6-MS-158 コルトに16歳の神授を取り戻せ - 三皇帝ケーニッヒ皇帝派達の所業 パージオアエンフォースメント -
実母のマグヌス妃(前皇帝セザールの第七夫人)の実家シュカーベン辺境伯爵家とイディアン・フック・ル・オリティア公爵家(ヴァルオリティア帝国最後の宰相オットー・アルシュテット・イディアン・フック・ル・オリティア公爵が当主)が擁立したケーニッヒ第八皇子こと傀儡皇帝ケーニッヒ陛下は、拠点の旧帝都アンガーレムで趣味の芸術を追求する日々を送っていた。
芸術以外のことには兎に角無関心な彼に統治(皇帝)なんて無理だ。平和な世の中で尚且つ政治がある程度機能している時代だったなら君臨だけならできたかもしれない。
正直なところ君臨するだけなら不要な気もしなくもない。何もしないのに何不自由なく上に存在するだけとか羨ましいけど羨ましくない……よ、ただ、衣食住に困らないのは正直羨まし過ぎる。獲物が狩れなかった時の親父との昼食……。
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「ガルネスシンハって何ですか?」
「ガルネス神王国の王太子のもとへ輿入れしたジェニファー第一皇女を介しガルネス新王国の中枢と暗躍していたオットー宰相の派閥のことです。ガルネス親派はガルネス神王国の解体と共に影響力と言いますか結束を欠き消滅したとありましたので、シュカーベン辺境伯爵家は弱ったガルネス親派前宰相を排除するのは今だと考えたのでしょう」
ふむ、間接的にだけど家が関わってるとも言えのか。でもなぁ~。
「一緒に暗躍してたガルネスが無くなったからって、いきなり弱体化しちゃうとか無いと思うんですよね」
「ですが、報告書には三つに分裂と……」
「そうなんですよねぇ~……」
「主殿、アンガーレムの丘を拠点とするケーニッヒ派の亡国親派と繋がっていた第一皇女とは亡国の王太子とはいったい誰のことなのでしょうか?」
「第一皇女はジェニファー第一皇女で王太子、王太子は……あ―――ホノクレマって男の子供だけでも一万人以上いましたよね。王太子って誰?」
「我が国が身柄を保護している亡国王族は四万飛んで九百一人です。その中に王太子を名乗る者はいません。それとですが、妃にジェニファーなる名の者もいません」
いったい何がどうなっているのか全く分からないので早急に調べさせることにした。
パフさんに指示を出しただけとも言う……。
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「エリウスは暗躍そのものが最初から無かったと睨んでる訳ですね」
「はい。前皇帝セザールが亡国と旧教に心酔し帝国は崩壊しました。その帝国の舵取をしていたのが亡国親派のオットーでした」
「宰相だった訳ですからね」
皇帝と一緒に国を動かすのは当然だと思うが。
「第一皇女の輿入れを後押ししたのは、セザールとオットーと旧教の当時のアンガーレム教区長だったそうです」
また世界創造神創生教会ですか。
「なんか何処にでも絡んで来ますね」
「私はこの輿入れその物がフェイクだったのではないかと睨んでいます」
「国家間の王族同士の結婚を偽装ですか」
「はい。先程の雷で、疑念は確証へと変わりました」
うん?
「さっきの雷、で、ですか?」
「はい。あの船団の旗艦と思われる船に婚姻の誓いの儀式に立ち会い証人としてサインした当時のアンガーレム教区長グレコリオが乗船していました」
「え? ……っと」
誰、その人。
「それと不思議なことに、あのクレメンス・オデスカルと瓜二つの男も乗船していました」
「あの、クレメンス・オデスカルにですか?」
「はい」
「それと」
まだ何かあるのか?
「先程の報告では捕縛されるは王家の恥と自刃したとありましたが、自刃したはずのオットーも乗船していました」
「おっと……ここまで揃っちゃうと偶然ってことで片付けちゃうのは無理があるか」
いやいやそれ以前の問題だろ。一人でも大問題だ。スカーレットに侵攻してた? 訳だし。しっかし、クレメンス・オデスカルか、一応、地下牢を確認しておくかな。
MRアイズでタブレットを操作しオデスカルの位置を確認する。
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おかしいな、個室に入れたはずだよな。看守と並んだまま動かないとか変じゃないか?
「あのぉー、陛下、エリウス様。確認なのですが、先程の雷の被害者の中に亡くなったはずの前宰相のオットー公爵様がいて、生きてて船に乗ってるということでしょうか?」
「その通りです」
神眼を意識し地下へと視線を向けオデスカルの部屋を視ると、オデスカルが打った手に頭を抱え蹲る看守の姿が視界に飛び込んで来た。
お、おおいっ、チェス、何、呑気にチェスなんかやってんだよぉっ!?
「ふっ、かなり腕を上げたようですが、まだまだですね」
「うぅぅううううぅぅぅううううぅぅうう」
「陛下、陛下、聞いてますか?」
あん? パフさんがどうして牢屋にってちっがぁ~う。
「えっとはいはい、聞いてます聞いてましたよ」
「本当ですか?」
伊達眼鏡の見えないレンズ越しに届いて来るパフさんの疑いの眼差しは非常に痛い。
「えぇえ、当然じゃないですか。ホラッエリウス続けて続けて」
「……主殿も今のように神眼で視れば直ぐに分かることではありませんか。何故、いつも中途半端にしか力を行使なされないのですか? 今ですよね? 今でしょう? 折角ですからその眼で船の方も視ていただけると私としては有難いのですが」
エリウス、そのウィンクは何? 意味が分らなんだけど……。
「ボソボソボソボソ貸し一つです。ボソボソボソボソ。パフ殿、御安心ください。主殿の神眼は私の神眼神獣眼の上位眼です。先程からその眼で何やら覗き込んでいたようです。パフ殿に言われ生死の確認でもしていたのでしょう。ボソボソボソボソ下の方を視ながら……」
「そうだったのですね」
「そ、そうなんですよ」
「え?」
えって何、えって、エリウスお前がこういう流れにしたんですよ。俺の気のせいですとか言わせないですよ。
「非常時緊急時に備え常時から意識を高く保つことこそ武人の誉です。神眼それもまた一つの到達点と言えるでしょう」
「え?」
それはヤバいだろう。だって、神眼って何でも視えちゃう訳だから、それこそ、行動も心の中も何もかも全部……。プライバシーとかオール無視ですよ無視。
「えって、主殿良いですか。神眼と神罰と神授は神の三大権能に数えられてもおかしくない力なのですよ。神の前で隠し通せる物など存在し得ないのです。ですので、今主殿が考えているかもしれないそのような些細なことなど考えるだけ無駄だと進言致します」
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「私は神獣ですが神です。そのような些細なこと一切気にしません。それは主殿とてそうです。寧ろそうあらねばなりませんっ!! 良いですか、主殿はこの世界の管理神様なのですよ。プライバシー? なんですかそれは、そんなもの誰にも存在なんかしません。世の中誰かが必ず何かを知ってるものです。知らぬは自分自身だけなどということの方が多いくらいです。この世界は理不尽の塊なのです。名のある者にプライバシーが存在しないように名のない者にもプライバシーなど存在しないのです。これ即ち誰にも」
「分ったから分かりましたからこの話は一先ず暇な時に気分が乗って来たら続きを続けるか熟考した上で他に話すことが何もなければ続けるってことで考慮しましょう。で、でなんですが、エリウスが偽装結婚だと考えた件もですが、パフさん」
「は、はい」
エリウスが話し続けている間、大きな窓から海の向こうを見つめていたパフさんは慌てて俺の方を向いた。
「死んだはずの宰相が生きてて船に乗ってるとかおかしな話だと俺も思うんですが、パフさんは何が気になってるんですか?」
パフさんが質問して来る時は必ずその後ろに本当に聞きたいこと本当に疑問に思っていることが隠されている。
……ことが多い。と、俺は思っている。
「オットー公爵の第一子カロリーヌ王女はズィルパール王国の前王妃だったはずです」
「え、そうなの?」
「な、なんと……これで私の推測は確定で決まりですね。自らを死んだことにする為、自軍を全滅させ替え玉に自刃させ火を放った。シュカーベン辺境伯爵家は権力を独占できウハウハ、オットーは自由を手に入れウハウハ。結果として、討伐と衝突によって家を焼かれたり命を落とした市民や兵士のみが痛みを知り深く傷付いただけ」
自らの推測が正しと嬉しいよね。でもさ、楽しそうに語る内容ではないかな。
エリウスの美男子顔から零れる笑顔が小憎たらしいくらい眩しい。
あの顔、羨ましくはない。羨ましくはない……。
……がだ。
「このまま放っておいたら三竦みなのに全面戦争とかやらかしそうなんで、条件を破った不履行を理由にあっでもなぁ~、一方的に突き付けた条件なんだよなぁ~、いっそのこと帝国民の保護を大儀にしちゃいますか。うん、船の人達を外で保護したら、旧ヴァルオリティア帝国に乗り込みましょう」
「「はっ」」
貴重な時間をありがとうございました。
次回(来年)から台詞よりも動きが
暫しの間多くなります。
残すところ後一日と半日程ですが、
皆様、良いお年を。
 




