1-43 夜の森の顔と、悪魔トゥーシェ。
宜しくお願いします。
――― 王都モルングレー
ジェルマン・パマリ子爵邸 ゲストルーム
――― 6月8日 23:00
王国中央街道ルート4は王都モルングレーと王国東の大都市フォーラムを繋ぐ総距離約324.8Km。これは、各街の外壁より内側の道の長さは計算に含まれていない。ルート4の場合、ブオミル侯爵領ロイの北門出入管理所から東門出入管理所までの距離。パマリ侯爵領コルトの南外壁門出入管理所から北外壁門出入管理所までの距離を総距離とは別に考える必要がある。
ルート4唯一の難所『名を持たざる森』の道のりは約14Km。王国の街道規格により道幅は広く休憩所も整備され移動その物にストレスを感じる事は無い。だがそれはあくまでも日中の話である。2つの陽が地平線へと沈み姿を隠すと『名を持たざる森』は『歪みの森』へとその名を変え姿を一変させる。森のあちらこちらに視認不可能な無数の歪み歪みが生じ、ルート4を行き交う旅人達の行く手を阻む。王都へ向かっていたはずが気が付くとロイに向かっていたり、同じ地点をグルグルと真っ直ぐ歩いていたり、街道から外れ森の中に迷いでしまったり、一度歪み歪みに嵌まり込んでしまうと抜け出す事は簡単では無い。陽が昇り『歪みの森』から『名を持たざる森』へ名を変え姿を変えるのを持つのが現実的だ。その為、この『名を持たざる森』を『歪みの森』としてあえて通り抜けようと考える者は居ない。12時間待つだけで陽は昇り朝が訪れるのだから・・・そんな森に、後1時間で夜が訪れようとしていた。
俺は、大精霊マルアスピー様、契約奴隷パフ・レイジィーさん、子爵令嬢アリス・パマリさん、125歳の解呪士モニカさん、モニカさんの父ピーターさん、モニカさんの母ビアンカさん、来孫のルナさんと、ジェルマン・パマリ子爵様の王都にある本邸のゲストルームで、俺と、マルアスピーと、パフさんにしか見えない状態で神授スキル【タブレット】の画面を10倍に拡大し宙に表示させながら、ロイ側から森に入って3Km位の地点から一向に動く気配を見せない第3師団の動向を伺っていた。
誰もが知っている。それが常識・・・・・・俺、マルアスピー、パフ、アリスさん、ルナさんは、夜の森の顔を知らずにいた。
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「アリスさんどうします?」
「そうですねぇ~。合流の約束地点は王都の南東門の出入管理の手前ですし、ロイク様の馬車にモニカさんとルナさんを移動させても今の場所では意味がありませんし・・・」
「上り坂が1つある位で、10Km以上も渋滞する物なんですか?俺の育った所は、馬車が並んで渋滞するなんて事が無かったのでピンと来ないんです」
「王都では、1日に3000以上もの馬車が入都します。そしてそれと同じ、いえそれ以上の馬車が出都します。他にも船の積み荷用の馬車が王都内を行き交います。乗り合い馬車に商家や軍人や貴族の馬車。実際はもっと多いでしょうが、1割程の馬車がルート4を使って王都へ入都するとして、1日に300以上の馬車が森を抜ける事になります。4人乗りの馬車の平均的なサイズが輓獣を入れて約8mとして、軍隊での馬車の車間距離は約5~6mです」
「なるほど、1列にならんだとして、ざっと4Km位にはなる訳か・・・コルトもロイも門や広場に馬車の停車場が大きく整備されていたし、馬車の需要が高い事は分かっていましたが・・・王都ってやっぱり凄いなぁ~・・・」
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「ロイク様。ファルダガパオが今の様に小さな巾着や鞄の姿になったのは、100年程前の事なんですよ」
「そうです。私が成人した頃、巾着袋や小さなバッグが、ファルダガパオとして登場しました。当時は個人用のファルダガパオは非常に高価な物で、貴族様や豪商達のお洒落アイテムの様な感じでした。ファルダガパオと言ったら、樽や大箱や長距離移動用の大きな鞄、納戸で、馬車や船の積み荷を見ると、あっ!ファルダガパオだ。と、今でも思います」
モニカさんは、アリスさんの話に捕捉した。
「ファルダガパオは今でも高価な物ってイメージですが、荷物を運搬する為の物が最初で、個人的に持ち運び、私物を入れておく物になったのは最近だったんですね」
「今でも、大きな屋敷や商家商人、軍隊には、樽や大箱や納戸タイプのファルダガパオは必需品なんですよ。この屋敷にも納戸タイプのファルダガパオが厨房や私達の部屋には備え付けられています」
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「あぁ~確かにそうですよね。馬車の積み荷がファルダガパオだってどうして気付かなかったんだろう・・・」
「それに、ファルダガパオの重さはファルダガパオになっている入れ物の重さ分しかありません」
「そうですね」
「ロイク様。これを」
アリスさんは、肩にかけたポシェットを俺に差し出す。俺はポシェットを受け取った。
「そのポシェットは軽いですよね?」
「はい」
「ですが、私の弓や矢や戦闘用の武具に、非常食や水、回復道具や緊急時用の衣類や道具が入ってます。ざっと200Kg以上入ってる事になりますが、その重さです」
「アリスさんの、このポシェットは、何Kgまで入れる事が出来るんですか?」
「700Kg位までは入るはずですが、入れた物の管理が大変なので、300Kg以下に抑え日常品は入れ無いようにしています」
「なるほど」
「ルナさんのそのポーチもファルダガパオですよね?」
アリスさんは、モニカさんの来孫ルナさんのポーチを指差した。
「はい。アリス様。このポーチは50Kg程しか入りませんが、ファルダガパオです」
「ロイク様。ですので、坂では積み荷を多く積んだ馬車は慎重になるのです。一見軽そうに見える積み荷ですが、積載量は見た目からは想像も出来ない量という場合もあります」
「確かに、180リットルの樽がファルダガパオで、樽自体は50Kgだとしても、中身はその倍って状況の場合、中身が外に飛び出したら360Kgって事ですからね・・・」
「ロイク様。樽の場合は10倍以上というのが普通です。ファルダガパオの基本的な常識を御存じ無い様ですな」
モニカさんがやれやれといった顔で教えてくれた。
***今更ながらファルダガパオの説明***
【ファルダガパオ】※魔導具※
物品の保管や輸送の際に利用する魔導具。
物品を収納可能な形状であれば何でも
ファルダガパオにする事が出来る。
※オール金属の物はファルダガパオに
何故か出来ない※
重量は、ファルダガパオにした物の
元の重さだけが反映され、収納した物品の
重さが反映される事はない。
ファルダガパオの容量は、元の物の強度に
依存する為、繊維、木材、他で、
ある程度容量を把握する事が出来る。
≪箱の場合≫(3辺=約90cm)
繊維素材(植物)約1000Kgまで
繊維素材(動物)約1100Kgまで
木材(植物です)約1600Kgまで
≪樽型の場合≫(容量180リットル)
木材(植物です)約3000Kgまで
※樽自体の重さ約50Kg※
木材+繊維補強 約3800Kgまで
※樽自体の重さ約53Kg※
木材+金属補強 約6000Kgまで
※樽自体の重さ約65Kg※
容量を大きくする為には、スキルレベルや、
高度な魔術コントロールが必要になる為、
各素材で容量の大きなファルダガパオは、
高価で貴重な物として重宝される。
***簡単な説明おわり***
「なるほど、綿や麻や絹だと、容量の大きなファルダガパオを作るのは難しいって事なのか・・・」
「ロイク様。因みに、液体をそのまま運ぶ場合は、液体が零れない形状のファルダガパオでなくてはいけません。私のポシェットやルナさんのポーチでは液体をそのまま運ぶ事は出来ません」
「瓶や樽に入れた水なら、瓶、樽として運べる訳ですよね?」
「はい」
「アリスさんのポシェットはサイズも小さくしかも布ですよね?それでも、容量は700KgまでOK何ですよね?」
「金糸で補強された布を、金糸で縫い合わせ作らた物だからです」
「なるほどぉ~金属で補強されたポシェットだからって事か・・・」
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俺達が、馬車やファルダガパオについて語り合っていた頃、名を持たざる森では・・・
――― 王国中央街道ルート4
名を持たざる森 ロイ側から3Km地点
―― 6月8日 23:30
中央騎士団第3師団一行は、ロイ側の入り口から森へ入って3Kmの地点で立ち往生していた。王都側の入り口で馬車同士の接触事故が発生し復旧作業中らしいという情報が前方より齎された事もあり、誰一人事態を深刻に考えていなかった。
だが、一向に進む気配を見せない状況に、立ち往生している旅人達の中にも不安を口にする者が出始める。森の中は街道こそ整備されているが、大きく高い木によって陽は遮られ陽の角度を正しく知る事が出来ない。旅人達は名を持たざる森の夜の名を思い出し引き返すべきかの判断に戸惑っていた。
そんな中、第3師団団長ジェルマン・パマリ子爵は、タイムカウンターを見ながら、ロイまで引き返す事を決断し、ロイクからこの魔導具を譲り受けていた事に、心底感謝していた。
「皆、良く聞け、このまま進んだとして、陽が沈む前にこの森を抜ける事はもはや不可能。我々はロイに引き返し明朝改めて王都を目指す」
「はぁっ!」
「後衛の騎兵は、前方の馬車にもう直ぐ陽が沈む。我々第3師団に従いロイ側の森の入り口まで引き返す様にと伝えろ。前衛の騎兵は、後方の馬車に同じように伝えろ」
「はぁっ!」
「良いか。下り専用道への移動は慌てず速やかに行わせ、街道の移動も無理の無い速度で行う様に指示しろ」
「はぁっ!」
「我々は、下り専用道側の休憩地まで移動し、引き返す馬車が居なくなったのを確認後、ロイへ移動する」
「団長殿」
「騎士マケイン。どうした」
「私達は森に入ってからほとんど進んでいません。ですが、前方の馬車は森の中央。陽が沈む前に王都側ロイ側からで森を抜け出す事が出来るでしょうか?」
「無理だろうな・・・どちらに動いたとしても無理な者達は陽が沈んだ時点で、朝まで動かずじっとしているしかない。我々も今日はこの森で野宿の覚悟が必要だぞ」
「はぁっ!」
「もう少し早く引き返す決断をするべきだったか・・・」
「貴方の責任ではありません。・・・いったいこの先で何が起こっているのでしょう」
マリア・パマリ子爵夫人は、街道の王都方面を見つめる。
「そうだな、事故にしても街道の復旧が遅過ぎる。ここに立ち往生してから、王都方面からの馬車を3車両しかみていない。王都側の森の入り口で上下共に交通を麻痺させる何かが起こっているのかもしれないが、この状況では我々ですら確認しに行く事も出来ない」
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その頃、ルート4の王都側の森への入り口付近は、冒険者パーティー【トワイライトフレイム】と【イージーメロウ】。王都や周囲のクエストから加わった彼等の仲間の冒険者達が激しく衝突し戦さながらの状態になっていた。
――― 王都モルングレー
南東門 出入管理所
――― 6月8日 23:58
森の入り口から王都の南東門の出入管理所までは約36.4Km。争いに気付き、王都へ引き返した馬車が軍へ通報したのは、陽が沈む直前の事だった。
出入管理所の王国軍の徴収兵達は、王国軍の王民地区詰所と王都駐屯オルドルロアへ、迅速な行動を以て鎮圧要請と街道利用者の保護を要請したが、2つの陽は沈み夜の時間が訪れていた。
王国軍は騎士団に先立って騎馬隊300名を出陣させた。王国軍に遅れる事、約20ラフン後、王都駐屯騎士団(王都が独自に管理する騎士団)は50車両からなる戦車隊を出陣させた。王国軍の騎馬隊300名が現地に到着するのは、6月8日の26:13。王都駐屯騎士団の戦車隊が到着するのは、6月8日の26:50。もう少し先の事になる。
中央街道を舞台に冒険者達が争う。その程度の事件が、貴族達が居住する地区へ報告される事は無い。
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――― スタシオンエスティバルクリュ
別荘(本邸も無いのに)のリビング
――― 6月8日 24:20
今日の内に、モニカさんとルナさんの入都手続きは無理だと判断した俺は、モニカさん、ピーターさん、ビアンカさん、ルナさんに家族用に準備された部屋で夕食の時間まで過ごす事を薦め、アリスさんにパフさんを預け、マルアスピーと2人でスタシオンエスティバルクリュの別荘へ神授スキル【フリーパス】で移動していた。
俺は、神授スキル【タブレット】を、第3師団の動向を常に確認出来る様にした状態にした上で、タブレットで違う事が出来ないか実験していた。
「マルアスピー。この画面の表示の仕方ってどう思う?」
「どうって聞かれても、どう答えたら良いのか分からないわ」
「見た感じとか使い勝手とかその辺りの視点で気付いた事とかあったら言ってください」
「そうねぇ~・・・良いと思うわよ」
「・・・どんな感じでですか?」
「何となくよ」
「そんな適当な」
タブレットの画面は、拡大する事が出来る。それなら、分割する事だって出来るんじゃないか。アリスさんとパフさんが2人でケーキを切り分けている時に、俺はそんな疑問を抱いた。実験の結果、画面は62個に分割する事が出来た。画面の縦横に関しては決まりは無い。ただし、1つ1つは通常のタブレットのサイズ幅約18cm×奥行約26cm×厚さ約0.5cmから変更する事が出来なかった。画面の数を減らす事でサイズを拡大する事は出来た。
画面の透過率を上げ、顔の前方40cm。右目から40cm右と、左目から40cm左に、タブレットの画面を3つずつ横にし配置した。そして、顔の前方40cm。額より30cm上に、タブレットの画面を横にし左右に1つずつ配置した。
正面にはメインの画面を表示したり非表示にしたり。周りの画面を正面に移動させたりと実験を重ねた。そして、偶然発見した機能がこれだ。
「マルアスピー、パフさんのステータス値の画面です」
俺は、マルアスピーの顔の正面50cmの所に、2倍に拡大したタブレットの画面を俺の正面から飛ばし、マルアスピーに投げた画面と同じ画面を俺の正面に表示させた。俺以外の者は画面に触る事は出来ないが、可視化の対象にする事で視認する事は可能だ。
「【HP】と【VIT】がもう少し高い方が良いわよね?」
「俺もそう思います。国王陛下に謁見した後は、時間に追われて動く事も減るでしょうから、パフさんのレベル上げでもしますか?」
「そうね。ロイク。この画面にエクレアのレシピを表示してくれるかしら」
「良いですけど、厨房までは無理ですよ」
「完成品とレシピを見るだけよ」
「分かりました」
画面マルアスピーの表示を変更・菓子・エクレアの写真とレシピ 更新 ≫
≪・・・画面マルアスピーの表示を更新しました。
俺は、マルアスピーの目の前に飛ばした画面をエクレアのレシピへ切り替えた。俺の正面の画面まで一緒にエクレアへと切り替わる。
「画面マルアスピーを複製しただけだと、画面マルアスピーと同じ扱いで処理されちゃうみたいです」
「タブレットの画面を他者に渡したり、複数の画面を同じ映像で共有出来たり、このスキルはとても素晴らしいです」
「そうですね。これで、俺との距離の問題が無ければ、完璧ですよね」
「この家が広過ぎるのよ。200m~220mならロイクから離れていても画面を確認する事が出来る訳なのだから、私の家や村の家でなら何の不自由もありません」
「パーティー戦闘の経験が無いので、これも練習が必要ですが、パーティーメンバー全員に敵や対象の情報をリアルタイムで視認出来る様に画面を維持する事が出来たり、俺が次にやる事を画面で伝える事が出来たら凄いですよね」
「えぇ。離れた状態にありながら、目の前で話をしてる時と変わらない意思疎通が出来る訳です」
因みに、今日試した画面の配置では、左の上段はマルアスピーの情報。左の中段はアルさんの情報。左の下段には自分の情報。正面上左には畑の映像と情報。正面上右には第3師団の状況。右の上段には時間。右の中段には神様からのメール。右の下段には発動中のスキルを把握出来る様にした。正面の画面はエクレアだ。
「あれ?」
「どうしたの?」
「第3師団の周囲から人が居なくなったはず何ですが、突然現れたり消えたり変なんです」
マルアスピーが俺の隣へ歩いて来た。
「画面を拡大してくれるかしら」
俺は、正面上右の画面を正面に移動する。そして画面を10倍に拡大した。正面の画面にぶつかった周りの画面が非表示状態に自動で切り替わる。
「第3師団の周囲100mだけでは状況が掴み難くありませんか?」
「さっきまでは2kmにしてたんですが、動向を確認するだけだったので範囲を100mにして拡大して見てたんですよ。2kmに戻します」
ジェルマン・パマリを中心に半径2kmを表示。第3師団関係者を青色。周囲の人間を黄色。魔獣を赤色。画面に時間を表示 更新 ≫
≪・・・画面の表示を更新しました。
20個程の黄色の点が現れては消え消えては現れる。落ち着き無く点滅を繰り返す画面。
「何ですかこれ?人間がこんな早く移動出来ると思えないんですけど・・・」
「あら?ですが、止まっている点は、落ち着いている様ですよ」
「う~ん・・・範囲を拡大して森にいる人間の数を正確に把握した上で、判断した方が良さそうです」
ジェルマン・パマリを中心に半径15kmを表示 更新 ≫
≪・・・画面の表示を更新しました。
「人間に限らず魔獣まで何なんだこれはいった・・・」
「動かない点と動き回る点。大きく道から外れて森の中へ移動している人間種もいるようですね」
「マルアスピー。この王都側の森の入り口付近で、黄色い点が激しく動き回っている様ですが、森の中の高速移動とは違うみたいだし、何だと思います?」
「森の外で何かやっているのではないでしょうか?」
「丈の高い草地が広がっているって言ってたし夜行性の獣の狩りとかですかね」
「魔獣では無い様ですし、ロイクが気にする必要は無いと思いますよ」
「しかし、夜に40人以上で狩りって、王都ってやる事がいちいち大きいよなぁ~」
「本に書いてありましたが、人間種は大勢集まると、大きくなるそうです」
「何が大きくなるんですか?」
「体重や背丈では無いと思います。何が大きくなるのでしょうね・・・」
「そこが、重要じゃないですか?」
「ロイクは人間種なのよ。私より詳しく無いとダメよ。当事者なのよ当事者」
「・・・何か悪い事したみたいな言われ様ですね」
「フフフッ」
「ジェルマン・パマリ子爵様達に害が無い状況なら別に気にする必要も無いですよね?」
「騎士団は皆大人なのよ。竜や強い魔獣にでも襲われない限り、自分達で何とか出来るわよ」
「それもそうですね。夕食の時間みたいだし食事の部屋に行きましょう」
「そうね」
「食べ終わったらどうします?王都のジェルマン・パマリ子爵邸に戻りますか?」
「パフちゃんと、侯爵邸で食べたお菓子のレシピをまとめる約束をしているから、戻りたいです」
「分かりました。食べ終わったら、ジェルマン・パマリ子爵邸に行きましょう。アリスさんにも森の状況を教えてあげたいし」
「そうね」
俺とマルアスピーは、料理の神chefアランギー様と妖精5人がセッティングした食事専用の部屋へと移動した。
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――― スタシオンエスティバルクリュ
別荘(本邸も無いのに)の食事専用の部屋
――― 6月8日 25:00
食事専用の部屋には、料理の神chefアランギー様が既に待機していた。
「おんやっ!パトロンロイク殿に奥方よ。本日は1番乗りですはい」
「俺達が最初だったんだ!皆が集まるまで待ってるから何か飲み物を貰えますか?」
「承りました。アメール君。御主人様と奥様に食事の邪魔にならない紅茶をはい」
≪パンパン
料理の神chefアランギー様は右手を顔の右横に上げると左手で右手を2回叩いた。
「ウィーchefアランギー」
厨房へ続くドアの向こうから元気の良い返事が聞こえる。
≪フワァッ
俺の横に運の神フォルティーナ様が現れた。
「ロイクにアスピーはもう来ていたのかね。調度良かったね」
「集まったら食事にしようと思って、今お茶を頼んだところです」
「そうかね。おっとアルを呼ばなくては」
≪パチン
俺の膝の上にアルが現れた。
「うわぁっ!」
「え?あっ・・・何?」
「おかしいね・・・椅子を1つ間違えたね。失敬失敬だね」
「アルさん。降りて貰えますか?」
「あっ!は、はい。ロイクさんすみません」
「運の神様のせいですから、気にしてませんよ」
「ロイク。運の神様では無いね」
「あぁ~そうでしたね。フォルティーナのせいですから気にしないでください」
「二回言うかね!」
「言い直しを要求したのはフォルティーナですからね」
「・・・そうだったね・・・今日は許すね。1つ頼まれ事をしてくれるならだね」
「頼まれ事?」
「調度良かったね」
「嫌な予感しかしませんが、俺に何をしろと?」
「以前、あたしのフライングドラゴンが逃げた事があったね。覚えているかね」
「先日の事ですからね」
「その時に逃げ出した子の数が合わないね」
「はぁ~?フライングドラゴンが他にもサス山脈の近くに居るって事ですか?」
「いやいやだね。フライングドラゴンは籠を食い破って逃げたね。その時に違う籠が下界に落ちたみたいだね」
「下界に落ちた?どうやって落ちたら下界に落ちたりするんですか?」
「あたしの神殿の隔離用の部屋にだね。フライングドラゴンが籠を食い破って逃げた時に穴を開けたね。ロイクに渡したrésidencedieuガラス玉に小さな傷があったね」
「はぁ~・・・」
「あそこからフライングドラゴンは下界に逃げたね。その時、籠の隣に置いてあった籠にたぶんぶつかったね。それで、数が合わないね」
「・・・その数が合わないって魔獣は何て魔獣なんですか?」
「魔獣じゃ無いね」
「籠の中に隔離してたんですよね?」
「そうだね」
「籠の中には何が居たんですか?」
「簡単に説明するとだね。女の子だね」
「・・・簡単過ぎて性別しか分からないんですが」
「魔界の悪魔域の住人悪魔の女の子だね」
「・・・」
「どうしたね」
「いや、何て言いますか・・・それでその悪魔の女の子は、どうして隔離されていたんですか?」
「はて、どうして隔離した悪魔をあたしが預かっていたんだろうねぇ~・・・忘れたね」
「容姿は?」
「覚えてないね」
「名前は?」
「悪魔の女の子だね」
「いや、それ種族と性別です」
「知らないね・・・」
「それで、俺にどうしろと・・・」
「下界のサス山脈から北の何処かに落ちたね。籠が壊れていない事を神に祈るね」
「神って、フォルティーナは神ですよね?」
「あたしは運の神遊びの女神だね」
「・・・」
「ねぇロイク。その悪魔の事はタブレットで調べる事は出来ないのかしら?」
「この世界に悪魔何てその女の子の悪魔位でしょうから直ぐみつかるんじゃないですか・・・って、それですよ」
可視化:検索・対象・ゼルフォーラ王国全域・魔界の住人悪魔の女の子 ≫
≪・・・該当は1名です。
該当を表示 ≫
≪・・・表示しました。
「あっ・・・」
「あらま」
タブレットの画面が表示したのは、第3師団が野営している森だった。悪魔の女の子は激しく動き回っていた。
「画面を統合 悪魔の女の子を白色で表示 ≫」
「ねぇロイク」
「はい」
「これって、危険って事よね?」
「たぶん、そうでしょうね。籠の中にいてこんなに激しく動き回れる訳がありませんから・・・食事処では無い様です・・・」
「ロイク。君は何を言ってるね。【召喚転位】で、対象を呼ぶね」
「場所は分かっていますが、名前が分からない者を召喚は出来ないですよ」
「名前は知らないね」
「ねぇロイク。画面の白い点が悪魔の女の子なのよね?」
「そうです」
「詳細情報を表示して貰えるかしら」
「分かりました」
悪魔の女の子の詳細情報を画面に表示 ≫
≪・・・表示しました。
***悪魔の女の子***
【名前】トゥーシェ【性別】女
【種族】悪魔種夢魔族
【生年月日】――――― 66月66日
【年齢】60000013歳
【血液型】――
【身分】上級悪魔(子供)
【階級】伯爵令嬢
***説明おわり***
「名前だ・・・」
「あたしの神頼みが通じたね。神もたまには役に立つね」
「・・・そ、そうですねぇ!」
「転位召喚でここに呼ぶね」
「分かりました。フォルティーナの前に呼び出します。後は任せますからね」
【召喚転位】対象・悪魔トゥーシェ:場所・運の神フォルティーナの前 発動 ≫
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悪魔の女の子トゥーシェが、フォルティーナの前に出現した。
「この森は何なのじゃぁ~・・・・・・あれ?・・・ここは何処なのじゃぁ~・・・げぇっ!神?」
悪魔の女の子トゥーシェは、キョロキョロと周りを見渡すと、俺と視線が合った。そして、俺の方へ飛び掛かって来た。
「そこの男。お前の頭の中を借りるのじゃぁ~」
≪ゴォ――――ン
「な、な、何が・・・」
俺の周囲に自動で張られている結界。聖属性の結界に彼女は頭から勢い良くダイブし気絶した。右の角が折れ衝撃の強さを物語っていた。
「マルアスピー。もしかしたら、この悪魔の女の子のせいで、森がおかしな事になっていたのかもしれません」
「そうね。原因がここに居る訳です。これで安心です」
「夕飯を食べ終わったら、王都に戻って大丈夫だって事をアリスさんに伝えましょう」
「そうね」
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悪魔な女の子を運の神フォルティーナ様は、神気【時空牢獄】に閉じ込めた。神界通販で購入した新しい籠が届くまでの代わりだそうだ。
その後、俺の父バイル・シャレットと母メアリ・シャレットが食事専用の部屋にやって来た。俺達は、時空監獄の中で気絶する悪魔な女の子を尻目に、妖精のお仕事が織りなす究極至極の料理を楽しんだ。
「さて、デザートも食べ終わりましたし、王都に行きますか?」
「そうね」
時刻は、26:10。王国軍の騎馬隊と冒険者達が戦いを開始する3ラフン前だった。