6-MS-100 コルトに16歳の神授を取り戻せ - 正直で優しくありたいとシアリアスリィスインクアバウト -
―――アシュランス王国・王都スカーレット
グランディール城・国王執務室の窓際
R4075年11月10日(闇)14:41―――
直立の姿勢のまま硬直し大滝が如く汗を流し絨毯を濡らすイグナーツことソナハナ嬢。
さながら温かい部屋に置かれた氷像だ。
執務机の椅子に腰掛けながら、執務机を挟み立つイグナーツことソナハナ嬢に話し掛ける。
「そういう訳で、なんと俺はアシュランス王国の王様でしたぁ~♪」
……。
沈黙が心に痛い。この空気。いったいどうしたら良くなるのか誰か教えて……。
後方に控えるエリウスの目をガン見し心を込めて力いっぱい訴えてみたが、遠くを見つめたまま視線を合わせようとしてくれない。
真っ赤なバインダーを片手に左隣に立つパフさんの顔を正面からガン見し助けを求めてみたが、視線を逸らされてしまった。
仕方がないので、執務机の正面へと視線を戻しイグナーツことソナハナ嬢が作る絨毯の上の汗溜まりの水位を目測し時間を潰すことにした。
イグナーツことソナハナ嬢のグルグルグルグルと高速で回転する眼球が気持ち悪いというか物凄く怖い。激しく氷解する氷像の感情を失った解けない表情もホラーというか物凄く怖い。
絨毯が邪魔して良く分からないが水位はまだ三cmはないって感じだ……。
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「陛下。ダダ侯爵閣下、ガリバー公爵閣下、マリレナ王妃陛下が到着致しました」
「「「通してください」」」
やっと来た。やっと来たよぉ~。
国王執務室のドアを警備する近衛兵三人の内の一人がドア越しに良く通る小さな声で、ダダ卿とマクドナルド卿とマリレナさんの到着を報告すると同時に、執務室の空気に限界を感じていたエリウスとパフさんと俺の必死な声がこれでもかと言わんばかりに綺麗なハーモニーを生み出した。
樹人族には樹人族が一番だろうと安直に考え三人を呼び出したは良いが、この状況、何とかなるものなのか?
丸投げするつもりだったけど、流石にちょっとだけ悪い気がして来た……。
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「...... ~ ......という訳で、彼女はソナハナさんと言います。分からないことは本人に直接聞いてください。以上です」
「え、どうして私の名前を」
「「「あっ動いた」」」
今迄決して動こうとしなかった氷像イグナーツことソナハナ嬢が、ダダ卿マクドナルド卿マリレナさんに紹介した途端反応を示した。
その反応に驚いたエリウスとパフさんと俺は、綺麗なハーモニーをまたしても生み出してしまった。
ふっ、俺の予想通りだ。樹人族には樹人族。これなら丸投げしても大丈夫そうだな。
「という訳で、マリレナさん」
「えっと、という訳でとはいったいどういう訳でしょうか?」
「なんで、マクドナルド卿」
「なんで、と言われましても困ります」
「ダダ卿、後は宜しく」
「宜しくと言われましても。……この状況をいったいどうしろと?」
「どうしたいですか? イグナーツさんっていうかソナハナさんは」
「わ……私は……ど、ど……どうしたら良いでしょうか?」
おっとお次は質問返し、そう来ちゃいましたか……。
「あら? 貴女、ロプコブラッド家のナノハナさんじゃ」
「はは、は母をごごご存知なのですか?」
「あらま、ナノハナさんにこんなに大きな娘さんがいたなんて、月日って気が付くと結構経ってるものなのよねぇ~、フフフフフ」
「マリレナ様よ。ロプコブラッド家と言えば、確か水の樹人族氏族を束ねる一族ではなかったかの」
「その通りです」
「ふむ、フィンベーラ大陸のカトツタル湿地帯を管理する一族の者が何でまた商人の真似事なんぞ」
「それは...... ~ ......」
マクドナルド卿の質問に、渋い声の美少年擬きイグナーツことソナハナ嬢はゆっくりと答え始めた。
正直、最初からそうして欲しかったと思ったのは俺だけじゃないと思う。
貴重な時間をありがとうございました。
 




