2-5 神が微笑む者と、初めての悪気。
宜しくお願いします。
――― R4075年7月13日(水)01:04
2つの陽が昇り光の時間になるまで、後4時間と45分。
俺は、悪魔トゥーシェと、聖騎士ツー、聖騎士シックス、スリー助祭長、修道女エイト、他11人の修道女達と、闇の迷宮の中に居た。
≪キキキキィ キキキキィ
≪ブーン
聖騎士シックスは、槍を右から左へ大きくスイングする。ダークバットは、大振りな攻撃を難なく回避すると、聖騎士シックスの兜から僅かに見える目を狙い攻撃した。
「聖騎士シックス!ダークバットの闇思念だぁっ。瞼を閉じろ。それに素早い魔獣に大振りは控えろ隙を付かれるぞ」
「あぁ!」
「スリー助祭長殿。私がターゲットウォールになります。【MP】の消費を抑え、的確に仕留めてください」
「はい。聖騎士ツー殿」
「聖騎士シックス。目を瞑ったまま左に3歩だぁ!」
「イエッサー」
「ダークバット。お前の相手はこっちだ」
≪シュッ ブーン
≪キキキキィ
聖騎士ツーは、ダークバットに切り掛かる。攻撃を当てる為では無い、聖騎士シックスから自身へダークバットのターゲットを移す為だ。
「スリー助祭長殿。今です!」
「大海の水よ瀑布の水よ力を求めしその名は水属性中級魔術【クリーク】≫」
それなりの水量が、ダークバットを押し流した。
「聖騎士シックス。追撃だ。まだ倒し切ってないぞ」
「イエッサー!スキル【三撃衝】≫」
≪シュシュシュ
聖騎士シックスは、槍を正面に鋭く突き出した。槍の先端を模った鋭い線が3本ダークバットに突き刺さった。
3段付きか。属性を付加して発動出来るならかなり使えそうなスキルだな。
「やったか?」
「あぁ。聖騎士シックス。スリー助祭長殿終わった様です」
「聖騎士ツー様、聖騎士シックス様、助祭長様ぁ~」
修道女達が、スリー助祭長の下へ駆け寄る。
「魔獣の数が尋常ではない多さです。ここは、最終階層に近いのかもしれないぞ」
「そうだな。聖騎士シックス。大丈夫か?」
「大丈夫です。聖騎士ツー。少しだけ休ませてください」
「聖騎士シックス。私が回復を」
「いえ、助祭長殿は【MP】を可能な限り抑えてください」
「ですが」
人間の坊やよ。たかだかダークバット7匹と、ポイズンマウス4匹に、この人間種達はふざけているのか?妾達の目的を知り邪魔しているのではあるまいか?
彼等は、人間の中ではそれなりに動けてる方だと思います。
そうか!人間種とは不憫な生き物なのだな。
≪ジィー・・・
修道女エイトは、悪魔トゥーシェと俺を怪訝そうな表情で見つめていた。
「ロミオさんと、ジュリエットさんは、恋人なのですよね?」
「えぇ~」
「本当ですか?」
「と、言いますと?」
「先程から、会話の1つもありません。互いに助け合おうという素振りもありません」
「あ・・・余りの恐怖でどうしたら良いのか分からなくてぇ~・・・なぁ~ジュリエット!」
「あぁ~ロミオ!そうそうロミオの言う通り。魔獣が恐ろしくて・・・」
「私達と合流する前は、聖騎士ツー様と3人だったのですよね?」
「そ、そうです」
「聖騎士ツー様は、装備がボロボロです。ロミオさんとジュリエットさんは衣類に汚れ1つ無いのですね」
あぁ~なるほど、汚れか!
あの人間種が不甲斐無いからではないのか?
それはそうですが、彼に便乗している訳ですし適当に合わせてください。
「聖騎士ツー殿が、自らを盾にし俺達をここまで守ってくれたおかげです。聖騎士様は本当に凄いですね」
「聖騎士は凄い凄い」
棒読みですよ。
「うん?ロミオさん。どうしたのですか?」
「修道女エイトに、聖騎士ツー殿の雄姿を話していたんです」
「ハッハッハッハ。ロミオさん。止めてくださいよぉ~。私は聖騎士として当然の事をしたまでです。雄姿だなんてそんな。ハッハッハッハ」
嬉しそうにしか見えないが、この人間種は否定しているのか?
口ではあぁ~言ってますが、正直なところ喜んでます。
そうか
「聖騎士ツー様!」
「ハッハぁ~はい。修道女エイト殿?」
「ロミオさんとジュリエットさんは、聖騎士ツー様と一緒だったのですよね?」
「そうですが、それが何か?」
「私達は皆汚れボロボロになっていると言うのに、どうしてこの2人は?」
「おぉ~ロミオさんとジュリエットさんは運が良いですねぇ~いやぁ~羨ましい」
「え?」
「ここまで魔獣とかなりの戦闘を繰り広げて来ましたが、一度も襲われる事無く居るとは世界創造神様のおかげです。ハッハッハッハ」
あぁ~・・・
「はい。世界創造神様に感謝しています」
「感謝しています・・・」
それならだが、この迷宮に飲み込む前に何とかならなかったのか?
それは、言わない約束何です。
そんな決まりがあるのか・・・
言うと、人によっては喧嘩になるんです。
会話から喧嘩になるとはなかなか見所のある人間種もいるではないか。
・・・そ、そうですね・・・
「聖騎士シックス。行けそうか?」
「あぁ聖騎士ツー。ポイズンマウスの攻撃が手首をかすめた時に、軽く出血したがもう大丈夫だ」
どれどれ・・・あぁ~状態異常【微毒】になってるな。
俺はこの1ヶ月間。調査と修練と研究に明け暮れていた。その甲斐あって、現存する呪いや状態異常に関しては極めつつあった。【微毒】は、【HP】を全回復させるか、3時間程の深い睡眠を取る事で簡単に解除される状態異常だ。放っておいても死に至る事は無いが、ステータス値が10%程低下する。【HP】が減ると低下率が大きくなるだけだ。
回復と治癒をかけておくか。聖属性下級魔法【ベネディクシヨン】☆1☆1 ≫
「ん?怠さが・・・」
「何か言ったか?」
「いや何でも無い。聖騎士ツー」
「よし、他の皆を探し迷宮から脱出するぞ」
「そうだな」
聖属性下級魔法【ベネディクシヨン】☆1☆1 ≫
聖騎士ツゥーは、迷宮内を先頭を切って軽快な足取りで歩いている。
「聖騎士ツゥー殿も、聖騎士シックス殿も、素晴らしい体力ですね」
「はい。スリー助祭長殿。これも日頃の修練と信仰による物なのでしょう。魔獣の殲滅後は確かに疲れていますが、暫くすると戦闘前よりも身体が軽く力が漲るのです」
「私もです。聖騎士ツゥー。今日ほど世界創造神様を近くに感じた事は無いです」
「信仰の徳を上げたのでしょう。聖騎士ツゥー殿。聖騎士シックス殿。中央創生教会に戻りましたら、大司教様に御二人を聖騎士のブルーリボンに推薦しましょう」
「スリー助祭長殿。気が早いですよ」
「聖騎士ツゥー殿。私は、貴殿と聖騎士シックス殿が、この迷宮の中で私達と同行しているという幸運なる運命を世界創造神様に感謝しております」
「「「「「私達もです」」」」」
≪あぁ~世界創造神様。神よぉ~~~!
・
・
・
――― R4075年7月13日(水)01:51
2つの陽が昇り光の時間になるまで、後4時間と9分。
俺達はフロアー長の間の前にいる。ここまで来る為に聖騎士2人に何度ベネディクシヨンをかけただろう。
「間違い無いです。これはフロアー長の間です」
「聖騎士ツゥーどうする?」
「スリー助祭長殿。フロアー長を倒し上下の確認をするのは重要な事なのですが、ここを階層の1と想定し入り口を探し続けるのも1つの手段だと考えます。民間人のロミオさんとジュリエットさん。それに修道女達もいます。私や聖騎士シックスは、助祭長殿の意見に従います。御導きをお願いします」
「そうですねぇ~・・・フロアー長が居ると分かって居る場所に、戦え無い者と一緒に踏み込むのは危険です。ですが、階層が1で無かった場合を考慮すると戦う必要が最終的にあります。無駄に時間を費やし【HP】と【MP】を消耗してからフロアー長に挑むのは避けたいと思います」
「それは、私達も同じです」
「聖騎士ツゥー。スリー助祭長殿。やるって事ですね」
「そうだ。・・・聞こえていたと思うが、スリー助祭長殿と聖騎士シックスと私はフロアー長の間に踏み入り、この階層を攻略する事にした。修道女達は、この場で待っていてください」
≪魔獣が襲って来たら。ガヤガヤ
「大丈夫です。フロアー長の間の前は魔獣達が寄り付かない事が分かっています。迷宮の中で魔獣を気にしないで休める数少ない場所です」
「助祭長様まで行かれるのですか?危ない事は聖騎士様達にお任せした方が・・・」
「修道女エイト。前に進む勇気も時として示す必要があるのです。世界創造神様の御力が聖騎士ツゥー殿や聖騎士シックス殿に微笑んでおられる今が好機なのです」
「ですが・・・」
・・・それ普通の支援です。ごめんなさい。
人間の坊やもなかなかやるじゃないか。
何がですか?
上げてからの奈落の底とは人間種にしておくのが惜しいではないか。
そんな事するつもりありませんから。
だが、この人間種達は、根拠の無い神を信じ無謀な戦いを挑もうとしているではないか。
・・・そ、そうですね。最悪バレない様に助けます。
甘いな人間の坊や。
「スリー助祭長殿は後方から魔術攻撃をお願いします。聖騎士ツゥーはターゲットウォールを頼む」
「分かった」
「私は攻撃魔術に専念して宜しいのですね?」
「宜しくお願いします。スリー助祭長殿」
≪バーン
「聖騎士ツゥー行くぞ」
聖騎士シックスは、フロアー長の間の扉を力強く開けた。
「おぉ~聖騎士シックス」
≪タッタッタッタ
聖騎士2人がフロアー長の間へ駆け込み、スリー助祭長は、ゆっくりその後を追った。
・
・
・
≪ジィー
修道女エイトは、悪魔トゥーシェと俺を怪訝そうな表情で見つめていた。
「ど、どうしましたか?修道女エイト」
「ロミオさんとジュリエットさんは、落ち着いてますね」
「そ、そんな事はないです」
またこの人か・・・
「3人にもしもの事があったら・・・」
「「「「そうです」」」」
「俺は、聖騎士様や助祭長様の信念と信仰を信じています。創造神様の御導きがあると信じてますから」
「「「「私達も信じています」」」」
「私の信仰心が足りずそれで不安になっていると仰りたいのですか?」
うわぁ~面倒な・・・趣味と信仰は深いとか時間とか金とか大小じゃないでしょうに・・・
「そんなつもりで言った訳では・・・」
・
・
・
≪ガルルルルル
戦闘が始まった様だ。
魔獣の種類と数は分かりますか?
ダークウルフ7匹と、キャプテンダークウルフ1匹だな。
なるほど。・・・あの3人では確実に無理だ。
≪カキーン
「なんだ!毛皮が剣を弾いたぞ。それに、でかくないか?」
「あぁ~・・・おい後ろにまだいるぞ」
「ダークウルフだぁ!7匹も居るぞ」
「つまり、このでかいのがフロアー長って事だな」
「聖騎士シックス。8匹のターゲットを全て取るのは無理だ。スリー助祭長殿が魔術を発動出来る様に2人で分担するぞ」
「イエッサー」
≪ガルルルル
≪カーン カーン カキン カーン カーン
「やばい、1匹抜けたぞ。聖騎士ツー間に合うか?」
「無理だ!助祭長殿。回避してくださぁ―――い」
≪ザッタッタッタ
≪ガルルルル ドゴ
「助祭長殿ぉ~~~~」
「大丈夫です。右腕を噛まれただけです」
開始早々、かなり危険な感じになってるなぁ~・・・
「助祭長様」
≪バッ タッタッタッタ
修道女エイトは、立ち上がると、フロアー長の間へ駆け込んだ。
「そっちに行ったぞぉ!聖騎士シックス。スリー助祭長殿の壁になれ急げぇ―――」
そっちに行っちゃいました・・・
「修道女エイト殿。何を?フロアー長の間を今直ぐ出てください。危険です」
「止血をしないと助祭長様が」
「修道女エイト。聖騎士殿達の指示に従いなさい」
「ですが」
「やばい、フロアー長がそっちに行ったぞ!」
「修道女エイトを狙ってないか?」
「その様だな。聖騎士ツー。少しの間で良い7匹のターゲットを任せたぞ」
「何をする気だ」
「人体強化魔術を発動させる」
「止めろ。お前も知ってるだろ。戦闘の後で動けなくなるぞ」
「大丈夫だ。世界創造神様が微笑んでくれている今なら大丈夫な気がする」
あっ・・・微笑んで無いです。動けなくなる戦闘はダメです!
「そうだな。我々は世界創造神様と共にあるのだ。何を臆していたのか。思う存分やると良い。聖騎士シックス動けなくなった時は俺が背負ってお前を外まで連れ出してやる」
「聖騎士ツーありがとう。スリー助祭長殿ぉ~。修道女エイト殿ぉ~」
「おぉ任せておけぇ~~来い魔獣共ぉ~私が相手だぁ~」
「聖騎士シックス殿。何を?」
≪ガルルル
「助祭長様。大きいダークウルフがこっちに、きゃぁ~~~!」
「金剛不壊金剛輪際剛鬼をこの身に無属性魔術【人体強化】発動 ≫」
鬼とか言ってなかったか?
魔界に剛鬼などと戯けた名の鬼がいる訳がなかろうが。
へぇ~・・・
≪ザッ
おっ!踏み込み速度が上がってる。
聖騎士シックスの動きは間違い無く良くなっていた。彼は修道女エイトをターゲットし飛び掛かったキャプテンダークウルフに追い付き回り込み、修道女エイトの前で槍を構え迎え撃った。
≪ガルルル
≪カカカカーン
「人体強化した私の槍ですら貫け無いのか!」
≪ブーン
「馬鹿大振りはするなぁっ!」
キャプテンダークウルフは、一瞬の隙を見逃さなかった。聖騎士シックスの右の脇腹に体当たりし突き飛ばすと、その勢いを利用し修道女エイトへと突進した。
「いかん!聖騎士シックスぅ―――。修道女エイト殿を、修道女を守れぇ―――」
≪ガルルルル
「きゃぁ~~~」
・
・
・
≪カーン
「えっ?何が・・・」
「どういう事だ?フロアー長が修道女エイト殿に噛み付く前に弾かれた様に見えたが・・・」
「修道女エイト・・・貴方まさか、フェイスウォールを」
「わ、私にこんな力があったなんて・・・」
ごめんなさい。それ俺です・・・
「おぉ~!世界創造神様が微笑んでおられるぞぉ~。聖騎士ツー」
「我々は世界創造神様と共にあるのだ。魔獣共よ。ハッハッハッハ」
聖騎士ツー殿の性格が微妙に変わって来てる様な気がするんだけど・・・
人間種の中には悪魔種以上の悪が潜んでいるとは面白いではないか。
悪魔以上の悪ですか。
そうか。神の名を口にする存在の方が心に抱える闇が大きいという事か。実に面白いじゃないか。
「聖騎士ツー。フェイスウォールに守られし修道女エイト殿を盾にし、魔獣共を殲滅するぞ」
「あぁ~聖騎士シックス」
聖騎士が、修道女を盾にして魔獣と戦うのか?
「修道女エイト殿。ごめん」
聖騎士シックスは、修道女エイトを左手に持つと、盾の様に構え右手の槍を前方へ突き出し、キャプテンダークウルフへ突撃した。
「うおぉぉぉぉぉぉ~~~」
「キャ――――」
「いけぇ~聖騎士シックス!」
「うおぉぉぉぉぉ~~~」
≪タッタッタッタッ
・
・
・
魔獣達の攻撃を弾く盾を手に入れた聖騎士2人は、盾を上手に使いキャプテンダークウルフ1匹とダークウルフ7匹の攻撃を弾き続けた。
――― R4075年7月13日(水)02:30
「もうダメです。これ以上は【MP】を使い果たし意識を維持出来ません」
「スリー助祭長殿は、フロアー長の間を出て休んでいてください」
「ですが、聖騎士ツー殿と、聖騎士シックス殿2人では」
「大丈夫です。私達にはフェイスウォールに守られし修道女エイト殿がいますから」
「そうだな。聖騎士シックス」
修道女エイトは、振り回され、投げ付けられ、殴り付けられ、現在気絶の真っ最中だ。
「それでは、私は少しでも多く【MP】を回復させる為に休ませていただきます」
「スリー助祭長殿。ここは我々にお任せください」
「お願いします」
スリー助祭長がフロアー長の間から出て来た。
トゥーシェ聞いても分からないと思うけど、1つ質問して良いですか?
妾にか?
どうして、フロアー長は、フロアー長の間から出て来ないんですか?
出たく無いのだろう。
なるほど・・・待ってるだけで、餌の方から寄って来るのに、餌を探しに出たり追い駆けるのは体力の無駄って事か!
妾はそこまで言った覚えはないが、まぁ良いだろう。しかし、このままでは、結界の中の人間種は無事でも、戦っている人間種2人は確実に死ぬが良いのか?
そうなんですよねぇ~・・・
最強の盾を手に入れた聖騎士2人は、互いに盾を飛ばし譲り合いながら上手く戦ってはいるが、フロアー長にダメージを与えられずにいた。魔獣達は、自分達の攻撃が弾かれると知ると深追いを避け、数を利用した死角からの攻撃に徹底していた。だが、魔獣達もまた決定打を欠き、聖騎士と魔獣の戦いは膠着状態に陥り、時間だけが経過していった。
人間の坊やよ。妾は魂を集め自由を手に入れたい。だが、約束は約束・・・
何をする気ですか?
悪気を使うと約束を破った事になるのか?悪魔種だとバレなければ良いのであったか?
・・・そうですね。バレなきゃ特に問題はないか!
そうか・・・それならば、悪気【焔立つ悪寒】≫
トゥーシェの悪気で見えない様に消している角から、漆黒の焔が放たれた。それは、非常に小さく途轍もなく高速だった。