6-MS-116 コルトに16歳の神授を取り戻せ - 失敗は誰にでもある、そこからどうすのかザッツアプロブレム -
「chefアランギー様、今日の夕食は申し訳ありませんが欠席でお願いします」
「ふんーむっ、なるほどなるほどなぁーるほど、母と娘、楽しんで下され。そうですなぁーリディア殿にこれをば」
パンパン。
chefアランギー様のパルマセコの音が響くと、chefアランギー様の手元には『ゴールドシートカリーの粉』と書かれた銀色の小袋が出現した。
「これは?」
「完成した料理にお好みでフリカケてくだされ。劇的な変化を約束いたしますですぞぉー。そうそう、フリカケた後は良くカキマゼるをお忘れなきよう。カケ過ぎにもご注意くだされ。はい」
「ありがとうございます」
***chefアランギー様の回想終了。
「......~ ......と、つまり朝食を欠席する話は聞いておりません。妖精のおしごとの諸君っ!!」
「「「「「ウィーシェフ」」」」」
「料理が冷めてしまう前に、パフ殿を料理の前に座らせるのですぞぉー。さぁーお行きなさい、はいっ!!」
「「「「「ウィーシェフ」」」」」
家の朝ごはんの時間は、chefアランギー様の独断で、午前七時三十ラフンから八時三十ラフンと決められている。
と言うか、最近そうなった。
その後三十ラフンから六十ラフン程の食後のティータイムがある。
公務っぽい執務がある俺は、九時頃には【フリーパス】で国王執務室へ移動する。
俺の話は置いといて、取り合えず今日は騒がしい。
朝食の時間十五ラフン前になったので、自室から移動し席に座っていると、いつもなら無言でキビキビと完璧な仕事を熟すchefアランギー様と妖精のおしごとの五人がヒソヒソと話をしながら慌ただしく動き回り騒がしい、落ち着かないので、何かあったのかと聞くと。
「このままでは、パフ殿の料理だけが冷めてしまいますですぞぉー、こりゃ大変だ」
朝っぱらから元気な人達だ、新しい遊びでも始めたのかなとスルーし、スカーレットタイムズに目を通す。
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―――アシュランス王国・王都スカーレット
エルドラドブランシュ宮殿3F・朝食の間
R4075年11月12日(地)07:30―――
時間になったが、パフさんだけが姿を現さない。
時間厳守のパフさんが時間を守らないなんておかしい。何か俺も心配になって来た。
隣の席のマルアスピー、その隣の席のナイフとフォークを持ちスタンバイオーケーのトゥーシェ、その隣の空席はパフさん、皆の様子を見回していく。
正面の席は気持ちワルッ! 白目を見開き船を漕いでるフォルティーナ。
一周し隣の席のアルさん。皆同じ気持でいるようだ。……一部違うが些細なことだ。
「おかしいですぞぉー、これは由々しき事態かもしれませんですぞぉー」
chefアランギー様に、報告しては姿を消すを繰り返す妖精のおしごとの五人。
「ねぇロイク」
「はいなんでしょう」
「chefアランギーが見つけられないなんておかしいわ」
「ふむ」
「ロイクよりも優れた神眼を持っているのよね?」
「ですね」
「ねぇフォルティーナ」
「なんだねアスピー、あたしはオムレツのケチャップを何処から削り」
「パフパフが何処にいるか探して欲しいのだけれど」
反応早っ、って、いつ起きた?
「……ホント我儘な精霊だね。パフパフがどうかしたのかね」
「いないの」
フォルティーナはパフさんの席を見つめ行儀の悪いトゥーシェを一瞬視界に入れてから。
「……子供ではないね。お腹が空いたら帰って来るね」
犬や猫じゃあるまい……。目の前に置かれたチーズインのオムレツのせいで話に集中出来て無いな。
「昨日から帰っていないのだけれど、……フォルティーナは世界創造神様に次ぐ神様だったわよね?」
「ちょっと待つね。アタシはだった過去形ではないね現在進行形で神だね」
「そう、それなら良かったわ。chefアランギーでもパフパフを見つけられないみたいなの、フォルティーナなら簡単よね?」
「ふっ、当然だね。食事の前の一日一善、アタシも焼きが回ったね。……ちょっと待つね」
朝からツッコミどころ満載だなフォルティーナは。それに家族を心配して一善って……。
フォルティーナの視線が俺達から何処か遠くを見つめるものへと変わる。左右限界まで離れた眼球は焦点がズレ阿呆もとい何処か鰻や蜥蜴を彷彿とさせる。
正面の席に座る見慣れたアホ面の顔を見ないように視線を隣に座るアルさんへ移す。
「変だね。見当たらないね。アランギー」
「なんですかなっ」
「パフは何処だね?」
「おかしなことに私の眼にも映らないのです」
「アルはどうだね」
「私ですか? ……私の眼は神眼と言っても神獣眼ですので、お役に立てるかどうか」
「良いからサッサと視るね」
「は、はい」
アルさんは綺麗な顔のまま視るのか。……フォルティーナがおかしいだけなんだろうな、たぶん。
「周囲と、眷属の瞳を通して世界中を見ましたが、パフさんの姿は何処にも、気配すら感じられないのですが……」
「本当におかしいね。アタシの手元にあるステータス管理ボードにはパフが普通にいるね。状態に異常もないね健康そのものだね」
「フォルティーナ様、ボードで居場所の特定はできないのですかなぁ~」
「居場所の欄が空欄になってるね」
「なるほどぉー」
「なぁー、もう食べても良いのか、お腹と背中がくっ付いてしまいそうなのじゃぁ~」
「五月蝿いね、黙って食べてるね」
「いただきますなのじゃぁ~」
おっと、あのフォルティーナがトゥーシェに罰を与えずにスルーしたよ。今日も土砂降り嵐だな。知らんけど。
何はともあれ、食べてる間だけは静かなトゥーシェを飲食放置する。フォルティーナのこの対応は間違っていない。
パチン。
フォルティーナのフィンガースナップの音が虚しく響く。
「ダメだね……おかしいね」
パンパン。
chefアランギー様のパルマセコの音も虚しく響いて消えた。
「いったいぜんたい何がどうなっているのやら」
「ロイク」
「パトロン殿」
「お、俺っ!?」
「ダメもとでパフをフリーパスでも転位召喚でも何でも良いね、呼んでみるね」
「許嫁ではありますが、世界創造神様公認の間柄見えない何かで繋がっているのもまた事実、さぁーパトロン殿よ一思いにおやりなさい」
chefアランギー様の口調がおかしくなってるような気がするが、俺には関係ないのでこの先も気にしないことにしよう。
「やってはみますが、chefアランギー様やフォルティーナやアルさんでも無理だったってことを忘れないでくださいよ。では」
パフさんはメンバーだから神授スキル【フリーパス】で、メンバーここに全員集合 発動≫
「あっパフパフ、パフパフパフパフいったい何処へ行っていたの、心配したのだから」
マルアスピーと俺の席の間にパフさんが姿を現すと、マルアスピーはパフさんに抱き着き揉みくちゃにしていた。
出来ちゃったよ。【オペレーション】もそうだけどやっぱり【フリーパス】も滅茶糞スゲェースキルだわ。って、あれれ、昨日あの後……。
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「ほう、するとパフ殿はレイジィー書籍店の屋上に今迄居たということですなぁ~、はい」
「はい」
「ロイク、君に聞きたいことがあるね」
「……あーはい……」
「パフを時空牢獄に閉じ込めいったい何がしたかったね」
「閉じ込めるとかそんな人聞きの悪い」
「事実だね。違うのかね」
「……閉じ込めた訳じゃないですが、はい、違うくありません」
「ねぇロイク、たまにはゆっくり部屋でお話しましょうね」
「はいなんでしょうって、は、はい……」
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食後のティータイムいつもより短く十ラフンの後、小三時間程マルアスピーの説教とは程遠い可愛いらしい説教を受けた。
その後、chefアランギー様とフォルティーナから指摘を受け、レイジィー書籍店の屋上の時空牢獄から皆を解放した。
リディアさんは雑食の書籍愛好家だ。朝食の間に召喚した後も俺達に気付くことなく読み続けていた。……どうやら一晩中、雷の光で読書を続けていたらしい。
接客不能に陥っていた店員さんは気を取り戻したのは良いが、店の屋上以外何も見えない世界に乱れ狂う閃光と鳴り響く轟音がいつまでも終わることなく続き、天変地異……神罰がぁ~……と、戦々恐々しさっきまで気を失っていたらしい。
そう言えば朝食の間にはエリウスも居なかった。皆でアイコンタクトし小さく頷き合ってから、心配していたと伝えた。悪いことをしたと少しは思っている俺は勿論ちゃんと謝罪した。……エリウスは、興奮し語るパフさんの相手を一晩中していたそうだ。
ペットとなった二匹は誰が上位なのかを本能で瞬時に理解し、パフさんの機嫌を心を可愛らしい鳴き声と仕草で鷲掴みにしていたらしい。これは、エリウスからの証言で分かったことだ。
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国王執務室へと移動した俺は書類仕事を終えると、壁掛け時計で時間を確認する。
まだ十三時過ぎか。……窓の外は今日も雨、嵐はまだ続きそうだ。
「主殿」
「うーん?」
「ララコバイア、ジャスパットに続きゼルフォーラでも各地で蜂起が起こっているそうです」
「続きって、フィリーは大丈夫だって話でしたよね?」
「風雨雷光の庇護下にあるアシュランス王国領と隣接する地域は争いどころではないでしょう。ですが嵐の外に大丈夫などという安全が約束された安息の地は存在しません」
今、エリウスは何て言った?
「エリウス」
「はっ!!」
「この嵐、自然じゃないんですか?」
「何を今更主殿も御人が悪い。おっと、盾である私を見捨てた前科が御有りでしたな。これは失礼致しました」
「だからそれはもう謝ったじゃないですか。で、この嵐って誰の仕業ですか?」
貴重な時間をありがとうございました。




