1-37 大地石の民と解呪士、そして再会。
宜しくお願いします。
――― ブオミル侯爵領ロイ
商業地区1 バトン宝石商会
――― 6月6日 13:00
俺はマルアスピー様と2人で、ブオミル侯爵領ロイの商業地区1にあるバトン宝石商会のゲストルームに直接移動し、商人商家協会の協会長ロメイン・バトンさんを訪ねた。大地石の巫女と呪い。大地石の集落に伝わるゼルフォーラの歴史について聞きたい事があったからだ。
「お待たせ致しました。こちらが、旧民名簿です」
「ありがとうございます」
俺は、名簿を受け取ると、契約奴隷パフ・レイジィーの母親でリディア・レイジィーさんの名前を探した。
「大地石の集落の出身者を調べて、その巫女の呪いとやらが分かるのですか?」
「親から子へ継承する呪いみたいなんですが、呪いを継承した者にどのような弊害を与える呪いなのか分からないまま解呪しちゃいまして」
「ロイク様は解呪の心得まで御持ちでしたか。いやー流石は英雄の中の英雄様。公爵さ!おっと、お忍びお忍び・・・」
「公爵?」
「いえいえ何でもありません。独り言です」
「そ、そうですか・・・」
『フフフッ』
運の神様のあれですよね・・・たぶん・・・
『でしょうね』
「大地石の呪いについて、何も知らないんですよね?」
「はい。申し訳ございませんが、大地石にその様な下劣な呪いが存在したという昔話を聞いた事も、記録を見た事もございません」
「継承する呪いなんですが、下手に解呪しようとすると、解呪を試みた者を石化させる解呪除けの呪いが呪いの中に組み込まれているみたいなんです」
「呪いを継承した者よりも、呪いに触れた者に対しての方が強力な呪いの様ですね」
「そうなんですよ。過去に旧民で石化した人や、関わった人で石化した人っていませんでしたか?」
「無いですねぇ~・・・。人が石化する程の大事件なら、間違い無く半日もかからず街中に噂が広がると思います。故意に隠蔽している場合は別ですが、領軍や王国軍や騎士団に確認してみては如何ですか?」
「確かに騒ぎにならない様に隠すって事もありえるか・・・」
「それと、教会や解呪を生業にしている者に聞いてみるのも良いかと思います」
「ふ~ん。餅は餅屋って事ですね」
「はい」
「分かりました。まずは餅屋に行ってみます」
「御餅を買うの?」
「呪いの解呪を専門にしている解呪士のところですよ」
「呪いは呪い専門の人に確認するという事ね」
「そうです。という事で行きましょう・・・おっと、忘れる所だった、ロメインさん、この名簿お借り出来ますか?」
「3日後に産まれる予定の子がおりますので、それまでにお返ししていただけるのであれば構いません」
「良かったです」
【タブレット】起動 ≫
≪WELCOME ≪女の子の可愛い声≫
名簿は借りた状態だから俺の所有物のはずだから、鉱山都市ロイに定住する大地石の集落出身者の系譜をまとめた名簿を収納 ≫
≪・・・道具:書物に『大地石の民の系譜・過去100年間分』を収納しました。
え?
「ロイク様。名簿が消えて・・・」
どういう事だ?
「あ、名簿は俺のファルダガパオの中に入れただけです」
「そうでしたか、驚きました」
「金剛石の時と同じです」
「あの時は、金剛石の事で頭がいったいだったもので・・・いやぁ~お恥ずかしい」
「今お返しします」
「宜しいのですか?」
「えぇ」
更新:対象・名簿に記載されている者 ≫
≪・・・既に最新情報です。改めて上書きしますか?
最新なんだぁ!・・・
『この声って可愛いわよね?』
そうですねって、急ですね。
『フフフッ』
名簿を取り出し ≫
≪・・・道具:書物より『大地石の民の系譜・過去100年間分』を取り出しました。
俺の手元に名簿が現れる。
「何かから出す訳でも無く宙から突然現れるファルダガパオ。なかなか驚かされますなぁ~」
「ハハハ。解呪士の所へ行く前に、1つだけ確認しておきたい事があります」
「はぁ、何でしょうか?」
「この名簿は、ここ100年分の旧民の情報なんですか?」
「はい。存命の者が既におりませんので、それ以前の物は大地石の集落。大地石の民がここに移り住む前に暮らしていたました坑道を抜けた先にあります現在の職人街の祠に保管してあります。名簿を確認された御様子はありませんでしたが、良くお気付きになられましたね」
「あっ!ハハハ・・・勘ですかね・・・」
『フフフッ。勘』
良いんですよ。
「過去の分も必要ですよね?」
「呪いの継承を調べている訳ですから。そうなりますね」
「職人街は、ロイの技術を集結させた場所ですので、許可を取る必要があります」
「許可ですか」
「はい。直ぐそこの庁舎で手続き出来ます。商人商家協会へ行く序でに立ち寄って、入場許可証を貰っておきましょうか?」
フリーパスで移動するし許可証とか必要ないですよね?
『そうね』
「今日の内に行けるか分からないので、今は気持ちだけ貰っておきます」
「左様ですか。分かりました」
「それでは、俺達は、解呪士を訪ねてみますので、これで失礼します」
「お役に立てず申し訳ありませんでした」
「そんな事ないです。凄い助かりました」
「身に余る光栄でございます」
「ハハハ・・・」
鉱山都市ロイの解呪士を検索 ≫
≪・・・・・・該当者は2名です。
表示 ≫
≪・・・表示しました。
***********************
R4075年06月06日(聖)時刻13:30
検索対象地:ブオミル侯爵領ロイ
検索対象者:解呪士
該当者2名
【名前】ハオラン【性別】男【年齢】49歳
場所:商業地区13・1077番
【名前】モニカ【性別】女【年齢】125最
場所:侯爵邸警備部呪詛対策室
***********************
おや、侯爵邸に1人居るみたいですね。
『人間種にしては長生きね』
本当だ。
『どんな人間種なのか興味が湧いたわ。こっちの人間種にしましょう』
マルアスピーの勘ですね。
『好奇心ね』
どっちでも良いです。それじゃぁ~モニカさんという解呪士に会いに行きましょう。ヨン・ライアン家臣女の男爵様に話を通したら会えると良いのですが・・・
『まずは行ってみましょう』
了解。
「それでは、また伺います。ありがとうございました」
「何のお構いも出来ませんで・・・」
【フリーパス】ブオミル侯爵邸 移動 ≫
・
・
・
――― ブオミル侯爵領ロイ
ブオミル侯爵邸正面扉前
――― 6月6日 13:33
俺はマルアスピー様と2人で、ブオミル侯爵領ロイの侯爵邸の屋敷前。正面扉の前に移動した。俺達に気付いた貴族領軍私兵隊の兵士が近付いて来た。
「馬車の音が聞こえませんでしたので、出迎えが遅れ申し訳ありませんでした」
「いえ、気にしないでください」
『丁寧な対応ね』
ここまで来る為には、本当なら門を2つ潜る必要がありますから、不審者とは思わなかった様です。
「馬車等で紋を確認出来ませんでしたので、御名前をお聞かせ願えますでしょうか?」
「ロイク・シャレットとマルアスピー・シャレットです」
「ロイク・シャレット様に、マルアスピー・シャレット様・・・こ、こ、」
「大丈夫ですか?」
兵士は、極度の緊張からだろうか、大量の汗をかきながら顔をひきつらせていた。
「こ、こ、公爵様がぁ・・・どどどどうしてこの様なばばっば場所にぃ↑・・・?」
あぁ~公爵って設定だったっけ・・・
『運の神様やるわね』
何がです?
『遊びの女神様なだけはあるわね』
・・・迷惑なだけですよ。
『そうかしら、面白いわよ』
「今日は、解呪士のモニカさんに伺いたい事があって侯爵邸を訪ねたんですが」
「モニカ様に?」
「呪いについて聞きたい事があるんですよ」
「あっ!この様な場所で誠に失礼致しました。館の中へどうぞ御入りください。案内担当の召使をお呼び致しますので、貴重な御時間を今しばらくだけお待ちいただくという事で宜しくお願い申し上げます」
「普通に話してくれて構いませんよ」
言葉が変な事になってるし・・・
『コルトの方が面白い人間種が多いと思っていましが、ロイも負けていませんね』
何の面白さですか。何の!
『全体的によ』
・・・
「ここっここっこ公爵様にその様な。おおおっ恐れ多い・・・」
・
・
・
――― ブオミル侯爵領ロイ
ブオミル侯爵邸呪詛対策室
――― 6月6日 13:55
金糸で袖口と襟に刺繍の入った紫色の法衣を纏い。口紅を塗った三毛猫のお面を被り、翡翠とターコイズの長く大きな首飾りをぶら下げ、独特な雰囲気を醸し出している125歳の解呪士は語り始めた。
「継承の呪いが若い世代にまだ残っていたとはねぇ~。あれは今から110年111年程前の事だったかな」
111年前!・・・何処かで聞いた様な気が・・・
『そうねぇ~・・・』
「地属性の古代魔術の地、大地石の集落。水属性の古代魔術の地、海の集落。火属性の古代魔術の地、火山の集落。風属性の古代魔術の地、風の集落。四大属性とは異なる非なる古代魔術の地、信仰の集落。そして、各地のマジックスポットで、魔力が暴走した事があってねぇ~」
古代魔術の地?
『初めて聞く名前もありましたよ。風の集落って何処の事からしら』
マルアスピー村に、非四大属性の影響ってありませんよね?
『そうね』
どういう事なんだろう?
「大地石、海、火山、風には、全盛期には及ばぬがそれでも強い魔力を持った者がおった。その者達は祠の守り人と呼ばれる一族の末裔で、暴走した魔力を収める為に依り代になった」
マルアスピー村には祠が無いし、4つの集落とは話が違うのかもしれませんね。
『あるわよ』
祠がですか?
『えぇ。大樹の祭壇......』
でも、祭壇と祠は違いますよね?
『......の正面に鎮座する精霊樹。人間種達は祭壇。聖域の外から精霊樹を仰ぎ見るだけですが、精霊樹は社祠と同じ様な存在です』
あぁ~精霊樹がですか・・・
『私は大樹の森の聖域の精霊樹に宿りし大精霊です。神様の代わりに宿っているのです』
そうですね。
「依り代になった祠の守り人の末裔の犠牲もあって、4つの集落の魔力の暴走は収まった。だが、依り代になった祠の守り人の末裔には、今までに見た事の無い呪いが残された。それは継承という呪い」
自然魔素の暴走を抑えた人が継承の呪いに掛けられたって事か。
『そうみたいね』
「大地石の祠の守り人は、子を産む事を切っ掛けに発動する生命力を蝕む呪い」
リディアさんのあれは、やっぱり呪いが原因だったんだ。
「そして解呪を試みた解呪士の多くを、生ける石像へと変貌させた」
『全ての状態異常を回避するロイクだから何事も無く解呪出来たという事なのかしら』
どうなんでしょうね。
「当時、私はまだ子供でねぇ~成人の暁には魔術師の中の治癒士になりたいと夢見る少女だった。だが、解呪を生業にする両親が解呪返しの呪いの犠牲となってしまった。両親の石化を解呪する為、私は解呪士を志、必死の思いで技術を磨いた。そして石化の解呪を会得した。だが、石化の呪いを解呪する為には、解呪返しの呪いを呪詛した継承の呪いに冒された者の死と、解呪の技術が必要だった」
あれ、変です。リディアさんは生きてるけど、ヨルゴ院長の石化は解除出来ました。
『パフちゃんのお母さんの呪いを解呪したからではないでしょうか?』
「私は36歳になっていた。両親が石化してから22年の歳月が流れたある日の事だった。継承の呪いに冒された大地石の祠の守り人の最後の第1世代が息を引き取った。私は両親の石化の解呪を試みたが失敗に終わった。両親が受けた呪いは、第1世代が呪いを受けた年と同じ年に呪いを継承した第2世代だと確信したが、それが分かった所で何の解決にもならない」
『結局、この呪いはどうやって解決したのかしら?』
俺もそこが知りたいんですけど・・・
「そして、私は齢125。不思議な事に未だ両親の石化の呪いを解呪する事が出来ずにいる」
このお婆さんもですが、第2世代のその人も長生きですね。
『そうね。125歳も111歳も人間種では長生きです』
あぁ~・・・!
『どうしたの?』
111歳で継承の呪いに冒されている人何てそうそう居ないですよね?
『継承の呪い事態珍しい物の様ですから、それに人間種として珍しい111歳。1人居たら多い位だと思いますよ』
ですよね・・・それなら。
「モニカさん。ご両親の呪い何ですが、何とかなるかもしれません」
「ほ、本当ですかぁ~・・・」
「解呪に成功したら、この継承の呪いをどうやって解呪士達が解決に導いたのか教えてください」
「解決ですか・・・」
「ねぇロイク。この継承の呪いは、今も若い世代に継承している訳でしょう。結局、解決していなかったって事にならないかしら」
「子供を産まずに過ごせば、継承の呪いの影響を受けずに生き続ける事が出来ますよね」
「そうみたいね」
「子供を産んだからと言って直ぐに死ぬ訳じゃないみたいですよね?」
「そうね。パフちゃんは16歳。パフちゃんのお母さんは子供を産んでから、16年近く経過して呪いが発動したという事になわるわ」
「呪いの発動タイミングが一定では無いとしたら、子供を産んでも元気なままの人を見過ごしてしまうって可能性は無いでしょうか?」
「なるほど」
「ロイでは、見過ごす事は無かったのです」
「旧民の全員のステータスを確認したって事ですか?」
「私が39歳の時、今から85年前の4月1日。当時の侯爵様の領主命令で、ロイに住む大地石の祠の守り人の末裔は、大地石の民。旧民の合意の上で全員処刑された。これは、当時の大人達と領主家にとって決して他言してはいけないタブーになった」
「まだ残っていたというのはそういう事だったんですね」
「それで、こんな話が事の真相であっても、私の両親が助かる可能性は、まだあるだろうか?」
「モニカさんも御両親も、御両親に解呪返しの呪いを呪詛した呪いに冒されている人も犠牲者ですからね。当時の旧民とロイの政治が判断した事に俺が今更意見を述べても意味がありませんし」
「ロイクって、変な所で冷めてるっていうか大人よね」
「そうですか?」
「えぇ~、ずっと見ていたから分かりますが、そうですよ」
「ずっとですか?」
「えぇ~ずっとよ」
「・・・まぁ良いや。まずは、111歳の第2世代の方を探します」
「当てはあるのかね?」
「当てはありませんが、生きているなら直ぐに見つかります」
「ロイには住んでいないと思うが・・・」
「この世界の何処かには居るでしょうから、見つかりますよ」
「一瞬でも期待した私が愚かだったかぁ~・・・」
「まぁ~見ててください」
可視化:対象・111歳。大地石の巫女の継承の呪いに冒されている者 検索≫
≪・・・・・・該当者1名。
表示 ≫
≪・・・表示しました。
「111歳で、継承の呪いに冒されている人は、1人居るみたいですよ」
「111歳まで生きながらえている者はそうそう多くはないだろうからねぇ~」
可視化:対象・モニカ・今回限り: 発動 ≫
≪・・・認証を更新しました。
表示画面を拡大・10倍・今回限り ≫
≪・・・画面を拡大しました。
「そ、それは?」
「これは、俺の神授スキルの1つです。この宙の絵に描かれているのは、ゼルフォーラ大陸です」
「地図という事か」
「そうです。そして、この赤い点が、呪いを継承している111歳の人です」
「ララコバイア王国のジェリスか。また随分と遠い所に住んでおる様ですなぁ~」
「こちらに呼んでも良いんですが、111歳で高齢ですから、こちらから伺う事にします」
「ロイから、ジェリスまで、片道4日~5日です。解呪する事を考えると更に2~3日。解呪出来る可能性があったとしても、往復の移動費や滞在費と解呪費。軽く見積もっても1億NL以上。今だ現役とはいえそんな大金は持っておらんよ」
「お金は要らないです。沢山持ってますから」
「馬鹿言うでないよ。1億NL以上の大金を受け取らない人間がいるもんかね」
「こう見えて俺って結構な資産家何ですよ。それに、転位でサクッと行って事情を話して解呪して、サクッと戻って来て石化を解呪するだけなので、昼食前には全て終わってると思います」
「昼食?あともう少しで陽が重なる時間。ブオミル侯爵家の客人とはいえ、年寄を揶揄うでないわ」
「それなら、一緒に転位で解呪しに行きますか?」
「仮に転位移動出来たとして、直線にして約170Kmも離れたジェリスまで、何回転位を繰り返し、どれだけ【MP】を消費すると思っておる」
「何もしないのと失敗も同じ訳ですから、まぁ~騙されたと思って信じてくださいよ」
「騙されたと思って信じる?ロイク。言葉に矛盾が生じているわよ」
「良いんですよ。それじゃ早速行きましょう。・・・の、前に、モニカさん。俺が向こうに行ってから呼んでも良いのですが、一緒に移動した方が一回で済むので、俺達のパーティーに参加していただけますか?」
「そこまで言うなら、昼食まで付き合うとするかのぉ~」
「それでは、俺達のパーティーに入ってください」
俺は、ポケットからPTカードを取り出すふりをし、FORMカードを取り出した。そして、モニカさんに俺達のパーティーへの参加要請を飛ばし、モニカさんは参加要請を受諾した。
モニカさんは、自身のPTカードと、俺とマルアスピーを何度も視線を動かし見比べ、そして、
「ウワッハッハッハッハッハッハ。そうかぁっ!お主が噂の竜殺しの英雄。ロイク・シャレット公爵だったか。今の話は全て本気も本気全て可能と言う事ですな。全属性の賢者よ」
「あれ?PTカードって身分とか分かりましたっけ?」
「個体レベル200越えの狩人。軍に関わる者なら誰もが、その身分を知っているでしょうなぁ~。何より、この世界に生きる者で、シャレット家を知らぬ者はおりません。フッ・・・」
「そ、そうなんですね・・・」
運の神様・・・いったいどんな記憶操作したんですか!まったくもう・・・
『フフフッ』
笑い事じゃないですよ。
『だって、面白いじゃない』
もう・・・
「さぁ~、行きましょう。ロイク」
「・・・そうですね!それじゃぁ~ジェリスのエリザベスさんの家の前まで移動します」
【フリーパス】対象・パーティーメンバー全員:場所・ジェリスのエリザベスさんの家の玄関前 移動 ≫
・
・
・
――― ララコバイア王国ジェリス
大地石の民 エリザベス宅
――― 6月6日 14:30
俺は、マルアスピー様と、125歳の解呪士モニカさんの3人で、ゼルフォーラ大陸の南にある海洋国家ララコバイア王国のジェリスに住む大地石の祠の守り人の末裔エリザベスさんの自宅の玄関前に神授スキル【フリーパス】で移動した。
「気分が悪くなるのを覚悟しておったが・・・・・・」
モニカさんは周囲を落ち着き無くキョロキョロと見回していた。
『随分と元気な125歳の人間種です』
そうですね・・・さてと、
≪トントントン
「・・・」
俺は、玄関のドアをノックする。遠くから微かに声が聞こえた。だが、一向にドアの開く気配が無い。
≪トントントン
「エリザベスさんに用事があって、ゼルフォーラ王国から参りました」
「・・・」
微かに返事が聞こえた気がする。
「中に居るみたい何ですが、どうしましょう?」
「お邪魔しましょうよ」
マルアスピーは、ドアノブを手に取り回した。
≪カチャ
「あら、鍵開いてたみたいよ」
マルアスピーがドアを開けると、車椅子の女性がゆっくり玄関に近付いて来る途中だった事が分かった。
「エリザベスさんですか?」
俺が、車椅子の女性に確認すると女性は小さく頷いた。
「とっても突然何ですが、継承の呪いを解呪しても良いでしょうか?ゼルフォーラ王国のロイから一緒に来たこの解呪士の両親の石化を解呪したいんです」
「解呪ですか?・・・止めておいた方が良いですよ。まだお若い様ですから・・・」
「ここに来るまでの間に何件も解呪に成功しているので大丈夫ですよ。信じて任せていただけませんか?お礼と言っては何ですが、右膝の古傷と右の腰の腫瘍を治癒完治させますので」
「私の身体の状態が分かるのかい?」
「はい、色々と便利なスキルを所持しているもので・・・」
「分かりました。それでしたら、呪いの解呪の前に、何十年も前に痛めた膝を治してみせて貰えますかねぇ~」
「分かりました。それでは、回復治癒を先に済ませましょう【ベネディクシヨン】≫」
傷痕の治癒だから段階は2だったっけ・・・精霊聖属性下級魔法【ベネディクシヨン】レベル2・自然魔素:清澄聖属性166分の1:発動 ≫
エリザベスさんの身体が、柔らかな金色と白色の光に包まれる。
「おぉ~・・・ロイク様。聖属性の回復魔術を始めてみました。長生きはする物ですなぁ~・・・」
「ハハハ。聖属性だって分かりますか?」
「今迄見た事はありませんでしたが、聖属性の魔晶石による回復処置は何度か見た事があります。黄金の光は聖属性の魔晶石とまさに同じ・・・ありがたやありがたや」
金色と白色の光が消えると、エリザベスさんは車椅子から立ち上がると一言。
「膝も腰も喉も身体中の痛みが消えたよ・・・」
「それは良かったです。身体の調子は後程確認していただくとして、呪いの解呪を施しても宜しいでしょうか?」
「聖属性魔術を扱い、ほんの一瞬で私の身体を治した力。分かりました。ですが、失敗した際の責任は御自身でお願いしますよ」
「分かっています。エリザベスさんの場合、解呪しても身体に変化が現れる訳ではないので分かり難いと思います。それではステータスを確認させていただきます」
「はい」
【オペレーション】発動 ≫
【パーフェクト・コピー】発動 ≫
あっ!この呪いはもう持ってるから、ストックは要らないか・・・だったら、エリザベスさんの呪い継承4分の1を【löschen】≫・・・削除終了。・・・あぁ~この人もパフさんやリディアさんと同じで【MP】と【INT】と【MND】が高いや・・・
「終わりました」
「もうですか?」
「ロイク様。解呪の魔術を発動もさせずに終わったのですか?」
「はい」
「こうも簡単に、この呪いが解呪出来るとは・・・あの日が悔やまれますなぁ~・・・」
・
・
・
「エリザベスさんの他に、ララコバイア王国に移り住んだ方はいますか?」
「わかりません。私は乳飲み子の時に、両親に連れられてジェリスに移り住みました。友人はこの島の人位です」
「そうですか。・・・それでは、俺達はゼルフォーラ王国に帰ります。身体の調子が良いからといって無理はしないでください。若返った訳ではありませんので」
「呪いの事は良く分かりませんが、身体を治していただいたのは事実です。御礼と言っては何ですが、私の両親が残したロイに関する思い出の品や資料を受け取ってください。私にはロイでの思い出や記憶は1つもありませんし、両親との思い出も全てジェリスにありますから」
「思い出の品ですか・・・大地石の民の何かが分かるかもしれませんし、有難く頂戴します」
「取って来ます」
≪スタスタスタスタ
エリザベスさんは、車椅子では無く自らの足で、奥の部屋へと歩いて行った。
「ロイク様。身体の治癒をしたのは分かりましたが、呪いは何もしてない様に見えましたが本当にあれで?」
「大丈夫ですよ。間違い無く呪いは消しました。戻って石化を解呪したら一件落着です」
「・・・」
『ねぇロイク』
何ですか?
『折角、海に来たのに、眺めるだけで終わりなのですね』
仕方ないですよ。遊びに来た訳じゃ無いですから。
『そうですけど、残念です』
サーフィスに行ったら泳げると思います。楽しみは取っておきましょう。
『・・・分かったわ。フフフッ』
どうしたんですか?
『上手になったなと思っただけですよ』
・
・
・
「お待たせしました。自分の足でこんなに軽やかに歩いたのは20年以上ぶりです。若返った気分です。本当にありがとうございました。・・・それで、ロイの物は、このケースの中に全て入れましたので、このままお受け取りください」
「ありがとうございます。それでは、失礼します。長い生きしてください」
俺達はエリザベスさんの自宅を後にした。
・
・
・
「モニカさん。御両親は何処にいるんですか?」
「私の家です」
「誰か他に人が居ますか?」
「息子も娘も孫達も別の所に住んでおります」
「それなら、直接転位で移動しちゃいましょう。リビングに移動して問題ありませんか?」
「問題と言いますか・・・信じられない状況にどう返答して良いのやら答えに悩んでしまいます」
「ハハハ」
【フリーパス】対象・パーティーメンバー全員:場所・ロイの125歳の解呪士モニカさんの自宅のリビング 移動 ≫
・
・
・
――― ブオミル侯爵領ロイ
解呪士モニカの自宅のリビング
――― 6月6日 14:50
俺達3人は、モニカさんの自宅のリビングに移動した。
「私の家のリビングです。あっという間にジェリスに移動し、あっという間にロイに戻って来るなんて事がぁ~、現実に起こり得るなんていやいやどうして・・・」
「モニカさん。この石像が御両親ですか?」
「そうです。父は39歳。母は33歳。月日が流れるのは早い物ですよ・・・」
「さて、昼食前に解呪を終わらせて、楽しい気分で食事をしましょう!【ベネディクシヨン】≫」
俺は、石像に右手を向ける。
精霊聖属性下級魔法【ベネディクシヨン】レベル3・自然魔素:清澄聖属性180分の1・発動 ≫
モニカさんの石化した両親は、柔らかな金色の光に包まれる。
・
・
・
「の、呪いが解呪されたのか?・・・君が私の呪いを?」
「貴方」
「おぉ~ビアンカ。君も石化の呪いに・・・」
「はい。こちらの男性が?解呪してくれたのでしょうか?それともこちらのお婆さんが?」
「呪いを解呪したのは俺ですが、御二人をずっと大切に管理していたのは、こちらのモニカさんです」
「モニカ?」
「私達の娘もモニカという名前なんだよ。ところで、私と妻が石化してから何年経ったのか分かりますか?」
モニカさんが口を開く。
「2人が石化したのは、111年前です」
「111年も経ってしまったのか・・・知り合いはもう1人も居ないと言う事か・・・・・・解呪して貰ったのは有難いのだが、111年も経ってしまっていては私達夫婦の家も財産も既に他人の手に渡ってしまっているだろう。当時の相場しか分からないが、今は解呪費用は幾ら位なんだろうか?」
「解呪は呪い強さや質にもよりますが、800万NLから高い物では、1億NL以上の物もありますねぇ~」
「解呪の物価事態はそんなに変わっていないようだね。君には働きながら解呪の代金と御礼を続ける事にしたいのだが、おっと、名前をまだ名乗っていなかったね私は......」
「ロイの貴族領軍私兵隊、警備部、呪詛隊隊長、解呪士ピーター。そして、同じく警備部、呪詛隊の紅一点麗しの解呪士ビアンカ」
「......・・・お婆さん貴方は?」
「モニカさんは、現在125歳。御二人が石化した時は成人前の14歳」
・
・
・
ピーターさんとビアンカさんは、モニカさんへ何度か視線を動かし、そして見つめ合い頷いた。
「私達のモニカなのか?」
「わ、私には分かります。モニカちゃんなのね!」
・
・
・
「お母さん。お父さん・・・ずっと会いたかった」
モニカさんは、ピーターさんとビアンカさんに抱き着いた。
「石化の呪いで、111年前の記憶のまま止まっていて、ピンと気ていないが、111年間も子供をほったらかしにした不良夫婦ですまなかったね。ただいま。モニカ」
「良く見たら、私の祖母ちゃんにそっくりよ。ビアンカ」
「お母さんは、私の曾孫にそっくり。お父さんも私の孫達にそっくりよ!」
「そうか、俺達にそっくりか」
『ロイク?何故、泣いているの?ロイクも何故泣いてる?』
貰い泣きです。
『ふ~ん。良い事をしても泣くのね・・・人間種は』
・
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・