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このKissは、嵐の予感。(仮)   作者: 諏訪弘
ーメア・イート編ー
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6-MS-76 コルトに16歳の神授を取り戻せ - 荒ぶる不死の山はデンジャラスゾーン -

 chefアランギー様は、鰻の蒲焼と麦飯が別々の重箱に入った鰻重をもってマルアスピーの要望に応えてくれた。

 鰻重とは別に細長い更に盛られた鰻の白焼き。

 素焼きの夏野菜。

 柚風味のシャーベット。


 どれもこれも、流石はchefアランギー様率いる妖精のおしごと。いつもいつも美味しいご飯をありがとうございます。


 しっかしぃー不思議だ。故郷の村でも良く食べていた鰻がここまで美味しくなるなんて。ぶつ切りにした鰻を塩を溶かしただけのお湯で煮たり素焼きに塩を振り掛けて食べるのも勿論悪くない。簡単だし寧ろ御馳走の部類だ。

 いったい何が違う。……ふっくらとしているのに香ばしく脂が乗っているのにサッパリしたあの感じ。焼き方か。

 それだけじゃないな。……あの醤油ベースの甘辛のタレも曲者だ。あのタレだけでパンや雑穀が無限に食べられる気がする。


 細長い皿に盛られた鰻の白焼きもそうだ。蒲焼と同じくふっくらとしていて香ばしさもあった。

 だが食感が違う。……口に入れた瞬間トロけて無くなった。

 あの溢れる風味と広がる旨味はいったいなんだ。……鰻って氷みたいに溶ける物だったっけ?

 犯人は山葵醤油か柚胡椒か。……イヤ違うな。山葵醤油や柚胡椒に、そんな効果はないはずだ。

 なんてことだ。俺は鰻一つでchefアランギー様の手のひらの上で踊らされてしまっている。


 大樹の休息月も終わり、季節は結束の秋、秋に入ったばかりとは言え、あの新鮮な夏野菜はいったい何だ。ただ焼いただけの素焼きだったのに。

 焼いただけだったのに…………とっても美味しかったです。

 梅塩、柚塩、山葵塩、胡椒塩、神茶塩なんか他にもあったが好きな塩を振り掛けて食べるスタイルも面白かった。

 摺りおろした蕪と酸味のきいた醤油を見た時は、野菜に野菜ですかへぇ~と余り期待してはいなかったが、KANBEのナスに垂らし一口噛んだ瞬間、考えの浅さ発想力の無さに気付かされてしまった。


 柚のシャーベットは、工房ロイスピーの夏限定の新商品だったので何度か口にする機会はあった。正直そこまで美味しいと感じ事はなかったはずだった、だがしかし、コース、流れだろう、食後に出されたそれは違っていた。

 …………食べ合わせ。余韻のコントロール。


 あっ! これっていつものことじゃん。最初から最後まで支配されっぱなし。なんだだったらまぁー良いか。


 改めまして、chefアランギー様、妖精のおしごとの皆さん、生産者の皆さん、ご馳走様でした。



 昼食(デジュネ)と食後のティータイムを楽しんだ後には当然午後の公務が待っている。


 今日の公務は、高位竜人族(ハイドラコ)の二人をドラゴラルシム竜王国に連れて行くことと、不死の山の見学。


「十七時か」

 書類仕事は終わったし、緊急案件も今日はないみたいだし、何か良い感じだ。暇なくらいが俺にはちょうどいい。ってか、なんてなハハハ。


「ロイク様。式典は十九時からですので、先に山の見学を済ませてしまわれますか?」

「……そうですねぇー」


 棚の書類と書籍の整理を終えたパフさんが、暇を楽しんでいる俺に次の仕事をするように進めて来た。


 予定表片手になにがそんなに楽しのか分からないが、ニコニコ気力もやる気も十二分といった感じだ。


「主殿、ジャスパットに行かれるのであれば、これを」

「バケツ?」


 エリウスが差し出して来た物、それは金属のバケツだった。


「マルアスピー様より言付けを預かっております。不死の山はフルムテル(憤怒の火山火焔の聖域)から最も離れた場所にある活火山で自然の力の火の循環の最果てにあります」

「へぇ~、そうだったんですね」

「最果ての火口には珍しい鉱石が沢山あるそうです」

「火口に鉱石がですか、ドロドロに溶けてそうですけど」

「溶岩の方ではなく火口の壁面の鉱石を採掘して来て欲しいそうです」


 そう来たか。……鉱石に食べられそうなところはないと思うが、いったいマルアスピー何に使うんだ、もしかして精霊様って鉱石も食べるのか?

 ふむ、まぁー精霊様が鉱石を食べるのかについては今はいい。……火山に行くなら火口から採って来てってバケツを渡された、これって創造神様公認の夫婦としてどうなんだ。創造神様公認とかはどうでもいい、夫婦として問題だと俺は思うのだが。

 だが、さっきデジュネで己の考えの浅さを学んだばかりの身としては、一方的に決め付けてしまう、これは良くないここは慎重に行くべきだと、他の人の意見も聞くべきだとも思う。


 …………そうだな。よしっ。

「エリウス」

「はっ!!」


「不死の山って一日に何度も噴火を繰り返す周期噴火の山だって知ってますよね?」

「勿論であります。主殿がお忍びでの見学を口になされた時から、調べに調べを重ねもう他に調べることは何も残っていない状況です。警備体制は盤石だと断言致します。主殿の身に危険は一切ございません」


 危険は一切ない……か。火口の壁面で採掘する行為には危険しかないと思う。そう思うのは俺だけなんだろうか?


「不死の山の観測データによりますと、不死の山の噴火の周期は、四十九ラフンきっかりで、観測を開始した四百九十二年前から狂ったことがないそうです」

「パフさん。時刻の概念って時計の概念って最近広まったとうか最近広めたものですよ。五百年前から変わらないとかその資料信用できるんですか?」

「ジャスパットの西朝廷から届いた資料によりますと四百九十二年前から五日前までですが正確に記されています」

「正確にですか……」

「はい。我が国で観測を開始した七日前から本日先程までのデータと照らし合わせてみましたが間違いないようです」


 二日分だけ家と同じってだけだよな。


「それに、仮にですが、ロイク様とエリウス様は噴火に巻き込まれところで火口に落ちたところで平気です」

「まぁーそうですけど……」

「ですので、これも仮にの話になってしまいますが、例え資料が改ざんされていたとしても案ずることはありません」


 うーん、その場合違う問題が。フィリーに加盟している国が虚偽の報告とかってダメだろう。


「主殿。どうせ火口を確認するのです。壁面の鉱石くらい序に持ち帰ったところで罰は当たりません」

「罰が当たるとかそんなのはどうでも良いんですよ。頼まれたことが何か釈然としないって言うか」

「分かります。確かに、私も何かが違うと」

「お、おぉ。何だエリウスも同じことちゃんと考えてたんですね、イヤー良かったぁーってきり俺だけ(ミン)

「はい。折角火山へ赴くのですから、マルアスピー様も御一緒に」

「違うっ!! それも違うから」



―――ジャスパット東西朝王国・本西島本西山脈

 不死の山の火口上空20m

R4075年11月09日(闇)17:22―――


 家族や近い眷属は俺の神授スキル【フリーパス】の影響を受ける。エリウスとパフさんと俺、俺達三人は火口の上空へと移動した。


「噴火したばかりなんで、四十八分ちょっと余裕があります。行きましょう」

「はっ!!」

「え? わ、私も同行するなんて聞いてません」


「何を言ってるんですか、これジャスパットに許可取ってないんですよ。勝手に見学しに来たんですよ。こういうことって多い方が楽しいじゃないですか、一蓮托生って奴ですよ」

「こ、こういう一蓮托生は遠りょぉ~~~~~」


 パフさんが言い終える前に急降下し火口擦れ擦れへと降り立つ。


「エリウス。神気とか違和感とか何か感じますか?」

「いえ」

「ですよねぇ~、パフさんはどうですか?」

「じ」

「じ?」

「じ、死ぬがど……死ぬがどおぼいまじだぁ~~~~」


「パフ殿。パフ殿はもっとこう凛とした方だと思っておりましたが、こういったお茶目なところもあったのですね。柔らかく可愛らしく、お茶目も兼ね備えていたとは、このエリウス感服致しました」


 感服するところなのか?


 鼻水を垂らし涙目になりながらゼーハーゼーハー言ってるパフさんを見なかったことにして、火口へと意識を集中させながら、二人の会話に聞き耳を立てていると。


『ココハフジノヤマヤマツミノヤマナンピトモタチイルコトハユルサレズタチサレェー』


 ん? 女性の声?

「パフさん、何か言いました?」

「わだじはなでぃぼ」


 たどたどしい感じは似てるけど、声が違うか。


『ココハフジノヤマヤマツミノヤマナンピトモタチイルコトハユルサレズタチサレェー』


 パフさんは喋ってなかった。だとするとこの声はいったい?

「主殿っ!!お気を付けください、来ますっ!!!!」

 ドォーン ドォーン ドォーン ドォーン ドォーン。


 エリウスが上げた大声とタイミングを合わせたかのように火口が爆発し溶岩の柱が幾つも立ち上がった。


 九、十……十三、十四本。高さは約十m。


「主殿、完全に囲まれています」

「ロ、ロイク様こ、これって魔法ですよね!?」

「えぇ」


 少しずつ俺達に近付いて来る溶岩の柱。


 火焔牢獄の溶岩バージョンってところか。……調査どころじゃないな。最悪、鉱石だけでも持って帰るか。


「ロイク様、見てください」

「主殿っ!!」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴォ――――――。


 見てますよ。寧ろ見てないとでも……。


 目の前、二人が指差す溶岩の部分、足元は全体的に溶岩な訳だが、二人が指差した場所の溶岩が荒々しく波打ちながら左右に割れ始め、割れ目から真っ赤なスケスケのネグリジェのような服を来た女性もとい精霊様が姿を現した。


「私は、この山に宿し火の中精霊ラーヴベル。ここは私の山、即刻立ち去りなさい」

「ロ、ロ、ロイク様見てはなりません。あんなもの見てはなりませんっ!!」

「ちょ、ちょっとパフさんいきなり何を」

「ダメですダメですダメです」

 火の中精霊様と俺の間に突然割り込み俺の顔の前で両手をブンブンと振り始めたパフさん。


「敵、敵じゃないよな。……まぁ~何だ、精霊様を前に失礼ですよ。パフさん。ちょっといいかげん止めて貰えませんか?」

「見ちゃダメですダメですダメですダメですダメでぇーす。御会いできるなんてとって有難くて光栄なことででですがあれはダメェ――――」

貴重な時間をありがとうございました。

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