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このKissは、嵐の予感。(仮)   作者: 諏訪弘
ーメア・イート編ー
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6-MS-77 コルトに16歳の神授を取り戻せ - 溶岩の上の優雅なジャストアモーメント -

 一悶着あったが、争いに発展することはなかった。


 コルト下界生まれの火の中精霊とコルト下界の管理者であり守護者であり聖人の俺。会話さえできれば和やかにことを運ぶのは簡単だ。


 寧ろ、言語こそ若干異なるとはいえ会話が通じるはずの人間種(ヒューム)同士の方が難しい。



 家のリビングダイニングに似せ家具をセッティングした魔導具【空飛ぶ絨毯・特注】の中央より少し左側に置かれた木目がはっきりと浮かび上がった背の低いブラウンカラーの大き目のカフェテーブルとテーブルを囲む同じく木目がはっきりと浮かび上がったブラウンカラーの一人掛け用のソファー。クッション部分は柔らかくそして厚みのある高級感重視のダークブラウンカラー。


 火の中精霊ラーヴベル様とエリウスとパフさんと俺は、カフェテーブルを囲み歓談中だ。出会いの殺伐とした雰囲気が無かったかのように優雅な一時を楽しんでいた。


「この山は聖域だって言ってたんですけどね」

「聖域を管理しているのは半分独立した状態の西朝廷です。必然的に火口にゴミを投げ入れているのは西朝廷ということになると思うのですが、何百年と祀って来た神様とその聖域にゴミを投げ入れるだなんて、そんなこと有り得ないかと」


 俺から見て右側ラーヴベル様から見て左側の席に座っているパフさんは、リビングダイニングだけど壁がないから三百六十度大パノラマ状態見渡す限りの溶岩をキョロキョロと確認しながら気後れすることなく意見を口にしている。


 有難いことです。光栄なことです。って、話してはいたが、マルアスピーのせいで精霊様に対する感覚が良い意味でおかしくなってる気がする。


「パフよ。先程から度々耳にするサイチョウテイとは如何な者ぞ」

「ラーヴベル様。西朝廷とは...... ~ ......」


・・・

・・


 建国から現在に至るまで物凄く詳細に事細かく説明し終えたパフさんは実に満足気だ。


「火口に物を投げ入れる愚か者がまさかクリバヤシチヨコの子孫であったとは」 

「クリバヤシチヨコ、変わった名前んあれ今子孫って言いました?」

「パフの話が事実であるなら、初代皇帝エンチヨクリルとはクリバヤシチヨコ其の人で間違いない。彼女は、双子の火山島と周囲の島々を統一すると、……確か、衛生上下水とか言って、つまるところ清き水を齎した。他にも、体を刃物で切り開く外科手術とかいう医術で病魔を退けたりもしていた。一見幼子のような女子(オナゴ)だったが聡明で、同族(ユマン)には絶大な人気を誇っていたな」

「へぇ~、そうなんですね。ジャスパットにはそんな前から衛星の知識があったんですね」

「一万年……ついこの前九千年くらいしか経ってはいないぞ」


 あー、はい、価値観っていうか概念が違い過ぎる。

「……なるほど」


 なぬっ! ちょっと、え? ジャスパットってそんなに前からある国なの?


「主殿、この国の祖の名より今はゴミの問題を優先するべきかと、して如何致しますか」


 建国の祖もだけど、九千年も前からってところかなり重要じゃないかなと俺は思うんだけど……。


「神獣様。愚か者がクリバヤシチヨコの子孫であると知ったからには例え愚か者であっても穏便に済ませたいと考えています。神からの罰(テンバツ)精霊からの罰(イマシメ)ではなくそれとなく伝えることはできないものでしょうか?」


 天罰とか精霊の嘆き(イマシメ)とか今はそんなのどうでもいい、ヘンテコな名前の祖についてもっと詳しく話しを聞きたい。


「ラー」

「エリウス様、ロイク様。それとなく伝えるが一番難しいのではないでしょうか。不死の山はこの国が勝手に定めた聖域ですが、私達が今していることは不法侵入以前に密入国です」


 切り出すタイミングが……。俺を無視して進んで行く会話。


「お忍びでの行幸とはいえ、主殿はここコルトの管理者守護者聖神(セイジン)様です。主殿の行動に制限を課せる者などいないはず。それでもパフ殿は主殿を密入国者扱いするおつもりですか」


 あっ、俺、出入国の手続き無視しまくってるじゃん。……したことないかも。


「エリウス様。私は国目線での話をしています。ロイク様はこの世界の管理者であると同時に数ある国の中の一国の王様でもあります。王自らが率先して法を犯すのは宜しくないと思っています」


 オォーゥ、俺ってパフさんにそんな風に思われていたのか。今度から移動する時は気を付けることにしよう。


「でしたら。主殿は、ラーヴベル殿主催のティーパーティーに出席した。会場は偶然にも不死の山の火口。パーティーが終わったので、不死の山を管理しているジャスパット東西朝王国の西朝廷に挨拶に伺った。西朝廷にはこのように説明しては如何でしょうか」


 結構突っ込みどころがあるな。偶然って何だよ。


「神獣様。不死の山に宿り管理するは、火の中精霊であるこの私です。クリバヤシチヨコの子孫達ではありません」


 そこが一番の突っ込みどころでしたね。


 正面に座るラーヴベル様へと視線を戻す。


 ラーヴベル様は幸せそうだ。話してる内容と表情が一致していない。


 原因は、神茶の茶請に出した工房ロイスピーのチョコレートエクレアとイチゴエクレアだ。


 最初の内は警戒していたようだが、今では美味しそうに口いっぱいに頬張っている。


「ロイク様もお食べになりますか?」


 笑顔で食べ掛けのチョコレートエクレアを俺に差し出して来るラーヴベル様。


 こんなにあるのに、食べ掛けって。

「た、沢山あるんで好きなだけ食べてください」

「おぉ~何と、この恩このラーヴベル生涯忘れません。一生を掛け御返し致します」

「そこまでしなくても良いですよ」


 エクレア一つで生涯とか一生とかないから。いらないから。


「いえ、このエクレアなる神様の菓子にはそれだけの価値があります」


 神様の菓子、エクレアが? 神茶の方が滅茶苦茶価値あると思うけど……。


 神茶を一口啜り、クリバヤシチヨコについて切り出すタイミングを見極める。


「マルアスピー様には私からも伝えておきます」

「大樹様には既に念話で伝えたが、パフからも良しなに頼むぞ」

「お任せください」


・・・

・・


 ラーヴベル様とエリウスとパフさん、三人の会話が弾む中。


 ヒュ――――――。


「ロイク様。あれって何ですかね? 何かが落ちて来てるみたいですが」

「主殿、あれは鉱山(マイン)魔小鬼(ゴブリン)です」


 マインゴブリン。初めて聞く名前だ。


 ジュー。


 溶岩に落ち溶けながら燃え飲み込まれていくマインゴブリン。


 西朝廷は、火口に魔獣の躯まで投げ捨てているのか。


・・・

・・


「また落ちて来ます」


 パフさんの声に反応し上を見上げる。


「七匹目か。止めに行くとややこしくなるだけだしなぁ~」


「今日はまだ少ないです。多い時には噴火の合間を見計らい二十、三十。魔獣が投げ込まれるようになったのはここ最近の話ですね」


 神授スキル【タブレット】でマインゴブリンについて検索し急ぎ情報を集める。


 どれどれ。


***********************


鉱山(マイン)魔小鬼(ゴブリン)

 レア度:★☆☆☆☆☆☆☆☆☆(星1)

 危険度:★★☆☆☆☆☆☆☆☆(星2)


 南大陸ベリンノックの山間部や鉱山に生息。

 知能は家畜の猪豚以下。

 腕力は人族(ユマン)の成人男性並み。

 気性は荒く攻撃的。

 孫魔猿(ソンマサル)のように巨大な群れを作る。

 群れ同士の争いが絶えない。

 繁殖力が非常に高い。

 ※異種交配を行う危険な魔獣※

 ※1匹見かけたら100匹はいると思え※


***********************


 彼等に思うところは何もないかな。……先ずは投げ込んでる連中をどうにかしないと。


 この感じ。あっ、大寺院の大穴と状況が似てるのか。何か見覚えがあると思ったんだよ。


「ロイク様。大きな物が落ちて来ます」

 あれって、船っ!?

「主殿、船が落ちて来ます」


 新品の船まで投げ捨てるなんて、何考えてるんだ?


「綺麗でまだ使えそうな船だったと思うのですが」

「パフ殿。先程の船は進水前だった思われます」


 失敗したからといって捨てる必要はないよな。だとすると、今のはいったいなんだ?


「今年ももうそんな時期が来たのだな」

「と、言いますと?」

「結束の秋第一月(イチヅキ)の大樹の日の前日つまりは今日ということになるが闇の日には決まって船が落ちて来る」


 ラーヴベル様は、季節の風物詩の一つみたいに言ってるけど、これってどう考えてもおかしいですから。船って火口に投げ捨てるものじゃないですから。

貴重な時間をありがとうございました。

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