6-MS-78 コルトに16歳の神授を取り戻せ - 不死の山は麓から火口まで全てがマジックスポット -
ジャスパット東西朝王国の前身大ジャスパット皇国の祖初代皇帝エンチヨクリルことKANBE下界からの爾後の者クリバヤシチヨコ。
彼女は【下界医】というKANBE下界に数人しかいない最上位の治癒士だったそうだ。
本当に最上位の治癒士だったのかは疑わしいとろこではあるが、ラーヴベル様の話を聞く限り、医療行為とかいう発動条件が奇怪で面妖なスキルを行使し人命を救っていたのは間違いないようだ。
回復系の魔術やスキルは本当に奥が深い。四大属性非四大属全ての属性に回復系の魔術は存在しているし、スキルにも数え切れない数の回復系が存在する。スキル【医療行為】か。
コルトの理の外の理、KANBEの理から来た人だから、俺達の常識に当て嵌めて考えるのは間違いなのかもしれない。が、知らないスキルやノウハウが気になってしょうがい。
chefアランギー様はKANBE下界のことになると兎に角詳しい。後で聞いてみよ。
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毎年、十一月九日闇の日の正午(十五時)過ぎから日暮れ(二十四時)までの間に船一隻が必ず投げ込まれているそうだ。
船が降って来るようになったのは最近の話らしくたかだか五十年程前くらいからだという。
五十年を最近と表現して良い物かちょっと悩むところではある。
そして、西朝廷が火口に船を投げ込む理由については勿論不明だ。
不明序に言うと、鉱山魔小鬼の躯やゴミを火口に投げ込んでいる理由も不明だ。
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西朝廷の不可思議な行動はいったん置いといて、俺達が不死の山の火口に来た目的を結果がどうなったのか整理したいと思う。
chefアランギー様は「ジャスパットを統一させ正しい王の血を不死の山に捧げなくてはいけない」と言っていた。
今までの話から、KANBE下界からの爾後の者クリバヤシチヨコの子孫の血が正しい王の血ということになる。
ジャスパット東西朝王国の王族が本当にクリバヤシチヨコの子孫なのか調べる必要がある。
九千年以上も前に建国された王国の後進の王国の王族がそのまま前身の王国の王族の子孫とは考え難い。
ただ、大ゼルフォーラ王国からゼルフォーラ王国とヴァルオリティア帝国という前例もある。
調べれば全て解決する。問題は全て解決するというところにある。他国の王族の正統性を、血が必要だからと言って調べ上げる、普通は無理だ。万が一と言うことはないと思うが、調べるという行為そのものが侮辱でしかない。
正しい血に関しては追々考えることにした。
火口に血を捧げることで、いったい何が起こるのか。
ラーヴベル様に「料理の神様は不死の山に捧げなくてはいけないと仰られたのですよね。火口である必要はあるのでしょうか?」と質問された。
不死の山の何処ででも良い場合。過去に遡れば正しい血が何処かで出血という形で捧げられていてもおかしくないと考える。
低いとはいえ三千メートル級の独立した山だ。九千年もあれば誰か一人くらいは怪我とか不注意で血を流したり命を落としていてもおかしくない。
だが、過去に何か大きなことが起こったことはないそうだ。
ラーヴベル様は「不死の山は麓の広陵から火口まで全てが巨大な魔素溜まり火と地のナンフスポットになっています。火属性地属性の心得を有する者にとってここは癒しそのもの。有していない者にとっては毎日噴火するだけのただの火山のはずなのですが……」
毎日、四十九ラフンおきに噴火する山をただの火山と呼ぶのもどうかと思うが、今の話で問題はそこじゃない。
麓の広陵から火口まで山全体が巨大な自然魔素活性値だということの方が気になった。
自然魔素活性地は、各属性の祠、地下楼閣迷宮、小さ過ぎたり大き過ぎたり規模に統一性が無い為気付かれ難いらしい。
ナンフスポットから溢れ出した自然魔素はヴィススポットへと流れ吸収される。スポット循環が正常に機能している内は良いが、一度狂いが生じると騒動なんだとか。
過去に何度も狂いは生じていて多くの命が犠牲になったそうだ。
近しい物だと中央の地の暴走。大地石の祠の守り人の末裔が犠牲になった継承の呪い岩石回帰があるそうだ。
あぁーあれね。と、正直思ってしまった。良い記憶ではないので忘れていたよ。
スポット循環は数ある中の小さな循環の一つで、不死の山のように巨大な自然魔素活性地は自然の力の大循環の鍵になっていて、大樹の統制を支える要の一つらしい。
要の一つに、「クリバヤシチヨコの子孫の血を捧げたところで意味がないと思いますが」とラーヴベル様は言っていた。
いったいここに何をしに来たのだろう。何一つとして分からないまま、何の成果もないまま、西朝廷には挨拶せず帰国した。
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「これ、エリウスが責任を持ってマルアスピーに渡してください」
採掘した鉱石が山盛りになったバケツを神授スキル【タブレット】から取り出し、エリウスに手渡す。
「畏まりました」
共有の収納の方に入れておけば良いだけなのだが、あえてエリウスに渡したのは後ろがスッキリするからだ。
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エリウスが執務室を後にすると同時に行動を開始する。
「パフさん。ニューリートに行って来ますね」
「え、あの、エリウス様は」
「こないだ動いた時に思ったんですよね。居ても居なくても余り変わらない。って。高位竜人族の二人をドラゴラルシム竜王国に連れて行くだけの簡単なお仕事なんで、俺一人で十分ってのもありますが、……ここに一人残して行くとパフさんが大変でしょうから一緒に行きましょう。うん、そうしましょう」
「え、えっと、せめて書置きだけで、も、もう遅いですね」
パフさんは、窓の外を見てから俺の方へと向き直り溜息をもらした。
あれ、おっかしいな。ここはアシュランス王国だし手続きはいらないはず。呆れられる要素は何処にもないはず。
「ここがニューリートなんですね。綺麗な街ですね」
「ここはこの前建立したばかりの聖人教会です。いらないって言ったのに絶対に必要になるからって押し切られて仕方なく付け加えたコルトの聖人専用の部屋なんですが、早速使ってしまいました。ハハハ」
「フリーパスもそうですが、ロイク様は便利なスキルを沢山お持ちですよね」
「パフさんも死にかけながら大樹の聖域に入ってみますか?」
「気まぐれはロイク様の専売特許ですので私は遠慮しておきます」
「ハハハ残念。……さてと街に出ましょうか」
「はい」
貴重な時間をありがとうございました。




