6-MS-84 コルトに16歳の神授を取り戻せ - 社会に蔓延るフレンドエネミー -
寝室にサラさんが戻って来た。
アリスさんを連れて来ると言い残し疾風のように寝室から飛び出したはずなのだが、アリスさんだけではなく、テレーズさん、バルサさん、メリアさん、カトリーヌさん、エルネスティーネさん、マリレナさん、バジリアさんも連れて来た。
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今、寝室に居ないのは、
創造神様公認の奥さんってことになっている。トゥーシェ、リュシル、ミューさんの三人と。
創造神様公認の許嫁ってことになっている。パフさんと。
chefアランギー様とフォルティーナ公認の許嫁ってことになってしまった。サンドラさんと。
創造神様の追認(事後承諾)とフォルティーナの強制とchefアランギー様の放任と本人の希望?で奥さんってことになってしまった。ロザリークロード様。
の六人。
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アリスさんから創神具【未来を求めし者の弓】を、バルサさんから創神具【ミョルニルの拳】を、テレーズさん、メリアさん、カトリーヌさん、エルネスティーネさん、マリレナさん、バジリアさんから半神具の魔導具だったり普通の魔導具だったり剣を預かった。
調整して欲しいとバジリアさんから託された剣は人剣一体(纏や融合)まで後少し伝説まで後一歩の地味な細剣だった。
手入れが行き届き状態が非常に良いこの素晴らしい細剣のいったい何処を調整すれば良いのやら、難解な物を受け取ってしまったと後悔しながら、創神具、神具、半神具、魔導具、剣を一通り眺め、集まった彼女達の顔色を窺う。
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おかしい。……持って来た物を誰も気にしてないように見える。楽しそうにお喋りしたり、コソコソ打ち合わせみたいなことをしてる。
「ロイク、何をやってるのかねサッサと直すね。忙しいあたしが見守っている内に終わらせるのが常識だね」
フォルティーナが居ない方が断然捗る。そんな考えが脳裏を何度も横切ったが、決して口にはしない。
「そうですね。明日も忙しくなりそうだしサクッと確認してサッサと寝ることにします」
「うんうんだね」
この数ヶ月間で学んだことは非常に多い。主に神様関係でだが……。
「ロイク。パマリ門閥の紋章が描かれた羊皮紙、私にも確かめさせて」
「父に送って貰った上級貴族家の紋章をまとめた図鑑を持って来ました。今年の休息月に発行された最新版なので公侯伯の末端まで正確に網羅しているそうです」
公の場ではロイク様から陛下、内輪ではロイク様からロイクと呼ぶようになったアリスさんとテレーズさん。二人のテンションが妙に高いなと思ったらお酒を飲んでいたようだ。
ベッドの上に並べた預かり物を神眼で視ていた俺の目の前に、分厚い書籍を開いた状態で差し出し、ここですっと一つの紋章を指差すテレーズさんの顔が凄く近い。
テレーズさんから届く鼻腔を擽る甘い香りとお酒の臭い。
「このシリアン・パマリ一代紋章の隣にあるのが、サラが言ってた紋章?……これって魔力陣よね?」
アリスさんの顔も妙に近い。
近い二人の甘い香りに一瞬ドキッとしたが、……本当に一瞬のことだった。
寧ろ飲んでもいないお酒の臭いで鼓動が早くなり今直ぐ体を動かしたくて大変な状況だ。
ハッキリ言って似たくはなかった。心の底から残念に思う。体質は親父譲りだった。親父に似てお酒を飲むと無性に体を動かしたくなってしまうのだ。
きっと疲れからだろう。今日は、お酒の臭いに脳が反応し元気になってしまったのだと思う。
スゥ―――――ハァ―――――。
深呼吸一つで落ち着く訳だし、間違いない。
俺が脱線している間他の皆は宙に展開したシリアン・パマリ一代紋章の隣に展開した羊皮紙に描かれた魔力陣を眺めながら意見を交わしていた。
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「アリスが言うように普通の魔力陣にしか見えないわね」
テレーズさんは、宙に展開した魔力陣を凝視しながら分厚い書籍を共有の倉庫【タブレット】に収納すると、顔色一つ変えず何事もなかったかのようにサラさんアリスさんと意見を交換していた。
「サラさんがアリスさんを呼びに行ったのはこの魔力陣を見たからです。アリスさん、テレーズさん、この魔力陣を見て何か分かることはありますか?」
折角だし二人の意見を聞いてみよう。
「そうですねぇー、アジサイとカタツムリとパマリ図柄が殆ど消えてしまっています。ここと、ここと、ここと、それと……これとかはアジサイの花弁にも見えますが……パマリ門閥の紋章とは言えないと思います」
「アリス、それってアジサイの花弁なの?」
「見えなくもないって感じね」
「そう言えば以前アジサイの花弁とヒマワリの花弁が舞う賑やかな紋章を港で見かけたことがあります」
花じゃなくて花びらが舞ってる紋章か想像が付かない。
「テレーズそれってもしかしてこんな感じの紋章ではありませんでしたか?」
サラさんは、宙に展開した羊皮紙の魔力陣の直ぐ下に概略した紋章をスケッチした。
サクラ吹雪のアジサイとヒマワリのバージョンって感じなのか。青紫色と赤紫色と黄色のまとまりがねぇー。
「たぶんですがこの紋章だったと思います。サラ、この紋章はいったいどちらの家のものですか?」
「これって下地は何色なんですか?」
おっと、テレーズさんと質問のタイミングが被ってしまったよ。申し訳ですテレーズさん。
「ロイク様、この紋章の下地は黒です。そして、テレーズ、この紋章は、ズィルパール王家御用達。家のあっ家ってゼルフォーラ聖王国の方ね。家で五本の指に入る大商会で世界創造神創生教会の経典を独占販売していた」
「「ソールパッツァ商会っ!?」」
アリスさんとテレーズさんの声が綺麗に重なった。他にも数人ハモっていたように聞こえたが、アリスさんとテレーズさんの声が大きく良く聞き取れなかった。
「経典の独占販売と聞いてソールパッツァの名前が出てこない人はいないでしょうね」
あ、えっと、ごめんなさいサラさん、俺、ソールパッツァって初めて聞きます。
「商人が紋章を持っているだなんて珍しいですね。ズィルパールではそれが普通なのかしら?」
「マリレナ様、商人が紋章や旗を持つことは普通ではありません。ソールパッツァ商会が紋章を掲げているのは世界創造神創生教会の宗紋(創生紋)の代用だと言われています」
「あの悍ましい宗紋の代わりですか」
「エンブレムを掲げることを許された唯一の商会。それがソールパッツァ商会です。確か、当代より五代前の商会長がエンブレムを掲げることは不敬ではないかと悩みズィルパール王に相談したところ特例で下賜されたのがこの紋章だとされています」
マリレナさん質問してくれて有難うございます。俺も同じ疑問を持ったんで助かりました。
邪魔にならないよう無言を貫きサラさんの回答に耳を傾けた。
ここでも旧教か。ホント、何処にでもいるよな。
「バジリア、見かけたことはありますか?」
「旧教の教会が一つもない所に経典を売りに行っても儲からない。樹人族に売る物など一つもない。南部の傲慢な気質の商人だったのかもしれません」
「私が持ってる経典は……?」
「あれは、大賢者殿がふざけてて面白い本を見つけたから騙されたと思って一度読んでみるとよいと置いて行ったものです」
「そうだったのですね」
秘儀脱線はこの状況でも健在だったか……。
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時間が勿体ないので、思い思いに話し出した皆の声を意識的に神耳で拾いながら、預かり物へと神眼を向け確認作業を再開した。
貴重な時間をありがとうございました。
 




