てが氷でできているかのように透明で、なおかつミスリルのような微かな輝きを伴っていた。


 レオはこの華に対して、手をかざして何かをしている。一応、魔法使いとして中々の腕前を誇るはずのミカエラにも、何かしら膨大な魔力が注がれていることは分かるが、それ以上のことは分からなかった。


「あ、あんた・・・そんなに魔力使って大丈夫なの?」

「ん?大丈夫。・・・お、出来てきたね。よし、これで大丈夫」


 レオがその華の中心部からポコポコと出来てきた蕾のようなもの、透き通っていて、中に輝く欠片を幾つも含んでいるものを拾い集めている。


「これが雪華抄だよ。使い道は・・・まぁ、色々ある。ただ、滅多にみられるもんじゃないから、これを使った薬とかは、白金貨が必要になるくらいだね」

「は?あんた、この依頼の報酬見てないの?全部集めてたったの金貨10枚よ?」

「分かってるよ~。きっと、依頼を出した人も期待はしていないだろうさ。きっと、何かの文献から引っ張ってきた知識でこの依頼を出したんだな。どれだけ採取が難しいかも知らずにね」

「なら何でそんな依頼を受けてるのよっ!」

 さすがは金に厳しい女、ミカエラ。自分がもらう訳でもないのに妙に怒ってらっしゃる。


「まぁまぁ、そうカッカしないで。・・・まず、俺には難しくないから。何なら1刻もあれば終わる。今日はみんなと一緒だからちょっと手間を掛けてるだけだ。

 それに、クリちゃんは・・・誰かを助けたいんだよ。そのためにこの依頼を俺に頼んだ。彼が自分のためにこんな依頼出してるなら無視するけど、とにかく人を助けるためにギルドの職を賭して俺に頼んできたんだ。そういう奴は嫌いじゃない」


 何というか、言っていることがまともである。レオのくせに。


 よっしゃ、次だ次。と言ってレオは3人を無造作に結界で包むと隣の尾根まで跳んだ。約2ジロサクスほどあるのだが。ひとっとびー、ってやつだ。


 そして、「この辺りだな・・・」と足を止めるや否や、レオは強力な光魔法を辺り一帯に照射し始めた。すると、白く雪を固めたような色合いで、中から仄かに光を放つ草が一面に生えてきた。レオはそのうちの約3分の1ほどを刈り取る。これが雪光草らしい。


「これはね、光魔法の光を当てないと生えてこないんだ。一回生えてしまえば、後は2,3か月はこの状態のはずなんだけどね。・・・さてと、これで2つ目も採取できたと」


 もう、この頃になると、レオという存在のあまりの非常識さに感覚がマヒしてしまったのか、誰も突っ込もうとはしない。


 次は・・・氷牙樹の夜花ね・・・。氷牙樹・・・あった、あそこだ。また飛ぶから捕まっててくれよ。


 というなり、20ジロサクスほどをひとっとびした一行は、見るからに刺々しい木の前にいた。白い木肌に、いくつかの太い枝が思い思いの方向へと伸びているが、どこを見ても恐ろしいくらいの棘が突き出ている。


 するとレオは、この木の周りを結界で包み込み始めた。その後、徐々に結界の内部の明るさを減じていく。さらに、結界の内部に極光のような光が煌めく。


 その瞬間、恐ろしいほどの棘の先端に、思わず見とれてしまいそうな美しく蒼い花が咲いた。花弁の重なりや形はバラのようだった。


 レオはこの花をいつの間にかはめていた手袋越しに、丁寧に摘み取っていく。その数が100を超えたところで摘み取るのをやめ、結界から出てくると全員をしっかりとした結界の中に閉じ込める。そのあとで、氷牙樹の周りを覆っていた結界を解除する。すると、これまで棘の先端に咲いていた美しい花が一瞬にして揺らぎ、陽炎のように消えていった。


「これはね、猛毒なんだ。触っても毒、この消えていったやつも吸ったら猛毒だ。

 消えたように見えるけど無くなった訳じゃなく、空気の中に混ざっただけだから、今は風の魔法で向こうの風下へ散らしてるんだよ。十分に散らせば問題はない。

 ちなみに俺が摘み取ったものは一つ一つに状態固定を掛けてるから大丈夫。光に当たっても消えはしない」

「なんちゅう恐ろしいものを・・・」

「俺の予想が正しければね、これの本当の依頼元は貴族様だよ。それも大貴族。で、だれかがケマカチュラの毒にやられたんだ。きっとね。・・・それの解毒に必要なんだと思う」


「ケマカチュラ?・・・聞いたことが無いな」

「まだプルゼニアが出来上がる前、3大強国も東の2大国もまだ今の形で成立していなかった時代・・・今よりも女神や精霊の影響が強かった頃に、暗殺者が用いた毒だよ。

 よほどに息の長い暗殺者ギルドか、もしくは・・・いや、やめよう。口に出したら、みんなを危険に巻き込むかもしれん」

「・・・暗殺者ギルドってだけでも俺たちの手には負えない話だな」

「あぁ、下手に首を突っ込んでいい話ではない。でも、放っておいていい話でもない。プルゼニアは過ごしやすい国だ。この国が乱れるのは少々面白くない」


 そう語るレオの顔はどことなく憂いを帯びていた。


 レオの話にきな臭いものを感じながら、3人は周りの空気が清浄なものになったかどうかを測るレオの合図を待っていた。十分に毒の成分が散った、と判断したレオの合図で結界が解除される。


「さて・・・最後はシルマージュの生き血だな。・・・先に聞いとくけど、見たいか?」


 特に何も考えずにドルフが答える。

「あぁ、何でも見ておいた方が勉強になるしな」

「分かった。その代わり、苦情は受け付けないからな」


 今度は少し離れた湖まで飛ぶと、湖畔に3人を一旦置き去りにしてレオは上空から何かを探る。そして、瞬時に凍り付いた湖面に飛び込んでいき、10寸ほどして飛び上がってくる。その手には全長1サクスほどの銀色の甲羅を持つ亀のような魔獣がいた。


 3人の近くに降り立つとレオは、亀の甲羅を結界で固定し、亀の首に一カ所だけ切れ目を入れた。

 亀・・・シルマージュは何とか逃れようとジタバタもがいている。その首から流れる血は、藍より深い色をしていた。血の量がワインの一瓶ほどに達した頃、レオはシルマージュに対して治癒魔法を使って治した。そして、ドカンと一発火の玉を打って湖まで帰る道を作ってやる。


 ここから先はシルマージュが自ら戻っていくのだろう。

「これで依頼は完了だ。・・・なんだよ、だから最初に言ったじゃないか。本当に見るのか、って。いじめっ子を見るような目で見られるのは甚だ心外だぞ。ちゃんと治して帰してやったし」

「いやー、絵面がなぁ・・・悪すぎる」

「だから・・・もういいや。さて、じゃ、最後に俺の個人的な趣味で氷角バイソンを狩りに行きますか。今なら・・・お、ちょうどいいや。ここから来たに10ジロサクスくらい行くとちょうど居るわ。飛んでいこう」


 飛んで連れていかれた先には、頭に透明の角を生やし、肩から背にかけてが異様に盛り上がった4つ足の魔獣が群れていた。


「こいつらはね、首をスパッとおとすのが一番正解。この群れの大きさなら・・・10頭くらいは間引いてもいい感じかな。見ててくれよ~。ほいっと。ほいほいっと」


 いとも簡単にレオは群れの中を走り回っては首を狩って、首と本体を”消して”ゆくが、3人は引き攣った顔でそれを見ている。


 それもそうだろう、この氷角バイソン、全長は4サクス、体高も3サクスほどはあるのだ。しかも動きは俊敏、あの氷の角で身体を少し掠められたらそれだけでも十分に戦闘不能になり得る。


 だが、レオは結局、氷角バイソンに傷一つ付けられることなく戻ってきた。しかも、氷角バイソンは全くこちらを認知していない、何か分からないが急に群れの中から10頭が消えて混乱している、周りを警戒している、そんな様子が窺えた。


「いやー、こいつの肉はね、どこ食べても絶品なのよ。食べたい?」

「・・・あ、あぁ、食べれるなら」

「じゃ、さっきの山まで戻りますかぁ」


 飛んで山に戻った後、レオが取り出したのは強化された石で三方を覆ったような竈のようなもので、その上に分厚い鉄板を置いている。いや、鉄板のように見える何かだ。

 そして、覆われている部分に住みを放り込むと、一瞬にして火を熾す。


 もう既にレオの非常識っぷりには3人とも食傷気味ではあるが、今さっき収納魔法と思われる場所に仕舞われた氷角バイソンが、解体されて綺麗に1人前に切り分けられたステーキ肉として現れたことには少々驚いた。


 そして、空中で塩と何かしらのスパイスがもみ込まれていき、鉄板の上に・・・ジュウッといういい音とともに肉が焼かれていく。


 見極めてひっくり返す。またも美味しい音が・・・。

 そして、いつの間にか用意されたテーブルと椅子、そしてステーキを食すための皿に、美味しそうな焼き立てのパン、しっかりと温められた唐黍のスープ・・・。


 焼きあがると同時に皿に盛られ、とどめの塩を振られた肉は、非常に食欲をそそられる香りを漂わせていた。


「はい、召し上がれ」

3人は夢中で食いつく。

「「「うまいっ(なんだこれっ)」」」


 3人がこれまでに食べたことのないほどの濃厚な旨味、絶妙な脂の甘み、そして口の中でほどけて、とろける肉。お口の中が幸せだ。


 そして、脇役のはずのパンとスープ、これも今までに食べたことのない絶品だ。パンはパンだろ・・・と思っていた一同は、それぞれ幾つか種類があって、そのどれもが美味い。


 牛酪をふんだんに使ったもの、木の実が練り込まれたもの、中に辛みのあるペーストが挟んであるもの、仲にとろける乾酪が入っている濃厚な味わいのもの・・・


 スープもスープで絶品だ。唐黍の実がなめらかになるまですりつぶされ、クリームとブイヨンが唐黍の甘さを最大限に引き出すいい仕事をしている。


 結論、幸せ。いじょう。


 そんな締まらないとろけるような顔になっている3人を見て微苦笑を浮かべたレオも、自分の分を手早く作って食べるが「ん~、やっぱりこの味だ。美味いねぇ」とご満悦である。


 匂いにつられてやってきた、3人が見たこともない大きさの銀糸狼が現れるが、レオが一睨みしただけで足が竦んで動けなくなったようだ。


 仕方がないとばかりにレオが、少し大きめサイズの肉の塊を炙る程度で塩をたっぷりまぶして銀糸狼に投げると、器用に口でキャッチする。ハグハグして食べ・・・全身に衝撃が走ったかのようにビクッとしていた。


 さながら人間の言葉にすれば「こ、こんな美味いものがあったとはっ!!」であろうか。3人は狼が美味いものを食べて顔が綻ぶところを見た最初の冒険者、あるいは探索者かもしれない。


 だが、あの銀糸狼はきっとこれから苦労する事であろう。この極寒の大地で火を使って肉を炙るなどと、狼にどうやってできるだろう。


 何となく、微笑ましいものを見るような目でそんな銀糸狼の様子を眺めていた一同であるが、そのことに思い至ると若干不憫な気もしてくる。が、仕方あるまい。


 知る、ということは時として大きな悲しみをもたらすものだ。もう知らない状態には戻れない・・・あぁ、あの時の味をもう一度・・・と。それも人生である。・・・狼だから狼生か?


 何はともあれ、極上のお肉をいただき満腹となった一同は、さっさと片付けて空の上の人となった。


 ・・・銀糸狼は、内心で悩んでいた。こんな美味しいものならもっと食べたい。でもあの人怖かった。ほんとに怖かった。

 あの白い熊だって僕は倒せるのに、あの人だけは無理。絶対敵わない。あんな怖い人に「もう一切れちょうだい」とは言いにくい・・・でも食べたい・・・あぁ・・・。葛藤の末に振り向いた時には・・・もう何もなかった。誰もいなかった。


 あぁっ・・・僕の・・・僕のお肉・・・。上空にいたレオ一行には届かなかったものの、その後しばらく辺り一帯には銀糸狼の悲し気な遠吠えが響き渡った。


 狼の鳴き声を意訳するとこうなるだろう。

「お~~~に~~~く~~~」と。


 その日、その地の小動物、被捕食動物たちはみな自らの巣穴に籠って出てこなかった。


 さて、行きと同じく帰りも2刻ほどでドルッセンの近くにたどり着いたレオ一行、早速ギルドへと顔を出す。


 普段は受付嬢の誰か、大体はソフィーがこっちこっちと呼び寄せるので、そこを使う。今日はソフィーを通じてクリスを呼び出してもらう。

「クリちゃん、昨日の依頼、達成してきたからどこで渡せばいいか教えて」

「・・・・・・え?ほんとにもう達成したんですか?」

「うん。ただ、ここでは出さない方がいい気がするんだよね。色々と扱いに注意が必要なものもあるし」

「分かりました。ではこちらへどうぞ」


 クリスが先導して連れて行ったのは、このパーティメンバーにとってはお馴染みの大物査定専用の部屋だ。

 ・・・いや、おかしいだろ、パーティ組んでまだ1週ほどしか経たないのに、全ての依頼の結果が買取カウンターでは済まずに、大物査定専用室だなんて・・・と、ドルフもミカエラもヴィゴも思っているだろうが、仕方がない。レオだもの。


「では、どうぞ」


 クリスに促されて出されたものは全て、透明なケースに入っていた。シルマージュの生き血もいつの間にか透明な瓶に入れられている。透明な瓶を見て、というか、透明なケースを見て、皆が唖然としている。


「そ、それは・・・グラリル・・・。そんな透き通って、色のないものは初めて見ました・・・」

「あれ?そ、そうだっけ?・・・やっちまったかな。。。ま、まぁ、これの中に入ってるのが依頼のあった素材だよ。

 で、基本的に全部、室温だろうと溶けてしまうから、こうやって中を水が氷る温度よりも遥かに低い温度に保つ入れ物が必要なのさ。中身については鑑定が出来る人に見てもらってくれ」


 それからしばらくは騒がしかった。普段買い取り担当として鑑定している職員では、鑑定できなかったのだ。

「あー、これ、結構レベルの高い素材だから。もうちょい経験がいるのかも」


 17歳のレオにこれを言われるのである。見た目にもショックを受けた鑑定担当はすごすごと買取カウンターへと戻って行ってしまった。

 ちなみに、割と見た目の可愛い女性、23歳である。周りの人間からのひじょーに冷たい目線にレオは何とも曖昧な笑みを浮かべるしかなかった。代わりにやってきたのはギルドのサブマスターの片割れだった。


 こちらは妙齢の女性であるが、美しい人である。若干レオのことを咎めるような目で見ながらも、きっちり仕事はしてくれた。


「間違いないわね。これが雪華抄、こっちは雪光草、これが氷牙樹の夜花・・・よくこんなもの採取できたわね。

 で、これがシルマージュの生き血・・・これもどうやってこんな量を手に入れたのかしら・・・。シルマージュなんて、一瞬のスキをついて首を刎ねたものから採るしかないのに。全てが最良の状態で採取されている。ここにサインしておくわね」

「おぉ・・・さすが年の功「なんですって?」・・・なんでもないです。鑑定眼、御見それいたしました」


 氷のような声で刺し込まれた一言にレオもたじたじである。あの人怖いね・・・と、ドルフやヴィゴに同意を求めるも、どちらも知らぬふりをしている。


 クリスに目線を向けると、何もなかったかのように依頼書の完了証明のところへ、達成のサインと評価がSとして書き込まれている。レオとしては裏切られたかのような、何とも納得のいかない顔をしているが・・・


「クリちゃん、この素材、ちゃんと特性分かってる人が扱うんだよね?」

「ん?あぁ、少なくとも我々ではこのグラリルのケースから出すことはしないよ」

「うーん、それだけだと心配だなぁ。依頼者の人にこのメモを渡しておいて。これ、うかつに触ると人が死ぬ可能性があるからね」

「・・・そ、そんなに危険なものだったの?」

「うん、少なくとも知らん奴が採取しようとしたら、そいつは死んでるだろうさ」

「そうか。ありがとう。このメモは必ず相手に渡すよ」

「頼んだよ」


 素材のやり取りが終われば、完了した依頼書をもってソフィーの元へ戻って、依頼金額を受け取るだけである。

 今回は3人が遠慮した。今日の3人は何もしていない。むしろ、美味いものを食わせてもらって金を払わなければいけないくらいだ。依頼の報酬、金貨10枚はレオが1人でもらうのが妥当であろう。


 大体、ここ最近働きすぎなのである。この一週間ででかい依頼を3つもこなし、さらに今日のこれである。当面は、下手すれば1年くらいは何もしなくても暮らせるくらいの金を稼いだし、そろそろ休憩したいところである。

 ・・・いやいや、先週もしっかり3日間は休んでますがな・・・と突っ込む向きもあるかもしれないが、レオと一緒にいると、想定外が多すぎて精神的な疲労がすごい。


 だから、レオが報酬を受け取るや否や、依頼の張り出してある掲示板にスタスタと歩いて行った時、そこに居たB級3人組の目が非常に剣呑なものになったのは致し方あるまい。

「おい、レオ・・・。もう、今週は仕事はなしだ。お前も休め」


 底なしの洞窟から聞こえてくるようなおぞましい声でドルフがレオに告げる。目から生気というものが消えている。さすがにレオも何か感じるところがあったのか、素直に頷いてギルドから退散することと相成った。


「明日、ル・フィロッテに行って、氷角バイソンを美味しく仕上げてもらうつもりなんだけど、一緒に行く?」

ポツリと呟いたレオの一言に真っ先に食いついたのはもちろん・・・

「行くわっ!!」

ミカエラだった。


 翌日のル・フィロッテは、謎の超高級肉が入荷したという噂で満員だったが、相も変わらず特別室を独占した6人は・・・6人?


 そう、レオが泣かしたあの子と、レオがおばさん呼ばわりしたサブマスが、ミカエラに連れられてやってきたのだ。

 罪滅ぼしだとさ・・・まぁ、あまりの美味しさに至福の時間を過ごし、半分魂が抜かれそうな、すこぶるご機嫌な酔っ払いが5人作られることとなった。結果が良ければ、過程は全て肯定されるものなのだ。きっと。


 手の平返したかのようにレオの熱心な擁護者となったお・・・妙齢と若い女性2人組によって、レオは年齢は幾つでもいけるらしいとのあらぬ噂が立ち、しばらくは結構年上の女性たちからも猛烈なアタックを繰り広げられ、レオの目からは徐々に光が消えていくことになった。


 まぁ、自業自得だな。

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