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このKissは、嵐の予感。(仮)   作者: 諏訪弘
-モルングレー編ー
62/1227

1-49 解呪と、邪属性の指輪を持つ者。

宜しくお願いします。

――― 王都モルングレー

王宮 謁見の間

――― 6月10日 16:00


「イヴァン国王。英雄誕生の儀を執り行う為。謁見の儀に参列して正解だった様ですな。危うく稀代の英雄殿と大樹の恵みの利権(りけ・)・・・管理で無意味に争う事になるところでしたよ」


「えっと・・・大司教様。大樹の森全体ではありませんが、ヒグマの丘や東モルングレー山脈やルーリン湖に面した大樹の森の領域境界付近やコルト湖周辺を領土としていただきましたが、それは問題ないんですか?」


「人が簡単に立ち入れない場所や、禁断の丘(・・・・)いやヒグマの丘いやコルトの丘だったかな。まぁ~何でも良い。それくらい教会としても英雄殿に喜んで権利を譲ろう」


 何で全体はダメだけど、さっき貰った所は良いんだろう?


『大樹の森が後退して集落が出来た土地が関係しているのかしらね』


 え?


信仰(ファオ)の集落、大地石(ソル)の集落、火山(ヴァルカン)の集落があった場所は、元々大樹の森の領域内だった場所よ』


 そうだったんですか!初耳ですよ。


『信仰の集落の辺りが大樹の森の領域内だったのは私の先々代の時代です』


 あぁ~・・・人間は知らないレベルの話ですね。


『・・・私も聞いた話です』


 ・・・あぁ~、それは良いんですけど・・・この教会の人、神眼でも確認出来ない部分があるんですが、精霊眼だとどうですか?


『ん?・・・・・・あら、名前と年齢。ステータス値やスキルが【UNKNOWN】だなんて変ね』


 何者だと思いますか?


『そうね。本人曰くで良いなら、大司教クレメンス・オデスカルね』


 ・・・そうですね・・・


「イヴァン国王。英雄の存在を利用するのは構いませんが、英雄は世界中に生きる人間の希望であり畏敬の対象なのです。それゆえに古来より英雄の誕生と英雄の終焉を見届けるのは世界創造神創生教会(そうせいきょうかい)なのです。英雄の力を政治や戦争に使わせない為にも世界創造神創生教会(そうせいきょうかい)が必要なのです」


「古来だと。前ゼルフォーラ時代に世界創造神創生教会(そうせいきょうかい)があったという記録は何処にも無いが、何を根拠に定かでは無い話をしているのかな?」


「今、その様な議論をした所で、参列者の者が納得する事は無いでしょう。謁見の儀が中途半端なままで申し訳無いと心からお詫び致します。ですが、イヴァン国王同様に私も忙しい身でして、英雄誕生の儀を済ませたら、ヴァルオリティア帝国の帝都ガルガンダの聖ガルガンダ大聖堂に赴く事になってましてね。そういう事ですので、英雄殿!英雄誕生の儀をこのまま執り行います」


「大司教殿。勝手に式を進行されては困ります」


「宰相殿。私は申しましたはず。忙しい身なのです。謁見の儀は、英雄誕生の儀が終わってからまた続きをどうぞ」


「ク・・・」


 パトリック・ミィストゥリィー宰相は、何かを言い掛けたが、飲み込んだ様だ。 


「まぁ良い。クレメンス・オデスカル大司教。英雄誕生の儀を始めると良い。ただし世も立ち会うがな」


「誰が立ち会おうと自由です。英雄は世界中の人間の希望であり畏敬の対象なのですから。それでは、これより、英雄誕生の儀を執り行う。本来ならば私は上段にて祭壇より語る存在だが、今日は稀代の英雄殿に敬意を表し同じ高さで行う」


 ・・・やっぱり見えないですね。


『えぇ・・・人間種に間違い無い様ですが』


「英雄よ・・・英雄よ!」


「あ、はい。済みません」


 集中してないと、さっきまでの進行と比べると早いから何をやってるのか分からなくなりそうです。


『ふ~ん。この儀式は面白くなるのかしらね』


 無理でしょうね・・・


「君は、英雄バイル・シャレットの息子だそうだね」


「そうですが」


「彼は儀式の途中で抜け出し行方をくらませた。英雄誕生の儀を完了していない世界でも珍しい英雄でね。高い戦闘力を持った英雄ではなかった事もあり儀式はそこまでになったのだが、息災ですかな?」


 親父、何やってんだよ・・・


「健康だけが取り得ですね」


「そうですか。何かあった時は教会に相談すると良い。英雄と教会は共にある存在なのです」


 何かって、親父に何かあって教会に相談したところで何か出来ると思えないけど・・・


『ダジャレですか?』


 普通の会話です。


「それでは、瞼を閉じ身体の力を抜きなさい」


 俺は、瞼を閉じる。


≪カッカッカッカ


 マルアスピーこれって、何の音ですか?


『う~ん。クレメンス・オデスカルという人間種が、ロイクに何かしようとして聖属性の結界に弾かれてる音かしらね。でも、大丈夫よ人間種には聞こえないし弾かれた際の光も見えないから』


 そうですか・・・


『えぇ』


「これはいったい・・・英雄よ何か魔術を阻害する物を所持していないかね?」


 クレメンス・オデスカル大司教が俺に話掛ける。


「装飾品は普段から付けませんし、今日はファルダガパオも持っていませんが、どうかしましたか?」


「いや、気にしないでくれ・・・ブツブツブツブツ ジャゾクセイジョウキュウマジュツ【サブミッション(Submission)】≫」


『ロイク。この人間種は、自然魔素(まりょく)邪属性の指輪を付け、邪属性の魔術を使っているみたいですよ』


 えぇ、俺にも詠唱が微かに聞こえました。直接受けていないので、【パーフェクトコピー】出来ませんが・・・


『状態異常や呪いの類の魔術とは異なる様ですね』


 結界に弾かれているって事は、無作為ではなく明確な悪意や敵意を俺に向けてるって事なんですが、俺、恨まれる様な事をした覚えが無いです。


「ブツブツブツブツ」



『ロイク。聞こえるかね?』


 うん?運の神様!どうしたんですか?


『フォルティーナだね』


 あ、はい。フォルティーナどうしたんですか?


『どうしたかって言いたいのはこっちだね。君は邪の神の神気を纏った何者かと同じ空間に居るね』


 はぁ~?今、王宮で謁見の儀と英雄誕生の儀の真っ最中なんですけど・・・


『魔界の悪魔域魍魎域の種属魔族や魍魎の検索は出来る状態のままだったね?』


 はい。


『タブレットで、検索するね』


『フォルティーナ。神眼でも精霊眼でも視認出来ない人間種が居ました』


『・・・検索するまでも無く確定ではないかね。精霊眼で視認出来ない存在は神格を持った存在かその眷属』


 邪の神様の眷属が俺に敵意を持って接しているって事ですか?


『邪の神の神気を纏っているからと言って邪の神が関わっているとは限らないね』


 どういう事ですか?


『サイコロに宿る神気は、運の神の神気だね』


 それって、フォルティーナの神気って事ですよね?


『だが、あたしは関わっていないね』


 なるほど・・・


≪ カッ!


≪オォ~~~


 参列者達が声を上げる。


『ロイク。貴方の結界に、人間種の魔術が当たって弾かれて、発光したわよ』


 今の『カッ』って音は、何かを弾いた音って事ですか?


『えぇ』


「どういう事だ・・・お前は」


≪ガツ


 俺を掴もうとしたクレメンス・オデスカル大司教の手が弾かれた。


「ん?瞼を開けても良いですか?」


『ロイクに触れようとして弾かれただけよ』


 だけって、触ろうとして弾かれるって、よっぽどですよ。


『でも、弾かれたわ』


 俺は瞼を開けた。


「英雄誕生の儀は終わったのかね?」


 イヴァン・ルーリン国王陛下は、クレメンス・オデスカル大司教に訊ねた。


「まだだ」


「大司教殿。先程から、何をされておらるのですか?」


 パトリック・ミィストゥリィー宰相は、ブツブツと怪しい詠唱を繰り返すクレメンス・オデスカル大司教に問いかけた。


「儀式の邪魔をしないでいただきたい」


 クレメンス・オデスカル大司教は、強い口調で言い張った。


「さっきから、邪属性の魔術を使っている様ですが、その魔術はどんな物なんですか?」


「邪属性・・・何を訳の分からない事を、英雄誕生の儀にその様な魔術を・・・」


「俺って、聖属性の心得がレベル10で、聖属性魔術耐性特化もレベル10なんですよ。属性の相関関係で邪属性は倍じゃないと効果が無いって事になるんですが、邪属性の魔術じゃないなら良かったです」


『どうして、わざわざ教えるの?』


『出方を待つ気だね!』


 そうです。


「・・・・・・聖騎士(サンサー)エイブラハム・ラモス」


「はっ!」


「儀式に必要な魔術の貫通力を高めたい。君のスキル【ギャルドスルー】を、私が魔術を発動する前にあいつに使え。良いな」


 あれ?あっちのヒソヒソ話が聞こえてるんですが・・・


『私だね。ロイクの傍に居る人間達の会話を全て聞こえる様に拾ったね』


 ・・・そうなんですね。


『ロイク。来るわ』


「ブツブツブツブツブツブツブツムゾクセイマジュツ【ギャルドスルー】≫」


「ブツブツブツブツブツブツブツブツブツジャゾクセイジョウキュウマジュツ【サブミッション(Submission)】≫」


≪カカカカカ


 あれ?騎士の方のギャルドスルーってスキルをコピーしたみたいです。


『悪意が無い感情と、スキルがロイクにとって害ではない物だからだね』


 と、言いますと?


『つまりだね。その魔術が属性の耐性を下げる魔術なら弾かれたね』


 だと思います。


『だがだね。その魔術は魔術を受けた者が次に魔術を受けた時に受ける影響が高くなる魔術の様だね。魔術には支援や補助が存在するね』


 あぁ~・・・このギャルドスルー自体は無害ってそういう事ですか。


『ねぇロイク。聖騎士(サンサー)エイブラハム・ラモスという人間種のステータスを覗いてみて』


 は、はい・・・へぇ~珍しいですね。樹人族・・・エルフ族の人か!


『ロイク。聖属性の拘束魔法で邪属性の魔術を使う者を拘束してみるね』


 大司教様をですか?


『そうだね。神が許すね』


 ・・・分かりました。聖属性下級魔法【テルールパンセ】☆1☆1 発動 ≫


 クレメンス・オデスカル大司教の右手の人差し指に付けた指輪は、黒紅色の光を放つと水が蒸発する様に消えた。



「大司教。今のは邪属性の光?いったいどういう事なのでしょうか?」


「・・・・・・」


 クレメンス・オデスカル大司教は答えない。


「大樹の英雄殿よ。今の禍々しい光は邪属性のものだった。世の見間違いだろうか・・・」


「猊下!どうなされたのですか?」


 聖騎士(サンサー)エイブラハム・ラモスの呼びかけに、クレメンス・オデスカル大司教は答えない。


「はい、今の光は邪属性を帯びた武具装飾品の指輪が、俺の聖属性に干渉しようとして消滅した時に発した物です」


世界創造神創生教会(そうせいきょうかい)が邪属性の武具を装備し邪属性の魔術を行使したのか・・・どういう事なのですか大司教殿」


「・・・・・・」


 クレメンス・オデスカル大司教は答えない。


「猊下?」


「・・・・・・」


 クレメンス・オデスカル大司教は、聖騎士(サンサー)エイブラハム・ラモスの呼びかけにも当然答えない。


聖騎士(サンサー)ゲイソン・コリンズ。猊下の様子がおかしいぞ。状態を確認してくれ」


聖騎士(サンサー)エイブラハム・ラモス。了解した」


 クレメンス・オデスカル大司教の後方に控えているもう1人の騎士は、大司教の正面に移動した。そして、金属製の両手のグローブを外すと、大司教の左右のこめかみに人差し指と中指を二本ずつ当て、魔術を唱えた。


「真実を照らし出せ。蝕むその名を応えよ。無属性魔術【イヴァリュエイション(Évaluation)エタ(état)】≫」



 状態だけを限定して認識する魔術がある様だ。


聖騎士(サンサー)エイブラハム・ラモス。猊下に異常は見られない」


「英雄誕生の儀は終わったのかね?」


 イヴァン・ルーリン国王陛下が改めて問い掛けた。


「イヴァン国王陛下。オデスカル大司教の様子がおかしいのです」


 聖騎士(サンサー)エイブラハム・ラモスは事態の異常を訴えた。


「帝国へ行くと言っていたな。忙しいのではないのか?」


≪ハハハハハハ


 参列者達が、イヴァン・ルーリン国王陛下の言葉に反応し笑い出した。


『プッ』


『アスピーどうしたんだね?』


『普段は協調性を見せない人間種達が、笑ったり賛美したり沈黙したり一斉に同じ行動を取るのです。見ていて余りにも滑稽で』


『権威や体制。人間種独特の大衆心理という物だね』


「大樹の英雄殿よ」


「なんでしょう?」


 イヴァン・ルーリン国王陛下が、俺を呼ぶと謁見の間はまた静寂に包まれる。


「何とかならんかね?」


『拘束から解除した後、気を失わせると良いね』


 気絶させてどうするんですか?


『2~3日眠りに落ちる事も気を失ったと道義だね。眠っている間に正体を見定めるね』


 この人の正体は俺も気になります。聖属性の睡眠なら状態異常反応しないんですよね?


『ロイク。君のはあたし達と同じ神気による魔法だからね』


「分かりました。邪属性の魔術を発動させた事で、聖騎士(サンサー)ゲイソン・コリンズの感知の魔術にも反応しない異常状態に陥ったのだと思います。聖属性の状態異常回復を試してみます」


「おぉゼルフォーラの英雄殿よ。猊下をお助けください」


「瞼を開けたまま身体を硬直させ反応しない等凡そ呪いの類。猊下がどうして呪いの指輪を装備していたのか確認する必要もあります」


 聖騎士(サンサー)ゲイソン・コリンズは、俺に頭を軽く下げる。そして、聖騎士(サンサー)エイブラハム・ラモスは呪いの可能性があると言及した。


 俺の拘束の魔法だとは口が裂けても言えないな。詠唱してないしばれても俺を知ってる仲間だけだ。


 俺は、クレメンス・オデスカル大司教に近付く。


『どこに行くの?』

 

 無詠唱で何かするのも変だし、離れた場所で何かするのもおかしいので、拘束を解除と同時にベネディクシヨンの振りをしてドリーマー(dreamer)を大司教に施します。


「クレメンス・オデスカル大司教に触れますが、英雄誕生の儀の時は人に触れてはいけないとかありませんよね?」


「儀式よりも猊下の御身の方が大切だ構わん」


 聖騎士(サンサー)ゲイソン・コリンズは、俺に大司教の正面を譲る。俺は、大司教に施した拘束の聖属性を左手の掌で集積する。それと同時に右手を大司教の額に当てわざとらしい詠唱を唱えた。


「全てを祓、邪を祓、世界創造神様よこの者に聖なる導きを与えよ。聖属性下級魔術【ベネディクシヨン】レベル(修練)4 ≫」


『何それ』


 良いんですよ。何でもハハハ。さて、聖属性下級魔法【ドリーマー(dreamer)】☆1☆1 ≫


 クレメンス・オデスカル大司教の身体が黄金色の強い光に包まれると、硬直していた身体が脱力し大司教は崩れ落ちそうになる。聖騎士(サンサー)ゲイソン・コリンズはそれを前から支えると、口に手を当て確認した。


「大丈夫だ。眠っておられるだけの様です。ゼルフォーラの英雄殿よ感謝致します」


「いえ。俺は何も・・・」


 拘束のしたの俺だし・・・


『眠らせたのもね・・・』


『ロイク。正体を見定めるのを忘れてはいけないね』


 そうでした。


「イヴァン・ルーリン国王陛下。クレメンス・オデスカル大司教の身に起きた事は邪属性による呪いの線が濃厚です。俺は呪いには少しばかり詳しい方ですし、後ほど容態を改めて確認し安心して教会へお帰りになっていただこうと考えます。それに目覚めるまでは安静にしていた方が良いとも考えます。王宮の医務室もしくは一室をクレメンス・オデスカル大司教へ準備していただけないでしょうか?パトリック・ミィストゥリィー宰相可能でしょうか?」


「陛下!王宮内の教会に大司教殿を預けてはどうでしょうか?」


「そうだな。大樹の英雄よ。それで良いか?」


「ありがとうございます」


「イヴァン国王陛下、宰相閣下、ゼルフォーラの英雄殿。感謝致します」


 聖騎士(サンサー)エイブラハム・ラモスは、家臣では無いが臣下の礼をとった。


「我々は急ぎ大聖堂へ戻り、猊下が疲労により御倒れになられ、王宮の教会で静養なされていると報告して参ります」


「うむ」


「医務官を呼べ」


 パトリック・ミィストゥリィー宰相は、少し楽しそうに医務官を呼んだ。



≪ガヤガヤ ガヤガヤ


 謁見の間は騒めいていた。


「恙無く......


 イヴァン・ルーリン国王陛下が語り始めると、謁見の間は先程までの騒ぎが嘘の様に静まり返った。


......英雄誕生の儀が完了しゼルフォーラの地に、このゼルフォーラ王国(・・・・・・・・・・)に名実ともに英雄が誕生した。改めて謁見の儀を執り行う。パトリック!」


「はい。陛下!・・・陛下の御前である。パマリ侯爵殿、パマリ伯爵殿、アリス殿。定位置へ・・・」


「良い。パマリ家のアリスは、大樹の英雄殿の妻となる身。その父、その祖父は英雄殿の身内という事だ」


「へ、陛下・・・」


 パトリック・ミィストゥリィー宰相は、言葉を必死に探している様だ。


「さて、討伐に対する恩賞と報酬の授与を続けるとする。次は、フライングドラゴン(飛竜)19匹。世には想像する事が、出来ぬ・・・・・・ドラゴン()が19匹だ。語るまでも無いが、この様な記録が世界に存在する訳が無い。大樹の英雄殿によりドラゴン()の討伐が成功するまで、人類史にドラゴン()討伐の記録は無かったのだからな。大樹の英雄殿は、僅か12日の間にドラゴン()を23匹、ドラゴンの卵20個の討伐に成功している。大前(大ゼルフォーラ王国の事)502代。ゼルフォーラ王国228代国王イヴァン・ルーリンは、近衛騎士団副団長大樹の英雄ロイク・ルーリン・シャレット公爵に、天爵位を叙勲する。この天爵位は大樹の英雄殿一代限りとし以降は公爵位を継承する物とする。また報酬として、550億NL(ネール)を与える。また、改めて宣言する。大樹の森全域を大樹の英雄ロイク・ルーリン・シャレット天爵に領土して与える」


≪オォ~~~ イヴァン・ルーリン国王陛下。イヴァン・ルーリン国王陛下。イヴァン・ルーリン国王陛下。


「へ、陛下・・・な、な、何を、天爵位は王家の者のみが・・・」


 イヴァン・ルーリン国王陛下は、右手を上げパトリック・ミィストゥリィー宰相を制止した。参列者もまた国王の右手に反応し静まり返る。


「はて?パトリックは知らんのか?大樹の英雄ロイク・ルーリン・シャレットは、王家の名簿に外戚ではあるが立派に名を連ねる者ぞ」


「陛下!サラ王女殿下との婚姻が決まったからと言って、それだけで臣下臣民がゼルフォーラ王国の王家の一員と言う訳にはまいません」


「何を申しておる」


「ですから・・・」


 イヴァン・ルーリン国王陛下は、右手を上げパトリック・ミィストゥリィー宰相を制止した。


「叔父上の一族からサラが降嫁するのはサラの希望だ。彼は生まれた時からルーリン家の血が流れるルーリン家の者」


「な、何を・・・」


「ロイク君・・・」


「ロイク様が?」


「英雄殿・・・」 


 パトリック・ミィストゥリィー宰相、ジェルマン・パマリ(新)伯爵、アリスさん、ステファン・パマリ侯爵は、豆鉄砲を食った鳩の様に目を見開き、一様に大きな瞬きをしていた。


「大樹の英雄ロイク・ルーリン・シャレットは、我が兄エンゾ・ルーリンの娘メアリー・ルーリンと英雄バイル・シャレットの息子だ」


「陛下!メアリー王女様は25年前に薨去(こうきょ)なされたはず・・・まさか!」


「兄上が聞いたら喜ぶであろうな。ハッハッハッハ」


 何?母さんが王女様みたいな流れ何ですけど・・・


『ロイク。貴方気付いて無かったのね』


 何にですか?


『メアリーママさんの名前よ。ステータスには旧姓メアリー・ルーリンって』


 母さんの結婚前の苗字ですよね・・・


『そうね』


 ルーリンだ・・・


「イヴァン・ルーリン国王陛下。俺の両親って・・・」


「気になるか?」


「はぁ~・・・流石に親の事なので・・・」


「後程、話て聞かせよう」


「ありがとうございます・・・」


「パトリック。気付かなかったか?」


「何をでありましょうか?」


「大樹の英雄殿が謁見の間で世の前に立った時、直ぐに気付いたぞ義姉上(あねうえ)イネス殿。姪のメアリーに面影が似ているとな」


「申し訳ございません。私は、イネス様にもメアリー王女様にも余り御会いした事が御座いませんでしたので・・・」


「そうか。世だけが知っていた訳か。ハッハッハッハ。愉快愉快。世が名の回帰(・・)を命じた時に察しの良い者なら気付くと思ったのだがな。ハッハッハッハ」


≪ガヤガヤ ガヤガヤ



「さて」


 イヴァン・ルーリン国王陛下は、右手を上げる。謁見の間は静まり返る。


「これが、今日の最後だ。次の討伐に対する恩賞と報酬を授与する。オンソンルバルス(高山闇爪大魔熊)8匹。大前(大ゼルフォーラ王国の事)502代。ゼルフォーラ王国228代国王イヴァン・ルーリンは、近衛騎士団副団長大樹の英雄ロイク・ルーリン・シャレット天爵に、ゼルフォーラ王国大樹の副王の名を贈る。今より近衛騎士団副団長大樹の英雄ロイク・ルーリン・シャレット天爵は、正式名を【ゼルフォーラ王国・大樹の副王・近衛騎士団・副団長・兼・王宮近衛隊・隊長・大樹の英雄・ロイク・ルーリン・シャレット・天爵】長い名前は緊急時にはとても困る故、皆が世を国王陛下と呼ぶ様に、副王陛下と呼ぶと良い」


≪はぁっ!


≪畏まりました。


≪イヴァン・ルーリン国王陛下ぁ~! イヴァン・ルーリン国王陛下ぁ~! イヴァン・ルーリン国王陛下ぁ~! ロイク・ルーリン・シャレット副王陛下! ゼルフォーラ王国万歳


『良かったわね』


 何がですか?


『公爵にはなりたくなかったのでしょう』


 そ、そうですね。・・・もう諦めました。


『抗う事も大切よ。でも、人間諦めも肝心よ』


 何処でそれを?


『フォルティーナが教えてくれたわ』


 そうなんですね・・・


 イヴァン・ルーリン国王陛下は、右手を上げる。謁見の間は静まり返る。


「それとだ、既に多額の報酬を受け取っている訳だが、法が定めに従い報酬として18億NL(ネール)を与える。これで、本日までの討伐は以上かな?」


「はい、陛下。御裁量御見事でございました」


 パトリック・ミィストゥリィー宰相は、臣下の礼をとった。参列者がそれに合わせ一斉に臣下の礼をとる。俺も、マルアスピーもそれを真似し礼をした。



「引き続き、解呪の儀を執り行う。ロイク・ルーリン・シャレット副王陛下の聖属性魔術による邪属性の呪いの解呪を先立って目の当たりしました。本日は、副王陛下直々の申し出により国王陛下立会の下、レイモンド・マーガレット辺境伯爵の第一夫人ヴィオラ・マーガレット殿、娘パオラ殿、息子ナトン殿を蝕む呪いを解呪する。この呪いは、111年前に世界規模で起こったと言われるマジックスポット(魔力活性地)の魔力の暴走を抑える為、身を犠牲にし依り代となった者達がいたそうです。その者達は、大地石(ソル)の民と呼ばれ、その大地石(ソル)の民の中でも一際人望を集め中心的な役割を果たしていた祠の守り人(ピンイン)と呼ばれる一族だったそうです。彼等の貢献により現在のロイの近くにあったとされるマジックスポット(魔力活性地)の魔力の暴走は収まりました。ですが、依り代となった祠の守り人(ピンイン)達を悲劇が襲いました。継承の呪いと呼ばれる呪いです。親から子へ呪いが受け継がれるこの呪いは、子が生まれると男女共に呪いが発動し徐々に生命力を奪い死に至らしめる恐ろしい呪いです。そして、この呪いには更に恐ろしい仕掛けが施されていたのです」


 パトリック・ミィストゥリィー宰相は呪いの説明をしている。


 物は良い様ですね。


『フフフッ』


「この呪いの解呪を試みた者を解呪返しの呪詛により、石化させてしまう石化の呪いが、継承の呪いの中に組み込まれていたのです。依り代となり地域を救った祠の守り人(ピンイン)の方々の血を受け継いでおられるのが、ヴィオラ殿、パオラ殿、ナトン殿だ。そして、既に副王陛下によって呪より開放された者が他に3名います。1人は南方の海洋王国ララコバイアのジェリスに住む女性。1人はパマリ侯爵領コルトの衛星集落に住む王民。もう1人は副王陛下の使用人で先程のコルトの衛星集落に住む王民の娘です。ここに至るまでには悲しい歴史が数多くありました」


「うむ。パトリックの申した通りだ。世は、この祠の守り人(ピンイン)の一族の為に、大地石(ソル)の集落にあると言う祠に、依り代となりその身を犠牲にした者達の名を刻み正しい歴史を後世に残したいと思う。だがまずは、レイモンドの妻と子供達。そして石化した者達の呪いを解呪する」


≪オォ~~~ イヴァン・ルーリン国王陛下。イヴァン・ルーリン国王陛下。イヴァン・ルーリン国王陛下。


『フフフッ・・・良かった。まだ続くみたいね』


 ・・・そんなに面白いですか?


『えぇ。プププ』


 イヴァン・ルーリン国王陛下は、右手を上げる。謁見の間は静まり返る。


「レイモンド・マーガレット辺境伯爵は前へ」


「はい」


 レイモンド・マーガレット辺境伯爵様は、3歩前へ出ると臣下の礼をとり、その後、騎士としての臣下の礼をとり姿勢を礼のまま固定させた。


「ヴィオラ・マーガレット、パオラ・マーガレット、ナトン・マーガレットは陛下の御前へ」


「はぁっ!」



 車椅子に腰掛けた女性は、白衣に身を包んだ医務官に丁寧に優しく車椅子を押して貰い陛下の間でまでやって来た。まだ47歳という若さにも関わらず生気をほとんど感じられず、痩せこけ衰弱したその身体は支える者が居なければ、折れてしまうのではないかと思える程だ。車椅子の後ろを健康その物の男女が歩いていた。この呪いは、子を生む前であれば無害。この呪いの恐ろしさを理解するには十分な光景だ。


 最初に、口を切ったのは、レイモンド・マーガレット辺境伯爵様だ。


「国王陛下。この度は、マーガレット家の為に御尽力いただき誠にありがとうございます。また、副王陛下・・・大樹の英雄殿。大地石(ソル)の継承の呪いの真実を明らかにし、その子孫を探し出し我が妻や子供達を蝕む呪いの解呪を申し出ていただきました事、心より感謝致します」


「俺の使用人がこの呪いを継承していなかったら、この呪いの存在にすら気付けなかった可能性がります。助かる運命だったと考えて気楽に行きましょう」


「ハッハッハッハ。助かる事が運命か!その言葉気に入った。世も何処かで遣ってみたいものだ」


≪ハハハハハハ


 張り詰めていた空気が、イヴァン・ルーリン国王陛下の一言で一気に和らいだ。


「イヴァン・ルーリン国王陛下。レイモンド・マーガレット辺境伯爵様。奥様の呪いを解呪します。強い光が出ますが、皆さんの身体に害がある物ではありません」


 レイモンド・マーガレット辺境伯爵様は頷いた。


「それでは・・・」


 【オペレーション】発動 ≫


 ヴィオラ夫人の呪いを・・・!・・・継承4分の5か。リディアさんと同じみたいだしストックする必要は無いか。切り取るだけなら【loschen(レッシェン)】≫


 俺は、呪いを切り捨てた。


 さてと、何もしていないと思われのも困るから、夫人の治癒治療を派手に・・・


「聖属性下級魔術【ベネディクシヨン】レベル(修練度)4 発動≫」


 こっちの魔法を試し見たかったし調度良いか、聖属性中級魔法【notre(ノートル)dame(ダム)】☆1☆1発動 ≫ 


 ヴィオラ・マーガレット辺境伯爵夫人の身体が、柔らかな金色と白色の光に包まれた。


≪おぉ~


 謁見の間が騒めく。 

 

「聖属性の輝きは何度見ても素晴らしい物だな」


 イヴァン・ルーリン国王陛下は子供の様に好奇心に満ち楽しそうな表情で聖属性の輝きを見つめていた。


「はい。陛下。先程も解呪を目の当たりにしましたが、聖属性の魔晶石による治癒や治療とは次元が全く違います・・・これがサンサージュ(聖属性の賢者)と呼ばれる者の力。英雄の御力なのですね・・・」


「パトリックよ少し違うぞ。我が甥大樹の英雄は、地・水・火・風・聖・邪・光・闇・無。全ての属性を扱える英雄であり賢者。つまり、ヌフサンサージュ(全属性の賢者)だ」


ヌフサンサージュ(全属性の賢者)・・・これが大樹の英雄殿の1つ力なのですね・・・」


 レイモンド・マーガレット辺境伯爵様は、目の前の光景に驚きながらも、夫人から視線を逸らす事は無かった。


 金色と白色の輝きがおさまると、ヴィオラ・マーガレット辺境伯爵夫人は先程とは別人の様に覇気に溢れた状態で車椅子に座っていた。


「御母様」


「母上」


「ヴィオラ!身体は・・・?」


「背中に羽が生えた様に身体が軽いです。苦しさも何もありません」


 長女パオラ・マーガレットが涙を流しながら抱き着くと、長男ナトン・マーガレットは列席者達の存在を忘れ涙を流しながら立っていた。


「さてと、感動の場面に水を差す様で申し訳ありません。ですが、パオラ・マーガレット様と、ナトン・マーガレット様の解呪がまだです。同じ呪いですがまだ発症していないだけです。解呪しておきますよね?」


「お願いします。副王陛下」


 長女パオラ・マーガレットは深々とお辞儀をした。


「お、俺もお願いします・・・」


 長男ナトン・マーガレットだ。


≪ゴツ


「馬鹿者、大樹の英雄殿。副王陛下に何だその挨拶は」


 レイモンド・マーガレット辺境伯爵様に、叩かれナトン・マーガレットは、もう一度俺に願い出た。


「お願いします」


 次は、深々と頭を下げた。


「それでは・・・」



 その後、石化した解呪士達71人の石化の呪いを解呪した俺は、沢山の感謝の言葉と気持ちと、驚きと戸惑いの感情を受け止めながら、謁見の間を後にした。

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