1-48 領地と爵位、式の日取りと婚約者。
宜しくお願いします。
――― 王都モルングレー
王宮 謁見の間
――― 6月10日 15:10
「R4075年5月21日(無)夜半。アンカー男爵領マルアスピー領内にて、王国討伐令対象魔獣【オプスキュリテ】16匹」
これって、邪狼獣のセリューさんやロージャンさん達が仕留めたのまで、含まれてるみたいです。
『・・・魔晶石や素材もタブレットに回収されているのよね?』
はい、最近は食肉まで素材に増えてます。
『一手間加えた物を食べる喜びを知ってしまったのよ。聖邪獣は賢い存在です』
ハハハ・・・
実際、邪狼獣の皆が本能に従い狩りをし丸呑みしない様になってから、タブレットには魔晶石や素材が急激な勢いで増えている。働かなくても余裕で家族を養っていける程だ。
『謁見の儀というパーティーは、あそこに座っている人間種を人間種皆で見上げる事なのでしょうか?』
パーティーは、謁見の儀。家臣救済の儀。石化解呪の儀。英雄誕生の儀。恩賞授与式。王宮会(パーティー開始前の顔合わせ)の後だって近衛騎士の人が言ってたじゃないですか。
『面白く無い事が続くわね・・・退屈な話を聞く為に着飾り食事を抜くなんて意味が分からないわ』
・・・食事を抜くって、マルアスピー貴方は確り食べてましたよ。いつもの半分位だったのは確かだったけど。
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今、俺とマルアスピーは、謁見の間の玉座の正面に立っている。
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――― 少し前
俺は、マルアスピー、パフ・レイジィー、ジェルマン・パマリ子爵様、マリア・パマリさん、アリス・パマリさん、子爵家に仕える女性の召使3人とで、子爵家の中型馬車で王宮に入った。
謁見の儀が開始される正午まで、待機している様にと、俺とマルアスピー、パフさん、アリスさんが通された広く立派な部屋には、マルアスピーを苦しめる物が置いて在った。
「あれは何というデザートかしら?」
「マルアスピーさん。あれは、ワッフルですよ」
「美味しそうね」
「クレープやパンケーキの様に果物やクリームやアイスクリームやチョコレートやハチミツやメープルシロップと一緒に楽しむデザートです。意外にボリュームがありますのでクレープの様に沢山は食べられないかもしれません」
「そうなのね・・・」
気合いと根性で誘惑に打ち勝ったマルアスピーは、菓子を『後で食べるから、タブレットの中に収納しておいて』と、俺にレソンネで伝えて来た。とっても怖い瞳で俺を睨み付けながら。
俺は素直に従いました。
≪トントン
「ロイク・シャレット様。マルアスピー・シャレット様。陽が2つ重なりましたので、謁見の儀を執り行います。謁見の間まで御案内致します」
≪ガチャ
黄金で作られたドアノブがゆっくりと下へ動き、白くて重そうな観音開きのドアが左右同時に大きく開かれ、シルヴァーのプレートアーマーに鮮やかなスカイブリーのマントを羽織り武器未装備の近衛騎士3名が部屋に入って来て、胸の前に右手を当て敬礼の姿勢をとった。
「我々は近衛騎士団所属パレスシュヴァリエのロワチュテレールです」
礼の姿勢のまま中央に立った1名が大きな声で身分を名乗った。
近衛騎士団は、国王陛下が団長の王家王族の守護を目的に組織された騎士団で、ゼルフォーラ王国の騎士団の中で最高位だ。
「これより、ロイク・シャレット様とマルアスピー・シャレット様を国王謁見の間へお連れ致します。入城の際、武器認証をクリアされたと存じます。ですが、改めて確認させていただきます」
俺から見て右側に立つ騎士が左手の親指と小指を俺に開いた状態で向けた。
「失礼致します。無属性魔術【セキュリティゲート】対象:武具武器」
おお、無属性の魔術をまた1つ手に入れました。
『フフフッ。ロイクには不要なスキルね』
神授スキル【神眼】で自動で確認出来てしまうからだ。
そうですね。
「奥様も、失礼致します」
騎士は、マルアスピーに左手を向けた。
「ファルダガパオの反応もありませんでしたが」
「王都到着がルート4の騒動で遅れてしまい正装の準備は出来たのですが、細部調整までする時間が無かったのです」
アリスさんが、騎士と話す。
「そうでしたか、災難でしたね。隊長、クリアです」
「うむ。それでは、謁見の間・・・そうでした、王妃様より御預りして参りました」
中央に立つ騎士は、魔導具【ファルダガパオ】になっている腰に装備した厚手の袋から、レターボックスを2つ取り出すと、俺達が腰掛けるソファーの前に設置されたテーブルの上に置いた。
「これは?」
目の前に置かれたパフさんが質問した。
「アリス・パマリ殿と、パフ・レイジィー殿へ王妃アリス・ルーリン様より御預り致しました招待状と手紙が入っております」
「招待状ですか?」
「お確かめください」
二人は、ボックスを開け、中に収められた手紙と招待状を確認した。
「ありがとうございます」
「王妃様へ御心遣いに感謝申し上げます。と、お伝えください」
パフさんとアリスさんは騎士に礼を伝えた。
「承りました。・・・・・・それでは、謁見の間へ参りましょう。アリス・パマリ殿と、パフ・レイジィー殿は、担当のセルヴァントが迎えに参りますのでもう暫くこの部屋でお待ちください」
「はい」
「分かりました」
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――― そして今
「R4075年5月22日(地)正午。アンカー男爵領マルアスピー南、国王陛下直轄領ヒグマの丘にて、王国S級討伐令対象魔獣【邪アースドラゴン】2匹。王国S級討伐令対象魔獣未然防止【アースドラゴンの卵】20個。王国討伐令対象魔獣【オプスキュリテ】98匹」
「R4075年5月22日(地)夕刻。アンカー男爵領マルアスピー北、国王陛下直轄領大樹の森コルト湖東20Kmにて、王国S級討伐令対象魔獣【トフォレルチェ】1匹。王国S級討伐令対象魔獣【ルチェムノクター】1匹」
「R4075年6月1日(無)夕刻及び夜半。パマリ侯爵領コルト南、西コルト川大湿地帯にて、王国S級討伐令対象魔獣【ダイヤモンドリザード】1匹」
「R4075年6月2日(地)午前。チューナー伯爵領王国中央街道ルート4南、サス山脈北森林及びサス北草原にて、王国S級討伐令対象魔獣【ミストラルドラゴン】2匹。王国S級討伐令対象魔獣【フライングドラゴン】19匹」
「R4075年6月3日(水)深夜。ブオミル侯爵領ロイ、鉱山坑道にて、王国討伐令対象魔獣【オンソンルバルス】8匹」
うん?使役した魔獣も討伐した事になんだ・・・
「以上です」
≪ガヤガヤ ガヤガヤ
謁見の間には、謁見の儀に参列する王侯貴族や招待客が500人程いた。彼等は、ゼルフォーラ王国の宰相パトリック・ミィストゥリィー(59)が読上げた前代未聞の討伐報告を聞き色めき立つ。
パトリック・ミィストゥリィー宰相は50歳の時に、息子のダヴィッド・ミィストゥリィーに公爵位を譲り、そこから9年間ゼルフォーラ王国の宰相を務めている。因みに、ダヴィッド・ミィストゥリィー公爵の第一夫人モニカ・ミィストゥリィーは、アーマンド・ブオミル前侯爵と第一夫人ラケール・ブオミルの娘だ。
「この報告には、不正偽装等虚偽は一切ございません。我等がゼルフォーラ王国が誇る近衛騎士団の監察局、パレスパージ達が、アドベンチャーギルド発行のPTカードの真偽を確認し真実を証明しております。また、証人として、アンカー男爵家、パマリ侯爵家、ブオミル侯爵家、シン士爵家、他多数の者より合意書の提出を確認しております」
≪ガヤガヤ ガヤガヤ
参列者達が一層色めき立つ。
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「うむ」
ゼルフォーラ王国国王イヴァン・ルーリンだ。国王の一言で謁見の間は静まり返った。
≪・・・・・・
「やっと、会えたなゼルフォーラの英雄よ」
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場が続いて無い気がするんですが、この空気と間って普通何だろうか?
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「陛下より、ゼルフォーラ王国シャレット士爵家ロイク・シャレットに恩賞を授与する」
パトリック・ミィストゥリィー宰相は、良く通る威厳に満ちた声を、静まり返った謁見の間に発した。
「オホン!世が直に与える」
「陛下?」
「構わんだろう」
「は、はい」
≪ガヤガヤ ガヤガヤ
「ゼルフォーラの英雄よ」
イヴァン・ルーリン国王陛下が話始めると、謁見の間はまた静まり返る。
「まずは、当初の予定分だ」
「予定分ですか?」
「そうだ。最初の討伐に対する恩賞と報酬を授与する。王国の記録を調べたが、オプスキュリテ3匹の討伐成功例が30年前にあった。中央騎士団第3師団約2000名によって成功した前例だ。それ以前では111年前のマルスピー村での撃退成功の記録が新しい。世界各国の公文にも単独での複数討伐成功の記録を確認する事は出来なかった。つまり、世界で初めて複数討伐に成功した英雄がゼルフォーラ王国に誕生した事になる。しかも16匹ものオプスキュリテを単独で討伐した英雄だ」
≪おぉ~!
参列者が色めき立つ。
「大前(大ゼルフォーラ王国の事)502代。ゼルフォーラ王国228代国王イヴァン・ルーリンは、英雄ロイク・シャレットに男爵位を叙爵する。また、ルーリンの名を回帰し名乗る事を命じる。また、報酬として28億NLを与える」
≪おぉ~~~!
「陛下?王家の名を何を・・・」
イヴァン・ルーリン国王陛下は、右手を上げパトリック・ミィストゥリィー宰相を制止した。参列者もまた国王の右手に反応し静まり返る。
『何かのゲームなのかしら・・・面白いわね』
今、ルーリンを名乗れって言われた様な気がしたんですが、気のせいですよね?
『何を言っているの、ルーリンって名乗る様に命令されたでしょう』
う~ん。
「次の討伐に対する恩賞と報酬を授与する。邪アースドラゴン2匹。アースドラゴンの卵20個。この狂暴化したアースドラゴンが王都や各領で暴れていたらと考えるだけで身の毛がよだつ思いだ。天災災害クラスの魔獣を2匹討伐し、悪夢の芽を20も未然に防いだ行為はゼルフォーラ王国を救ったに等しい。大前(大ゼルフォーラ王国の事)502代。ゼルフォーラ王国228代国王イヴァン・ルーリンは、英雄ロイク・ルーリン・シャレット男爵に子爵位を叙爵する。また報酬として、120億NLを与える。また、王国の守護者たるに相応しい者への敬意として、ゼルフォーラ王国近衛騎士団副団長に任命する。世の片腕として王国を守護する者として共に励もうぞ」
≪おぉ~!イヴァン・ルーリン国王陛下。イヴァン・ルーリン国王陛下。イヴァン・ルーリン国王陛下。
「陛下・・・近衛騎士団の指揮官に王族や3公5侯4辺伯以外の家の者を・・・」
イヴァン・ルーリン国王陛下は、右手を上げパトリック・ミィストゥリィー宰相を制止した。参列者もまた国王の右手に反応し静まり返る。
『ロイク。見ましたか?人間種達の一糸乱れぬ静寂と賛美・・・いったい何をしたいのかしら』
騎士団の副団長に任命されたみたいだけど・・・近衛騎士団ってさっきのあの人達ですよね?
『そうね。真ん中に居た女性は凛としていて良い気を持っていましたね』
真ん中の人女性だったんですか?
『神眼はどうしたのよ。まったくもう・・・』
「次の討伐に対する恩賞と報酬を授与する。オプスキュリテ98匹は、単独で討伐に成功した16匹の記録の更新であり前代未聞の快挙である。この98匹が、王都や各領を襲ったとしよう、ドラゴン程の脅威では無いが王国軍全軍を以てしても被害は甚大な物と成っていただろう。98匹の討伐をした行為はこれもまた王国を救ったと言って過言では無い。大前(大ゼルフォーラ王国の事)502代。ゼルフォーラ王国228代国王イヴァン・ルーリンは、近衛騎士団副団長英雄ロイク・ルーリン・シャレット子爵に伯爵位を叙爵する。また報酬として、110億NLを与える。また、大ゼルフォーラ王国時代の呼称を現ゼルフォーラ王国に復活させ、近衛騎士団副団長英雄ロイク・ルーリン・シャレット伯爵に、大樹の英雄の名を贈る。また、文献によると大樹の英雄には大樹の森に領地が与えられていたとある。世は前王の善政を学び、【ホラセイラ山脈】とその周囲の森100m。【東モルングレー山脈】と大樹の森の領域内周囲の森100m。【ヒグマの丘】大樹の森の領域内周囲100m。【コルト湖】周囲の森半径20Km。【ルーリン湖】大樹の森領域より200m。5つの領地を与える」
≪おぉ~~~イヴァン・ルーリン国王陛下。イヴァン・ルーリン国王陛下。イヴァン・ルーリン国王陛下。
・・・何だこの流れ・・・何処かで聞いた事があるぞ・・・
『フフフッ』
「陛下、ルーリン湖は王家の湖です。大樹の森側とは言え、臣下に与えて・・・」
イヴァン・ルーリン国王陛下は、右手を上げパトリック・ミィストゥリィー宰相を制止した。参列者もまた国王の右手に反応し静まり返る。
「次の討伐に対する恩賞と報酬を授与する。トフォレルチェ1匹。世界各国の公文にも、ゼルフォーラ王国の記録にも、古代種のS級魔獣の討伐成功の記録を確認する事は出来なかった。つまり、世界で初めて古代種のS級魔獣の討伐に成功した英雄がゼルフォーラ王国に誕生した事になる。しかも単独による討伐を成し遂げた英雄がだ。これは、ゼルフォーラの名を更に世界へと轟かせた事になる。素晴らしい事だ。ゼルフォーラ王国とゼルフォーラ王国民の誇りである。大前(大ゼルフォーラ王国の事)502代。ゼルフォーラ王国228代国王イヴァン・ルーリンは、......
もう、嫌な予感しかしないんですが・・・
『このまま、フォルティーナの記憶操作の時の様に公爵まで大出世ね』
...... 近衛騎士団副団長大樹の英雄ロイク・ルーリン・シャレット伯爵に、名誉伯爵位を叙爵する。またこの名誉伯爵位に限り世襲を認める。また、報酬として、40億NLを与える。また、トゥージュー領サーフィスのルーリン川の対岸西モルングレー大平原とモルングレー西の森を領地として与える。ゼルフォーラ王国大樹の森領域外の所領として発展繁栄を期待する。3公の一角トゥージュー家には世の兄上先代の国王の娘リラリス王女が第一夫人として嫁いでおる。困った時にはアランに相談すると良い」
≪オォ~~~!イヴァン・ルーリン国王陛下。イヴァン・ルーリン国王陛下。イヴァン・ルーリン国王陛下。
「陛下、領地を持たぬ家臣は他にも沢山存在します。あの広大な土地を1つの家に与えるなど・・・も」
イヴァン・ルーリン国王陛下は、右手を上げパトリック・ミィストゥリィー宰相を制止した。参列者もまた国王の右手に反応し静まり返る。
アランって誰だ?それに土地の場所が良く分からないぞ・・・後で確認しないと・・・サーフィスの対岸って事は海に面してる土地って事だから、マルアスピー良かったですね。
『プププッ』
さっきからどうしたんですか?
『だって、人間種達が皆で私を笑わそうとするんですもの・・・』
いや・・・それないから・・・違うから・・・
『プププ・・・メアリーママさんが喜びますね』
何にですか?
『サーフィスが隣にあるのでしょう。幼い頃に通っていた土地なのでしょう?』
あぁ~そうですね。従姉妹のリラリス・ルーリンさんも住んで・・・ルーリン???
『フフフッ』
「次の討伐に対する恩賞と報酬を授与する。ダイヤモンドリザード1匹。記録によると3年前に27名による討伐に成功しておる。だが今回もまた単独による討伐の成功である。ブオミル領ロイのアフェールギルドより提出された登録証によると、50カラット~500カラット全てのダイヤモンドがトリプルS最高級品だった。それを成し得る為には、世界最高の堅さを誇るS級討伐令対象魔獣ダイヤモンドリザードを1撃で仕留める必要があるそうだ。世はその言葉を聞き年甲斐もなく心が躍った。それぞれの大きさのダイヤモンドを記念に数個ずつ所持していると聞いた。1撃で仕留めたダイヤモンドリザードのダイヤモンドを見せてはくれぬか?」
「はい。後程、お見せ致します」
「うむ。楽しみにしておるぞ。大前(大ゼルフォーラ王国の事)502代。ゼルフォーラ王国228代国王イヴァン・ルーリンは、近衛騎士団副団長大樹の英雄ロイク・ルーリン・シャレット名誉伯爵に、侯爵位を叙爵する。また、ダイヤモンドリザードを討伐した英雄に金銭を報酬として与えるのは世としては稚拙な行為だと思う。よって、我が叔父上ボードワン・ルーリン(87)の子バルタザール・ルーリン(59)の娘サラ・ルーリン(21)の願いを聞き届け降嫁する事を認める。同時にゼルフォーラ王国ボードワン・ルーリン天爵家サラ・ルーリンとの婚姻を認める。式はバルタザール叔父上の誕生日3月16日来年R4076年3月16日とする」
≪おぉ~~~~~!サラ・ルーリン王女、ロイク・ルーリン・シャレット侯爵。御婚約おめでとうございます。イヴァン・ルーリン国王陛下。イヴァン・ルーリン国王陛下。イヴァン・ルーリン国王陛下。
「陛下!・・・これはいったい・・・」
イヴァン・ルーリン国王陛下は、右手を上げパトリック・ミィストゥリィー宰相を制止した。参列者もまた国王の右手に反応し静まり返る。
「陛下!英雄殿と王女殿下の御結婚の話。私は聞いておりませんぞ」
何?・・・王女と俺が結婚?何がどうなってるんだ!
『フフフッ。楽しくなりそうね』
何が、楽しくなりそうなんですか?マルアスピーは俺の妻なんですよね?良いんですか?
『言っている意味が分からないわ・・・結婚はおめでたい事なのでしょう?』
・・・マルアスピーの思考って人間とは少し違うからなぁ~良く分からないや。違う精霊の話するだけで嫌だって言ってたのに、奥さんが増えるって時にはおめでたい事だって言うし・・・取り合えず丁重にお断りしないと・・・
「イヴァン・ルーリン国王陛下どういう事でしょうか?俺にはもう妻がいますので・・・」
「妻はまだ1人だけだと聞いておるが、他にもいるのかね?」
「いっいません。1人だけです」
「それなら問題無かろう。パトリック。何か法に触れるか?」
「王国法上問題はございません。ですが、王族の結婚に関しましては・・・」
イヴァン・ルーリン国王陛下は、右手を上げパトリック・ミィストゥリィー宰相を制止した。
「サラの希望でもある。希望している者が合意していないという事があり得るか?」
「い、いえ・・・」
「あのぉ~・・・会った事も無い人と突然結婚と言われても、俺も困ってしまうのですが・・・」
「サラの話では、コルト大聖堂でパマリ侯爵夫人と助祭長と大神官長(司祭)が同席し聖属性の武具について話をしたと聞いたのだが・・・コルト大聖堂の開かずの扉を開けてしまった話も聞いたが・・・」
コルト大聖堂でミント・パマリ侯爵夫人に贈物を渡した時の話みたいですけど、お姫様が居たら分かりますよね?
『サラ・ルーリンという名前の人間種なら修道女の恰好をして居たわよ』
え?あの邪属性のナイフの修道女さんですか?
『そうよ。邪属性の武具を所持している時点で普通では無いと気付くべきだったわね』
・・・そうかもしれませんが、属性に関して詳しくなったのは最近ですよ!
『でも、知らない人間種では無くて良かったわね』
はい?
『サラ王女という人間種とは一度会っています。これで問題は無く成りました』
いやいやいやいや・・・
「ロイク様は、サラ王女様と御結婚なされるのですか?」
静まり返った謁見の間に、アリスさんの声が響いた。
≪ガヤガヤ ガヤガヤ
謁見の間は参列者達で色めき立つ。
「これ、勝手に発言するで無い」
パトリック・ミィストゥリィー宰相が、アリスさんを窘める。
「あっ・・・」
アリスさんは、周囲を見渡すと赤面し下を見たまま謝罪の言葉を口にした。
「も、申し訳ございません」
「君が、王妃が言っていたアリス・パマリだね」
イヴァン・ルーリン国王陛下が、アリスさんの名前を口にすると、謁見の間は静まり返った。
『プププっ』
マルアスピー・・・これ面白く無いですよ・・・
『ちょっと狙い過ぎたところはあるわね。でも、十二分に滑稽よ』
「ア、アリス・パマリは私ですが、王妃様が私の事を陛下にお話しになられたのですか?」
「ハッハッハッハ。なるほどな」
「な、なるほどとは?」
「ステファンはいるか?」
「はい陛下」
ステファン・パマリ侯爵様は、3歩前へ出ると臣下の礼をとる。
「お前の娘にしては幼い様だが・・・」
「この者は、我が次男ジェルマンの娘です」
「おぉ~そうであったな。第3師団のジェルマンはいるか?」
「はぁっ!」
ジェルマン・パマリ子爵様は、3歩前へ出ると騎士としての臣下の礼をとった。
「良い機会だ。中央騎士団第3師団のドラゴン討伐命令達成の恩賞を授与する。中央騎士団第3師団及びロイ駐屯騎士団は甚大な被害を出しながらも、そこに居るゼルフォーラに新たに誕生した英雄殿と協力し見事討伐を成功させた。討伐に参加した全ての団員の等級を1階級昇級し名誉を遂げた団員の等級を更に1階級昇級とする。家族への保障は中央騎士団より優先支給とする。残された伴侶に対しては生涯保障ただし再婚により権利を失う物とする。子供に対しては成人するまでとする。両親への保障は同居する者のみとし保障期間は3年とする。中央騎士団第3師団再編の費用として国費より3億NLを助成する。また、ロイ駐屯騎士団再編の費用として国費より2億NLを助成する」
「陛下。誠にありがとうございます。名誉を遂げました団員に代わりまして心より御礼申し上げます。また、1日も早い再編に努めます」
「うむ。さて、英雄殿に協力を要請し事態を好転させたのは、ジェルマンだと報告が来ておる。大前(大ゼルフォーラ王国の事)502代。ゼルフォーラ王国228代国王イヴァン・ルーリンは、ゼルフォーラ王国中央騎士団第3師団団長ジェルマン・パマリ子爵に、伯爵位を叙爵する。また、中央騎士団全13師団総括団長に任命する。これに伴い、第3師団団長との兼任を認める」
「はぁっ!」
「領地を持たぬ伯爵家は辺境伯爵家になってしまう」
≪ハハハハハハ
参列者が一斉に笑い出す。
「考えたのだが」
イヴァン・ルーリン国王陛下が言葉を続けると、笑いが一斉に収まる。
『プププッ』
「王都モルングレーの東8Km地点を中心に半径3Kmの土地を領地として与える。ただし、大樹の森の領域内に重なる土地に関しては領地として認めない。ただし、ルーリン湖へ重なる土地に関しても同様とし領地として認めない。ただし、8Km地点より南に5Km地点までの土地を重なる土地の面積の分だけ領地として与える。後日測量し領地の境界を決定する。パマリ領が王国に2つ存在しては不便との意見があった為、この領地の名は境界を確定するまでに決定するものとする」
「有難き幸せ」
「英雄殿を第3師団に引き合わせ、ジェルマンに国の窮地を救う決断の機会を与えた。ゼルフォーラ王国をドラゴンより救った立役者アリス・パマリよ」
「・・・は、はい」
アリスさんは、その場で、騎士としての礼をとる。
「見習いの身でありながら、ドラゴン討伐作戦へ参加。また英雄殿を中央騎士団第3師団団長ジェルマンに引き合わせた事実を踏まえ、大前(大ゼルフォーラ王国の事)502代。ゼルフォーラ王国228代国王イヴァン・ルーリンは、アリス・パマリに、騎士爵を叙爵する。また、中央騎士団第3師団への正式な配属を認める。最後に王妃からの言葉を伝える」
「ありがとうございます。王妃様からの御言葉ですか・・・」
アリスさんは、言葉とは裏腹に落ち着いた様子だ。
「サラ王女の婚姻の話に心が揺らいだか?」
「い、いえ・・・サラ王女様の幸せを望まぬ臣下臣民は御座いません」
「英雄殿との婚姻でもか?」
「あ・・・そ、それは・・・サラ王女様の」
「もう良い。もう良い。サラとは懇意なのだろう?王妃からもサラからも聞いていたが、ステファンお前の孫もう少し素直になれんのか?」
「へ、陛下。申し訳ございません」
「アリス・パマリ」
イヴァン・ルーリン国王陛下は、ステファン・パマリ侯爵様からアリスさんへ視線を動かす。
「は、はい!」
アリスさんは、慌てて返事をした。
「世と王妃が許す。そこにいるステファンもジェルマンからも合意を得ている」
「は、はい・・・」
「来年R4076年3月16日サラ・ルーリンとアリス・パマリは、ロイク・ルーリン・シャレットとの結婚の儀をモルングレー大聖堂で執り行うものとする」
「え?あっ!・・・」
「何、勝手に話が決まってるんですか?」
『ロイク。貴方の嫁が増えるだけの事でしょう。アリスでは不満なの?』
いや、不満とか不満じゃないとかじゃないから、この話は!
≪ガヤガヤ ガヤガヤ
「近衛騎士団副団長大樹の英雄ロイク・ルーリン・シャレット侯爵よ。王女やパマリ家の令嬢では不満か?」
「い、いえ・・・不満はありません。ですが、・・・」
「私は、ロイクの妻にアリスが加わる事に賛成します」
マルアスピーは正々堂々敵に回った。
「なぁっ・・・」
「そうか。奥方の許可が出たのだ、これで臆する事は何も無いな。この後のパーティーの席で祝いの乾杯を行うとする」
≪うぉ~~~~ イヴァン・ルーリン国王陛下。イヴァン・ルーリン国王陛下。イヴァン・ルーリン国王陛下。
『来たわ。これよこれ』
「パトリック」
イヴァン・ルーリン国王陛下は、パトリック・ミィストゥリィー宰相の名を呼ぶと、謁見の間は瞬く間に静まり返った。
「手配しておけ」
「はい・・・かしこまりました」
「さて、討伐に対する恩賞と報酬の授与が終わっていない。次は、ミストラルドラゴン2匹。天災クラスの極めて危険な魔獣だと記録に残っている。記録によると3000年前コルトを襲ったミストラルドラゴンは1匹。何とか撃退する事に成功したそうだが、コルトの市街地の8割が瓦礫の山と化したそうだ。死傷者は20万人を超え地獄そのものだったそうだ。当時コルトに壊滅的な被害を与えたミストラルドラゴン。その様に危険な存在を、騎士団の要請を受け単独で討伐に成功した。それも2匹の討伐に成功している。大前(大ゼルフォーラ王国の事)502代。ゼルフォーラ王国228代国王イヴァン・ルーリンは、近衛騎士団副団長大樹の英雄ロイク・ルーリン・シャレット侯爵に、公爵位を叙爵する。また報酬として、120億NLを与える」
≪オォ~~~ イヴァン・ルーリン国王陛下。イヴァン・ルーリン国王陛下。イヴァン・ルーリン国王陛下。
「へ、陛下!3公5侯4辺伯の王国の根幹が・・・」
イヴァン・ルーリン国王陛下は、右手を上げパトリック・ミィストゥリィー宰相を制止した。参列者もまた国王の右手に反応し静まり返る。
「有能な者が、新たに国政に携わる。新たに国防に携わる。不満はあるまい」
「わ、私は不満等ありません」
「ふむ。英雄殿になら任せて問題無いと判断した。1匹で街を壊滅してしまう程のドラゴンを単独で討伐する能力を見込み大樹の森全域を領土として与える」
「な、陛下!それは、創生教会が黙っていないか」
イヴァン・ルーリン国王陛下は、右手を上げパトリック・ミィストゥリィー宰相を制止した。参列者達はコールのタイミングを失った。
『あら、残念』
あのねぇ~・・・
「左様。大樹の森はゼルフォーラ王国と私達世界創造神創生教会が共同で管理する地。家臣の領土として与える等、教王パスカル・ホノクレマ5世に成り代わり、ゼルフォーラ大陸大教区大司教クレメンス・オデスカルが認めません」
白色の丸い帽子を被った。紫色の裾と袖、白い襟の黒色の法衣を身に纏った。ちょび髭で細身の男性が、後ろに騎士を2名従え中央に歩み出た。
「クレメンス・オデスカル大司教殿。陛下の御前です」
「だから何かね?私達は神に仕える身です。王が神より偉いとでも?」
「ク・・・」
パトリック・ミィストゥリィー宰相は、何かを言い掛けたが、飲み込んだ様だ。