2-1 39℃の温泉と、探索と修練の日々。
宜しくお願いします。
―――ルーリン歴4075年7月12日12:00
俺は、エルドラドブランシュの地下0階創生の地の地下へと通じる扉を探していた。この1ヶ月間1日2時間、多い日には4時間、狩りをしながら休まず探し続けているが未だに地下0階創生の地の大森林の中に居た。
「ロイク様。ヴァンアヌトンです」
PTの先頭を歩くアリスさんが魔獣を発見した。
「ターゲットを取ります。皆は優位属性の火属性で一斉攻撃してください」
「「「「はい」」」」
皆とは、昨日俺との奴隷契約を終了した元俺の契約奴隷でJOBグレートマージのパフさん。俺の親父に憧れ弓矢の道に進んだステファン・パマリ侯爵の孫でジェルマン・パマリ伯爵家の令嬢JOB弓聖のアリスさん。剣聖ボードワン天爵殿下の孫娘JOBサージュのサラ王女殿下。母の従姉の次女でトゥージュー公爵家の令嬢JOB弓聖のテレーズさんの事だ。
「サラっ!特化強化の支援をテレーズと私に」
「任せて。理の大地理の水泡理の火種理の葉風。理の属性を以て帰順せよ無属性魔術【ギャルドスルー】≫」
サラさんは、杖を翳しアリスさんとテレーズさんに、受ける魔術効果が約2倍になる支援魔術をかけた。
「パフさん。テレーズと私が火属性の矢を放つと同時にインフェルノね」
「はい」
「アリス行くわよ」
「OKテレーズ」
2人は矢に火属性を付加し放った。それと同時にパフさんはインフェルノを発動させヴァンアヌトンに直撃させた。パフさんは直前に発動した魔術を無詠唱、【MP】消費無しで発動する事が出来る神具『運命を受け入れし者の杖』を装備している。
「ロイク様。ヴァンアヌトンは?」
「もう1度一斉攻撃をすれば倒せます」
俺は神眼でヴァンアヌトンのステータスを確認しアリスさんに返答した。
「サラ!もう1度お願い」
「えぇ・・・【ギャルドスルー】≫」
「パフさんテレーズ行くわよ」
「アリスごめん。私矢が切れちゃった」
「了解。ロイク様。【rapidetir Ver.2】を使います。テレーズと私は今日の狩りはここまでです」
「13本全ての矢に属性の付加ですよ」
「はい。パフさん。インフェルノのタイミングを合図します」
「アリスさんガンバです」
アリスさんは、集中力を高めている。右手に持った矢に火属性を付加すると弓を構えた。
「【rapidetir Ver.2】行っきます!パフさん」
「はい」
パフさんの火属性上級魔術インフェルノの業火と火属性を付加された13本の矢がヴァンアヌトンを直撃した。ヴァンアヌトンは地面に落下し動かなくなった。
「アリス。君は詰め甘々だね。最後の2本は普通の矢だったね」
「は、はい・・・」
運を司る遊びの女神フォルティーナ様は、後方から前方のアリスさんに話し掛ける。
≪パチン
「それでも、当初は倒す事も出来なかったヴァンアヌトンを4人で倒せる様になったのは成長だね」
≪パチン
運の神フォルティーナ様は、話を続けながら指を鳴らし、後方から俺の目の前に転位で移動し、再度指を鳴らした。俺の目の前に、皆が転位移動で集められた。
皆とは、戦闘に参加している4人の他に、大樹の森の聖域の精霊樹に宿りし大精霊マルアスピー様と、神獣種神鳥の長アルさんと、悪魔種夢魔族トゥーシェと、運の神フォルティーナ様の事だ。
「ヴァンアヌトンを今日も18匹だね」
「地下0階のヴァンアヌトンではそろそろ成長に限界が?」
この11日間、アリスさんとテレーズさんは、17匹目を仕留めた時点でどちらかの矢が切れ、18匹目との戦闘に参加しないという状態が続いていた。テレーズさんは自身の成長速度が減速し始めている事を気にしているのだろう。
「そんな事は無いね。皆強くなっているね。ただ予想以上にここに留まっている事が問題だね」
「そうですね。地下への扉を探し始めてから31日目になりますが、それっぽい物を見つけ出す事も出来てませんからね」
「そうね。後ろで2時間扉を探しながら、パフちゃん、アリス、サラ、テレーズの戦闘を見ているのだけれど成長が極端に落ちているとは思わないわ」
「私も同じ意見です。9倍の経験値を得ているのですから、仕留める魔獣の数や殲滅速度よりも、扉探しに専念した方が良いかもしれないです」
「アルの言う通りだね。レベル上げは下に行っても出来るね。そろそろ扉が欲しいね」
「ロイク様。マルアスピー様。アル様」
「どうしたのパフちゃん?」
「アリスさんやテレーズさんはこの1ヶ月間でとても素晴らしい弓使いになりました。私はインフェルノを連射しているだけです。始めてここに来た時よりは強くなっていると実感していますが、スキルは最初からレベル10。私には伸びしろが無い様に思えて・・・」
「何かと思えば、また泣きそうな顔をしてメソメソと、普通の人間の中で最強クラスの魔術使いが何をふざけた事を言っているのじゃぁ~」
運の神フォルティーナ様が神界通販で注文していた神雑具『次元の小部屋』に拘束され連れ回されている悪魔トゥーシェが珍しく声を発した。普段の彼女は小部屋のベッドに横になったり本棚の漫画本という絵と文字の書物を読み、俺達と積極的に関わろうとはしない。
「あの金色のゴキブリがこの世界の規格外なだけじゃぁ~。あれをお前達はこの男が壁になっているとはいえ4人で倒しているのじゃぁ~。自分達でどれだけのダメージを与え、どの攻撃が無駄になっているのかしるべきじゃぁ~ないのかと考えるのじゃぁ~」
「何だね。籠の中が飽きたかね」
「フン」
「まぁ良いね。さて、今日はここまでにしてだね。温泉で反省会だね」
≪パチン
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―――ルーリン歴4075年7月12日12:30
運の神フォルティーナ様の神授スキル【連携の歓喜】にだけ付与されている強制離脱記憶機能で、聖都スカーレットの大神殿の最上階にある帰還室に転位移動した俺達は、受付に移動しゴッドマネーを1枚手渡し温泉へ移動した。
脱衣所が1つしかないので、俺はいつもの様に時間をずらす為、受付の横に出現した『ラトゥース』の商品を物色していた。
ラトゥースが大神殿の最上階に出現したのは、扉探しを開始して3日後の事だった。帰還室に戻り受付に移動すると店がそこにあった。
「旦那。今日は面白い物が手に入ってるぜぇ~」
俺を旦那と呼んだのは、ラトゥースコルト下界支店の店長で神獣ナマケモノ神のアイドルさんだ。背中に〇休の刺繍の入った小豆色の作務衣に身を包み草履を履き個性的な神獣様だ。
「面白い物ですか?」
「おぅよ、これだぁ~」
神獣アイドルさんは巻物を広げて見せてくれた。
「なるほど、これはなかなか面白そうですが、どんな時に使うと良いのか想像がつかないです」
「そこわ男の見せどころってもんよ、想像で補って活用すってもんよぉ~」
「面白さを追求すると実用的じゃ無く成るって良い例ですね」
「そう言うこったぁ~」
「火属性の魔術で上級以上の物って存在しますか?」
「魔術でかぁ~?魔術ってあの魔術だよなぁ~・・・1回の消費【MP】は1000とか2000以下だよなぁ~」
「えっと、ちょっと待ってくださいね」
【タブレット】『表示』パフ・レイジィーのステータス値 ≫
≪・・・表示しました。
俺は、表示画面を正面に移動しパフさんのステータスを確認した。
****パフ・レイジィーのステータス値****
【生年月日】R4059年3月24日
【血液型】O 【個体レベル】92
【身分】貴族 【階級】天爵花嫁見習い
【虹彩】シュベーフェル 【髪色】サンダン
【髪型】ロング 【体型】スリム 【利き手】右
【B】75 【W】56 【H】76
【JOB】本職:BT:グレートマージLv10
【JOB】inh:BT:メディウムLv10
【JOB】inh:NBT:リプレリーLv1
≪ステータス値≫
【 HP】 1493
【 MP】21090
【STR】 1176
【DEX】 3013
【VIT】 1278
【AGI】 3001
【INT】 8008
【MND】 8016
【LUK】 471
【Bonus】 498
***********************
「【MP】21090あるみたいだから、1回1万~2万位の消費で何か良いのをお願いします」
「おいおい、普通の人間種だよなぁ~?」
「そうですよ」
「【MP】5000超えたら人間種卒業って言われてんだぜぇ~」
「創造神様からいただいた神具のおかげで、【MP】が5倍になってるんです」
「そうか。ギリ人間種ってとこかぁ~・・・まぁ~魔術で【MP】の消費が5000以上の物はねぇ~。探しておいてやっからよ。汗を流して来なぁっ!」
「お願いします」
「まかしとけってんだ馬鹿野郎!」
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脱衣所に移動した俺は服を脱ぎ、ここスカーレット大神殿の最上階に4つある温泉の中でお気に入りの『みなみみの湯』に浸かり寛いでいた。
みなみみの湯は、4つある温泉の中で1番湯の温度が低く39℃。他は41℃以上ある。なにより、きたみの湯にはこれまでの経験上女性陣が浸かっている。結婚前の乙女達の楽園に男が気安く踏み込んではいけない。本音は太刀打ち出来ない者には近付くな。興味本位で近付くと大変な目に合う。幾度かの経験から学んだ生き抜く為の知恵だ。
「しかし、ゴッドマネーも1924枚結構貯まったなぁ~」
「うんうんだね。神界のゴキブリばかり狩り続け1924枚はなかなかだね。皆頑張ってるね」
「そうですねぇ~・・・・・・いつからそこに?」
「ロイクがあたし達の裸を想像してだね。生きる喜びを噛みしめていた時からだね」
「・・・遠い未来からわざわざ御疲れ様です」
「まぁ~未来でも何でも良いね」
皮肉が通じねぇ~・・・
「小っちゃい事を気にしてはいけないね。ハゲるね!」
両手を腰に当て、ドヤ顔をするのは構いませんが、タイミング間違ってますからねぇ~
「それで何しに来たんですか?」
「面白く無いね」
「何がですか?」
「あたしの胸ではもう慌てふためき興奮しムラムラし襲ってはくれないのかね」
「俺がいつ襲いました・・・」
「遠い未来の話だね・・・」
「あぁ~なるほど・・・」
温泉に限らず、湯船に浸かりリラックスしている時は、適当な会話も適当に対応出来る。素晴らしい文化だ。神様有難うございます。
「呼んだかね」
「そういや、神様でしたね」
「ロイク。地下への扉なんだがね」
おっ、話題を変えたぞ!
「真面目な話ですか?」
「当然だね」
「扉がどうしたですか?」
「このまま、パフやアリスやサラやテレーズを連れレベルを上げながら探していては来たる日が来てしまうね」
「あの森の中にあるんですよね?」
「そうだね。まぁ~これを見るね」
≪パチン
運の神フォルティーナ様は、俺達の前の宙に16:9で30インチの画面を表示させた。
「この赤い森は?」
「森が薄い赤で表示されている部分がだね。探索済みの森だね」
「なるほど。そうなると残りは・・・画面の上方の一画ですか」
「そうなるね」
「明日には森全体の探索が終わるじゃないですか。最後の正直で扉も見つかるかもしれないですね」
「10個程問題があるね」
「結構ありますね・・・」
「うんうんだね」
「それで問題とは?」
「今のパフの強さでは死ぬね」
「あぁ~なるほど・・・魔獣が強いんですね」
「そうだね」
「他には?」
「今のアリスの強さでは死ぬね」
「あぁ~なるほど・・・これ、サラさんでは、テレーズさんではって続きませんよね?」
「問題の4つは直ぐ解決するね。連れて行かなければ良いね」
「残りの6つは何ですか?」
「パフ、アリス、サラ、テレーズを連れて行かない場合だね。トゥーシェが邪魔だね」
「あぁ~トゥーシェも置いて行きましょう」
「そうするね」
「残り5つは何ですか?」
「扉が開く時間が決められているね」
「へぇ~。それは何時なんですか?」
「午前10時~午後23まででだね。15時~16時はランチタイムで開かないね」
「つまり10:00~14:59と16:01~23:00で扉は開くと?」
「そういう事だね」
「・・・それに合わせて行きましょう。残り4つ何ですか?」
「新鮮な死者の魂が必要だね」
「死者の魂って何ですか?」
「肉体を失った魂だね」
「そうじゃなくて、魂って何ですか?」
「肉体を失った精神思念体の様な物だね」
「扉より見つけるのが大変そうですよねそれ」
「死は毎日の様に溢れてるね。新鮮な方が見つけやすいね」
「あぁ~・・・なるほど・・・」
「それで、残り3つは何ですか?」
「死者の新鮮な魂だね」
「・・・それ、今聞きました」
「違うね。さっきのは人間の魂だね」
「あぁ~なるほど・・・次のは精霊様の魂とか言わないですよね?」
「安心するね。必要なのは樹人の魂だね」
「安心するしないの話じゃないですが、それで、残り2つは何ですか?」
「そうだね必要な魂は全部3つだね」
「あぁ~そうなんですね・・・残り1つは何ですか?」
「人間族、樹人族、魔人族の魂が揃ったらだね」
「儀式か何かが必要とかですか?」
「チャイムを押すね」
「チャイム?」
「扉の横にあるね」
「それを押すと開くんですか?」
「音が鳴るね」
「ドアノッカーみたいですね」
「そうだね」
「それで、音が鳴ると何が起きるんですか?」
「内側に居る存在が扉を開けてくれるね」
「へぇ~・・・開けてくれるんでしたらチャイム押した方が良いですね」
「問題があるね」
「どんな問題ですか?」
「ずっと使ってないから壊れてる可能性があるって創造神が言ってたね」
「・・・それ、直しましょうよ」
「そこが問題だね」
「え?壊れてる事が問題なんですよね?」
「そうだね」
「じゃぁ~直しましょうよ」
「壊れて居ない可能性もあるね」
「・・・じゃぁ~押しましょう」
「壊れていたらどうするね」
「・・・この会話続けます?」
「言いたい事は分かるね。だがだね。壊れたチャイムを押すと何が出て来るか分からないね。それが問題だね」
「・・・チャイムを押さずに開けて貰う方法は無いんですか?」
「あるね」
「あるんですか!」
「一応確認しますけど、方法は?」
「あたしが神界に行ってだね」
「それから?」
「ロイクがドアをノックするね」
「それで?」
「あたしが内側から開けるね」
「・・・1つ頼まれてくれませんか?」
「ロイクからあたしに頼み事とは、まるで創造神の欠伸だね」
「どういう意味ですか?」
「ありえない。信じられないという意味だね」
「あぁ~・・・でも、これは頼まれてくれると皆喜ぶと思いますよ」
「なんだね」
「フォルティーナ。ここで風呂何か入って無いで、今直ぐ神界に行って扉を内側から開けて来い」
「扉の鍵を開け扉を開けっ放しにしろと言うのかね?不用心極まりないね」
「俺達が開けたら、開けっ放しになるんじゃ?」
「うんうんだね。何度も開けたり閉めたりするのは面倒だね。開けたままにした方が良いね」
こいつは・・・
「あっちょっと待ってください」
「何だね。急ぐ気も無いね。何だね」
「内側から扉を開ければ開くとして、4人にとって危険な事と、魂3つが必要な事の問題点はどうなります?」
「何を言ってるね」
「何って俺が話たままです」
「4人が今の強さのままではいずれ死ぬ可能性ある事位ロイクにも分かっているはずだね」
「そのいずれっていつくらいを見越して話てます?」
「来たる日に決まってるね」
「あぁ~・・・扉へは皆で行きましょう。フォルティーナが扉を神界側から開けた後でになりますけど」
「分かったね。だが魂は必要だね」
「魂ですか・・・精神思念体なんですよね。何処に行ったら3つも確保できますかねぇ~?」
「簡単だね」
≪パチン
運の神フォルティーナ様は、画面に王都モルングレーの世界創造神創生教の中央創生教会の墓地を表示した。
「旧教の中央教会と墓地ですね」
「ここには沢山いるね」
「何がですか?」
「新鮮な死者の魂がだね」
「えっと、ちょっと良いですか?」
「何だね」
「もしかしてですけど、俺に墓荒らしをしろと?」
少し前、49日間もの間アルさんとフォルティーナと3人で過ごした日々。この世界では1秒以下しか経過していなかったが、その時間は無駄では無かった。アルさんと俺をとっても忍耐強い我慢強い存在に成長させてくれました。要領を得ないフォルティーナとの無駄に思えるチンタラダラダラと迷走する会話も適当に相手が出来る様になりました。悪狐神様ありがとうございます。
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俺は、王都モルングレーの墓地へ行く事になりました。
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――― R4075年7月12日(地)
世界に新しい宗教が誕生してから1ヶ月が経った。正創生教(正教)と世界創造神創生教(旧教)の教義論争は、地下迷宮楼閣迷宮内での武力衝突や、国家地方行政間での出入通行管理税や貿易規制制限といった政治衝突に発展していた。
ゼルフォーラ王国では、聖王イヴァン・ルーリン陛下の宣言を皮切りに、世界各地から正創生教(正教)支持者が移住を開始し、領都を構える事となり領国経営に乗り出した貴族達は領民確保の為、おざなりにしていた領地整備に燃えた。
聖都スカーレットには、移住希望者が殺到した。隣国トミーサス王国の種族差別制度から逃れ移住を希望する魔人族や、ヴァルオリティア帝国領森林都市フィーラの好奇心から移住を希望する樹人族。海を隔て対岸の大陸ベリンノックの結束の一枚大岩の聖域を有する内戦状態のムーレイダン王国から戦火を逃れ難民として移民としてやってきた人々。職業履歴や犯罪履歴の調査が難航し移住に必要なあらゆる手続き処理が遅延していた。王都モルングレーから名誉子爵男爵達が役人として派遣されるまでそれは続いた。
そんな中、俺は、緊急時以外は創造神様の御意向御意思を優先し来たる悪に備えたい。王国内外を自由に動き回り調査する時間や自分達を鍛える時間を優先したい。30日前の屋上での宣言通り自由に動き回っていた。