2-14 口約束の名誉と、燃える競技場。
宜しくお願いします。
俺は、ゼルフォーラ王国外交使節団の団員達と打ち合わせの真っ最中だ。
「帝国のエルフへの差別がここまで酷いものとは思いもしませんでした」
「そうですね。昔からここに住んでた樹人族は、200年以上も隔離され外との交流も絶たれているみたいです」
「同行している我が国の警備担当の者に確認させたのですが、ここ森林都市フィーラだけでも奴隷としてエルフが300万人以上も帝国に隔離管理されているそうです」
「ルカさん。300万人以上ってこのフィーラにですか?」
「フィーラの森の奥に監視域が10ヶ所存在しそこに30万人強ずつ隔離されているそうです」
「大都市規模の人口を10ヶ所も・・・」
「帝国全土がこの様な状況になっていると考えるべきでしょうな」
最高齢参加者の獣人族猩猩族のヘンリーさんだ。彼は、ゼルフォーラ王国のアカデミーに所属する宗教学の教授で、聖夜の奇跡から目覚めると早々に反偽教、脱偽教を宣言した。偽教とは彼や彼の仲間達の間で定着した世界創造神創生教の新しい名称の事が。
「人間族以外の人達が大規模隔離されていたのに世界各国には全く情報が流れていませんでした。そんな事って可能何ですか?」
「徹底した規制統制管理。偽教との癒着でしょうな」
「ぎきょう?」
「旧教の事です。創造神様の名を騙り、私利私欲を4000年もの長きに渡り貪り、世界の人間達を欺き偽り今なお醜い教義と愚かな説法で人心を惑わし続けているあの世界創造神創生教の事です」
「政治と宗教の癒着の危険性は、陛下や祖父からも教わりましたが、ここまでの規模になると恐怖そのものですね」
「思い込みや慣れの怖さも実感しました。行政府での伯爵や秘書官や職員と思われる人間族や兵士達の私達エルフを見る目は人を見るものではありませんでした」
「う~ん。確かに、ルカさんやメリアさんを匹とかペットとか凄い事言ってましたね」
「凄い事ですか・・・クス」
「カトリーヌ殿?これは忌々しき事態です。笑い事ではありません」
「ルカさん違うのです。昼食会の時の伝達係の召使を相手に副王陛下が為された伯爵への対応を思い出したのです」
「副王陛下の対応ですか?私の用意したメモを無視して船員達へ挨拶した方ですから何か社交の場で不適切な発言でもされたのだと察しは付きますが」
そんな察し付けないで欲しいんですけど・・・
「不適切な発言でした。ですが、それは伯爵に対しての物であって判断は別れると思います」
「副王陛下は何を?」
ルカさんは俺に質問して来た。
「えっと・・・皮肉なのか普通の会話なのか分かり難くて・・・どの返答が不適切だったのか自分では判断が難しいかな。ハハハ」
「副王陛下・・・」
ルカさんは、残念な子を見る様な表情で俺を一瞬見たが、直ぐに仕事用の表情に戻した。
「伯爵は、ゼルフォーラ王国と帝国の外交使節団親善交流第1回目という事もあり、私達が帝国の法律や帝国での人間族以外の者の待遇を知らなくて当然だ。だが態々非人間族が帝国に来たのだから、ゼルフォーラでは奴隷では無いルカさん達にもそれなりの御持て成しをしてやろう。監視域に記念会場を設けるからそっちにも顔を出したらどうだと副王陛下に提案して来ました」
「差別を交えた皮肉とは何と下等で下劣な。これだから人間族は欲望に飢えを覚える民族と言われるのだ」
へぇ~人間族ってマルアスピーやフォルティーナが常々言ってる感じで強ち間違いじゃ無かったのか・・・
「副王陛下は、そっちの方が面白そうなので是非参加したいと思います。晩餐会の前に行っても問題無いですか?と、返答されました」
「はい↑?・・・そんな返答をされたのですか?」
「伯爵達は私達を見ては失笑していましたが、次に来た伯爵の言葉への返答が余りに凄過ぎ、伝達係の召使が本当にこれをお伝えしても宜しいのですかと確認する程でした」
カトリーヌさんとルカさんだけでは無く、ヘンリーさんやメリアさんや他の皆まで俺を凝視していた。
「まず伯爵から来た次の言葉はこうでした。いっそ晩餐会を中止し、記念会場で祝いますか?」
「なるほど、社交の場での皮肉を伯爵は貫いた訳ですな」
「怒りと言うよりは、副王陛下を馬鹿にし楽しんでいる様子でしたので、ヘンリー教授の仰る通りだと思います」
「それで、副王陛下はどんな返答されたのですか?」
メリアさんが俺に質問したが、俺は余り覚えていなかった。
「えっと・・・適当に何か返したと思うんですが、カトリーヌさんが上手く切り抜けてくれたので良く覚えてません」
「陛下の名代で参加されているのですよ」
「って、言っても俺は風の祠の迷宮を確認するのが目的で、ここの偉い人に親書を渡すのは序でだったから」
「副王陛下。序でであってもゼルフォーラ王国を代表して帝国に来ているのです。適当では困ります」
「それで、副王陛下は何と返答されたのかな?」
「それはですね。伯爵に全部任せるから適当にお願いします。食事をゆっくり食べたいから、伝達係はもう不要だと・・・」
「は、はい↑?・・・交渉の席でしたら決裂レベルではありませんか!」
「フォッフォッフォッフォ。フィーラに来て初めて気分が良い。実に良い出だしではありませんかな」
「教授殿。カトリーヌさん。晩餐会の前の親書の受け渡しや会談が・・・」
「俺としては、実際のところ親書も会談もどうでも良いんですよね」
「迷宮よりも外交を優先してください。副王陛下」
「迷宮も何ですが、監視域の樹人族や人間族以外の生活や環境が気になってるんですよね。ペットとか言う位なのでかなり酷な事になってるんじゃ・・・」
「そ、それは・・・」
「私は最初に言いましたよね?判断するのが難しい話だと思いますと!」
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親書の受け渡しを終え、伯爵の秘書に会談の会場だと案内されたのは、兵士達が実戦形式で訓練を行う広めの競技場の様な場所だった。
「イディアン伯爵閣下はどちらに?」
「閣下は、あちの席におられます」
伯爵は競技場を一望出来る観戦用貴賓室の豪華な椅子に座っていた。
「えっと、あそことここで会談ですか・・・?まさか昼食の時みたいに召使を挟むとか馬鹿な事言わないですよね?」
「今、何と?」
伯爵の秘書官は、俺を睨み付ける。
「たかが秘書の分際で、外交使節団の団長。一国の代表を睨み付けるとは何事か!」
「先に、汚い言葉を使われたのは、ゼルフォーラ王国側ではありませんか」
「隊長」
カトリーヌさんは、伯爵の秘書に対して好戦的な態度を見せる警備隊の隊長の名を呼び静止すると、俺に軽い注意を促し秘書に謝罪した。
「でも、こんなに離れた場所で会談って大変じゃないですか?」
「会談の前の余興の様な物でございます」
「余興ですか?」
「閣下は我等がヴァルオリティア帝国においてドラゴン研究の権威でありコレクターとしても有名なお方なのです。竜殺しとして名高い副王殿が噂通りのものなのか興味を持っておられます」
「我がゼルフォーラ王国の副王陛下に、闘技士の真似事をしろと言うのか!?」
「竜殺しとして名高い副王殿の英雄談の再現を閣下は友好的な会談の前に熱望されております。ドラゴンはこちら側で準備しております」
ようは、ドラゴンを俺が倒したら言い訳だから・・・
「構いませんよ。一瞬で終わると思うので、目を離さない様に伝えておいてください」
「え?・・・あっは、はい」
秘書は俺が了承しないと思っていのだろう。気の抜けた返事をし俺の前を後にした。
「副王陛下。二国間の会談でこの様な事は前代未聞です。帝国はゼルフォーラ王国を下に見ているとしか思えません」
「でも、ドラゴンを倒したら友好的に会談に臨んでくれるならそれで良いんじゃ」
「・・・副王陛下。先程の伯爵秘書の話はそういう意味ではございません」
「カトリーヌさん」
俺は、少し真顔で彼女の名前を呼んだ。
「は、はい」
「次、誰かが俺に皮肉を喋ってる時は、申し訳無いんですけど、何か合図を貰えませんか?」
「合図ですか」
「出来れば、分かり易いのを1つお願いします」
「・・・分かりました」
「副王陛下。軍人の私でも皮肉だと気付けた会話でしたが、お気付きになられなかったのですか?」
あの会話の中の何処に皮肉が入り込んでいたんだ?
「えぇ。別段ドラゴン程度なら開始早々一撃で仕留める事が可能ですし、友好的に会談してくれるならそれで良いかなって思ったんですけど・・・」
「ドラゴン程度ですか・・・そうですよね。副王陛下は、ドラゴンの複数討伐を達成された大樹の英雄様でもあるんですよね・・・ハッハッハッハ・・・もう笑いしか出て来ないです」
「副王陛下。秘書が戻って来ました」
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「閣下より、見事仕留めた暁には友好の証として、副王殿の望む物を差し上げると御言葉をいただいて参りました。それでは、中央競技場へ移動してください」
「あそこの中央に行けば良いんですね」
「は、はい・・・あの装備は?」
「相手はドラゴンですよね?」
「はい」
「だったら、特に必要無いかな」
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俺は、競技場の中央に立っている。競技場に立つと観戦席と競技広場との間に火属性の結界が張り巡らされ、丁寧な事に競技場の上の方、高さ50m位にも結界が展開していた。
兵士や魔獣用の出入口が全部で8ヶ所。床や側溝の感じから陸上水上両方に対応している事が分かった。俺が周囲を観察していると、
≪はじめろ≫
競技場内に、伯爵の声が響いた。
魔術でも魔導具でも無いみたいだけど、今のは何だ?
≪ギギギギギギ ガーン
8ヶ所全ての格子が解放された。
あの格子って、ミスリル60%鋼40%何だ。ドラゴンの攻撃ってあれで防げるのか?
≪ズシ―――ン スジ―――ン
ドラゴンって1匹じゃなかったのか。
俺を囲む様に8匹のドラゴンが姿を現した。俺の正面。伯爵の居る貴賓室の真下の出入口から現れたのは体長20m程の幼竜のラーヴドラゴン。左右と後方の出入口から現れたのは体長30~40mの青年期に入りかけた位の3匹のロッシュドラゴン。残りの4つ出入口から現れたのはフライングドラゴンだ。
この状況でフライングドラゴンは無いでしょう。飛べない亜竜は亜流以下じゃないですか・・・
≪ビーン ビビビビ ビーン
出入口が封鎖されると、格子に自然魔素が流されているのが分かった。それを見たドラゴン達特にフライングドラゴンは目を血走らせ口から涎を垂らしながら、俺目掛けて超低空飛行で突進してきた。
4匹がほぼ同時に後方へ羽ばたきを行い風を巻き起こし前方へ飛行した為、地面の埃や砂が大量に巻き上げられ視界を一瞬で奪う。
≪ガーン ドン ドン ガツ
俺は回避行動を取らなかった。
視界が晴れ競技場の様子を確認した伯爵の顔は、激高している様に見えた。
≪フライングドラゴンに投石し起き上がらせろ≫
伯爵の指示を受け出入口の内側に待機していた兵士達ががフライングドラゴン目掛け石を投げ始めたがもう遅い、俺に所有権のある素材はタブレットが自動回収してくれる。フライングドラゴンは跡形も無く競技場から姿を消した。
≪なぁっ!・・・き・・・副王殿何をしたのかお聞かせ願いたい≫
あなたの相手をしている余裕はありますが、ドラゴンと戦ってる人にそれはおかしいでしょうに・・・
『・・・来ないで』
うん?
『・・・来ないで』
何だ?
さっきから、来ないでって聞こえるんだけど何だ?
≪ドドドドド ドーン
俺が声?に集中していると、後方に何かがぶつかった。
≪ぐぎゃぁ~ がうぁあ~
後ろを確認すると、己の突進力をそのまま己で受け痛みにたぶん顔を歪めるロッシュドラゴンがいた。フライングドラゴンは良く調教され特攻の訓練を積んでいたのだろう。自分達の攻撃力に耐え切れず首の骨が折れ即死状態だった。このロッシュドラゴンはそれなりに防御力が高かったのだろう。即死は免れたが致命傷に代わりは無い。放っておいても息絶えるだろうが、見ていて気持ちの良い物では無い。
精霊風属性下級魔法【ブロウ】☆1☆1 ≫
俺は、ロッシュドラゴンの頭を打ち抜き止めを刺した。
ロッシュドラゴンの頭に風属性の攻撃が炸裂したと誰が見ても判断出来る。伯爵は性懲りも無くまた同じ様な言葉を競技場内に響かせた。雑音と残響が競技場内から消えると同時にロッシュドラゴンの素材もタブレットによって回収された。
≪あぁっ!希少な素材が消えた≫
コレクションのドラゴンが死んだ事じゃなくて素材の心配をしてたのか。
『来ないで・・・お願い来ないで・・・』
目の前のラーヴドラゴンと目が合った。
うん?さっきから聞こえる声って目の前のドラゴンか?・・・もしかして。
俺は、自分のスキルを再確認した。
現代種のヤングドラゴンとはレソンネで話が出来るみたいだけど、あれって幼竜だよなぁ~・・・俺のレソンネだと微妙にコミュニケーション能力不足なのか・・・
≪ぐぎゃぁ~ ぐがぁ~
まてよ。今右側で元気に鳴いてるロッシュドラゴンなら、ヤングドラゴンだし話が通じるかも・・・
なぁ~お前、俺の言葉が分かるか?
≪グワァウオ―――
ダメそうだな。あっちの左のはどうだろう?
おい、俺の言葉が分かるなら尻尾を地面に叩き付けろ。
≪ドーン
おっ!って、ラーヴドラゴンかよ・・・おいロッシュドラゴンお前だよ。
≪ドーン
・・・だから、お前じゃ無いって・・・あれ!?もしかして、会話としては微妙だけど、通じてるのか?
ラーヴドラゴンの幼竜。俺の言ってる意味が分かるなら。あのロッシュドラゴンに攻撃を止める様に伝えてくれ。もし攻撃を止めるなら殺さないし、ここから助けてやる。
≪ドーン
ラーヴドラゴンは尻尾を地面に叩き付けた。
≪ドーン ドーン
ロッシュドラゴン2匹は、ラーヴドラゴンの真似をし尻尾を地面に叩き付け、攻撃の意志が無い事をアピールしている様だ。
≪何をしている。攻撃させろ!≫
出入口に待機している兵士達が投石し、3匹のドラゴンに石がぶつかる。
≪ぐぎゃー グクゥー ぐわぁー
あの石!微量だけど邪属性が付加されてるのか?
俺は、人間が投げる態度の石が当たっただけで苦しむドラゴン達から、投石された石に視線を移した。
間違い無い邪属性だ。でも、親父じゃあるまいし・・・どうやって・・・
『・・・攻撃しない。約束して』
あっ先にこっちだった。えっと、こういう時の神様だよな。うん。フォルティーナ聞こえますか!
『どうしたね』
そっちに、ラーヴドラゴンの幼い1匹と、ロッシュドラゴンの青年だと思われ2匹を転位で移動させます。俺が帰るまで見てて貰えますか?
『それは構わないね。だがだね。見ているだけで良いのかね』
・・・出来れば餌とケアーもお願いします・・・
『冗談だね』
ちょっと急いでますので、今は要件だけで終わります。
『分かったね』
ありがとうございます。
『うんうんだね』
精霊水属性下級魔法【アクア】☆1☆1 ≫ ≫ ≫
と、一緒に、【召喚転位】『転位』対象目の前のラーヴドラゴン1匹とロッシュドラゴン2匹:場所中空の離宮の神宮殿フォルティーナの寝殿 ≫
≪あぁ~?≫
俺の水魔法が3匹のドラゴンに命中した瞬間3匹のドラゴンが消滅した。勿論、転位移動させただけだが、この場に居合わせた者には、消滅した様にしか見えなかっただろう。
伯爵の滑稽馬鹿で阿呆丸出しの声が競技場に響いた。
≪バチーン バチ バチ
何だ・・・!?
使節団の団員達の所へ戻ろうと観戦席へ足を踏み入れようとした時、大きな音が響いた。
「お疲れ様でした。副王陛下」
「一歩も動く事無く。何をしたのかも分かりませんでした」
隊長の意見通り、実際何もしてないから、何をしたか分からなくて当然かな。ハハハ
「さっきの音って何だったんでしょう?」
「分かりません。何かが弾け飛んだような音にも聞こえましたが」
「あ、あ、あ、あ、わわ」
「どうしたんですか?イディアン伯爵閣下の秘書官さん」
「け、けっ、け、結界が・・・」
結界?
俺は、振り返り後方を確認した。
火属性の結界が崩壊し火柱が天井に向かって何本も燃え上がりなかなか素晴らしい光景が広がっていた。
「おぉ~凄い演出ですねぇ~」
「副王陛下!これは、演出なのでしょうか?」
「会談の前の余興って言ってませんでしたっけ?」
「なるほど」
「ですが、副王陛下。この腰を抜かしている秘書官ですが、予定外予想外といった反応をしているようですが・・・」
「カトリーヌさんが言うならそうなのかもしれませんね。予想以上の規模に驚いてるんですよきっと。ハハハ」
「副王陛下!」
「はいはい」
「見てください」
警備担当の兵士達が天井や貴賓室やあちらこちらを好き放題指差しす。
≪ビービービービー ビービービービー
「何かかなりやばそうじゃ無いですか?」
全体的に炎に包まれた競技場を見渡しながら隊長は改めて俺に声を掛けて来た。
「火の結界の暴走では?」
「カトリーヌさん、結界って暴走したりするんですか?」
「競技場と観客席との間に張られていた結界だけが火属性でした。副王陛下は水と風の魔術しか使用されていませんでしたし」
へぇ~・・・火属性を使っていたら、俺が疑われる可能性もあったのか。使わなくて良かった。
「まぁ~ここでのんびりお喋りしてたら俺達も火事に巻き込まれてしまうし、外に出ましょう。隊長」
「はぁっ!」
「そこで腰を抜かしてる伯爵の秘書官を任せます」
「畏まりました」
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・
・
――― R4075年7月15日(風)18:38
消化活動への協力を申し出たが、帝国の問題であってゼルフォーラ王国の力は要らないと拒否された為、俺達は消化活動の邪魔にならない様に少し離れた場所へ移動し、次の誘導を待っていた。
「イディアン伯爵閣下を発見したぞぉ~!」
≪バタバタ バタバタ
消化現場が慌ただしくなる。暫くして、イディアン伯爵閣下の秘書官が俺達の前にやって来て告げた。
「キース・マルティン・イディアン・フック・ル・オリティア201世伯爵様と、次期伯爵のボリス・マルティン・イディアン・フック・ル・オリティア様。次男のアンドルー・マルティン・イディアン・フック・ル・オリティア様。三男のアンダント・マルティン・イディアン・フック・ル・オリティア様。第一夫人ファギーリーン・マルティン・イディアン・フック・ル・オリティア様の卒去が確認されました」
「えっ?・・・会談は・・・」
「申し訳ありません。我等が皇帝陛下より総督としてフィーラの統治全権を与えられておりましたイディアン伯爵家が先程の火災により途絶えてしまいました。後任が決定するのをお待ちいただくか、後任が決定する前に我等が皇帝陛下と直接交渉してください」
「・・・えっと、イディアン伯爵閣下が俺と約束したドラゴンを倒した時の約束はどうなりますか?」
「我等が帝国では、亡くなった者が生前約束していた事は、相続者の義務権利の侵害に該当しない限り、証人が1でもいれば例えそれが口約束であっても故人の名誉尊重法により皇帝陛下の名の下優先される事になっております」
「なるほど・・・」
「副王陛下は、イディアン伯爵に何を?」
「故イディアン伯爵閣下は、副王殿に、ドラゴンを倒した暁には、望む物を差し上げると仰っておられました。これは、私を始め沢山の者が御言葉を聞いております」
ルカさんは、カトリーヌさんに詰め寄った。それを見た伯爵の秘書官は、外交使節団全員に聞こえる様に宣言した。
「それで、副王陛下は何を皇帝陛下に要求・・・これは失礼。ヴァルオリティア帝国の皇帝陛下からいただくおつもりですかな?」
獣人族のヘンリーさんが俺に聞いて来た。
「そうですねぇ~権利を侵害してはいけないんですよね。例えばですけど、森林都市の郊外の監視域に隔離管理されている樹人族達を、俺の領地に移住させる許可とかダメですかね?」