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まなざしの向こう岸  作者: 十二滝わたる
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鬼ユリ

 ヨシアのお父さんは無口でおとなしいのか荒くれ者なのか、私にも分からなかった。ただ、ヨシアの家の庭はいつも綺麗な花で一杯だったから、きっと優しいお父さんに違いない。

 朱色の花びらを一杯に広げる鬼ユリと花びらが私の顔の大きさ位になる真っ白な山ユリが特に気に入っていた。

 ビールビンを逆さに刺して囲った花壇でヨシアと遊んでると、ヨシアのお父さんは目の前でユリの束を縄で結い、大きな花束にしてくれた。

 家に持ち帰っても、お母さんはユリの臭いが苦手だったので、余り喜ばれなかったけど、長屋の前の花瓶に刺して見とれていると、周囲のおばあちゃんは一緒になって喜んでくれた。

 ヨシアは花なんか目もくれずに、ユリのに集まってくる黒と光る青縞の妖艶な深山アゲハや朱の斑点が美しいぎふ蝶などを棒を振り回しては鮮やかに散る羽が舞う姿に喜んでいる。

 「可哀想だから止めなよ」と言ってもどこ吹く風、挙げ句のはてはユリの花ごと切り落とす。

 けれど、ケタケタ笑いながら、小さな子供にしては、飛んでる蝶々を棒で振り落とす俊敏な動きは、居合い抜きを見るように鮮やかだ。

 ヨシアのお父さんも大事にしている花壇がめちゃくちゃにされても、怒りもせずに笑ってみていた。

 ヨシアのお父さんは山の下にある温泉町で、酔って喧嘩になったチンピラ集団を、一人でぼこぼこにして、止めに入った警察も殴り倒して、暫く家には戻れなかったという武勇伝は、長屋の人達は知らないふりをしても誰もが知っていた話だか、そんな怖いところは微塵も感じなかった。

 ある日、ヨシアの家に遊びに行くと、そろそろ起きるだろうから待っててと、中に入れられてジュースを出してもらって、ヨシアが昼寝から起きるのを待っていると、ヨシアは布団を畳んで入れる箱のコオリの底に布団を敷いてベッド代わりに、すうすう寝息をたてて寝ていた。ひたいには何かのおまじないのような星のマークが書かれていた。

 後で、その額のマークはなんのおまじないとヨシアに聞いても「知らない」としか返事がこない。不思議なヨシアがまたそこにいた。

 

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