6-MS-162 コルトに16歳の神授を取り戻せ - 存在しないが存在する。Agape is understandable. (一日目・小一時間の好奇心)-
転移陣簡易魔術符。
ダダ卿から現物を一枚受け取り心の底から驚いた。
「これって魔道具じゃ」
「ではありません。紛うことなき神具です。言ってしまえば簡易の神器、使い捨てではありますが騒ぎになるのを回避する為、魔術符と称し試験的に運用しデータを集計しておりました」
神気を感じたから、そうだとは思ったけど、こんなのがあるならってかこれが普及するなら転移陣ネットワークとか要らなくなるような。
神眼を意識し魔術符を凝視する。
ダメだ、仕組みが全く分からない。実験室でじっくり気合を入れて確かめる必要がありそうだ。……これを試験的に運用できるくらいまとまった数で供給できるって、いったい何処、誰だ?
「ダダ卿、これっていったい何処で作られているんですか?」
「アシュランス王国王都スカーレットファルティーナ大神殿二階幸運区画スカーレットアヴェニュー四丁目五番一号室時の扉回廊クロノトゥルース祭壇です」
「はっ? ……えっと、フォルティーナ大神殿なんて神殿スカーレットにありましたっけ?」
「ございません」
「もう一度お願いします」
「はて、覚え易い住所だとばかり」
顎に指を当て小首を傾げるダダ卿。
う~む、その仕草、なんだろうな、ダダ卿がやると無性に腹が立つような…………まぁー今はそんなことどうでも良い忘れよう。
「スカーレットにフォルティーナ大神殿は存在しません。存在しない神殿の二階にある祭壇でこの魔術符もとい神具は作られている。俺の耳にはダダ卿が意味不明なことを話しているようにしか聞こえないんですが」
「はい、自覚はあります。意味不明なことを話しているという自覚はあります」
「あ、あるんですね……。え、えっと……」
こういう場合、ここからどう話を続けるのが正解なんだ? 変なことを喋ってるって自覚がある人にこれ以上質問する意味って、……ないよな。
「時を司りし神クロノトゥルース様へ時を超える為幾許かのNLと祈りを捧げ神気を分け与えていただいた幸運の割符こそが、その紛うことなき転移陣簡易魔術符なのでございます」
「「「「「「その通りです」」」」」」
悩んでいると、武官達とダダ卿が暑苦しいくらい熱の籠った態度と口調で同意と意味不明な説明を繰り返し始めた。
「ちょ、ちょっと黙ろうか。ね、ねっ、いったん落ち着こう。……ってか俺の話を聞けぇ~~~~~っ!!」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
武官達とダダ卿は俺の前で綺麗な正座を披露中だ。どういう訳かエリウスも一緒に正座しているが気にしない。
「つまり、カジノに入る際に購入するチケットが興奮の割符」
「興奮ではなく幸運であります」
「あ、はい幸運の割符でしたね。えっと貴方は?」
「はっ、将官は王都参謀本部旧ヴァルオリティア及び北大陸諜報部辺境情報総局ラクール国境監視室室長のオークレー・オグリー・ジムクリード・ジュニアであります」
「陛下っ!!!!」
「……どうぞ」
頭を垂れたままダダ卿が声を張り上げた。仲良く正座を始めてから二十ラフン程経ったが、どうやらまだ暑苦しさが抜け切っていないようだ。
「ジムクリード・Jrは、陸軍少将であります」
「はっ!! ダダ首相閣下の仰る通りでございます陛下」
「彼は、人族と」
「はいスト―――ップ。少将の経歴とか今は要らないです。時間がある時に思い出して序に気に成ったりした際にほかに何もすることがなかったら、その時に聞きます」
「「はっ」」
「で、話を戻します。幸運の割符を存在しないフォルティーナ大神殿の二階にある時の回廊にある時を司りし神クロノトゥルース様の祭壇に捧げ、祈りとお金を捧げると、これになるんですよね?」
転移陣簡易魔術符をヒラヒラさせながら見事な正座を披露する面々の様子を確認する。
おっと……。
エリウス以外皆頭を垂れているから表情が分らん。雰囲気だけで察するとか、そんな高等なこと俺には無理だ。
「そろそろ顔を上げて貰えませんかね?」
「「「「「…………」」」」」
・・・
・・
・
誰一人顔を上げてくれない。命令だって言っても上げようとしてくれない。
・
・
・
「ところで主殿」
「どうかしましたかエリウス」
やはり無視し続けるのは無理だったか。しかし、こいつはどうして、正座をしているのだろう?
「先程から気になっていることが一件あるのですが、話しても宜しいでしょうか?」
「脱線とかじゃない限り、構いませんよ」
「それは問題ありません。寧ろ、本日のメインイベントです」
「メインイベント? 転移陣簡易魔術符よりも大事な話なんてありましたっけ?」
「はい。ヴァルオリティアの自称皇帝三匹の件です」
「あ」
貴重な時間をありがとうございました。
 




