6-MS-145 コルトに16歳の神授を取り戻せ - 重なり一つになる①と、チヨコと陛下①。 コンセプト -
トラヤヌスさんは、聖王と海洋王と竜王の質問に答えながら器用に話を続けている。
御老体の大王(ターンビット王国の王)は目を瞑り静かにトラヤヌスさんの話を聞いている……ように見せかけいるだけで、実際には居眠り中だ。執務室に居る全員が舟を漕ぐ大王に気付いていないフリをしている状況だ。
帝さんは、新参者若輩者としての立場を意識してなのか、四人の話に耳を傾け頷いてはメモを取りメモを取っては頷いている。
サザーランド陛下は、トラヤヌスさんに丸投げしたことで暇を持て余したのか、宙から剥き出しの羊羹風な菓子を取り出すと応接用のテーブルに直置きし、テーブルに傷を付けながら手刀で七等分し手掴みで王達の席の前に再び直置きした。
雑で豪快で見た目も結構なかなかあれな人だけど、あれでいて以外に優しい気配り風なことが出来る人なんだよなぁ~。サザーランド陛下って。
……ただなぁ~、あのパフさんがフリーマーケットで見つけたとか言ってたテーブル、誰だか知らないけどそれなりに有名な人が手掛けた数物って話だし。
……気付かれる前に修復と複製だな。本物は俺が保管してレプリカを置くことにしよう。何かあった時に直ぐ対応でるにこしたことはないからな。
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サザーランド陛下の動向が気になり四人の熱い会話が耳に入って来ない。
「のう、古の世界の管理者よ」
「はい、なんでしょう。って言うか、王様しかいないし長いんでロイクで良いですよ」
「ふむ。公事私事を区別したいところではあるが、ちょうど暗夜芋棺を茶請にひと休みでもどうかと声を掛けたところだ。であるならば婿殿でも良いのか」
「それって羊羹かなって思ってはいたんですが、メアにもこっちと同じ見た目同じ名前のお菓子があるんですね」
「ほう、この暗夜芋棺と同じ物が古の世界にもあるのか?」
「小豆から作る餡子の羊羹がそんな感じです」
「私の国では、寒天菓子が広く普及しています。煉羊羹、羊羹、水羊羹、葛饅頭、芋羊羹、栗羊羹、鶯羊羹、胡桃羊羹、他にも沢山ありますが、一番人気は粒餡羊羹です」
「暗夜芋棺に粒がのぉー。……この話し合いが終わり次第、若き女王の国へ参るとしよう」
「え?」
「美味い粒暗夜芋棺を頼むぞ」
うんうん、熱心に真面目に話し込んでるあっちと、外交をお菓子で巧みに進めてるあっちと、夢の中の人。……良い感じじゃないか。
うん、ここは、巻き込まれたくないから、静かにしてよ。加入の話は途中だし、重なるとか一つになるとか気になるけど、あのどっちにも、……あの中には入りたくないし。
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創造神様からのメールには、メアは俺の天球と同じような物だから作り直したところで下界履歴に残らないし罰則もないから、あーあれね、あるよね。くらいで良いよ。って書いてあったけど、サザーランド陛下の年齢よりちょっと長い歴史があって、沢山の人が生活してる。
無かったことに、……とか。他の下界の迷惑にしかならないから一度破壊して作り直しちゃおう(創造神様の手で新しい下界として創造する)。……とか、流石に厳しいよなぁ~。
***メールの一部抜粋。
渡者達とその家族達は素材としては異物なんだよね。一瞬で創造できるんだけど邪魔なんだよね。だから、別の界に強制的に引っ越しかな。私としてはコルトが良いと思ってるんだけどね。どうかな?
生活してる人達か。そうだよね、気になるよね。個人の箱庭を分解して下界として創造し登録するとなると、足りないくらいなんだよね。彼等はメアの一部だし、やる時は全部まとめて分解することになるかな。コルトへの渡者爾後の民を融通してくれるなら質量に応じてになるけどメアから好きなだけ持ち出しても良いよ。譲歩はこれが限界だね。どう?
慎重に解体するって決めたの十九億年か二十億年前だったんだよね。今のペースだと後六十億年はかかるらしいのよね。
え?
何でそんなにかかるのかって。そうだよね。知りたいよね。前の所有神が私の説得に応じて手放す時に、約束しちゃったんだよね。
今後一切の干渉行為を行わないことを条件に二つも。
後任には、愛と憎担当の神と闇担当の神と秩序担当の神と魔担当の神を必ず同時に二柱以上で定期的に入れ替える。
それと、来る者拒まず去る者追わず、自力理神意に関わらず出入りを放置する。
未完成、制御不足、解体中、三拍子揃った疫病神みたいな異物の界のくせしてサイズだけは馬鹿みたいに巨大でしょう。知ってた? メアって、巨大な物件トップ十の次点十一番目に創造した下界より大きいのよ。
あ、それよりも気になるよね。愛と憎を任せたのは女神サクーヤメガイリーナで、闇を任せたのは神プルート・ペーで、秩序を任せたのは神メアートで、魔を任せたのは、魔ってねコルトだと精霊魔法とか魔術全般のことで魔獣とか命の方じゃないから気を付けてね。で、魔を任せたのは女神ラジアータ・ノインだね。
こんな感じだからさ何かあったら宜しくね。それじゃまたメールするよ。
***メールの一部終了。
だもんなぁ~。
「ほう若き女王は、歴代皆帝という名なのか。紛らわしいのぉー」
「今上に唯一の名ですので紛らわしいことはないかと」
「なるほどのぉー、一人だけに許された名とは面白いことを考えたものだ」
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「偉大なるメアの一年は一万七千四百二十四日あります。古の世界の一年は三百九十日でしたよね?」
「「「うむ」」」
「前回は軽い重なり歪みでした。二百一年程前のことだったと記憶しています」
「二百一年前、我の記憶にはないな。すると前回の重なりとやらは、異界メアとこの世界ではない何処か別の世界が重なったと言うことだな?」
「トラヤヌス殿、ドラゴラルシム王。人族の我等にとって二百年とは最早歴史の一ページだ」
「ゼルフォーラ王の仰られる通りです。文献書籍で知るか、長命な種族の有識者から学ぶしか知る手立てのない次元の話です」
「寿命の問題ですか。メアでは寿命で天寿を全うする者は少ないので余り考えたことがありませんが確かにもそうかもしれません。短命の者にとって二百年は歴史なのでしょうな。まぁーメアも皆が長命と言う訳ではありませんが敗北し喰われるか飢えて朽ちるかでもしない限り千年万年は余裕で暇な時間を過ごすことになります。時間の概念が違うのはどうしようもないのかもしれませんね」
「ちょっと待ってくれ、我の勘違いでなければだ。その二百年とは異界メアでの二百年、つまりこの世界では九千年前ということになるのか?」
「年も月も紛らわしいですな。同じ基準の日に換算した方が分かり易いのかもしれません。前回からざっと三百五十一万日位経過しているということになりますかね」
「「九千年も前……」」
「九千年前も竜王であったが、かなり前のことで急には思い出せんな」
「私も歳のせいか、高々百万年前のことを思い出すのに、二、三年かかる有様ですよ。フォホッホッホッホ」
「だな。歳には勝てんな。ガッハッハッハッハ」
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「サザーランド陛下のお話では、羊羹、餅、刺身、鯉、花見、宴、不死、全てチヨコ様がメアに齎した物なのですよね? そのチヨコ様とはいったいどのような御方なのでしょうか?」
「千代子と儂の馴れ初め話を聞きたいとは、儂のコイバナはちと長いがそれでも良いのかの?」
「はい、同郷の者の可能性がありますので、是非お聞かせください」
「ふむ。儂と...... ~ ......」
貴重な時間をありがとうございました。




