6-MS-101 コルトに16歳の神授を取り戻せ - そんなに気になるなら最初からドゥーイットユアセルフ -
昼食は、chefアランギー様率いる妖精のおしごとが織り成す超絶技巧至福の【KANBE極上海鮮料理】で、ティータイムのお菓子は、工房ロイスピーのマルアスピーが好奇心を満たす為だけに新設したプライベート製菓の違いの分かる大人シリーズの自信作【渋皮焼き栗のブランデー(古酒)漬け】だった。
全部、とても、おいしゅうございました。
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―――アシュランス王国・王都スカーレット
グランディール城・国王執務室の窓際
R4075年11月10日(大樹)16:20――
昼食と我が家の恒例食後のティータイムを楽しんだ後には、当然午後の公務が待っている。
国王執務室へと移動した俺はサクッと午後の書類仕事を済ませ、左隣に立つ鮮やかな赤色のフレームだけのメガネをかけ仕事が出来る大人の女性を演出しているパフさんに確認する。
後方のエリウスはスルーだ。
「渋い声の美少年に扮したソナハナさんの件はどうなりました?」
「書類箱には何も入っていませんでした」
「午後一で処理したんでそれは分かってます。そうじゃなくて、パフさんとマリレナさんと俺は昼食で抜けたじゃないですか。あ、エリウスも後ろに居ましたね。で、ダダ卿とマクドナルド卿は何処に行ったのかなっと」
「首相と副首相の公務予定の確認ですね。それでは、セクレタリーキャビネットに両名の本日の予定を提出するよう命令書を転送しますので作成をお願い致します」
セクレタリーキャビネット? ……命令書って何?
「……パフさん。しょ、書式が分からないんで適当に書いちゃってください」
「畏まりました」
パフさんは、国王執務机の真後ろエリウスの真後ろに設置された真後ろだけどインサイドワゴンの二段目の引き出しから書類を取り出すと、真っ赤なバインダーにセットしあっという間に命令書を完成させた。
来たばかりなのに……パフさんスゲェー。
俺より確実に仕事が出来るパフさんに関心していると。
「陛下。副首相首相の予定表を提出させるのに勅令では重過ぎますので第三級下命に致しました」
第三級、……何それ?
「何級まであるんですか?」
「先日説明したはずなのですが……」
「……え、エリウスが居なかった時の話ですよね。エリウスは常に俺の……盾じゃないですか。だからエリウスも知っておいた方が良いかなって……」
厳しいか。厳しいよな……。
「なるほど、そうですね、一理ありますね。エリウス様にはエヴァちゃんとジャンヌちゃんの件もありますので、この後少々お時間をと考えておりました。ですので、その際に説明させていただきます」
「あ、はい……」
それだと、俺が聞けないんですけどぉー……。
『主殿』
『なんですか?』
『貸し借りなし、恨みっこなし、でっ、宜しいでしょうか?』
『……分かりました。さっき俺を無視した件は忘れましょう』
手渡された命令書に目を通していると。
「ただ目を通すだけではなく、ちゃんと書式を覚えてください」
「あ、はい……」
「問題ないようでしたら、書類箱に入れてください」
「あ、はい」
命令書は書類箱に入れた瞬間転送され消えた。
「陛下。マリレナ王妃陛下がお見えです」
我ながら凄い物を生み出してしまったものだ。と、自画自賛している暇すら俺にはないようだ。
「通してください」
「はっ」
近衛兵三人の内の一人がドア越しに良く通る小さな声で、マリレナさんの来訪を報告すると、パフさんがそれに答えた。
実はこの応答、本来はパフさんの仕事だったりする。
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応接用のソファーへと移動し、マリレナさんと俺はテーブルを挟みソファーに腰掛け、エリウスは俺の後方で仁王立ちし、パフさんは俺の左隣に立ち仕事のできる女性を演出する。
いつもの布陣でマリレナさんを迎え入れた。
巷にはたったの二、三回だけでも伝統だと宣う阿呆が跋扈している。一週間近く続けたこの布陣は最早いつもで間違いないだろう。
そういえば、旧教の資料に目を通していた時に、模倣した物や捏造改竄した物にまで神授だ伝統だとか言い張って金をだまし取っていたことが書いてあったな。被害者は泣き寝入りするか消息不明になるかの二択。……伝統とか慣例って言ったもん勝ちなところがあるような気がする。
「陛下、陛下、陛下聞いてますか?」
「うほっ、あ、……ちゃんと聞いてましたよ」
「そうですか……。続けても構いませんか?」
「えぇ」
「ロプコブラッド家のことで気になることがあるのです。少しだけお時間をいただけませんでしょうか?」
マリレナさんが気にするようなレベルの話っていったい……。まっ、俺も聞きたいことがあったしちょうど良いや。
「ちょうど良かったです。丸投げしたのは良いんですが気になってたんですよ」
貴重な時間をありがとうございました。




