File.1
この作品は、私の一番最初の投稿にある「名前のない教団」を読んでいただきますとよりお楽しみ頂けるのではないかと思います……多分。
知らない場所
巨大な植物
動けない
……ん……
……ゃん…………け……
……いちゃん……すけ……
『おにいちゃん助けて!』
…………また、あの夢を見た。
忘れることを許されない、脳裏に焼き付いたあの場所。
あいつの声。
「おい、大丈夫か。P-30」
ふと、隣から声を掛けられる。
心配するでもなく、怪訝そうな顔でそう尋ねてきた白衣の女性──
「……問題ない。あまりにも酷い運転だったもんで酔っただけだ」
「そりゃ悪かったな! ただ文句垂れるならこの道に言ってくれ!」
バックミラー越しにハンドルを握るヘルメットの男がそう言い、突き刺すような視線をこちらに向ける。
道と呼んでいいのか、大きな茂みや木が生えていないだけマシというような
獣道を黒い車両二台が突き進んでいく。
少しひらけた場所に来たのだろうか、車内が夕日に照らされた。
道も先ほどに比べてゆるやかになったようだ。
「ドクター、見えました!目標です!」
「ああ、わかっている。目標からだいたい50メートル地点に停めろ。……全員降りる準備をしろ」
車内のヘルメット達が「はいっ!」と声をそろえて返事をする。
──車を降りるや サッ とヘルメット全員が辺りを警戒する。
手に構えた銃を視線と同じ方向に向けて。
現段階での安全を確認したのだろう。次の指示を待っているようだ。
「P-30」
そう呼ばれて白衣の女性のほうへ向く。
「特性剤だ。腕を出せ」
「ああ……と……今日は一段と量が多く見えるが?」
いつもなら注射器の四分の一程度だったが、今日は半分近く、それ以上入っていた。
「今回は半端に抑制された特性を使われても困る。よってこれが適量だ」
差し出していた腕を強引に引っ張られ、薬を投与された。
まあ痛かったがこの人はきっと上手い。痛みも注射も一瞬で終わった。
「ぐっ……!!」
この感覚だけは何度味わったとしても慣れることはないだろう。
全身に投与された薬がいきわたるイメージ。
身体の中で何かが弾けたような衝撃。
……やっと落ち着いた。
と、いきなり顔を両手で固定されてズイッと目を食い入るように見られた。
「……しっかりと作用しているようで何よりだ」
何故だか知らないが、特性を扱える状態になった”俺達”は瞳孔が開くらしい。その確認か。
「今のところ異変はあるか?P-30」
「い、や、ないから。とりあえず離れてくれ」
ふむ、とよくわからない返事が聞こえ、顔から手が離れ解放された。
「全オペレーター。これより目標を取り囲む形で進む。周囲の安全確認を怠らず異常があれば直ちに無線で知らせるように。車両を運転してきたオペレーターは緊急時に備えいつでも発進できるようにしておくこと」
その場の全員に聞こえるようなハキハキとした指示が下された。
……目標、それは野原のど真ん中に建てられている何らかの施設。
円柱の上に半球が屋根のように乗っている。その建物に繋がっているのか、
円柱の横に何やら四角い出っ張りがあり、階段やスロープ、ドアも確認できた。
──天文台、おそらくそのような施設の廃墟。
『こちら一番隊、全員配置につきました』
『こちら二番隊、いつでも行けます』
「了解した。これより行動を開始する。」
「P-30、私の前を歩け。だが離れすぎるな」
「わかってる、けど俺には何かないのか? ”いざ” て時に素手で対応しろと?」
わざとらしく少し不満げに言ってみたが、実際事実だ。
周りは武装している中、俺は”丸腰なのだから”
「……これを使え。妙な真似はするな」
後ろから警戒されて渡されたのは刃渡り15センチ程のナイフ。
コンバットナイフやサバイバルナイフといったものだろう。
「ほー、これは心強いな。あんたの持ってるソレより優れてそうだ。」
白衣の女性が持っているのは拳銃。よくドラマなんかで刑事が持っている。
そして、もちろん嫌味だ。
──人の円が天文台を中心にじわりじわりと狭まっていく。
「こちら”ニシムラ” 以前変わりはないか」
『一番隊、異常ありません』
『二番隊、異常なし』
残り20メートルといったところだろうか。
視界が急に青みがかった。
ピリピリと肌が何かを感じ取っている。
白衣の女性に知らせるべく、歩みを止め、振り返った。
「おい、ドクター…………いたぞ」
ドクターの目に映ったものは、明らかに不自然なものである。
日が落ちかけた野原
目の前にいる青年の瞳は
面妖に、そして神秘的に
うっすらと青い光を放っていた。
はい、察しの良い方はお分かりでしょうが、某財団に影響を受けております(白目)
初の連載作品ですので色々とご指摘や感想、アドバイスなど頂けると喜びでむせび泣きます!