6-MS-75 コルトに16歳の神授を取り戻せ - 良い話は不協和音のチェンジングワールド -
「アシュランス王国として連合国家フィリーとして出来ることを考えましょう」
「できることは何もありませんですぞぉー、はい」
人同士の争いに直接介入することは、立場上禁止されてるけど、救助や保護なら。
「罪のない人達を助け出す方法を考えないと」
「罪のない人達、ですか。先程までベトギプスのことを何も知らなかった陛下が、罪の有無を判断する……、はてさて私にはその根拠があるとは、到底思えないのですがぁー、ちがいますかなっ、はい」
あれ、chefアランギー様は、ベトギプスそのものに介入するなって、言ってる?
この神茶は近年稀に見る旨さですなぁー、ズズズズズゥーと盛大に音を出しながら神茶を啜るchefアランギー様を見ながら、chefアランギー様の真意がいったい何処にあるのかその心を読み解こうと思考をフル回転させる。
ダメだ、経験不足だからなのか、相手が神様だからなのか、全く分からない。……こうなったら出たとこ勝負だ。
「対岸の火事に進んで飛び込む趣味はありません。ただ、民間人が巻き添えになってるこの状況は看過できません。人道支援って形でなら可能なんじゃ」
「ふむふむふむ。確かに、学も低く知能はアシュランス王国やゼルフォーラ聖王国の幼子にも劣る哀れ極まりない者達ではあります。ですが、知識を独占されていたからといって知性や道徳性、知恵やヒュームとしての在り方まで低俗な物になってしまう。彼等のようなヒュームが普通なのですかなっ。であるならば、実に由々しき事態ですぞぉー、はい」
「そこは十分な食料と安全な寝床と最低限の教育を」
「彼等とこの国にフィリーに住まう者達では命の重さが価値観が違い過ぎるのです。教育の無さ貧しさが根底にあるのは間違いありませんが、根本的に違うのです。彼等には彼等の祖と同じ争いを好む南大陸由来の血が流れています。文化や道徳は多様性に富み押し付け合う物ではないのですぞぉー、はい」
「ですが……」
「貧しさとは心、心根性根に対しても当て嵌まってしまうものなのです。ですがそれは一つの側面でしかないのもまた事実なのですぞぉー、生きる為に仕方なく奪った、奪われた者は弱かっただけ、だから奪った者には罪はない、見逃すのは当然。南大陸のこのような現状を知った上で、今一度問いましょう。人道支援でしたかな実に耳障りの良い言葉ですなぁー、お節介偽善の線引きは曖昧だからこそ意味があるとは言いますが。陛下は、奪われ生きる道を閉ざされてしまった者に命を奪われてしまった者にその家族に、仕方なかったらしいです、生きる為だったから許してあげましょう。彼等も内戦の犠牲者。だから助け合いましょう。命の重さに差などない。アシュランス王国は皆を平等に助けます。と言えるのですかなぁー、はい」
「そ、それは暴論」
「確かに若干寄せて話してはいます。ですが、ヒュームは例外を除き食べ物を食べ水を飲み体を休める必要があります。支援をするのであれば何処かに線を引かなくてはなりません。無尽蔵に武力を生み出させない線、命を繋ぐギリギリの線、考え自主的に行動を起こさせる線、他にも線は沢山ありますが、結論から言いましょう、底をつけば争いなど鎮火します」
線引き、見極めが大切ってことだよな。
「生きる為に抗う、現実と理想を葛藤と妥協をもって制する勇気、どうせ奮い立たせるのであれば、誰一人傷付かせない、その為だけに立ち上がり声を上げる勇気が望ましいのですが、それこそ理想が過ぎるというものなのでしょうなっ、はい」
ん? 今のはchefアランギー様の理想ってこと?
「えっと、理想ですか?」
「つまりですな、先程も言いましたが、底をつけば争いなど鎮火する。と、言うことですなっ。犬猫ですら割って入らない夫婦喧嘩、ヒュームが敷いたルールによれば、他国他人が国家に干渉するのは内政干渉。自然災害や大事故ならいざ知らず利権をかけ争い厳しいからと支援を求めるは些か都合が良過ぎるというもの。せめて過去のヒュームの失敗からは学んで欲しいものです、滅んでしまってからでは後の祭りと言いますからなっ、はい」
ふむ。納得できるようで納得できない。神様視点と人視点の違いなのかもな。
「鎮火した後でならいくらでも支援して良いって解釈で間違いありませんか?」
「その通りですぞぉー、支援救済援助とは本来そうあるべきなのです。手とは復興復旧にこそ差し伸べられるべきなのです。ここで勘違いされては困りますので断言しましょう。神は見守るだけ縋り付かれても困ります。神は何もしない願掛けされても困ります。神とは傍にいるだけの都合の良い存在なのですぞぉー、はい。良い話とは得てして長話になってしまうものなのですが本日はこのあたりでタイミング良く切り上げるとしましょう」
良い話ではなかったな。……価値観の違いか。
「俺は構いません」
「循環に乱れが生じない限り、精霊にできることは何もないの、コルトを思い紡いでさえいれば他には何もいらないのだけれど、ヒュームにはそれが無理なのでしょうね。chef」
「なんですかなぁー、奥方の一人マルアスピー殿よ」
「今日のデジュネは疲労が回復して気力が増進するものが良いのだけれど、可能かしら」
「オーダーですかっ! フッフッフッフッフ腕がなりますですぞぉー」
「フフフ、そう、楽しみにしてるわ」
「お任せあれ」
パンパン
chefアランギー様はパルマセコの音を響かせ消えた。
「ぁえ!?」
話の途中……。
「陛下。神chefアランギー様が席を立たれてしまった以上、本日のプチ会議はここまでということで宜しいかと。……本日の神茶も真に美味しゅうございました」
サンドラさんは、グイッと神茶を飲み干すと立ち上がり、ドアの前まで移動し立ち止まり一礼してから、執務室を後にした。
「パフパフ」
「はい」
「新商品の開発に戻るわ。今日は仕方がないからこのままロイクの面倒を見ていてくれるかしら」
「はい」
面倒って……。パフさんもそこで力強く返事とかしないで。
「ねぇ、ロイク」
「はいなんでしょう」
「研究室までお願い」
相変わらずのマイペース。羨ましいというかもう尊敬のレベルです。
「新商品開発フロアーの方で良いんですよね」
「そうね」
「ではっ」
神授スキル【転位召喚・極】でマルアスピーを移動させた。
「エリウスも何処か行きたいところがあったら言ってください。何処へでも飛ばしますよ」
「……私は主殿の盾、主殿の後方に控えさせていただければそれだけで幸せであります」
「そうですか」
「そうです」
「あのぉー、エリウス様宜しいでしょうか?」
「はっ!! 何なりとお申し付けください」
「エヴァちゃんとジャンヌちゃんとは何時頃会えそうですか?」
「エヴァちゃん、ジャンヌちゃんとは何方のことでしょうか?」
「女の子の天翔馬と女の子の夢角馬です」
「……一つだけ問題がございます」
「問題ですか」
「はい、問題です」
「エリウス。chefアランギー様や俺の前で約束したからには反故にするのだけは許しませんよ」
「反故になど致しません。このエリウス、約束ごとを違えたことは一度もございません。問題というのは、夢角馬には雌がいないということです」
「「そうなの」ですか?」
「はい、ですので、ジャンヌちゃんという名前は如何なものかと……」
貴重な時間をありがとうございました。




