6-MS-110 コルトに16歳の神授を取り戻せ - やられた方は忘れないソービーカインドトゥアザーズ -
一人前の狩人に成る為、父バイルから教わった【草笛】【指笛】【手笛】【指打】【頬太鼓】【鳴弦】。
楽器、音関係で俺にできるのはこのくらいだ。
音楽を楽しむとは程遠く、獣や魔獣を騙したり狩人同士の意思疎通の為に音を出す物ばかりだ。
父バイルは草笛を器用に扱い三曲程レパートリーがあるようだが、俺には無い。
創造神様から神授された創神具【ジャレイカ】は管楽器だった。聞いたことの無い植物が素材のジャレイカという縦笛は草笛が進化を繰り返し辿り着いた先、最終形態の一つではないかと俺は考えている。
幼い頃から草笛で野鳥や魔鳥の鳴き声を真似音を出して来た。草笛ならそれなりの自信があった。
だが、草笛の最終形態の一つと思われるジャレイカは、どんなに頑張っても音が鳴ってくれない。
もしかしたら、草笛の最終形態じゃないのかもしれないと俺は考えは改めつつあった。
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立食パーティーの後の宝の皆様との協議の時間で決まったことをタブレットを片手に整理する。
国家組織として、家族親族として、個人として。
「一通り確認は終わったかな」
協議で決まったことに俺の気持ちは何も反映していない。『王都の中央通りに出現した穴を埋めました』(実際には)無駄に難しく書かれているこの報告書に俺の印は必要なのだろうか。疑問だらけの報告書と同じ位疑問だらけの決定事項を他人事のように流し読みし、タブレットを宙に放置する。
執務椅子の背に体を預け大きく仰け反り大きな窓から快晴の空と穏やかな海を眺める。世界中が大変なことになってるのがまるで嘘みたいだなと……。
「...... ~ ......です。明日の公務の流れは以上です。本日の公務は終了となりますが何か御予定などはございますか?」
「へぇ?」
「もうロイク様ちゃんと聞いてください。もう一度読み上げますのでお願いします」
「……はい」
パフさんから、急遽決まった明日の公務【撤去】と【再配置】の手順を聞き、午後の公務の後に何も予定が入っていなければと前置きがあり、書店に誘われた。
特に用事はない。ぶっちゃけ仕事と趣味以外では余り用事のない俺。
誘って貰って嬉しかったのだと思う。
「今直ぐ行きましょう!!」
ちょっと声が大きかったかもしれない。
「御供します」
「エリウス、プライベートなんで」
「主殿に公私はございません。何時如何なる時場であっても盾は必須であると御理解ください。さぁ、レイジィー書籍店へ参りましょう」
白馬じゃなくてホントは金魚の聖獣だったに違いない。くだらないことを考え置き換える。
金魚が後ろから着いて来る姿は、思ってた以上にシュールかもしれない。
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パフさんの母親リディアさんが主で店長のレイジィー書籍店の隣にあるパフさんの実家の一階リビングダイニングルームへと【フリーパス】で移動した俺達は、パフさんの実家から書籍店へと徒歩で移動した。
正面のドアから普通に入店し一階のレジカウンターへと迷うことなく真っ直ぐ向かう。
「いらっしゃいませ。本日はどのような書籍をお探しでしょうか?」
うん? パフさんのことを知らないのかな。
接客としては及第点、急ぎの用事でもないし様子を、あれ、そう言えば誘われたのはいいけど用事が何なのか聞いてないや。
「お疲れ様です。母に会いに来たのですが」
「お母様にですか。……出勤名簿を確認しますので、お名前を頂いても宜しいでしょうか」
「リディアです」
「リディアさんですね。少々お待ちください。リディア、リディア、リディアっと……図書館の方かしら……無いわねぇー。申し訳ございませんリディアという名の店員は本日は出勤していないようです」
物腰が柔らかくて良い店員さん(二十代前半の女性)だ。リディアさんが店長ならこれくらいは当たり前なのかもな。
「仕事が終わったら会う約束になっていたはずなのに、おっかしいなぁ~」
「面会の約束をされているのですね。……もしかして。少々お待ちください」
店員さんは、さっきとは違うファイルを取り出し名前を確認しているようだ。
「写本製版工房と白紙工場の出勤名簿にも名前が無いわ。採用されたばかりなのかしら……」
リディアさんは工房と工場も経営してたのか。マルアスピーが言ってた製紙工場って、たぶんこの工場のことだな。
ガチャッ。
レジカウンターの奥から微かに鈍い金属音が聞こえた。
かなり重い施解錠の音だ。あの先には行ったことがないから分からないけどたぶん大事な物が保管してあるに違いない。
「あらパフ、もう来てたのね」
「お疲れ様です。商会長」
「「「「「お疲れ様です」」」」」
リディアさんがレジカウンターの奥から姿を現すと、店員さんは席を立ちお辞儀をし綺麗な起立の姿勢のままリディアさんと会話を始めた。
レジカウンターの店員さんの声に合わせあちらこちらから明るく元気な声が聞こえて来て、キョロキョロと周囲を見回してしまったのは俺だけではなかった。
エリウスと目が合い互いに少しだけ苦笑し何事も無かったかのようにリディアさんへと視線を戻す。
「屋上で良いのよね?」
「えぇ」
「あの、商会長。こちらの方々は……」
「そうね、貴女は会うの初めてだったわね。大きな声では言えないから、ちょっと耳を貸してちょうだい」
「は、はい」
コソコソコソコソコソコソ。
「お、お、おおおおお王様っ!!」
「こら、声が大きい」
「ムグモゴモゴ」
両手で口をおさえ青褪めてるようにも見える店員さんの表情と、悪戯が成功した子供のように楽し気なリディアさんの表情は、余りにも対照的で、店員さんに同情した。
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土下座を止めさせ、椅子に座らせるまでに一苦労したのはリディアさんの悪戯のせいだ。
接客ができそうにない店員さんをレジカウンターに放置し屋上に行く訳にもいかず、皆で落ち着くのを待つことにした。
「お、お、お、おお嬢様が王妃様でだだだだだ旦那様は王様で…………まさかここここここにいらっしゃるとはお、おお、思いも…………もも、申し訳ございませんでした。か、家族だけはお赦しください。私一人だけで……」
店員さんは、ブルブルと震えながら消え入りそうな声で、何故か謝罪の言葉を口に、助命の嘆願までし始めた。
「リディアさん……」
「ちょっとやり過ぎちゃいましたね」
「お母さん……」
「リディア殿」
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違う店員さんをレジカウンターに呼び、リディアさんの悪戯で接客不能に陥ってしまった店員さんと交代して貰い、接客不能に陥ってしまった店員さんも一緒に屋上へと移動した。
貴重な時間をありがとうございます。




