6-MS-72 コルトに16歳の神授を取り戻せ - 良い話、ちょっと悪い話、悪い話 -
白光の夜の怪事件と集団失踪事件の真相を説明して回った日から十日が過ぎた。
慌ただしい十日間だった。村を出てからというもの毎日がこんな感じなんでもう慣れちゃったけど……。
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―――アシュランス王国・王都スカーレット
グランディール城・国王執務室
R4075年11月09日(闇)10:40―――
山積みにされた書類をタブレットでサクッと処理し、メア(亜)下界の地図をタブレットに映し出し眺めていると。
トントントン
「陛下。神chefアランギー様副王陛下、マルアスピー王妃陛下、世界創造神様公認の許嫁のサンドラ王女殿下がお見えです。如何なさいますか」
いつもは勝手入って来るのに、いったい何だ? ……考えるだけ無駄か……。
「ロイク様、応接コーナーにお通し致しますね」
「……そうしてください」
「畏まりました。お会いになられるそうです」
「はっ!!」
ガチャ。
警備の兵士によって執務室のドアが開けられると、マルアスピーが駆け込んで来た。
「パフちゃんパフちゃんパフちゃんパフちゃんパフちゃん」
「マ、マルアスピー様っ!? いったいどうなされたのですかっ??」
表情には余り表れていないが、声を聞く限り、マルアスピーは焦っているようだ。
パフさんは、マルアスピーに体中を触られどうしたら良いのか対応に困っているようだが、俺もこの状況をどうして良いのか分からないので、落ち着くまで放置することにした。
「陛下。唐突ではありますが、良い話ちょっと良い話普通の話ちょっと悪い話悪い話最悪の話、耳に心地好くされど獅子身中の話、二つだけ選んでくだされ」
「え……それじゃ……良い話と悪い話でお願いします」
chefアランギー様は、執務机を挟み正面に立つと、ホントに唐突に切り出して来た。
良く分からないので、無難に良い話と悪い話を選んではみたが……。
「なるほどなるほどなぁ~るほど。それでは」
「その前に、応接コーナーに移動しましょう」
「常設秘書制度を採用したのは間違いではありませんでしたなぁ~、はい」
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chefアランギー様の後方に従うように立つサンドラさんにもソファーに座るよう促し、サンドラさんが腰掛けるのを待って、サンドラさんの隣に腰掛ける。
パフさんとマルアスピーはまだだめみたいだ。放置で良いだろう。
テーブルを挟み正面の三人掛けのソファーの中央に腰掛けているchefアランギー様と、右隣に腰掛けているサンドラさんと、三人掛けのソファーの背を挟み後方に立つエリウス。
「では、悪い話からお願いします」
「……パト、陛下。何やら少し騒がしいようなのですが、進めてしまっても宜しいのですかなっ」
「えぇ、始まれば気になってこっちに来ると思うんで」
アクティブなマルアスピーのことだ自分がいるにも関わらず蚊帳の外なんて好奇心が刺激されるこの状況をスルー出来る訳がない。
入室してから未だにパフさんを触りまくっているマルアスピーをチラ見してから、改めてchefアランギー様と対峙する。
「それでは、ちょっと悪い話をば」
「悪い話を選んだつもりだったんですが」
「悪い話もちょっと悪い話も余り変わり映えしないものでしたのでついついうっかり。折角ですので両方とも話すとしますですぞぉー、はい」
タブレットから人数分の神茶を取り出した。パフさんとマルアスピーの分も応接テーブルの上に、エリウスの分は本人の手元に直接だ。
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「ちょっと悪い話が、王の暗殺で。悪い話が俺の秘書をマルアスピーが引き抜こうとしているですか」
基準が分からん。
「俺としてはパフさんがどうしたいかに任せてしまいたいところですが、ダメなんですか?」
「陛下は適材適所という言葉をご存知ですよね」
「スローガンにしたくらいですからね」
神茶を両手で包み込み一口一口を美味しそうに飲みながら、chefアランギー様の話を終始静かに聞いていたサンドラさんが、俺が最近使い始めた言葉を口にした。
「パフ殿は王立図書館と王立古典籍資料館の館長です。書籍倫理審査評議会の評議員でもあります。職務の内容から陛下の常設筆頭秘書は頷けますが、マルアスピー様の商品開発のアシスタントは、陛下の働き方改革と矛盾しております」
「主殿。発言をお許しください」
「珍しいですね。エリウス続けてください」
「感謝致します。私は、パフ様が常設筆頭秘書を続けることも反対です」
「ふむ、どうしてですか?」
「私は主殿の盾です」
自称ですけどね。
「続けてください」
「パフ殿も私が守るべき御一人です。ですが、守るべき御二人はいつも近くにいる訳ではありません。主殿は執務机の椅子に、パフ様はお茶の時間だと言っては執務室を離れ書類の整理だと言っては危険なドアに近付き眩しいからとカーテンを閉めようと危険極まる窓際に近付く。私はいったいどうしたら良いのですかっ!!」
……今のままで問題なくね? というか、俺の後ろに立ってなくて良いって言ったのに。どうしたら良いか何て普通俺に聞かない、聞けないと思うんですが……。
「あら、面白そうな話をしているのね。エリウスは私のパフちゃんがロイクの秘書ではない方が良いと考えているのですね」
「マルアスピー様、その通りでございます。私の範囲内にいる以上どうしても気になってしまい、使命遂行の妨げになっているのが現状です」
「あら、それは大変ね」
マルアスピーはエリウスの話に乗っかってあわよくばパフさんを連れて帰ろうと考えたようだが、上手くは行かないだろうな。
サンドラさん、chefアランギー様の様子を確認する。
「マルアスピー様。パフ殿は」
「そろそろ良い話をしようと思うのですが宜しいですかな、はい」
ス、スゲェーこの状況でスゲェー。流石は神様。本物の自由が目の前にいる、あるよ。
「良い話なのね。…………話てちょうだい」
マルアスピーは俺の左隣に腰掛け、神茶の香りを楽しみ一口含んでから、chefアランギー様にへりくだることなくいつもの調子で促した。
……マルアスピーもいつも通りなんだけど、スッゲェ~。
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「chefアランギー様。今のが良い話なんですか?」
「その通りですぞぉ~」
「とっくの昔に死んでるはずの人が界を跨いだ結果生きていて、そして帰界した。コルトの魂の数のバランスがおかしくなったことで、理が非常事態モードに移行してしまった。非常事態モードは意図的に設定できないモードだから、勿体ないからこの機会を利用して来る日の後で平常モードに戻す感じにしてみては如何ですかなぁ~って、これの何処が良い話なんですか?」
「つまりですなぁ~」
貴重な時間をありがとうございました。




