File.2
──探知?
『君の特性さ! 産物……すなわち”プロダクト”に反応してその眼が青くなるわけだろ? それだけじゃない! 君自身も自然と何かを感じるときた!! これはまさに革命だね!!!』
『”キリジョウ博士”! 興奮しすぎです少し抑えてください!』
『まだ完全な解析の許可は出ていないけど確実にその類の特性だ!!!』
──何を、言っているんだ
『これで無意味な情報収集に繰り出されることも減るじゃないかっ! この特性を有効活用しない手があるか!? ない!!! あるはずがない!!!』
人の話を聞かないヤツに隣の男があきれている。
尚更訳が分からなくなった。
『あっ!! それと聞きたいことがあったんだった!!!』
何故君はP-382-3を沈黙状態にできたのかな?
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「全隊止まれ!! P-30がプロダクトの反応を探知した!」
白衣の女性”ニシムラ”が無線にそう叫んだ。
緊張が走る。
先ほどと大して変わらない野原の静けさが急に不気味に思えた。
『こちら一番隊! 現段階で対象の確認はできません!』
『こちら二番隊、ここからはなにも』
「……了解した。一番隊は目標の階段下に向かい我々と合流。二番隊はその場から円状に広がり周囲と目標の警戒を行え」
ニシムラと俺を含め12人が天文台に繋がっているであろう階段の下に来た時、
ピリピリとした感覚は全身に広がっていた。
「P-30」
「間違いない、この中だ」
「ふむ……行くぞ」
ヘルメットを先頭に階段を上がると、透明なガラス張りの両開きのドアが目に入った。
特に変哲もないドア。
一つ、右側のガラスがほとんど割られていることを除いて。
中の様子は伺えない。
ヘルメット達が肩に装着されているライトで照らしはじめてやっと先が見えた。
「なにか、外側からの強い衝撃によって破壊されたようだ」
大小まばらなガラスの破片が建物の中に飛び散っていた。
何か、嫌な予感がする。
「こちらニシムラ。目標の入り口に到達した」
『通信室です。状況報告を行ってください』
ニシムラが”教団”に無線を入れたようだ。
すると向こう側からいつもの鬱陶しい声が聞こえた。
『やっほーーー!!! ニシムラちゃん! 彼の特性はどうだい!? 素晴らしいだろ!!!!』
『キリジョウ博士。任務中の通信妨害で報告書、書きますよ』
ヤツの唐突な介入に通信オペレーターがズバっと言い放つ。
はあ、とため息を吐いたニシムラがなんとも言えない表情をこちらに向ける。
お前の担当はどうなってるんだ、とでも言いたげそうに。
それはこちらが声を大にして言いたい。ヤツを担当から外してくれ。
「……状況報告。目標まで約20メートルの地点でP-30が特性によりをプロダクトを探知した。いまだ確認はできていないがP-30いわく、目標のこの天文台と思わしき建物にいるようだ。これより内部へ入る」
『了解しました。引き続き調査を進めてください』
『おーーーーい!!! 調子はどうだいっ! 今どんな感じ? ピリピリの具合は? 視界はいつもと変わりない? 眼の光り方に違和感は?』
思わず額に手を当てる。
緊張感のあったその場は一人の変人によってぶち壊された。
もちろん応答なんてしない。
状況が悪化する一方だろうし、そもそも無線は聞けても肝心の無線機器が渡されていない。
「…………!……それと、非常事態の発砲許可を要請する」
内部の様子をライトで伺いながら、ニシムラがある一点を凝視して言った。
視線の先、ライトの照らす方向を目で辿る。
一目でわかる
乾ききっていない血だ。
一瞬思考が停止した。
ヘルメット達も訳が分からなかったんだろう、「は……?」なんて声を漏らしてた。
抱えていたデカい銃を瞬時に構えたやつもいた。
状況が違えば他の液体の可能性をあるだろうが、暗闇の中でわずかな光に照らされたそれは
血にしか見えなかった。
『なにかありましたか?』
「血痕らしきものを発見した。しかもまだ新しい」
『血痕……わかりました。発砲の許可権限はあなたにうつりました』
───「……というわけだ、何かあれば直ちに指示を出す。引き続き、辺りの警戒をしろ」
『了解』
この天文台を囲ってるやつらに無線を入れ終わると
ニシムラは一息ついて言い放った。
「この中にプロダクトがいるのは間違いない。しかしどのカテゴリーに属するか……少なくとも1ではないだろう。」
気が付けば日は完全に落ちていた。
「何が起こるかわからない。もしもの時は、私の合図で発砲を開始しろ。」
ヘルメット達がコクリと頷く。
「……」
「な、んだ」
急にこちらに顔を向けられ少し驚いた。
ジーっとこちらを見てくる。
つられたのか他のやつらも顔をこちらに向ける。
「っ……なんだよ!」
声を抑えていたが、少し荒げてしまった。
「キリジョウの仮説、実験もせずに捕獲任務での確認を許可した”上”からの連絡を受けた時は耳を疑った。それがデータとなって送信されてきた時には目を疑った」
「……」
嫌味たらしく言ってくるが、俺が知るかよそんなこと。
「大変不本意ではあるが、あの仮説が正しいとして、今回の任務成功にはきっとお前の働きも関わってくるだろう。だから……」
しばらくの沈黙が流れる。
「頼んだぞ。XXX」
ヘルメットの何人かは驚いたようにニシムラを見た。
おそらく名前を呼ばれたのだろう。だが”聞き取れない”
「ん」
こういう時の反応はどうしたらいいか困る。
「ふむ……では中に入るぞ」
その言葉で、一同は得体のしれない廃墟へ足を踏み入れた。
やはり外から見えたソレは血で間違えないようで、
血だまりから天文台の内部に向かって引きずったような跡が続いていた。
警戒しつつゆっくりと血の跡を辿っていくと
巨大な望遠鏡が姿を現した。
血の跡は、望遠鏡に数メートル向かったところで途切れていた。
「ここ以外に血痕はありません」
ヘルメットの一人が言った。
各自が天井部を照らしたり、物陰を隅々まで探していたが特に怪しい物もプロダクトの痕跡さえも見つからないようだ。
おかしい。
視界は依然としてうっすらと青みがかっていて、眼が青く光っているのだろう。いつも通りだ。
ただ、明らかに全身を伝うピリピリとした感覚はプロダクトが目の前にあるかのように増していた。
ヘルメットのうち一人が、望遠鏡近辺を調べようと近づくのが見えた。
あ
何か、やばい
「おい!!!ソレに寄るな!!!」
思わず叫ぶ。
ガコンッ
「え?」
ヘルメットの動きが止まる。
呼び止めたからじゃない。
斜め上を向いている望遠鏡の先から水銀のような液体。
それが真っ直ぐと、そいつの胸辺りを床まで貫いていた。
「あ、あああ……」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい」
身体を痙攣させ、血を流しながら大声を上げる。
天文台の中で叫び声が響いた。
なんか、色々と新要素というかそーゆーものが渋滞してますよね……
次の話で分かってくるようになるのでは、と思います。
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