1-2 リトル・アンカーの置き土産
作成2018年1月26日
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【タイトル】このKissは、嵐の予感。
【第1章】(仮)このKissは、真実の中。
1-2 リトル・アンカーの置き土産
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――― 一夜明け、アンカー邸の執務室
4月30日樹の日の夜半から始まり連日続いた魔獣達によるマルアスピー村への襲撃は、5月21日地の日の夜半過ぎに俺達が駆け付け無力化し終結した。
*****襲撃事件、最終日の詳細説明*****
≪≪参加者数と戦死者数≫≫
指揮官 1名
マルフォイ・アンカー
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副指揮官 1名
レオナ・アンカー
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王国軍臨時防衛隊 5人 戦死者1人
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貴族領軍(私兵) 15人 戦死者7人
※18人の内3人は初日に死亡※
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徴集強制参加のBT・LBT達 59人
※領民21人、専従奴隷38人※
領民戦死者 2人
専従奴隷戦死者 9人
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加人者合計 81人 戦死者合計 19人
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友軍
王民3人
士爵2名
友軍参加者合計5人
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≪≪魔獣討伐数≫≫
奇襲撃退主力部隊
【兎耳狼】99匹 【大地牙狼】32匹
【闇牙狼】3匹
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役場待機部隊
【兎耳狼】8匹 【大地牙狼】3匹
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≪≪村の被害状況≫≫
役場 半壊
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≪≪ロイク達の魔獣討伐数≫≫
ロイク・シャレット
南東部 1度目の魔法攻撃
【兎耳狼】308匹 【大地牙狼】71匹
【闇牙狼】41匹
南東部 2度目の魔法攻撃
【闇炎牙狼】3匹
南東部 3度目の魔法攻撃
【大地牙狼】1匹 【闇牙狼】1匹
役場4度目の魔法攻撃
【大地牙狼】4匹 【闇牙狼】8匹
【闇炎牙狼】7匹
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邪狼獣セリュー(喰った数)
アンカー邸及び、その周辺
【兎耳狼】49匹 【大地牙狼】11匹
【闇牙狼】28匹 【闇炎牙狼】6匹
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邪狼獣ロージャン(喰った数)
南部領民農地
【兎耳狼】202匹 【大地牙狼】88匹
【闇牙狼】3匹
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****襲撃事件、最終日の詳細説明おわり***
*****一連の魔獣襲撃被害状況説明*****
≪≪村の被害状況≫≫
南部素材買取所 全壊
領軍私兵詰所 全壊
南東部の門 全壊
村役場 半壊
アンカー邸 半壊(邸宅西側)
アンカー家南農園 農作物への被害60%
アンカー家北農園 農作物への被害30%
アンカー家私有地境界柵 一部
魔獣対策防壁 一部
領民一般人 死亡4人
領民戦闘参加者 死亡3人
アンカー家専従奴隷 死亡16人
王民貴族 死亡1名※後に訂正0名※
王国軍地方派遣守衛 死亡1人
貴族領軍(私兵) 死亡10人
****一連の魔獣襲撃被害状況説明おわり***
一夜明け、アンカー邸の執務室では、マルアスピー村の被害状況とマルフォイ・アンカー次期男爵の処遇について、【レオナ・アンカー】と【シャレット士爵】と【シン士爵】と【出入通行管理徴収兵】が集まり確認作業が行われていた。
レオナ・アンカーさんの要請を受け、俺も父に同行し確認作業に同席はしたものの、21日もの間消息不明になり状況をいまいち把握しきれていない事や、あの魔術は何なのか?あの大きな黒い獣は何のか?と聞かれた際にどのように説明すべきか悩んでいた事もあり、上の空での同席だった。
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「作戦遂行中に王国軍の臨時防衛隊と強制参加の者達を見捨て、指揮官として職務を放棄し、お兄様は敵前逃亡したという事ですね?」
レオナ・アンカーさんは、報告書を確認しながら臨時防衛隊の隊長に確認した。
「はい。我々主力部隊は、松明を片手に夜の闇の中を南東部の門より進軍し【ヒグマの尻尾口】へ向かいました。奇襲攻撃・先制攻撃計画とは名ばかりで、我々は進軍を開始して早々に魔獣達の強襲を受けました」
「お兄様は、作戦開始時は、部隊のどの辺りで指揮を執っていましたか?」
「はい。マルフォイ様はじめ貴族領軍の兵士達は部隊後方、後方支援の者達よりも後方に待機し指示を出しておりました」
「奇襲作戦にも関わらず、直接物理攻撃主体の領軍がですか?」
奇襲攻撃?先制攻撃?を行う際に、魔術や弓矢による間接攻撃を行う者よりも、後方に陣取る剣装備主体の兵士達。マルフォイ・アンカーと領軍の位置の不自然さは、誰が聞いても疑問に思う事だろう。
「はい。数の上からも圧倒的に不利な状況での混戦乱戦状態に我々は陥りました。作戦前の報告通り【兎耳狼】だけであれば対処のしようもあったと思われますが、状況は先程報告致しました通りで、魔獣達の群れの中には、【闇牙狼】や【大地牙狼】が数多く混ざっていました。最終的な状況からではありますが、【闇炎牙狼】3匹もこの戦闘において混ざっておりました。乱戦中の部隊から少し距離を置き指揮しておりましたマルフォイ様は、全壊した【南部素材買取所】近辺まで主力部隊が押され犠牲者が出始めると、突如我々を残し護衛の貴族領軍の兵士と共に撤退して行きました」
「シャレット士爵様、シン士爵様。防衛隊の隊長の証言に間違いはありませんか?」
レオナ・アンカーさんは、報告書に改めて目を通し、臨時防衛隊の隊長の証言に間違いが無いか、シン士爵と俺の父に確認した。
「レオナ殿。1つ付け加えるなら、あれはまさに脱兎の如し素晴らしい逃げっぷりでした」
「まぁー逃げちまったもんはしゃーねぇーって事でぇ!それで、王国軍の連中に言った訳よぉ。わけぇー兵士1人を役場に行かせて現状を報告しろってなっ!撤退した阿呆のせいで今後も被害がでねぇー様に王都に上げる奴がいねぇーとって。そん時、隊長さんと話たんで良ぉーく覚えてらぁー。間違いねぇーよっ!」
「・・・分かりました。」
「結果的に、倒しても倒しても次から次に魔獣が押し寄せて来んだろうぉ!マルボーだっけか?が居たところで何ら変わらなかっただろうがなっ!」
「・・・私もそう考えます」
「そして、限界を超えての応戦一方の中に、シャレット士爵様の御子息のロイク殿が空気の中から突然姿を現し、魔術の1種だと思われますが。光の窓掛けの様な物で500匹近い魔獣達を覆うと、眠らせる様に一瞬で倒しました」
「隊長。私も見ました。役場でも同じ様な魔術で、魔獣達を・・・【闇炎牙狼】7匹を一瞬で倒していました」
話の内容が俺の魔法に関する事に触れ始めたので、俺は自分のステータスやスキルを眺めながら、この説明で人は納得してくれるだろうか?『【修練の心得】というスキルが【BIRTHDAY・SKILL】に神授されていた様で、ずっと1だった個体レベルが2に上がるとあっという間に31まで上がってこんなに強くなりました』流石にこれだけでは納得してくれないよないよな。と、思考を巡らせていた。
「マルフォイ様は役場に撤退した後は如何されておりましたか?」
だが、シン士爵は、マルフォイ・アンカーに対する責任追求の手を緩める気は無い様で、マルフォイ・アンカーが南東部の戦線から離脱し役場に戻ってからの状況を確認し始めた。
「お兄様は、戻って来ると直ぐに、屋上から魔獣達を迎え打つと言い。魔術を使える者と弓矢を扱える者を引き連れ屋上に移動しました。その後、役場は、お兄様が私達に報告した3000匹もの魔獣達からでは無く30匹程の魔獣の襲撃を受けました。【闇炎牙狼】が7匹も混ざっていたので、魔獣の群れとしてはこれが中心だったのではと私は考えています」
「レオナ殿。屋上で応戦していたはずの次期男爵が1階で負傷し倒れていたのは何故ですか?」
「私も今のレオナ殿の話と、被害状況の報告に食い違いがあると考えます」
確かに、レオナ・アンカーの説明だけでは、シン士爵も臨時防衛隊の隊長もマルフォイ・アンカーの戦闘後の状況に納得がいかないだろう。
「この話には続きがありまして、1階で迎え撃つ私達は魔獣達からの襲撃に対し、扉を開けっ放しにし狭い入り口に1匹ずつ誘導し殲滅する計画を考えました。ですが、魔獣達は裏をかいたかの様に数匹だけが飛び込んで来ただけで、その殆どが屋上に集中したのです」
「マルボーだっけっか?あいつぁー魔獣ホイホイだなぁ!」
父は、【魔獣ホイホイ】という言葉を気に入ったのか、先程からやたらと多様し、場を濁している。苦笑するしかないレオナ・アンカーさんは、表情を何とか維持し話を続けた。
「・・・お兄様は、屋上に応戦する者達を残し、貴族領軍の兵士達と1階に降りて来ました」
「なるほど。我々にとった行動と同じ様な事を、応戦した者達にもとった訳ですね」
「シン士爵様。その通りです」
「でもってぇー。どうせ自分だけ逃げようと入り口に向かってぇー。噛まれたんだろうぉー?」
「シャレット士爵様。それは違います。私は一部始終立ち会っておりましたので、マルフォイ様に変わりまして弁明させていただきます」
「えっとぉー。あんた誰ぇ?」
「お兄様の従者兼御者を務めている者で、アンカー領内での私の従者も兼任している者です。貴方は下がっていなさい」
「ですが、お嬢様。あの時、マルフォイ様は役所の扉を閉めようとして入り口に近付き」
マルフォイ・アンカーの従者兼御者で男爵家の次期執事という立場から主人の罪状を少しでも軽い物にする努力をして当然ではあるが、もう1人の主人でマルフォイ・アンカーの実妹のレオナ・アンカーさんが擁護してくれない状況にあっては焼け石に水だろう。レオナ・アンカーさんは直ぐに話を遮り自ら付け加える様に話出した。
「そうですわね。確かに、お兄様は扉を閉め様と入り口に近付き【闇炎牙狼】と対峙しました。1階に居た者に攻撃しろと取り乱しながら命令し、中央の階段に向かって走り出した直後に【闇炎牙狼】の攻撃を腕に受けました」
「レオナ殿。報告に食い違いがある様です。マルフォイ様の負傷箇所は左の脇腹だったのでは?」
臨時防衛隊の隊長は、食い違う点に気付き意見を求めるが、レオナ・アンカーさんは話を続けた。
「隊長。その時、お兄様は噛み付かれはしましたが無傷でした。幸いな事に腕のプロテクターに噛み付かれただけで、怪我には至らなかったのです。ですが、気絶しその場に倒れました」
「こりゃー傑作だなぁっ!戦闘中に恐怖で気絶してぇー。魔獣の餌になりかけた訳かぁっ!」
餌って言い過ぎだとは思うが、魔獣を目の前に気絶し周りの荷物になる指揮官なんて不要だと思う。
「はい、その後、お兄様は軽鎧ごと脇腹を喰い千切られました。そして、主力部隊と同じ様に、空気の中から突然姿を現したロイク様に、私達も含め助けていただきました」
「レオナ殿。つまり、次期男爵は、同じ日の同じ作戦遂行中に、指揮官として部下を見捨て2度の敵前逃亡を行った事になります。また、無謀な作戦によって兵士と臨時戦闘員に19名もの尊い犠牲を出した事になります。間違いありませんか?」
「はい。否定の余地がありません」
「お嬢様・・・。あぁ~マルフォイ様・・・」
従者兼御者で次期執事さんは、視線を少しだけ上に動かし遠くを見つめていた。
「でもよぉー。何か変じゃねぇーかぁ!魔獣達の襲撃が始まってから襲われてんのはアンカー家の農園とアンカー邸だけだろうぉー!南東部の門から村に侵入してんのに貴族領民居住区には被害が初日だけで出ちゃいねぇーし。でもってよぉー。昨日はどうよぉっ!マルボーだっけっか?あいつが居んとこ全部に【闇炎牙狼】が居たんだろうぉー?やっぱし、魔獣ホイホイだよあいつはぁっ!」
「その事なのですが」
「お嬢様・・・」
従者兼御者で次期執事さんは、これ以上は語らないで欲しいと言わんばかりに、少し強めの口調でレオナ・アンカーさんの言葉を静止しようとしたが、これもまた焼け石に水の様で、レオナ・アンカーさんは話を続けた。
「初日の領軍私兵詰所への魔獣の襲撃は、【闇炎牙狼】の可能性があります。しかも、襲撃される少し前には、その場に兄様が領軍の兵士達と行商人と一緒に居た事が分かっています。襲撃を受けた時には既に屋敷に戻っていたそうですが、その襲撃の際に領軍の兵士2名と行商人1名が犠牲になっていたそうです。初日の詰所爆発で亡くなったのは連絡係として待機していた領軍の兵士3名では無く1名だった様です。幾つかの証言によって爆発の巻き添えで亡くなったと判断されていたロイク様は、無事に生還されアンカー領を魔獣達から救い出してくれました。当初の報告内容は、かなり事実とは異なった物だった様です」
「なるほど。この状況から次期男爵が何かを隠そうとし、爆発前後の状況を意図的に改ざんしたと見て間違いないでしょう」
「・・・はい」
シン士爵が、マルフォイ・アンカーの罪状をまた1つ確認すると、レオナ・アンカーさんは少し考えてから小さく頷きながら公定した。
「レオナ殿。次期男爵と貴族領軍の兵士達が【闇炎牙狼】に狙われている様に感じられるのですが、当事者の次期男爵は気付いている様でしたか?」
「魔獣ホイホイだからなぁっ!」
シン士爵の話を、どうしようも無い俺の父がくだらない一言で遮った。
「お兄様は何も話してくれませんでしたが・・・曾祖父様が今回の襲撃に関わっていると私は考えています」
父のどうしようも無い言葉を無視し2人の会話は続けられた。
「何だぁ何だぁー!この村で【闇炎牙狼】って言うと、みぃーんなリトルの話をすっけどよぉー。111年前の話だよなぁっそれ」
あれ?111年前って何処かで聞いた様な話だけど、村に伝わるリトル・アンカーの生きた伝説って100年位前って、111年前の事だったのか・・・亡くなったのが107歳で20年前だったはずだから・・・18歳の時に【闇炎牙狼】9匹を追い払った?封印した事になるのか。
「ですが、今回の襲撃には、お兄様と領軍の兵士達が、ヒグマの丘で曾祖父様の私物らしいき武具を数点発見し領内に持ち込んだ事が切っ掛けになったのではないかと私は考えています」
「その初代アンカー男爵様の武具というのは本物だったのですか?」
臨時防衛隊の隊長は、この村に派遣されてから、リトル・アンカーの話を酒の席で何度も聞かされたのだろう。その英雄が残した武具に徴収兵とはいえ王国軍の軍人だ興味を持った様だ。
「隊長殿。私も行商人の【Évaluation】に立ち会っておりましたが、ヒグマの丘より持ち帰りました武具は全て本物との事でした」
従者兼御者で次期執事さんは、最初の襲撃の前に同席していた様だ。
「なるほどな。レオナ殿。そのリトル・アンカーの武具は、今何処に保管してあるのですか?私はこれでも便利屋を営んでおりますので何かお役に立てるかもしれません。111年前に魔獣達を引き付ける何らかの魔術を施し、ヒグマの丘の何処かにその武具を隠し【闇炎牙狼】を村から追い払う事に成功したと考えると、村に伝わる討伐はしていないという事実からも合点がいきます」
「分かりました。持って来させましょう」
≪チャリン ・・・ガチャ コツコツコツ
レオナ・アンカーさんが手元に置かれた鈴を鳴らすと、1人のメイドが執務室に入って来た。
≪バタン
「お嬢様。お呼びでしょうか」
「今直ぐお兄様の部屋に行き、ヒグマの丘で見つけた曾祖父様の武具を受け取って来なさい。貴方も一緒にお兄様の部屋に行って来なさい」
レオナ・アンカーさんは、従者兼御者で次期執事さんに、メイドと同行し武具を持って来るように命令した。
「お嬢様・・・かしこまりました」
従者兼御者で次期執事さんは、後ろ髪を引かれる思いなのだろう、俺達を気にしながら渋々執務室を後にした。
≪ガチャ コトコトコト ・・・バタン
「さて、メイドが曾祖父様の武具を持って来るまでに、話ておきたい事があります」
≪スー タン トントントン
レオナ・アンカーさんは、席から立ち上がると、俺達が座っている向かい合わせに並んだ2人掛けのソファーまで歩いて来て、表情を改めた。
「シャレット士爵様、シン士爵様、ロイク様、隊長。これはここだけの話にしていただきたいのですが」
「内緒話かぁっ!良いねぇー」
「シャレット殿」
父は相変わらずの対応で、揺るぎない。
「良いじゃぇねぇーかよぉっ!シンさん」
父が、シン士爵をシンさんと呼んだ事は無いと思う。父の事は少し放っておこう。
「レオナさん。俺も聞いてしまって大丈夫な話でしょうか?」
正直なところ、アンカー家には余り関わりたく無いってのが本音だ。
「この話は、【闇炎牙狼】を苦も無く倒す事ができるロイク様が居ればこその物なのです」
関わらない訳には行かなそうな雲行きだ・・・・
「魔獣達の襲撃が確実に終わったのか確証を持って領民達に話する為にも調査を行いたいのです。ですが、ヒグマの丘にはまだ村に襲って来ていたないだけで【闇炎牙狼】が潜んでいる可能性があります。恥ずかしい話、領軍の兵士達では殺されに行く様な物で調査どころではないでしょう。」
「ははぁーん。それで、ロイクに調査を頼むって訳だなぁ!よっしゃっ退屈しのぎでいっちょ行ってくっかぁ!」
「え?」
「何で、親父が勝手に依頼を受けるんだよ」
「良いじゃねぇーかよ減る物じゃあるめぇーし」
レオナ・アンカーさんは、俺の父が勢い良く勝手に了承したからだろう。不安そうな表情で俺の顔を見つめていた。関わりたくはないけど、故郷の為だし・・・
「分かりました。今日の夜から安心して皆が眠れる様に、今から調査に行って来ます」
「今からですか?」
「はい、ヒグマの丘は何度も狩りをしていて土地勘もありますし、私には頼りになる仲間がいますので」
「報酬の件ですが・・・」
快く了承すると、報酬の話を切り出そうとしたので、俺は話を遮った。
「村の復興復旧にまわしてください。個人レベル上げやスキル確認のついでに調査する様な感じですから、それに素材や魔晶石もかなり手に入りましたし、王都への報告後らしいですが人命救助を含む魔獣討伐で賞金が貰えるらしいですから」
「よろしいのですか?」
「隊長さん。王国から賞金をいただけるんですよね?」
「はい。その件に関しましては、王国の税金にも関わる話ですので。王国軍出入通行管理徴収兵、税務官として責任を持って報告書を作成致します」
「それでした、私も協力させて頂きますわ。王都の御父様にも一筆添える様にと連絡致します」
「私も一筆添えましょう」
レオナ・アンカーさんとシン士爵様が隊長に協力を申し出てくれた。
「確かに、この件は、あの次期執事には聞かせたいとは思わないな」
「そっかぁー?だってよぉー。襲撃の原因かもしんねぇー丘を調べるだけじゃねぇーかよぉっ」
「もし、今回の魔獣襲撃事件に、111年前のリトル・アンカーが絡んでいた場合、その現況を村に持ち込んだのは何処の誰で、その証拠と最初の襲撃を隠そうとしたのは何故なのか・・・。調査の結果とリトル・アンカーの残した武具次第では、次期男爵は【特別奴隷】として3年から5年の自家での謹慎だけでは済まない事になる。最悪・・・」
「結果はもう決まってんだよぉっ。騒いだところで武具はここにあんし。亡くなった者はかえっちゃ来ねぇー。マルボーは、分かってる範囲だけでも、そんだけの事をやっちまったって事だぁ!」
「妹として覚悟はできています。御父様の領地を、アンカー男爵領の今後の為にも、ここで・・・」
「まっ!それは、おめぇーさんの家の問題だぁ。さて、俺達は行くとすっか!」
レオナ・アンカーさんとシン士爵と父で話がまとまった様だ。何故、父が仕切っているのかはあえて触れないでおうこう。面倒だから・・・
「武具の件も気にはなりますが、まずはヒグマの丘の魔獣の状況調査と武具を発見した場所を確認しに行って来ます」
≪サァ
俺は、レオナ・アンカーさんに、調査に出かけると切り出し席を立った。
「よっし。家に戻ったらぁっ。支度して早速出かけんぞぉー。シンさぁん。武具の方は頼んだぜぇ!」
「あのさぁ~、親父一緒に来る気?」
「あったりめぇーだろうがぁー。面白そうだしよぉっ!」
この人は・・・
――― ヒグマの丘の中
俺は、【精霊様】と、【バイル・シャレット】と、俺の影の中でお休み中の【邪狼獣兄】と【邪狼獣弟】とで、マルアスピー村の南にある【ヒグマの丘】に移動した。
「うわぁっ!一瞬で丘だよぉ。4Km位が玄関から外に出んのと同じって納得いかねぇーーー!って、まっ、気にしてもしゃねぇーから納得すぅっけどよぉ」
どっちだよ・・・
「義理の御父様は義理のお母様のお話の通り、奇想天外で柔軟な思考の人間なのですね」
「おぉよ!俺はよぉー。新感覚な人間目指してたぁ時期があってよぉ!・・・まさか息子に先ぃー越されるとぁー思ってなかったけどよっ!」
ちょっと待て、俺がいつお前と新感覚の人間とやらを目指した・・・
「精霊様を嫁にするってぇー・・・流石の俺も斬新過ぎるっつぅーか、なぁー」
「義理の御父様幾つか前例がありす・・・子供も期待していてください」
「お、・・・おぉー!」
何だか、彼女は、俺よりも両親と上手くやっていける。そんな気がする・・・
「あのぉ~、・・・精霊様」
「マルアスピー。何度言えば分かっていただけるのかしら。あ・な・た!」
彼女は、頬を膨らませ、胸の前で腕を組む。
凝視・・・(だから、彼女は精霊様だから、精霊・・・)チラ・・・・・・
「フフフッ」
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そして、・・・2つ浪漫の谷を、悪びれる素振りも見せず熟視する男がもう1人いた。
俺は少しだけ、父と分かり合えたそんな気がした・・・