6-MS-138 コルトに16歳の神授を取り戻せ - BBQの肉にも合う。ハニー① -
時刻 ―――15:00―――
BBQパーティーが始まった。
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「わ、わ、わ、わ、わ我を騙したなぁ~っ!!!!」
「騙したとはまた神聞きの悪いことを」
「渡された時におかしいと思ったのだっ!! な、何がこのシャンパンゴールド色の伊達眼鏡とパステルピンク色のちょび髭を付けるだけで四倍美味しくなるだっ!! こうしてこうしてこうしてやる」
伊達眼鏡とちょび髭を地面に叩き付け両足と尻尾で器用にグリグリと踏み付け、殺気交じりの視線でイエレミーヤ様を睨むロザリークロード様。
「邪神竜、貴竜は何か勘違いしていませんか?」
「か、か、か、か、勘違いだとぉっ!! 眼鏡を付けた、髭を付けた、肉を食べた。……がっ、がだ。肉も魚も貝も果物も野菜もチョコレートも肉も肉も肉もどの肉も付ける前と何ら変わらず微塵も美味くも不味くも……こ、こ、これの何処が四倍だぁ~~~っ!!!!」
「ですから何を勘違いしているのです。私は言いましたよ。私は、私ならあの線を断線させることなくBBQを四倍楽しむ方法を教えて差し上げることができますが、いかがでしょうか、と」
「で、これのいったい何処が四倍なのだぁ~っ!!」
食材が一つも乗っていないBBQコンロを指差しロザリークロード様は世界中に響いたんじゃないかと思えるくらい大きな声で咆えた。
四倍美味しくなってはいながいちゃんと全部食べてるところは、何とも……。
「どうやら私は大切なことを失念していたようです。楽しさの基準、楽しさとはそれぞれ、個によって異なるという事実を失念していたようです」
「な、何が言いたいのだ」
「四倍。大きく出過ぎたと後悔しております。察するに貴竜には二倍程度の効果しかなかったのでしょう」
「なるほどのぉー、我の抵抗値が高過ぎるが故に四倍美味しく食べれるはずの効果を打ち消してしまった訳か……ひ、ひ、悲劇ではないかぁ~っ!! わ。わ。わ、わ、わ、わわ我が強過ぎるが故に……運命とは何と残酷なのだぁ~~~っ!!!!」
地面に崩れ落ち、地面を両腕と尻尾と額で器用に叩き付けるロザリークロード様。
地震みたいに揺れてるんで、そろそろ止めて欲しいところなんだが。……まぁー何だ、心の底から本気で関わりたくないんで黙って見てよ。
「きっとそうなのでしょう。貴竜は双極を成す神竜なのですから。私もそれなりに抵抗値が高い方なので、きっとそうなのでしょう。この眼鏡と髭を付け何かを口にしたところで、実際何の変化も感じられなかったのです」
宙から自身の眼鏡と髭を取り出し顔にセットするイエレミーヤ様。
配色が可笑し過ぎて、直視できない。さっきも思ったけど、あれはないよなぁ~。
「イエレミーヤ!? き、き、き貴様そのように不確かな物をあのように偉そうに宣って……」
「ですが、これをここだけの話だからと伝授してくれたのは、第二神のフォルティーナ様です。神の中で最も下界に精通された御方に間違いなどあるはずがございませんでしょう?」
……あぁー、その眼鏡と髭ってフォルティーナだったんだ。何だろう物凄く納得できたわ。
「そう、か? ……そう、だな。あのギャンブルの神が己の得にならぬことをするはずがない。嘘を騙して得をするなど有り得ぬ以上この眼鏡と髭は真実なのだろう」
踏み付けられ、最早原形を留めていない眼鏡と髭を見つめながら、ロザリークロード様は寂しそうに呟いた。
「だが、現実は四倍になっておらんのだ」
「残念ながらそのようですね」
「イエレミーヤよ。我は寛容な竜だ。今から食するBBQが三倍美味しかった時には、我は約束を果たす。異論はないな?」
「……仕方ありません。ですが、私の方法ですら結果が伴わなかったのです。ロイク君に三倍という奇跡が起こせるのか楽しみです。ということなので、ロイク君」
「……はい」
イエレミーヤ様とロザリークロード様はさっきからいったい何をやってるのだろうか。
四倍楽しむ方法って、味じゃないよな。
「我が眷属ロイクよ。許す。我をもてなすことを許す」
「肉を焼けってことですね」
「そうだ。我、こう見えて以外に薄味でな、それと辛いのもちょっと好きくないのだ」
「了解しました」
あっちのテーブルの二柱様は、…………あの感じだと殆ど生焼けの状態で早大食いやらかしてるな。味に文句が無いならこのまま放置で良いだろう。
「それじゃ始めますか。イエレミーヤ様にも狩人として培った俺のBBQの腕を御覧に入れてさしあげましょう」
「ホォー凄い自信ですね」
そりゃそうですよ。宴会芸のパーツに負ける訳ないじゃないですか。この。
「焼き加減もそうですが、ソースタレが決め手なんですよ。しかもこのマヌカハニーがね」
「「ソースタレ? 肉にハチミツだと」ですか?」
「そうです」
貴重な時間をありがとうございました。




