6-MS-120 コルトに16歳の神授を取り戻せ - 見えるモノだけが真実とは限らないビーフェルトウズザハート -
建築名:煩悩百八心の神殿
素材名:大樹の森の巨樹・宝石・金銀・大理石
他、か。
心って言い張ってたけど流石は煩悩の神殿ってところか。
「右側の窓と煙突が沢山見えるのが心の神殿だとして、目の前って空き地ですよね。ここに建ってたはずですよね……」
「はい。セレブレーションパーティーで前代未聞の毒味役七人が倒れるという情けないスタートを切ったのは間違いなくここであっております」
「毒ねぇ~、毒って言っても、精神とか心の迷いにつけこまれて気を失ったって話じゃないですか。毒味ってもっとこう、毒です。このスープには毒が入っています。とか、このワイングラスの淵には毒が塗られています。とか、分かり易い物だったと記憶してるんですが」
「それも一つです」
「一つですか……」
「はい。毒味役には低レベルの毒耐性が求められます」
「それって強力な毒だった時危なくないですか?」
「はい。毒を見つけるのが仕事です。全ての毒を無毒化或いは全ての毒に耐性を持っていては見つけることが出来ません。ですので低レベルの耐性が必要なのです」
「あぁーなるほどね。って、違う違う。毒の神殿の毒って精神の話であって毒物とか目に見える物じゃないって俺は言ってるんです」
「それも一つです。肉体への毒も精神への毒も本質は何も変わりません。毒はもれなく毒でしかありません」
「いや無理があるって、精神への干渉(攻撃)は対応した耐性がないと対抗とか抵抗なんて普通は無理です。でも、毒は麻痺とか昏睡とか失神とか効果は関係ありません。毒耐性がある程度高ければ基本的には無効化できます。あくまでも、毒が原因だったらですけど」
「はい」
はい。って……絶対分ってないですよね。
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エリウスと一通りウロウロと確認して回った後、毒の神殿が建っていたはずの空き地の砂浜寄りに立ち、最後にもう一度だけ違和感を探す。
「本当に空き地になってしまったみたいですね」
「そのようですね」
アシュランス王国では建物は簡単に建つし簡単に移動する。勝手に動く物ではないが、結構簡単に動かせる。
地属性や風属性の心得や運用のレベルが高い人が多いからだ。因みにその理由は、建国したばかりだけど教育研修研究機関が充実しているからだと俺は考えている。
それはさておき、問題は毒の神殿が何処へ行ってしまったかだ。
タブレットでは、毒の神殿は俺達の目の前にあることになっている。が、目の前に無いのは間違いない。調べて分からないことは聞くに限る。
そうと決まれば、聞き込み開始だ。
「エリウス」
「はっ」
「俺は心の神殿で聞いて来ます。エリウスは技の神殿の方をお願いします」
「はっ!! …………は? はっ、じゃない。主殿、私は主殿の盾です。盾が主殿の傍を離れてしまっては盾としての存在意義が、私の意味が見出せません。同行致します」
いっぺんに済ませたいのに、ホント面倒な……。
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「朝、門前の御掃除をと外に出ると無くなってました。毒三の建立三日目のことだったかと」
「朝、裏門に御投棄をと外に出ると消えてました。確か、式典の三日後だったはずです。何処に行ったんだろうね。解毒され無毒になって消えてしまったのかもね。何て噂もありますね」
二つの神殿の関係者からは、同じような話しか聞き出せなかった。
これからどうしようかとエリウスと話をしていると。
「あれ、ロイクも散歩か?」
地の中精霊ミュー様がカラフルな花束を抱え近付いて来た。
散歩!? ここって家から結構離れてると思うが。こんなところまで散歩? 地の精霊様は散歩が好きだって話だけど片道三十kmはもう散歩って言わないような気が。
「ちょっと用事がありまして、ミュー様は散歩ですか。こっちの森は嵐の範囲に入ってなくて良かったですね」
「市街地は風と水が狂ったように舞ってて怖かったぞ」
「濡れてませんね」
「これでも精霊だからな。あのくらいはへっちゃらだぞ」
花束を抱えながら胸を張られても良く分からないが、あの自慢気な感じはそうなんだろうな。
「ところで、エリウス様。パフパフが探していたぞ」
「さ、左様でしたか、……ですが私は公務の真っ最中ですので、パフ殿の御期待に応えることは難しく」
「ロイクの後ろに居るだけだろう。今日は無理だけど代わってやっても良いぞ」
「いえ、私は盾。盾はいかなることがあろうともその信念を曲げることはないのです」
「ふぅーん……そっか。散歩じゃなくて仕事だったのか。ロイクと盾はここで何してたんだ?」
「私達は先日建立されたばかりの毒の神殿に要があり泉まで来たのですが、御覧の通りでして」
エリウスは空き地へと腕を振り視線を動かした。
「あぁーそっかそっか、ここって風通しが良くなって空気が美味しくなったからな。ゆっくりしていくと良いぞ。そっかそっか、それじゃー、僕はタルヒーネちゃんの引越しパーティーに呼ばれてるから。またねだぞ」
「それで花束を抱えていたのですね」
「そうだぞ。ロイク、夕飯でだぞ」
「えぇ、パーティー楽しんで来てください」
「おお」
砂浜に足跡を残し泉へと近付いて行くミュー様の背中を見つめながら、ふと思う。
タルヒーネちゃんって誰?
と。
貴重な時間をありがとうございました。
 




