2-6 影結魔族の能力と、迷宮の最下層。
宜しくお願いします。
――― R4075年7月13日(水)2:35
悪魔トゥーシェが放った悪気【焔立つ悪寒】は、キャプテンダークウルフの身体を貫通し、フロアー長の間の奥にある中指と人差し指を親指の上に乗せている右手の模様に突っ込んだ。
蚊よりも小さな漆黒の焔は、壁に衝突すると同時に漆黒の光でフロアー長の間全体を飲み込んだ。その漆黒の光は俺達が待機しているフロアー長の間の外にまで届いた。
トゥーシェ、ナイスです。
俺は、漆黒の焔が発した漆黒の光の中で、キャプテンダークウルフの討伐を確認し、自動的に回収した素材の中から、手持ちのダークウルフの牙を取り出し床に置いた。キャプテンダークウルフの素材は何かに使えるかもしれない。それに倒したのはトゥーシェだ。
そして、ダークウルフ7匹を、聖騎士ツーの大剣で瞬殺し、最後の1匹の脳天に突き刺し、フロアー長の間の外に戻った。
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「闇が晴れるぞ!」
「今の闇はいったい何だ!」
「おい、お・・・聖騎士ツー・・・お前がやったのか?」
「ん?」
「お、うぉ~!聖騎士ツーが、フロアー長を攻略したぞぉ~!」
「え、あ、え・・・」
「あの闇を利用し、フロアー長を倒し、ダークウルフ6匹を一刀両断し、最後の1匹は脳天から一突きとは、その華麗な大剣技闇の中で見られなかったのが残念です」
「あぁ~・・・」
俺達は、フロアー長の間に移動していた。
「あれを、聖騎士ツーが御1人で倒されたのですか?」
「そうです。スリー助祭長殿。聖騎士ツーこそ世界創造神様に微笑まれし我々の誇り、聖騎士の中の聖騎士です」
「いえ、私1人で成し遂げた訳ではありません。スリー助祭長殿の魔術攻撃。聖騎士シックスの人体強化。そして、修道女エイト殿。皆さんの協力があったからこそ成し遂げる事が出来たのです」
「おぉ~まさに世界創造神様の御力御導きです」
≪世界創造神様ぁ~ あぁ~神よぉ~ 我等の神よぉ~
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≪ギッギッギッギッギィ――――
奥の壁の一部が開き、中から1人の男が顔の覗かせた。
「うん!やはり、フロアー長の間に繋がていたか!おい、大丈夫そうだ」
「待ってください」
「フロアー長は居ませんか?」
「既に倒された様だぞ」
「おぉ!聖騎士フォー」
聖騎士シックスは、聖騎士フォーの下へ駆け寄った。
「聖騎士シックスではないか、私達の上の階層に飲み込まれていましたか」
「下の階からここに来たのですね?」
「はい」
「聖騎士ツー。この夜の迷宮は地下迷宮だ」
「そうか地下迷宮であったか」
「おぉ~聖騎士ツーも一緒か」
「聖騎士フォー。御無事でしたか」
「お前達も無事で何よりだ。そっちは他に誰が居る」
「はい、我々は、スリー助祭長殿、修道女11名、民間人男性1名女性1名、聖騎士シックス、私。計16人です。聖騎士フォーそちらは?」
≪タッタッタッタ
「ちょうど来た様だな。我々は、セブン助祭官殿と、ワン修道士殿と、私の3人だ」
「後は、ファイブ司教様と、聖騎士エイブラハム・ラモス隊長だけですね」
「我々の他に夜の迷宮に飲み込まれた者が居なければの話だがな」
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人間の坊やよ。この迷宮の環境は魔界にとても良く似ていて心地が良い。
言ってましたね。
それもそのはずだ。この迷宮は魔界の悪魔域とどうやって繋がっているのか分からないが悪魔域のようだぞ。あの右手首より上の模様が分かるか?
右手首の模様に見えますが・・・
あれは、悪魔域の数字7を表している。知らなかったのか?
えぇ~人間の世界から外へ旅行に行った事が無いので・・・
ん?ここって地下迷宮で、7って事は、急げば迷宮攻略で皆外に出られるじゃないですか!
人間種の話では下に行く程、魔獣は狂暴になるのだろう。それでも皆で行くのか?
やむを得ません。
俺は、聖騎士達の下へ歩み寄り切り出した。
「聖騎士ツー殿」
「おぉ~ロミオさん。調度、ロミオさんとジュリエットさんの話をしていたところです」
「貴方がロミオさんですか。いやぁ~災難でしたね。深夜の墓地でデート中に迷宮に飲み込まれてしまうとは刺激的な夜になってしまいましたな」
「そ、そうですね・・・」
「あぁ、それでどうされました?」
「あの壁に描かれている模様なんですが、以前王都の図書館で読んだ、何とか文字の7を表す表記に似ている事に気付きまして、それで話ておこうかと思ったのです」
勿論、嘘である。
「数字の7ですか!」
「はい、因みに8はこうです」
俺は、中指と薬指と小指を曲げた。
「7ですか・・・ここが仮に地下7階。第7階層だとして、第1階層まで6匹のフロアー長を倒す必要がある訳か。しかも入り口を見つけ出す必要がある」
「はい。聖騎士フォー。ですが、もしここが仮に地下7階。第7階層だったとして、迷宮攻略を目指し地下8階第8階層或いは地下9階第9階層まであるとして、この場合は、フロアー長は多くて2匹です。司教様や隊長を探すよりも、このまま迷宮攻略を目指した方が良いのではないでしょうか?」
「だが、聖騎士ツー。迷宮は階層が進むと魔獣が強くなると報告されている。装備や回復道具の状況から今の私達では攻略するのは難しいと考えるが」
「聖騎士フォー殿」
「スリー助祭長殿。どうされました?」
「聖騎士ツー殿は、ここのフロアー長と他7匹を一瞬の内に一刀両断し攻略した世界創造神様に微笑まれし我々の誇りです」
「一瞬で?」
「はい。聖騎士フォー」
「聖騎士シックス。説明してくれ」
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「つまり、聖騎士ツーは、1人で巨大なダークウルフ1匹と群れとして従うダークウルフ7匹を攻略したのですね。しかも一刀両断で・・・」
「最後のダークウルフだけは、脳天に突き刺して仕留めていました」
「なるほど・・・」
聖騎士フォーは、聖騎士ツー、聖騎士シックス、スリー助祭長を見ると小さく頷いた。
「多くの戦闘を熟して来たと言うのに、装備こそボロボロだが、怪我1つ無い状況から判断しても、勝機は我々にありそうですな」
「あれ?スリー助祭長殿。腕の傷は?」
「少し休んでいる内に傷口も残らずこの通りです」
スリー助祭長は、破れた法衣から腕を見せた。
「おぉ~何と素晴らしい」
「どうしたのだ?聖騎士シックス」
「聖騎士フォーよ。聖騎士ツーの華麗な大剣技。スリー助祭長殿の賢者を思わせる治癒魔術。そして、フェイスウォールに目覚めた修道女エイト殿。世界創造神様は確実に我々と共におられるのだ。我々を御導きになられておられるのだ。あぁ~~~!」
≪世界創造神様ぁ~ あぁ~神よぉ~ 我等の神よぉ~
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――― R4075年7月13日(水)4:50
2つの陽が昇り光の時間になるまで、後1時間10分。
俺は、闇の地下迷宮のたぶん地下9階のフロアー長の間に居る。たぶん地下7階第7階層のフロアー長の間で合流した聖騎士フォーは優秀だった。
*****聖騎士フォーのステータス値*****
【個体レベル】29
【JOB】本職:BT:聖騎士Lv3
【HP】1865 / 2125
【STR】1803 【VIT】1779
***********************
彼は、旧教の聖騎士団に所属している騎士イコール聖騎士では無く、転職によって聖騎士になった正式なJOB:BT:聖騎士様だった。
彼が加わった事で殲滅力が劇的に向上した旧教と俺達は、破竹の勢いでたぶん地下8階第8階層を攻略し、たぶん地下9階第9階層のフロアー長を攻略し、そしてここに居る。
「聖騎士フォーが加わってから、戦闘が楽になったぞ」
「そうだな。聖騎士シックス。聖騎士フォーが加わり、我々の負担が大きく減った様だ」
でしょうね。俺の回復魔法を、たぶん地下9階第9階層のフロアー長戦で1度だけ受け戦っていた聖騎士フォー殿は、間違い無く本物です。
人間の坊やよ。先に居た人間種の戦士達はやはりMだ。そう思わんか?
さっきも言ってましたよね。マゾってなんですか?
なんじゃ知らなんだか。妾はSでもMでも無い故残念な事に教える事はかなわん。残念か?
・・・それで、彼等がどうして、そのマゾだと?
容易に回避出来てたであろう魔獣の攻撃を回避もせず受け止め、猫の舌で舐めた程度の攻撃で反撃している。100以上を受け1以下を与える。実に不思議な戦い方をしているではないか。
世界創造神様が微笑んでいると勘違いしたままにしておくと、明日明後日に新鮮な魂になってそうだな・・・
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「聖騎士フォー。フロアー長を攻略したが、次の道も入口への強制転位も起きないぞ」
「おかしいな。聖騎士ツー」
「聖騎士フォー様。あそこに人影が見えます」
「何だ、ワン修道士殿。迷宮に来てまで幽霊ですか?」
「いえ、部屋の奥に人の影が・・・」
ワン修道士は、フロアー長の間のフロアー長が居た場所とは反対側の部屋の奥を指差していた。
「な、何だあれは?」
聖騎士フォーは、思わず声を出した。
「聖騎士シックス。お前に見えるぞ・・・」
「あぁ~聖騎士ツー。私もあの影は私に見えます」
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「最後の魔獣はあれであったか!」
「あれは何ですか?俺の瞳では情報が視認出来ないみたいです」
「あれは、影結魔族ではないか」
「聞かれても知らないです」
「悪魔種影結魔族。悪魔種の中でも下等な一族。知らないのか?」
「えぇ。・・・それで、これって、人間が勝てる相手じゃぁ~!?」
俺は、聖騎士シックスに似た影に視線を移した。
「俺は悪魔種達の悪意や敵意や殺意は感知出来るんですが、あの影からはそれはありません」
「そうか。向こうは、こちらに妾や人間の坊やが居る事で、警戒している様だが、そうは思わんか?」
「思念で向こうと接触出来ませんか?」
「それは無理だ。同じ悪魔種なだけで同族では無い。知らんのか?」
「えぇ。・・・それで、何で俺と思念で会話出来てるんですか?」
「さぁなどうしてだろうなぁ~・・・知らんのか?」
≪ザッ タッ タッ タッ タタタ
速い!
「聖騎士シックス。狙いはお前だかぁっ!回避しろぉ―――」
「大丈夫だ。聖騎士フォー。私には世界創造神さ」
≪ボト
「聖騎士シックスぅ――――!」
聖騎士シックスの首が地面に転がった。
≪キャ―――――
修道女達の悲鳴がフロアー長の間に響き渡った。
「貴様。聖騎士シックスを喰らえ」
≪シュッ シュッ シュッ
「擦り抜けた?」
「聖騎士ツー。後ろに回避だぁ―――!」
≪カーン
聖騎士ツーの大剣に、聖騎士シックスの槍の形をした影が弾かれた。
「何だ?こいつ・・・聖騎士フォー!こいつ、スピードはあるようですが、力は聖騎士シックス並みです」
つまり、弱いって事か・・・
「聖騎士ツー。私の方に向かってダッシュだ」
「何をする気ですか?」
「決まっている。聖騎士シックスの敵を討つ!」
「分かりました」
≪タッタッタッタッタ
うん?
「影が聖騎士フォー殿の姿に・・・聖騎士ツー殿。影が聖騎士フォー殿の姿に変化しました。急いでこちらへ」
「スリー助祭長殿。安心してください。私は聖騎士フォーに鍛えられ今ここに居るのです。彼の強さは良く知っています」
「聖騎士ツー。追い付かれるぞ。グッ、仕方がない」
≪ザッ
≪キ―――ン
聖騎士フォーは、地面を蹴った。一瞬で自分の影の間合いに入り込むと抜刀した。だが、影は剣を10cm程鞘から引き抜き抜刀を止めた。
「やるな」
聖騎士フォー。それはたぶん貴方です。
人間種にしてはかなり出来る男の様ではないか。
そうですね。ですが、自分と同じ力と戦って勝てるでしょうか?
それよりもだ。さっきの人間種の死は妾のせいではないと理解しているか?
あぁ~・・・そうですね。あれは俺の落ち度でもあるので、カウントしません。
そうか良かったぞ。妾はそれだけが心配だったのだ。人間の坊やよ助けに行かんのか?
もう少し様子を見ましょう。
そうか。
≪カーン
≪カーン キ―――ン
≪カカカカ カキーン
同じ速度、同じ力で、剣技の攻防が続く。
「あれ?」
つい、声に出してしまった。
「どうしたのですか?ロミオさん」
「あ・・・聖騎士ツー殿。1つ疑問に思ったのです。あの影は見た感じ、真似た者の能力をコピーして戦っている様なのですが」
「そうだと思います」
「では、何故、最初の槍の攻撃は一瞬で聖騎士シックス殿を・・・!」
「・・・そ、それは・・・やられた!聖騎士フォー――――ッ」
「どうした!」
「そいつは、俺達を真似しているだけだ。俺達よりスピードもパワーも上だぁ~。聖騎士フォー。貴方に聖騎士シックスの首を一撃で切り落とす事が可能ですか?」
「速度はかなり上だろう。だが、力ではそこまで差があると感じない」
「・・・貴方は聖騎士シックスを一撃で倒せると?」
余裕で倒せると思いますよ。
「あぁ~お前達はまだまだ弱い。そこに平然とし冷静に状況を把握している。ロミオさんジュリエットさん民間人の2人の方が上かもしれんぞ」
「何をふざけた事を言っているのです。戦いに集中してください」
だったら、まず話掛けるのを止めてみてはどうでしょうか・・・
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・
「ファイブ司教様。あちらから金属がぶつかり合う音が聞こえます。戦っている者が居る様です。行きましょう」
「そうですな」
・
・
・
聖騎士エイブラハム・ラモスが、フロアー長の間に入って来た。そして、床に転がる聖騎士シックスの首に気付くと、剣を抜き影へ向け攻撃を放った。
「おぉ~皆無事でしたか!ファイブ司教様。この部屋に皆・・・き、貴様ぁ~聖騎士シックスをぉ~・・・スキル【尖突の剣風】≫」
≪シュシュシュシュシュグワングワンシュシュシュ
影は、壁の影の中に飛び込み消えた。
「影の中に?」
「聖騎士エイブラハム。お前が来てくれて助かったぞ」
「聖騎士フォー。あれはいったい何だ?」
「分からない。だが、敵である事には間違い無い。 聖騎士シックスを・・・一瞬だった」
「そうか。それで、ここが最下層のフロアー長の間で間違いないのだな?」
「次の通路が現れ無い事から見てもそうだろうな」
「おぉぉ・・・ 聖騎士シックス殿。皆集まるのです。 聖騎士シックス殿に祈りを捧げるのです」
「「「「「はい。司教様」」」」
修道女達、ワン修道士、スリー助祭長、セブン助祭官は膝を付き祈りを捧げ始めた。
「聖騎士ツー。聖騎士フォー。犠牲者は、聖騎士シックス1人か?」
「はい」
「私達が迷宮に飲み込まれた時、民間人が2名巻き込まれていた様で、保護しております」
「そうか。良くやった聖騎士ツー」
「はぁっ!」
聖騎士エイブラハム・ラモスは、トゥーシェと俺の前に歩いて来た。
「私は、聖騎士団モルングレー支部隊長エイブラハム・ラモスです。恋人同士で迷宮に飲み込まれるとは、あのような夜更けに教会の墓地で何をされていたのですか?・・・はて、何処かで見かけた様な・・・」
気付かれたか?
「近くを歩いていると、幽霊が出たと悲鳴にも似た叫び声聞こえた物で・・・それで、悲鳴の聞こえた方へ向かったところ、気付いたら迷宮の中に・・・」
「そうでしたか。後ほどワン修道士殿には厳しく注意しておきます」
「いえ、彼に悪気があった訳ではないでしょうし」
確かにあの人間種に悪気は無いな。人間の坊やよお前もそう思うか。
・・・そういう意味じゃ無いです。
そうか。
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「ところで、隊長。最下層を攻略したと言うのに、何故強制転位で外に出られ無いのでしょうか?」