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Alice in Nightmareland  作者: Leica
2/3

第二夜「暗く人影のない街」

―22時―

夜がやってきた。

そろそろ今日も眠りにつく時間だ。

眠りにつくということはまた悪夢を見るということだ。

悪夢を見るということはまた私が死ぬということでもある。

まぁ別に実際に死ぬわけではないのだが。

ただそれに伴う苦痛は現実と何一つ変わりない。

むしろ現実よりリアルかと思うほどである。

でも最近はもう痛みを感じることに対して何も感情は起きない。

それが当たり前になってしまっているからだ。

私の中にこんな当たり前ができてしまったことは少々気に食わないが慣れてしまったものは仕方がない。

こんなところで人の慣れという能力に感心したくはなかった。

まぁそれも仕方ない。

死という人生において一回きりのものでも毎晩のように起これば慣れてしまう。

小さな子供が転んでも泣かなくなるのと同じようなものだ。

私は慣れたものが転んだ時の痛みではなく死んだときの痛みだっただけ。

結局慣れてしまえば何も怖くない。

さすがに死んでもかまわないとは思わないしできれば死にたくないとも思う。

だが死んでしまうと感じれば諦めはつく。

それほどまでに「死」に慣れてしまった。

こんなことに慣れた人間が私以外にいるだろうか。

多分居ないだろうな。

というより居ない方が良い。

こんな迷惑な経験をする人間は私以外に。


―0時―

目が覚める。

周りを見るとここは町のようだ。

しかし誰もいない。

建物の屋根の上にいる人の姿をした猫以外は。

「おやおやいきなり無視かい?酷いじゃないか。」

「昨日落とし穴に落とした方がよっぽど酷いんじゃないかしら?」

「あれは足元に注意してなかった君の責任だろう。」

「誰かの注意がもう少し早ければよかったんじゃないかしら?」

「それは人に頼りすぎってものだよ。ここがどこだか分かっているのかい?」

「分からないわよ。」

冷たく言い返して歩き始める。

それを見て慌ててチェシャ猫がついてくる。

「待ってくれよもう少し話そうじゃないか。」

「貴女と話していると疲れるのよ。」

歩みを止めずにそう言う。

「ここがどこか教えるって言ってもかい?」

チェシャ猫のその言葉で歩みを止めてしまう。

「気になるんだろう?ここがどこか。どうしてこんな場所に来るのか。どうして毎晩死ななければいけないのか。知りたいんだろう?」

ニヤニヤしながらチェシャ猫は続ける。

「いいよ。今日は特別に教えてあげる。ここがどこなのか。」

この猫の言うことは信じられない。

話を聞くだけ無駄だろう。

「本当にボクの話を聞くのは無駄かい?君より長い時間ここにいるのに?」

「人の心を読まないでくれるかしら。」

「ごめんよ。キミがわかりやすい顔をしているからつい。」

「ホントに厄介な猫ね。」

「誉め言葉として受け取っておくよ。」

そう言って私の前にチェシャ猫が来る。

「立ったままは疲れるだろう。ベンチにでも座ろうか。」

「そうやってまた人を誘導しているるんじゃないでしょうね。」

「まさか。今日は僕が君と話をしたいだけだから何も罠はないよ。」

少し間を開けてから続ける。

「今のところは、ね?」

不気味な笑みを見せるチェシャ猫に警戒心を覚える。

「そんなに警戒しなくてもいいじゃないか。今のところは何もしないって言ってるんだから。」

「貴女の日ごろの行いが悪いからこうなるのよ。」

「確かにそうかもね。」

「自覚があるなら直しなさいよ。」

「そんなことをする必要性がないから直らないのさ。さぁベンチはこっちだよ。ついてきて。」

仕方なくチェシャ猫について行く


―2時―

彼女について行ってから少し経つと公園のような場所に来た。

「さぁ着いたよ。じゃあ座ろうか。」

チェシャ猫に指示されるままにベンチに座る。

「さて、教えてくれるんでしょう?ここがどこなのか。」

「そんな約束したかなぁ?ボクはキミと話したいって言っただけだよ?」

「貴女...。」

ふざけたこと言う猫に腹が立つ。

「そう怒らないでよ。言わないとも言ってないだろう?」

少し慌てながらそう言う。

「結局どっちなのよ。」

「もちろん話すさ。話さないなんて言ったらキミに殺されそうだからね。」

「さすがにそこまではしないわよ。貴女やこの悪夢じゃないんだから。」

嫌味のよう言う。

しかし彼女は何とも思っていなさそうだった。

「さてと、ここがどこかだったよね。ここは昨日も言った通り不思議の国だよ。キミは現実世界で誰かから不思議の国の話は聞いたかい?」

「ええ。お母様から聞いたわ。でもこんな人が死ぬような場所じゃなくてもっとメルヘンチックな場所だと聞いたけど。」

「そうだろうね、まぁ子供相手に話す内容ならそういうものの方がウケるからね。でも不思議の国の本当の姿はそんなものじゃないんだ。」

「今まさに体感しているからそんなことは分かってるわ。」

「本当に分かっているのかい?」

「どういう意味よ。」

「不思議の国の本当の姿について正しい認識をしているのかってことだよ。」

「だから本当はメルヘンチックな場所じゃなくて理解しがたいことしか起こらない場所なんじゃないの?」

「半分正解、半分不正解といったところだね。」

「じゃあ本当は何なのよ。」

「本当はね...。」

チェシャ猫が立ち上がって私の方を向く。

「『アリス』の夢の中。そして『アリス』が想像した世界だよ。」

チェシャ猫の言葉に驚愕する。

私の夢の中というのはまだ理解できる。

だが、私の想像した世界というのはどういう意味だ?

「誰がキミが想像した世界だと言ったんだい?」

「どういうこと?」

「ボクは『アリス』が想像した世界だって言ったんだ。キミが想像したとは言ってない。」

「でもアリスって言うのは私のことを指してるんじゃないの?」

「確かに夢を見ているのはキミだ。でもキミはこんな世界想像したくないだろう?」

「それはそうだけど。」

「まだわからないかい?キミは頭が固いね。キミが想像したんじゃなければ想像したのは別のアリスなんだよ。」

「別のアリス?」

「そう、ここを想像した人物でありボクの主。そしてキミに悪夢を見せている張本人。」

「ねぇ、そのアリスはどこにいるの?」

「さぁどこだろうね。」

「さすがに知っているでしょう。教えなさいよ。」

「ボクはここがどこなのかを教えるって言っただけだよ。アリスの位置を教えるとは言ってない。」

確かにその通りではある。

故に反論できない。

「まぁいつかは彼女の方から姿を出すさ。それまでのんびり待っていればいいよ。」

チェシャ猫がベンチに座りなおす。

「そんなことより気づいているかい?」

「何に?」

「この街に人が居ないことについてだよ。」

確かにこの街に人影はなかった。

「でもどれがどうかしたの?」

「最近変な噂があってね。何やら夜に殺人鬼が出るらしいんだ。」

「殺人鬼?」

「そう。それとたった今ね、彼に気付かれたみたいなんだ。」

「気づかれたってまさか。」

「多分こっちに来るだろうね。」

「どうして早くそれを言わなかったの!」

「ボクはキミと話したかっただけだからね。そんなこと気にしてもいなかったよ。」

まったく迷惑なことをしてくれる。

「で、どうすればいいのよ。」

念のため対策があるのか聞いてみる。

「さぁ?どうすればいいんだろうね。」

やっぱりこいつは何も教えてくれない。

「さて僕は満足したしそろそろいくよ。殺されたくもないしね。」

チェシャ猫は猫の姿に変わる。

「またねアリス。くれぐれも後ろには気を付けるんだよ。」

チェシャ猫が歩き始めると同時に姿が消え始める。

「一人で逃げるなんてずるい猫ね。」

嫌味のように言い放つ。

まばたきをしたと同時にチェシャ猫の姿は見えなくなった。


―4時―

さてどうしたものか。

殺人鬼のいる街に一人取り残されてしまった。

おまけに殺人鬼にはこちらの居場所がばれているらしい。

チェシャ猫に後ろに気をつけろとは言われたが気配すら感じないので注意しても気づけない気がする。

とりあえずこの街から出るのが一番いいか。

そう思い歩き始めようとすると。

「みーつけた。」

知らない男の声が後ろからする。

慌てて振り返っても誰もいない。

「こっちだよ。」

また後ろから声がする。

早く逃げなければ。

本能的にそう思った。

後ろも振り返らずに走り出す。

足音は私を追ってきている。

私が出せる全速力で走り続ける。

やがて後ろの足音が聞こえなくなる。

それに気づくと私は無意識に小道に隠れ殺人鬼が私を見失うのを待っていた。

しかし。

「捕まえた。」

また後ろから声がした。

そしてそれと同時に私の腹部に何かが刺さる。

痛い。

痛みに耐えきれずにその場に膝をつく。

うずくまっていると頭を蹴られた。

そのまま地面に倒れこむ。

背の高い男の姿が見える。

男は私に近づいた後何度も腹部を刺してくる。

やがて出血し過ぎで意識が薄れる。

痛みもわからなくなる。

目の前が真っ暗になる。

楽しそうに笑う男の声がかすかに聞こえる中私の意識は途絶えた。


―6時―

目が覚める。

起き上がろうとすると少し腹部に痛みが走った。

服をまくって確認してみる。

刺し傷はない。

痛みも引いてきたのでもう一度起き上がる。

今度は痛みを感じない。

さて、悪夢も終わったので今日のことも日記につけておこう。

「今日はチェシャ猫に置き去りにされた挙句『暗く人影のない街』で殺人鬼に惨殺された、と。」

今日は昨日のように自然に死ぬのではなく他人に殺される結果になった。

だが今までも死ぬ要因がほかの何かに殺されることの方が多かった。

どちらかというとこの死に方の方が慣れている。

とはいえやっぱり痛いものは痛かった。

まぁ痛い以外には何も感じないのだが。

私の感覚は狂ってしまったのだろうか。

いつかは痛みすらも感じない体になってしまうのだろうか?

それは嫌だなと思いつつ寝間着から普段着に着替える。

着替えているとドアをノックされる。

「お嬢様。朝食の準備ができました。」

「今行くわ。」

部屋を出てシルヴィアについて行く

またいつも通りの一日が始まった。


―Good morning dear Alice.

 See you next Dream.―

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