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このKissは、嵐の予感。(仮)   作者: 諏訪弘
-モルングレー編ー
60/1227

1-47 地下300mの幸と、謁見のその前に・・・

宜しくお願いします。

――― 王都モルングレー

アクセサリー(装飾品)屋の地下300m

――― 27:20


 俺は、マルアスピーと、王都モルングレーのファーストエリアの東コメルスエリアに店を構えるアクセサリー(装飾品)屋の地下300mにある空洞に居る。


 空洞の中心では、縦4m横7mの大きな茶褐色の大地石(ソル)水晶石(クリスタル)が大量の自然魔素(まりょく)・地属性を放出していた。茶褐色の大地石(ソル)水晶石(クリスタル)は横に一本の黒い模様がありその模様部分は自然魔素(まりょく)・闇属性を吸収している様だった。


 あの大地石(ソル)に闇属性が吸収されているからこの場所は闇に支配されずにいるみたいですね。


『鮮明では無いにしても、光が無い空間が細部まで構造を明かしています』


 光も無いのに明るいって変な感じです。


 俺達はレソンネ(共鳴)で会話をしながら、空洞の中心にある茶褐色の大地石(ソル)水晶(クリスタル)に近付いた。


『誰かいるわ』


 動いている様ですが、種反応がありません・・・


 俺達は茶褐色の大地石(ソル)水晶石(クリスタル)の傍らで動く者へ更に近付いた。


「に、人間・・・種?・・・人間種が、どうやってここへ・・・?」


 俺達に気付いた様だ。


「おかしいよ・・・ここには、自然魔素(まりょく)・地属性と闇属性だけ・・・呼吸する種は動けなくなるって・・・」


 動く何かの正体は、人間の言葉を話す人間種人間の子供の女の子の形をした人形だった。


『あれは、人形よね?』


 人間種の何かでは無い様です。あそこで何をしてるんだと思います?


『さぁ~・・・分からないわ』


 人形は、俺達に気付いた後も、液体の入った瓶に何かをする作業を繰り返していた。俺達は人形と大地石(ソル)水晶(クリスタル)の前まで移動した。


「君は人形?」


(サチ)(サチ)


「君はここ(・・)で何をしてる?」


(サチ)は、瓶の中の水に地属性を溶かしてる」


『普通の水に、自然魔素(まりょく)・属性は溶け込まないわ』


 それが出来るなら、瓶を投げる事で魔術に近い事が可能って事になりますからね。


ここ(・・)は何?」


(サチ)はアトリエで働いている」


「アトリエ?・・・ここ(・・)は君の工房って事?」


「アトリエはアトリエ。デェシュネン様の空間」


「ディシュネンが居るの?」


 珍しい事にマルアスピーが声を荒げた。


「ディシュネンって人を知ってるんですか?」


「そうね。でも、彼女は人間種では無いわ」


「精霊様ですか・・・」


「えぇ」


「君は、精霊様の仲間なのか?」


(サチ)はディシュネン様のアトリエで働いている人間種に捨てられた人形だった(サチ)


 微妙に会話が面倒な相手だ。


「精霊様は何処にいる?」


(サチ)はアトリエに1人」


「ロイク。私に任せて」


 マルアスピーが、喋る人形(サチ)に近付く。


「えぇ・・・どうするんですか?」


(サチ)。貴方はディシュネンの友達よね?」


(サチ)(サチ)。ディシュネンはディシュネン」


「そうね。私はディシュネンの友達。私達はディシュネンを探しているの。何処に居るか分かるかしら?」


(サチ)はアトリエに1人。ディシュネンは15日に1度来る」


 1ヶ月に2回来るのか・・・


「ディシュネンはいつ来るのかしら?」


(サチ)はディシュネンに今日会った」


「って、事は16日後か・・・」


「そうみたいね」


「どうします?」


「16日後に改めてここへ来るだけよ。・・・(サチ)、仕事を確りおやりなさい」


(サチ)はアトリエで働くだけ」


「そうね。偉いわ・・・・・・行きましょう。ロイク」


「このままにしておいて良いんですか?」


「ディシュネンが関わっているのなら、ディシュネンに会えない今ここに居る意味が無いもの」


「・・・分かりました」


 【フリーパス】移動 ≫



――― スタシオン(中空)エスティ(の避)バルクリュ(暑地)

別荘(本邸も無いのに)の寝室

――― 6月9日 28:00


 俺は、マルアスピーと、スタシオン(中空)エスティ(の避)バルクリュ(暑地)の俺の別荘の寝室へ神授スキル【フリーパス】で移動した。


「つまり、あの茶褐色の大きな大地石(ソル)水晶石(クリスタル)が放出する地属性が地下の空洞に収まり切ら無く成った時に、真上のアクセサリー(装飾品)屋の建物内に地属性を噴き出していたから、自然魔素(まりょく)・地属性が充満していて、あの地震は噴き出す際に生じていると・・・」


「そうね」


「あそこで感じた精霊気は何だったんですか?」


「ディシュネンがあの店の奥に居たと考えて間違い無いでしょうね」


「そのディシュネンって精霊様は何者なんですか?」


「あら?変ねぇ~・・・ロイクはディシュネンの精霊気に以前にも接触しているわ」


「俺がですか?俺、精霊様はマルアスピーしか知りませんよ」


「フフフッ。そういう意味ではないわ。あの精霊気と同じ精霊気を帯びた大地石(ソル)の祠の話よ」


「祠の大地石(ソル)水晶石(クリスタル)と似てるとは思いましたが・・・」


アクセサリー(装飾品)屋で感じた精霊気と、祠で僅かに感じた精霊気は、強さこそ分かりませんでしたが同一の物だという事は分かります」


「香水みたいな感じですか?」


「香水で1名だけを特定する事は難しいわ。でも、精霊気は精霊によって異なるの。同系の精霊でもよ」


「ディシュネンって精霊様は、どんな精霊様なんですか?」


「地属性の通常精霊よ」


「それは分かります。何に宿っているとか、性別とかあるじゃないですか」


「興味があるの?」


 何だか機嫌が悪い様に見える。


「興味と言うか、相手を知っておいて損はないかなって」


「ふ~ん」


「何か怒ってますか?」


「怒ってないわよ・・・ロイクが他の精霊の話をするのが嫌なだけよ」


「意味が分かんないですけど・・・」


「・・・もう良いわよ。ディシュネンは私と同じ母精霊系統つまり性別は女よ。地の長老精霊ノーミードの下位、一枚大岩の聖域の大精霊ロロノクックの下位、他地の中精霊達の中の巨岩の中精霊ヴィクフォートの下位、岩石や鉱石や宝石や他の通常の地の精霊種の1種で岩石に宿る精霊よ」


「・・・精霊様って俺達の世界に沢山住んでるって事ですか?」


「小精霊や子供()精霊や()精霊は沢山いますからね」


「へぇ~・・・」


「でも、私達精霊界の精霊とは小精霊や子供精霊や幼精霊は本質的に違うのよ。彼等は、この世界の自然の力と自然魔素(まりょく)の理の中で産まれる属性が思念や感情を有した者達です。私達の様に精霊界に系統を持つ精霊には特定の両親が存在しますが、彼等はこの世界そのものが親です」


「自然その物が精霊様って、俺達の絵本とか本とかの物語の中に出て来る精霊様って、小精霊様や子供精霊様や幼精霊様達の事だったんですね」


「通常精霊以上の存在は、神様の代わりとして存在に宿り名を名乗ります。常に人間種の傍に居られる自由な小精霊達とは存在の意味が違います」


「それで、ディシュネン様は、岩石の精霊様って事なんですよね?」


「・・・そうね」


大地石(ソル)の祠というよりも、祠にあった100cm位の大地石(ソル)水晶石(クリスタル)に宿っていたと考えると言い訳か」


「・・・どうしてそう考えるの?」


「通常の精霊様なんですよね?さっきの地下の大地石(ソル)水晶石(クリスタル)は大きかったし、もしあれに宿っている精霊様だったなら、中精霊様かなって勝手に思っただけです」


「ディシュネンが中精霊に限りなく近い通常精霊だと言いましたよね」


「はい」


「それもまた、地下の大地石(ソル)水晶石(クリスタル)の影響かもしれません」


「精霊気が成長しているって事ですか」


「精霊気は、産まれた時から基本的には成長しないのよ。神様の代わりに存在に宿る時、その名に新たな精霊気が加わるのです」


「へぇ~・・・成長はしないけど、強くなるんですね」


「そうね。フフフッ」


「因みにですけど、マルアスピーの精霊気って、俺が神気で発動させる神気属性の魔法の☆5以上状態ですよ」


「そんな事になっていたのね・・・大きな魔法を扱う機会が無かった物だから気付かなかったわ」


「運の神フォルティーナ様が話てましたが、俺達は神界の中級神様方よりも神気も能力もあらゆる面で上位らしいです」


「僅か2週間弱で、【SMP(精霊気・精霊力)】が、2500から165000に上がりました。先日からたまにそれ以上の数値に上がった様な感じになる時がある程です」


「あっ!それですけど・・・たぶん」


 俺は、タブレットからvariable(ヴァリアーブル)の短剣を取り出し、マルアスピーに見せた。


「これのせいだと思います」


「神気の剣でしょうか?」


「はい、つい2日前かな創造神様から神授していただいた短剣です。この短剣には何個かスキル付与が付与されていて、その1つに、神授スキル【accord(アコール)amitié(アミティエ)】という物があるんですが、これ今の俺の神気を共有するみたいなんですが、取り出す度に俺の状態を読み込んでるみたいなんですよ」


「タブレットの認証みたいな感じかしら」


「はい。それで、俺って今【GMP(神気・神気力)】が31じゃないですか、短剣が神気を読み込んで共有状態になると、短剣の31と俺の31で【GMP(神気・神気力)】が62になってるみたいなんです」


「その短剣を装備すると、【GMP(神気・神気力)】が2倍になるという事ね」


「なので、俺がこれを装備している時は、マルアスピーの【GMP(神気・神気力)】の数値は一時的に高くなってるって事に・・・」


「私は、普段ロイクから【GMP(神気・神気力)】31の2倍を受領している様ですが、その短剣を装備したロイクからは62を2倍で受領していたのですね」


「です。なので、【GMP(神気・神気力)】の数値が66の時と、128の時があるって事に」


「【SMP(精霊気・精霊力)】が一時的に165000から320000に上がっていたいたのね。おかしいと思ったわ・・・・・・」


「どうしたんですか?」


 マルアスピーが一瞬悲しそうな表情をした。


「・・・何でも無いわ。レソンネ(共鳴)が全てを伝えて来なく成ってから不安になる時があるだけよ」


「不安ですか?」


「えぇ・・・でも、どことなく心地が良いのも事実なのよね。フフフッ」


 マルアスピーは少し悲し気なだが優しい笑顔で頬んでいた。


「16日後まではどうしようも無いって事だし、今はやれる事をやりましょう。まずは、明日の謁見です・・・」


「メアリーママさんとおとうさま(義理のお父様)は王宮には行かないのよね?」


「はい『あぁー?謁見だぁっ!面倒癖ぇーんなもん誰かに代わって貰えってぇー王に会ったからってぇー人間長生きする訳じゃねぇーしよぉっ!だいたい(おんな)じ人間に呼ばれてぇーわざわざ会いに行く程のことかぁっつうーの』って、来る気(ゼロ)みたいでしたから」


「メアリーママさんなら、ロイクの大出世晴れ舞台に喜んで来ると思っていました」


「それが、サーフィスに行った時用の水着って言う海で泳ぐ時に着る。下着に似た感じの濡れて良い服があるそうなんですが、それを皆の分作らないといけないから忙しいそうですよ」


 マルアスピーは何かに気付いたのか手を合わせた。


「それででしたか、私やアルやフォルティーナの身体のサイズを測ってメモを取っていました。パフちゃんのサイズも教えてと言っていました。仕立屋エレガンスの『寸法をいただきます』とサイズを取っていたのと同じ感じだったので服を作る為だったのですね」


「そういう訳だから、明日はマルアスピーと俺だけで国王陛下に謁見する事になります」


「パフちゃんやアリスは?」


「2人は俺達の付き人って事で王宮に行くから、謁見の時は準備される控室で待機みたい。その後の、解呪とパーティーには参加出来るらしい」


「アリスは王宮を楽しみにしている様でしたから良かったですね」


「ふ~ん。マルアスピーは俺以外の人間にもかなり優しくなりましたね」


「・・・私は元から厳しい存在ではありません」


「そうですね・・・」


「寝る前に1つ良いかしら」


「何ですか?」


「あのモーニングって言ったかしら、あんな滑稽な服を着るのよね?」


「正装らしいですからね」


「人間種って不思議よね。趣向を凝らした素晴らしい衣類が沢山存在しているというのに、何を血迷ってあんな滑稽な衣類を正装だなんて決め、同じ(よそお)いで(つど)うのかしら。女性の様にもっと色々な色や小物で着飾っても良いと思いますよ」


「きっと最初にルールを決めた人が究極の面倒くさがりだったか、人を(いえ)や身分で比べたくない平等主義者だったか、富をひけらかすのが嫌いな人だったんですよ。俺は、衣類や装飾品の面倒から解放されるのは有難いので、面倒くさがりだった方に塩味の苺飴を1本かけます」


「かける?」


「正解したら、外れた人のかけた物が貰えるんです」


「ロイクは何を貰えるの?」


「誰もかけて無いので、何も貰え無いです」


「ふ~ん。面白い?」


「・・・いえ」


「塩味の苺飴をかける位なら、私にくれても良いのよ。その方がきっと良い事がありますよ」


「どんな事ですか?」


「私が嬉しいです」


「そ、そうですか・・・」


 かけとか知らないのか・・・



――― 6月10日 6:10


 俺は、カーテンからこぼれる陽の光を顔に受け目が覚めた。隣にはやっぱり生まれたままの姿のマルアスピーが居た。おかしな話なのだ。就寝用の部屋着を着てベッドに横になったはずなのに、何故か朝になると彼女はいつもこの姿になっている。


 俺は、マルアスピーを起こす。これもほぼ日課だ。


「朝ですよ」


 この程度での小さな声では起きない事も知っている。頬をツンツンしたところで起きない事も既に知っている。俺は・・・


≪ゴクッ


 男の夢と希望を俺はロックオンする。そう朝からだ!


 だが、俺は・・・凝視するだけで別段次の行動に及んだ事は未だに無い。



――― 6:20


 凝視という幸福な時間と、どうするべきかの葛藤の時間。朝っぱらから複雑な気分を自らに演出する。そして、マルアスピーへ向けられた俺からの強い感情はレソンネ(共鳴)で見事に伝わっている。例え彼女が眠りの中に居ようとも・・・


「・・・ねぇロイク」


「お、おはようございます」


「触りたいのなら、触って良いのよ」


「ハハハ・・・」


 24歳にもなって、俺の朝はこんな感じだ。



――― スタシオン(中空)エスティ(の避)バルクリュ(暑地)

別荘(本邸も無いのに)のリビング

――― 6月10日 7:30


「それじゃ、王都に行って来るよ。2人共本当に王宮に来ないのか?」


「おぅ!俺は、邪狼獣のなんだったけかなぁー・・・おおイルーグだ。イルーグ」


「邪狼獣のイルーグさんがどうしたんだよ?」


「今日は、あいつが丘と村周辺の監視担当だからなぁっ!一緒に森で狩りする約束なんだよぉっ!」


「そっか・・・」


 やっぱり、(よこしま)な存在同士だと、分り合うところとかが多いのか?


『フフフッ』


「今日の午後からは歴史に名を刻む英雄として生きる事になるのよ確りね」


「母さん分かってるよ。それじゃ行って来ます」


 【フリーパス】:王都モルングレーのジェルマン・パマリ子爵邸のゲストルーム 移動 ≫


「皆に宜しくね」


 父と母と運の神様とアルさんと妖精達が手を振っていた。



――― 王都モルングレー

ジェルマン・パマリ子爵邸 ゲストルーム

――― 6月10日 7:45


 俺とマルアスピーは、ジェルマン・パマリ子爵邸のゲストルームのソファーに腰掛け話をしていた。


「お腹が空いたわね」


「今日はドレスの事があるから、朝食と昼食は抜きだってアリスさんが言ってましたね。マルアスピーはスタイルが良いし綺麗な身体をしていますが、食事を抜いた方がウェストには良いんですか?」


「綺麗な身体と食事の内容には因果関係があると思いますが、ドレスのウェストと身体が綺麗な事は特に関係が無いと思います」


「そ、そうですね・・・」


 変なところにはうるさいんだよな!この人・・・


「飴の1つや2つ食べたからってドレスが着られ無く成るなんて思えませんが・・・」


「アリスが言ったの。水一滴をたった一滴を軽視する者はドレスに泣くのだそうです」


「北にあるゼルフォーラ砂漠の格言みたいですね」


 確か、『砂の海一滴の水命の涙』だったかな・・・


≪ガチャ


 パフさんが慌てた表情で部屋に入って来た。


「ロイク様。マルアスピー様。御部屋に居なかったので、探しましたよ」


「昨日、色々あって家に戻っていたから、容易して貰った部屋は使わなかったんだ」


「そうでしたか・・・」


 パフさんにはまだスタシオン(中空)エスティ(の避)バルクリュ(暑地)の別荘の事を話していない。俺の実家の事だと思っているはずだ。


「マルアスピー様。軽い食事はしても良いそうですが、パンとスープをこの部屋に運んで貰いますか?」


「食べても良いの?」


 マルアスピーの瞳がキラキラと輝いている。身体から喜びのオーラが溢れ出している。


「はい。少しなら良いそうですよ」


「・・・食べます」


「厨房の使用人さん達に話て来ます」


「ありがとう」


 パフさんは部屋を後にした。


「・・・」


 俺は、さっきの言葉を思い出していた。『アリスが言ったの。水一滴をたった一滴を軽視する者はドレスに泣くのだそうです』ま、良いさ。本人が良ければなんだって・・・


「何よ?」


「別に何でもありません」


 俺の視線に気付いたマルアスピーは、頬を膨らませ胸の前で腕を組みそっぽを向いた。


 凝視・・・・・・


 う~ん。実に難しい物である。隠され強調された夢と希望には浪漫が多目に溢れる事がある様だ・・・


 凝視・・・


『フフフッ』



 その後、パフさんが使用人と一緒に戻って来て、マルアスピーは軽い食事を済ませた。女性陣がドレスの気付けと化粧等の準備に入ると、本格的に屋敷の中が慌ただしくなった。こういう時に男は実に便利な生き物だと実感する。それと同時に待たされるという不思議な時間を体験する事になる。


――― 11:20


「何度体験してもこの待つという時間だけは納得出来ない」


 ジェルマン・パマリ子爵様だ。


「良いかね。ロイク君。おかしいと思わないかね?そうだろう、時間が掛かると分かって居る訳だよ。それにも関わらず早く動いて支度をしようとしない。こういう時はいつもより更に時間がかかるんだ。それなら尚更早く起きて支度を開始するべきなんだ。そう思わないかね」


「は、はぁ~・・・」


 俺は、ジェルマン・パマリ子爵様と2人でゲストルームでお茶を飲みながら、女性陣の支度が完了するのを待っていた。


「買い物と一緒なんですよ」


「何をどうやっても長いと・・・」


「はい。帽子1つ決めるのに、アリスさんは2時間もかけていました」


「・・・マリアはそれの親だ!なるほど・・・」


 俺達は、9:00(9ジ)頃に支度を返し、9:30(9じ30ラフン)には支度が終わり、ゲストルームに居た。


≪ガチャ


「ロイク。どうかしら」


 マルアスピーが使用人の女性2人と部屋に入って来た。


「ほぉ~何と言うか言葉が出ないねぇ~・・・」


「はい」


 幼さが残る顔立ちにも関わらず妖艶。美貌の中に柔らかく可愛らしい表情が重なり認識がたまにおかしくなる。そして透き通る様な雪の様に白い肌。ラッキーグリーン色の腰より少し長い髪に、ハッピーデイ色の瞳。今日はベビーピンク色の口紅を付け・・・ただけだった・・・?


「あのぉ~マルアスピー。ピンクの口紅を付けただけですよね?」


「えぇ」


「随分時間がかったようでしたが・・・」


「この髪ね」


「いつも通り綺麗なラッキーグリーン色だと思いますが」


「そうね」


「ロイク様。奥様の髪なのですが、柔らかくしなやかでシルクの様に繊細で何をやってもこの状態に戻ってしまい」


「え?」


「結んだり何かで結ってもいつものこの状態に戻ってしまうのよ」


「それで、せめてティアラを付けた部分だけでもと試行錯誤しました」


「それがこれよ」


 マルアスピーは胸を張る。


「これって、いつもの髪型にティアラが付いてるだけの様に見えますが」


「えぇ」


「それって、ライト・パリス・グリーンとパールホワイト色のドレスを着て、ティアラを付けて、俺がプレゼントした灰鉄礬柘榴石デマントイドガーネットの首飾りと灰鉄礬柘榴石デマントイドガーネットの耳飾り(昨日生成した灰鉄礬柘榴石デマントイドガーネットを寝る前に加工した物だ)と金剛石(ダイヤモンド)腕輪(ブレスレット)を付けて、昨日買ったプリムローズ・イエロー色のコサージュを付けて、ピンクの口紅を付けて完成って事ですよね?」


「どうかしら?似合っているかしら」


「・・・えぇ・・・とても」


「フフフッ」


 マルアスピーは嬉しそうだ。


「いやーロイク君。絵から出て来た様な美しさだ。まるで精霊様や妖精の様だね」


「そ、そうですね」


 まるでじゃなくて、実際精霊様ですけどね・・・


 そして、更に待つ事1時間後。マリアさん、アリスさん、パフさんの支度が完了した。皆とても美しくとても綺麗だった。極めて高い次元に3人は存在している訳だが、それでも、費やした時間に秘密が隠されている事に間違いは無い。そして1つ確証した。マルアスピーは普段のままのが一番良い。


『どうしたのよ急に』


 え?


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