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このKissは、嵐の予感。(仮)   作者: 諏訪弘
-スカーレット編ー
69/1227

1-56 虚実の兆候と、0階へ続く額縁。

宜しくお願いします。

――― 青色で石化した町ベートラント

王宮

――― 不明


「アダチさん」


「はい」


「王様に会ったし、俺帰っても良いですか?」


「・・・挨拶がまだですよ」


「でも、石化してるし話せませんよね?」


「そうです。ですが、この状況を見て何か感じる事はないのですか?」


「そうですねぇ~・・・魔術も魔法も発動しないし俺ではどうする事も出来ないと思うので、他を当たって貰えますか?」


「やはり人間種は下等です」


「下等な事は認めます。出来もしない事を約束して、期待を持たせたり、ハードルを上げたりするの俺嫌なタイプなんで」


 24年と2カ月近くレベル1だった俺の、憐れみや蔑みに対する耐性を舐めて貰っては困る。


「分かりました。人間種ロイクが現れた場所に戻りましょう。封印を解かなくても良いのですよね?」


「残念ですが諦めます・・・」


 アダチとイタバシって名前だよね?


「ロイクにヒントをあげるよ」


 1匹姿が見当たらないと思っていたら、それは腹の辺りから顔を出し俺に話し掛けて来た。


「ヒントですか・・・ありがとうございます」


「私の名前はIWAKURA(イワクラ)


「ん?」


 これって、アダチ・イワクラかイワクラ・アダチ、イタバシ・イワクラかイワクラ・イタバシって事か?


「私の娘は下等な人間種と違って優しいのよ。ヒントで苗字を教えるなんて感謝しなさい」


 イワクラは苗字!っと・・・


「さぁ~人間種ロイク戻りましょう」


「はい」



 俺は、最初の地点に戻って来た。時速50~60Kmの速度で大草原を1時間以上も走り続けて。


「本当に封印を解かなくても良いのですか?」


「はい・・・」


 名前分かってるし、もう封印解けるし。


「そうですか。私達の王様と話をしなくても、本当に良いのですか?」


「石像とは話出来ませんから・・・機会があったら話しましょうと伝えておいてください。それでは」


「は・・・はい・・・」



 俺は絵から108の間へ戻った。


「ロイク。何をやっていたね」


「何って、名前を聞いてました」


「何を言ってるね?」


「名前を絵に描くと封印が解けるんですよね?」


「絵に名前を描いて解ける封印は、滅んだ世界の石化の話だね」


「え?どうい事でしょう・・・」


「そのままの意味だね」


「・・・俺、何の為に絵の中へ?」


「扉の封印を解く為だね」


「・・・」


「聞いて無かったのかね?扉の封印は誰かが額縁()を通り抜けると解けると言ったね」


「・・・聞きました」


「神授スキルを持っているロイクなら何処でも自由に通れるね」


「あぁ~~~・・・」


 ・・・あのカンガルー達元気かなぁ~~~



「さぁ~、地下の0階(レイカイ)に行って、地下への本当(・・)の扉を開くね」


 運の神フォルティーナ様は、額縁()の中へ歩き出し躊躇する事無く潜った。そして左手だけを108の間へ出し俺達を手招きした。


「着いて来るね」


 マルアスピー、アル、アリス、サラ、テレーズ、パフは、指示に従い額縁()の中へ入って行った。トゥーシェは何かに引き摺られる様に、そして全員が潜るのを確認し俺も後に従った。


「アーイーウーエーオー Kaiser(カイザー)♪ キークーケーコー Sakrament(サクラメント)♪ シースーセーソー tabu(タブー)♪・・・」


 地下へと続く長い階段を下りていると、パフさんが小さな声で歌を歌っている声が聞こえた。


「パフさん。その歌は?」


「ロイク様が手にしていた紙に書いてあった地文字歌ですよ」


「地文字歌?」


「はい。母方の祖父(そふ)が昔教えてくれたんです」


「ってことはロイの歌って事か・・・」


 俺は徐に紙切れを取り出した。


「それ発音の順番が違いますよね?」


「その紙に書かれているのは文字にした時の順番で、歌は発音を覚える為の物なんですよ」


「子供の為に大人達が考えた歌って事ですか」


「はい」


 ・・・・・・もしかして!


「これって!」


 俺は、大きな声を上げ、紙切れをパフさんに見せる。


「急に、どうされたのですか?」


「これって、地文字って文字で、歌があるんですよね?」


「はい」


「他にも歌ってありませんか?」


「他ですか・・・覚えているのは2つ位です。母ならもっと知ってるかもしれません」


「知ってるので良いので、歌って貰えませんか?」


「良いですけど、下手ですよ・・・私」



 パフさんは小さな声で歌い始める。(本当は地文字)


「~~~ この【5分の1(世界)】に現れし大樹の、【5分の3(大地)】を表す大岩で、【5分の4(大海)】の水清らかに、【5分の2(大空)】は風舞う♪ ~~~ 【(F)(E)3分の5(U)(E)3分の2(R)】火を灯し、夜の闇を照らし出せ人の子よ♪ ~~~ ......



...... ~~~ 2分の4(O)(オステン)4分の2(W)西(ヴェステン)2分の3(N)(ノルデン)3分の3(S)(ジューデン)♪ ~~~」


「こんな感じです」


「文字を知らないので歌って貰って言うのも何なんですが、結局分かりませんでした」


「えぇ~・・・そんなぁ~・・・」


「パフさん。今の歌ですけど、勇ましいと言いますか、荒々しいと言いますか、響きが濁っている印象を受けるのですけど、地文字という言語はその様な音が多い言葉なのでしょうか?」


 サラさんが、パフさんに質問した。


「そうですね。祖父が歌っていた時は、もっと濁音や「ッ」が多い感じだったと思います」


「地文字の起源もまた神聖文字だね。しかも地文字は水文字、火文字、風文字と同様に極めて古いね」


「聞いた事無い言葉がまた沢山出て来ましたね」


「聞かれた事が無いね」


「そうですね・・・因みにですけど、地文字の特徴って教えて貰えますか?」


「構わないね。地文字はロイク、君がカンガルー(・・・・・)になってしまった子供から受け取った紙に書かれた文字。コルト語の古代言語の派生アルブル語つまりこの世界の人間の言語の数字を文字に置き換えた言葉だね」


「・・・フォルティーナ。それは、紙を見れば分かります」


「ロイク、君は分かっていないね」


「そのまま数字をアルブル語に置き換えても言葉として通じる事は無いね」


「え?でも、パフさんの歌だと、アーイーウーエーオーって!」


「それは、音に変換し、最初から通じてるね」


「文字として書いた時だね。カーという単語を探してみるね」


「カーですか?分かりました・・・」


 俺は、紙を見た。


1分の5(K=カー)ってありましたよ」


「それはあるね。ジーを探してみるね」


「ジーですね・・・・・・あれ?」


「ロイク様。ジーの場合は、その紙に書かれた文字を2つ組み合わせる必要があるんです。こんな感じです」


 パフさんは、4分の5(Z)1分の3(I)を並べた。


「1つずつ発音すると、ツェットとイーですが、2つ並べるとジーになるんです」


「俺達の言葉にする時に不足分は複数で表記してる訳か・・・」


 ・・・


「どうしたね」


「さっきのカンガルーの名前を地文字で表記したらどうなるんだって考えてたんです」


「ロイクは何をしたいのかね?」


「えっ?」


「どの封印を解きたいのかね?」


「どれって・・・この先の地下へ行く(・・)扉と、あの世界の石化でしょうか」


「なるほどだね。石化はそれでは解けないね」


「どうしてですか?」


「名前を絵に描き言い当てる事で解除されるのは、名前を書かれた者の本来有るべき姿だね」


「カンガルー化が解除されるだけって事ですか?」


「そうだね」


「じゃぁ~石化は!」


「あの世界の石化は絵に名前を描くね。石化したカンガルーの石化は簡単だね。解呪の魔術か魔法か神気でサクッとだね」


「あっ!・・・」


 神気で解呪すれば良かったのか・・・俺って奴はぁ~・・・


「それは気にする必要は無いね」


「助ける事が出来ないと思ったからあっさり帰って来たんですよ。助ける事が可能だった訳ですよ!」


「無駄だね。虚無の兆候に描き出される世界は虚無の兆候が見せる虚無だね。既に滅び有無の定まりから解放されてしまっているね。既に解放されてしまった存在を解放する事は誰にも出来ないね。ロイク。例え君でもだね。石化の呪いを解呪され石化が解けた者の石化を解呪出来るかね?」


「それは、出来ないと言うより意味が無いです」


「そういう事だね」


「でも、カンガルー達や精霊様が石化した状態で、解放されてる様には見えませんでした」


「あの世界は、創造神の代わりに宿っていた精霊を世界から消したね。自ら世界を終わらせた世界だね」


「それで、自然の力、自然魔素(まりょく)がほとんど感じられなかったんですね。あの世界はこれからどうなるんですか?」


「既に滅んだ世界にこれからは無いね」


「カンガルーの親子は存在してましたよ」


「虚実の兆候だね」


 この時の俺は、地文字や虚実の兆候を正確に理解していなかった。



「さぁ~・・・ここが0階(レイカイ)。創生の地だね」


――― ルーリン・シャレット天爵領

領主館 地下0階 創生の地

――― 6月11日 19:00


 階段を13×13段下りると、そこには、空と陽と雲、小草原に小川に小池。大森林が存在していた。


「フォルティーナ!・・・ここって、地下なんですよね?」


「ここは、地下108階まで行く為の扉が存在する創生の地。地下0階(レイカイ)だね。さぁ~地下へ通じる場所を森の中で探すね」


 森へ歩き出そうとした運の神フォルティーナ様を俺を引き留める。


「ちょっと待ったぁ~!」


「ロイクどうしたね?」


「ここって、自由に動いても平気な場所なんですか?」


「知らないね」


「・・・知らないってまた無責任な」



「1つ確認します。地下1階~地下108階まで通じてる。地下1階への扉がここの何処かにあるんですよね?」


「そうだね」


「地下迷宮と楼閣迷宮は額縁()を俺が潜ったからもう解放されてるんですよね?」


「その通りだね」


「その2つの迷宮は、創造神様が俺達以外の人の為に神授で解放してくれたんですよね?」


「解放したのはロイクだね。創造神は迷宮の中に魔獣や道具を神授で補充したね」


「俺達はその迷宮じゃなくて、ここの地下で自分達を磨けば良いんですか?」


「地下迷宮でも楼閣迷宮でも好きなだけ楽しむと良いね。あたしや、ロイク、マルアスピー、アル、トゥーシェは今の状態では楽しむ事が出来ないだけだね」


「つまり、アリスさんやサラさんやテレーズさんやパフさんはそっちでも自分を磨く事が出来るって事ですよね?」


「そうだね。だがだね。今の状態ならだね。経験値が9人分手に入れるこの9人でここの地下の方が効率的だね」


「確かに・・・でも、トゥーシェをどうするんですか?これじゃぁ~邪魔なだけなんですけど」


 見えない触れられない壁の中に閉じ込められたトゥーシェの声は、運の神フォルティーナ様、マルアスピー、アル、俺にしか聞こえていない。他の皆には、美少女が嫌々同行している様にしか見えていない。


「大丈夫だね。あたしが適当に引き摺って連れ回すだけだね。レベルが存在するのは、ロイク。君と、パフにアリスにサラにテレーズだけだね。トゥーシェは経験値の為だね」


「レベルが存在するのは私達だけ?」


 アリスさんは、運の神フォルティーナ様に質問した。


「そうだね。あたしは存在した時から存在したまま存在するね。アスピーやアルやトゥーシェは【MP】の様な物が成長するだけだね」


「【MP】の様な物???」


「そうだね。アリス。君はあたし達の事は気にせず、自分を磨く努力をするね。サラもテレーズもパフもロイクもだね」


「そ、そうですわね」



 俺は、地下への扉を探す為に9人パーティーをPTカードで正式に組んだ。


***パーティー名『大樹の友達』***


 CAP(C1):ロイク【未設定】

 SUP(S1):マルアスピー【パティシエール(菓子職人)

 SUP(S2):フォルティーナ【不明】

 SUP(S3):アル【不明】

 SUP(S4):トゥーシェ【不明】

 Mem(M1):パフ【未設定】

 Mem(M2):アリス【ハンター(狩人)】Lv.5

 Mem(M3):サラ【ノヌ(修道女)】Lv.3

 Mem(M4):テレーズ【ハンター(狩人)】Lv.3


***********************


「ロイク。この状態で経験を積んでも、個体レベルだけが上がって意味が無いね」


「そうですね」


「ロイク様。ノヌ(修道女)では戦えませんし、私はエリートマジシャン(上級魔術師)にJOBを戻した方が良いのでしょうか?」


「私もマージギルドでマジシャン(魔術師)に転職してきた方が良いでしょうか?」 


「ロイクの神授スキルで、修練度を上げたいJOBをステータスに追加するね。本職は・・・」


≪パチン


 運の神フォルティーナ様は指を鳴らした。


***指パッチンの後の情報***


 CAP(C1):ロイク【エロ―(英雄)】Lv.1

 SUP(S1):マルアスピー【パティシエール(菓子職人)

 SUP(S2):フォルティーナ【ジュウール(遊戯する者)

 SUP(S3):アル【シャントゥール(歌唱する者)

 SUP(S4):トゥーシェ【トレトール(反逆する者)

 Mem(M1):パフ【グレートマージ(大魔導士)】Lv.1

 Mem(M2):アリス【弓聖(きゅうせい)】Lv.1

 Mem(M3):サラ【サージュ(賢者)】Lv.1

 Mem(M4):テレーズ【弓聖(きゅうせい)】Lv.1


*****************


「PTカードを見てみるね」


 運の神フォルティーナ様の指示で、俺達はPTカードを見た。


「これは・・・どういう事ですの?私が、サージュ?」


「私は弓聖になってます」


「アリスさん。私もです」


「えぇえぇ~!グレートマージぃ~~~」


「たぶんだね。創造神があたし達の本職を神授したんだね」


 今、勝手に操作しましたよね?


『そうだね』


 どうして、俺は弓じゃなくて英雄なんですか?


『このPTは弓が2人も居るね』


 俺、弓が得意なんですけど・・・


『何を言ってるね。英雄とは、弓も剣も槍も盾も魔法も銃もあらゆる物が聖レベル神レベルだね』


 ふ~ん・・・それで、この状態で俺は彼女達のステータスに何を加えると良いんですか?


『今は要らないね。必要に応じて、JOBを加えていくね』


 分かりました。


「あたしと、アスピー、アル、トゥーシェは戦闘には参加しないね。支援するだけだね。5人で頑張るね」


 そして、俺達9人の扉探しが始まった。



――― 創生の地 大森林


「ロイク様。引き付けてください」


「了解!」


≪シュッ


 アリスさんは、俺に標的固定した【ヴァンアヌトン(風黄金虫)】を矢で射った。


「アリスさん。1撃では無理みたいです」


「任せてください」


≪シュッ


 テレーズさんも負けじと矢を放つ。


≪カンカンカンカン


 ヴァンアヌトン(風黄金虫)は、俺の周囲に張られた聖属性の結界に突撃を繰り返している。何度も突撃している様子から、この突撃の威力は弱いと判断出来る。


「火よ来たれ、炎よ来たれ、火焔よ来たれ、大いなる理の定めに従い全てを焼き尽くせ!(火属性上級魔術(詠唱発音しなくて良い))【インフェルノ】(Lv.10)えぇーい」


≪ゴォ―――


 パフさんが、唱え方を覚えたばかりの火属性魔術の最高位。火の渦をヴァンアヌトン(風黄金虫)に撃ち込んだ。


「パフさん。そのまま連射です」


「あっ!はい」


≪ゴォゴォゴォゴォゴォ―――


 パフさんは、神授でいただいたリアンワンドで、【MP】消費無し、無詠唱で、【インフェルノ】直前に発動させた魔術を5発連射した。俺ごと・・・


「ロイク様ぁ―――・・・・済みません!って、あれ?平気何ですか?」


ヴァンアヌトン(風黄金虫)を見た通りです。害があると判断すると、俺の周りに張られた結界が全て防いでくれるんです」


「これが、英雄の力なのですね・・・」


 サラさんは、感心しながら頷いた。


「そろそろ、これ倒して貰えませんか?」


「はい!」


 アリスさん、テレーズさん、パフさんは、元気良く返事をした。


「あのぉ~フォルティーナさん。私はやる事が無い様なのですが・・・」


「う~んだね・・・・・・ロイク。その結界解除出来ないのかね?」


「無理です。オート何ですよ」


「壁役がノーダメージだとだね。回復補助役の練習にならないね」


「と、言われても・・・サラさんの練習用に違う前衛が居た方が良いって事ですね!」


「そういう事になるね・・・ロイク。君はどうするね」


「どうするって何をですか?」


「次の花嫁だね」


「はぁ~?」


「前衛が出来る女を嫁にするね」


「何言ってるんですか!」


「サラをだね。鍛える話だね」


「サラさんを鍛えるのにどうして俺の嫁の話になるんですかぁ~!」


「ここには、ロイクの嫁か血縁の者しか入る事が出来ないからだね」


「・・・」


 そんな決まりが・・・


 運の神フォルティーナ様はニタニタとほくそ笑む。


「仕方無いね。今日は、扉を探しつつだね。個体レベルとJOBの修練度を上げるね。戦闘経験は次にするね」


「そうですね」


「分かりましたわ」


「あのぉ~ロイク様。私の魔術とアリス様とテレーズ様の弓矢の攻撃なのですが・・・」


「どうしました?」


「全く、ヴァンアヌトン(風黄金虫)に効いていない様な気が・・・」


「ちょっと待ってください」


 俺は神眼で目の前のヴァンアヌトン(風黄金虫)のステータスを正しく把握する。そして、大きな声で3人に聞こえる様に答えた。


「そうみたいです」


 因みに、運の神フォルティーナ様、マルアスピー、アルさんとは、声が小さくても良いし、意識の中ででも会話は可能だ。サラさんと会話が可能な状況にあるのは、運の神フォルティーナ様の力だ。


「フォルティーナ。サラさんと俺みたいな事を、アリスさんとテレーズさんとパフさんにも出来ませんか?」


「無理だね」


「どうしてですか?」


「何故か分からないね。サラだけは、ロイクと繋げる事が出来たね」


「え?」


「ロイク様。試したい事があります。少し開けたところまで移動していただけませんか?」


「あぁ・・・はい!それで、何を?」


「テレーズさんと、矢を連射します。私は風属性を特化させ、テレーズさんは火属性を特化してみます」


「分かりました」


 俺は、少し開けた場所へ移動した。アリスさんは風属性を付加した矢を、テレーズさんは水属性を付加した矢を連射した。


≪シュッシュッ シュッ シュッ シュッ


「ダメです。全く効いてません」


「硬過ぎて私には無理です」


 俺が目の前の状況を説明すると、テレーズさんは、今にも泣き出しそうな顔で言った。


「テレーズ。自信を失う必要は無いね」


「私、私兵隊に参加しハンター(狩人)Lv.3まで頑張って上げたんです」


「テレーズさん。騎士団でレベル5まで上げた私でこの様なのですよ。それに、相手はレベル10の上級魔術ですらほとんど効いていない様です」


「う~ん。何て説明してたら良いかなぁ~・・・」


≪カンカンカンカン


 ヴァンアヌトン(風黄金虫)は、相変わらず結界に突撃を繰り返していた。


「これなんですが、アリスさんの矢よりテレーズさんの矢の方が少しですが【HP】を削ってます。風属性の魔獣なので、アリスさんの風属性付加の矢は属性を帯びているだけで、矢を普通に射ったのと変わりません。パフさんの火属性魔術はこの中では一番【HP】を削っていますが、1発で200以下のダメージしか与えていません」


「ロイク様?パフさんの魔術で200以下のダメージなのですか?」


「そうですよ」


「私やテレーズさんが与える矢のダメージは幾つなのでしょうか?」


「落ち込まないでくださいよ。アリスさんは2~5で、テレーズさんは4~8って感じです」


「あ、あのぉ~・・・この魔獣の、【HP】は?」


 パフさんは、恐る恐る俺に質問した。


「最大値が58万6400らしいです。パフさんの魔術のダメージが200だとして、ざっと2932発で倒せます。【MP】を消費しない戦闘でならそのうち倒せると思いますが・・・」



 その後、30(ラフン)、結界の中の俺と、見ているだけのサラさんと、矢を必死に射るアリスさんとテレーズさんと、魔術を連射するパフさんは、ヴァンアヌトン(風黄金虫)と戦い続けた。


「フォルティーナこれどうするんですか?何か集まって来て6匹になったんですけどぉ~・・・」


「殲滅速度が追い付いて無いね」


「殲滅って・・・まだ1匹も倒せてない状態で、6匹集まってる時点で無理ありませんか?」


「早過ぎたかね?」


「レベル302の魔獣を、レベル9のアリスさん、レベル3のパフさん、レベル11のサラさん、レベル4のテレーズさん。しかも一番高いサラさんは見守ってる状態だし・・・」


「あぁ~だね・・・」


「ねぇロイク」


「はい、なんですか?」


「私、思ったのだけれど、一度その6匹を仕留めてしまって、4人のレベルを上げてしまってから、5人で戦った方が良くありませんか?」


「・・・フォルティーナ!戦闘経験は別にレベルが上がった後でも問題ないですよね?」


「そうなるね。一度、ロイクが倒してしまって、改めて挑んだ方が早いね」


「・・・」


 この人は・・・いや、この神は・・・


「パフさん、アリスさん、テレーズさん、サラさん」


「はい」(4人)


「この6匹は俺が倒しちゃいます。経験値は6匹分をそれぞれが9人分取得するはずなので、個体レベルを上げてしまってから、再度挑みましょう」


「はい」(4人)


 魔法【アグニ】☆1☆1 ≫


 俺の周りの火焔の大渦が出現し魔獣6匹を飲み込む。火は5(カウン)程燃え続け消えた。そして、6匹は焼け焦げたあと1つ無く地面に転がっていた。


「ロイク様!今何を?」


「えっと・・・」


 詠唱するの忘れてた!


「アグニをちょっと・・・」


「今のがアグニなんですか?」


「そうですけど」

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