6-MS-95 コルトに16歳の神授を取り戻せ - 主義者の中の夾雑物マインドイズコンフューズド -
ソールパッツァ商会の会頭ジュンジェムへの確認を済ませた後詳しく話して聞かせるとシュヴァンツことダグマーさんとシュッペことインガさんと約束し、渋い声の美少年イグナーツことソナハナ嬢の案内で商会本館へと馬車で移動することになった。
徒歩なら三十ラフン程、馬車専用道なら五ラフン程の距離にある商会本館は本店以上に下品で豪華な地上二階地下三階の建物だった。
因みに本館の地下に地下道は見当たらなかった。
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「急ぎジュンジェムを連れてい参ります。誠に申し訳ございませんが、この馬車の中にて暫しお待ちいただきますようお願い致します」
下品で豪華な本館の正面に停車した大番頭専用馬車のドアが御者によって開けられると、渋い声の美少年イグナーツことソナハナ嬢は優雅に降車し、ドアが閉められる前に必死の形相で力走し本館の中に消えていった。
惜しい。ドアが閉まってからあれだったら百点満点だったのにな。……だがあえて俺は弁護したいと思う。フォルティーナのあの表情よりは遥かにましですよ。と。
『馬車に乗ってから一言も話してませんがどうかしたんですか?』
『主殿、本来私は牽引する側であって乗車する側ではありません。乗車する時は売られる時と相場が決まっています』
売られる時ねぇ~……。
『へぇ~そうだったんですね。それで、乗ってみた感想はどんな感じですか?』
『売られるとはこういう気持ちなのだと理解できました』
自信満々に力強く答えたエリウスを見ていて俺は思った。その気持ち絶対確実に違うよ、と……。
途轍もなく深刻な表情を浮かべ無言のまま思考し続けている彼女達。彼女達はいったい何をそんなに悩んでいるのだろうか、まっ、普通に考えたら昼飯は何にしようかなではない、まず間違いなく自国の王(神王教王)ホノクレマのことだろう。
後でどう話して聞かせるか若干悩みつつ、今更悩んだところでもう遅いだろうとも居直りつつ、だったらいっそのこと、話して聞かせる時の俺に全てを任せてしまおうとの結論に至った俺は、会頭ジュンジェムとの会話に集中することにした。
聞きたいことは沢山ある。だが、素直に答えてくれるとは到底思えない。欲しい情報を得る為には工夫か力が必要だ。
俺って強制とか好きじゃないんだよなぁ~。でも、頭を使って要領良く聞き出すとか俺には絶対不可能だしなぁ~。
聞き出す時の俺に全てを任せてしまおうかなと考えていると。
「殿下、お待たせ致しました。ソールパッツァ商会会頭ジュンジェムを連れて参りました。ドアを開けても宜しいでしょうか?」
早いな。
『主殿、如何致しますか?』
『そうですね。あのとっても下品な建物に入るところを見られたくないし、ここで済ませてしまいましょう』
外からはコソコソと、渋い声の美少年イグナーツことソナハナ嬢の落ち着き払った優雅な声と、飼料に群がる豚が漏らすような音に人が用いる言葉を僅かに混ぜ合わせたような聞き取り難い男性のしゃがれた高い声が聞こえている。
高音でフゴフゴとしゃがれた声の主がジュンジェムか。……さてと、そろそろ三人の視線で穴が開いちゃいそうだし覚悟を決めるとしますか。
「オルファン」
「ははぁー、ソールパッツァ商会番頭イグナーツよ」
「はっ!!」
「乗車し跪くことを許可する。ソールパッツァ商会会頭ジュンジェムよ」
「は、はいぃっ↑」
「同じく乗車し跪くことを許可する」
「あ、ありがとうぞぞ存じます」
『滅茶苦茶偉そうですね』
『ダダ卿の真似です』
『こんな感じでしたっけ?』
『私には大差ないように思えますが、違いましたか?』
『う~ん、まっ良いかっ』
……あれ、ドアが開かない。
「入って来ませんね」
「「「はい」」」
「オルファン」
「畏まりました」
オルファンことエリウスがドアを開けると、自身の商会を背に地面にひれ伏す会頭とその大番頭とその御者の姿があった。
ドアが開かないはずだ……。
貴重な時間をありがとうございました。
 




