6-MS-67 共通点は悪気⑩ そうだ、ターンビットへ行こう①
ネコトミサール大陸の中央に位置する息吹の谷の風穴の聖域へと神授スキル【フリーパス】で移動した俺は、まだ名を持たない正式に精霊となったばかりの小精霊達と小精霊の手前子供精霊達に囲まれていた。
小精霊と子供精霊は喋ることができない。喋ることはできないが念話は通じる。
と、言うことで、状況を把握することにしよう。
『俺は』
『『『管理神様だよね。ゴメンね。今、母様達はいなの』』』
話し掛けた瞬間沢山の声が思考に流れ込んで来た。
『ちょ、ちょっと待った。一人ずつもしくは誰か一人が代表になって話てくれないか』
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
『アタチが代表になりまちた。お話ちまちょ、管理神ちゃま』
やっと決まったのか。……このまま決まらなかったらどうしようかと思ったよ。
小精霊達子供精霊達は、一人ずつもしくは誰か一人が代表になってっと俺が言い終わった瞬間目配せし合い頷き合い一斉に疾風が如く東へと飛び去ってしまった。
数ラフンすると小指サイズの女の子の小精霊が一人西から東へと吹き抜け、その後を色んな姿の小精霊達が続き、その後を色んな姿の子供精霊達が続いた。
そして、数ラフンするとまた小指サイズの女の子の小精霊が一人西から東へと吹き抜け、その後に小精霊達が子供精霊達が続く。
最初に姿を現す小精霊は何度か入れ替わったが、十一周目には一番最初に西から吹き抜けた女の子の小精霊が首位に返り咲き、十五周目に差し掛かった時、俺の目の前、顔の前で止まり宙にフワフワ浮きながら可愛らしくお辞儀をしてから話掛けて来た。
少し遅れてやって来た正確な種族は不明猛禽類の小精霊が、悔しそうに地面を羽で叩いている姿は実に印象的だった。
地面を箒で履いてるようにしか見えない、そんな光景に意識が固定され、挨拶を頑張っていた女の子の小精霊への対応が遅れてしまった。
『聞いてまちゅか?』
『ゴメンゴメン、いきなり皆が何処かに行ってしまったから、いったい何が起こったんだろうって、考えてました』
『一枚ちかないお喋り券の権利をかけて皆で競争ちてたんだよ』
……さっきのあれは競争だったのか。
『アタチが最初に五回続けて一番だったのよ。偉いでちょ』
『……そうですね』
楽しそうにクルクルと踊りながら話をする女の子の小精霊。
『最後の子が戻ったよ。管理神ちゃまゴメンなちゃい』
突然、宙で土下座を始めた女の子の小精霊。
『どうして謝罪されているのか分からないんですが』
『今ね。母様達はいなの』
さっき一斉にそんなこと言ってたな。
『その母様って言うのは大精霊ヴェルフューネ様のことですか?』
『でちゅ』
なるほど。突然押し掛けたのは俺の方だし、不在だったからって小精霊達や子供精霊達から謝罪を受けるのも変だよね。
『えっと、大息吹の大陸に用事があって来たんで、まずは大精霊ヴェルフューネ様に挨拶をと思い寄っただけなんで、皆が気にする必要はないです。そのうちまた挨拶しに来るんでその時は今みたいにお喋りしてください』
『良いんでちゅか?』
『『『良いの?』』』
『あっ!! 今はアタチがお喋りちてるのよ』
『『『ゴメンよ』』』
『分かれば良いのよ』
賑やかなんだけど五月蝿いとは違うこの感じ。……あぁーそっか森林浴そよ風……これって癒しの効果か。
賑やかな小精霊子供精霊達を眺めながら、何となく癒されていると。
『管理神ちゃまはお客ちゃまですよ。お泊りでちゅか? 何日お泊りでちゅか?』
『これからターンビット王国の王様に会わないといけないんで、泊まるのは無理かな』
『え?』
『『『ええええ?????』』』
お葬式みたいなこの感じはいったい何?
『分かりまちた。御用事が早く終われば、お泊りできまちゅ。皆、三ラフンで準備よ』
『『『おおおおおお』』』
お葬式から一転、突然慌ただしくあちらこちらへと吹き抜ける風。周りにあれだけいた精霊達が今は俺の目の前に浮かぶ女の子の小精霊だけになっていた。
『アタチはお留守番なのよ。ゴメンね。だから皆が管理神ちゃまのお手伝いをちゅるのよ』
皆が俺の手伝いをしてくれる?
『母様達がね言うの。アタチ達は風の精霊だから、親切を忘れると、悪戯精霊に間違われて虐められるのよ』
本当にお喋りが好きなんだなこの子。……そういや前にマルアスピーが言ってたっけ風の精霊達は歌うこと遊ぶこと悪戯することが大好きでいつも風任せでいつもどこ吹く風。
『管理神ちゃま皆お出かけのお時間でちゅよ』
『え?』
『お出かけのお時間でちゅよ』
前後左右頭上、俺を囲む様に浮かぶ小精霊子供精霊達。
増えてないか?
『こんなにいたんですね』
『安心ちてくだちゃい。お留守番はアタチだけでちゅよ。管理神ちゃまは風船に乗ったちゅもりでのんびりちててくだちゃい。皆、場所は分かってよね?』
『『『おおおおおお』』』
『夜の御飯と御布団はアタチに任ちてくだちゃい。皆行ってらっしゃいでちゅよ』
『お、おおっと……』
女の子の小精霊に手を振られ反射的に手を振り返した瞬間、四方八方上空からそよ風が吹き付け俺の体を包み込み持ち上げた。
『え、ええ、えっともしかして王様のところまでこれで行くとか言いませんよね?』
『『『そうだよ。お手伝いだもん』』』
やる気の塊達を前に断る勇気など俺にはない。
『……あまり目立たない感じでお願いします』
『変なのぉー。僕達の姿は見えても風は見えないんだよ。ケラケラケラ』
猛禽類の小精霊が何度も高速で俺の目の前を横切りながらケラケラと楽しそうに笑っている。
『『『目立つ? 目立つって何? ケラケラケラ』』』
綿の塊にしか見えない子供精霊達数人が俺の手に平の上で楽しそうに談笑し始めた。
『マバタキくらいとクシャミくらいとアクビくらい』
『管理神様はどれがいい?』
瞬きとくしゃみと欠伸?
猛禽類の小精霊とハイビスカスの花弁にしか見えない小精霊の質問の意図が良く分からない。
何かの遊びだろうか。……回らないといけないところがまだまだあるから、申し訳ないけど今は遊んであげられない。ホント、ごめんよ。
『ここの王様に会った後、違う国の王様にも会わないといけないから、今日は遊んでる時間がないんだ。今度遊びに来るから』
『そっか。皆、超特急だっ!!』
『『『超特急だね』』』
『『『『『『おぉ―――』』』』』』
ッドォ―――――ン。
・・・
・・
・
楽しそうな鼓舞からの、突然の凄まじい爆発音と衝撃。
城の東側の壁をぶっ壊し城の人達を何十人もぶっ飛ばして、偉そうな男性が一人だけ椅子に腰かける開けたこの空間にやって来たことだけは理解できた。
椅子に腰かけた男性が震えながら口を開いた。
「精、精霊様方にお尋ね致します。今日、今日がこの国の最後なのでしょうか……」
椅子に腰かけた男性の問いに応える精霊はいない。
当然だ。だって誰もまだ喋れない。
・・・
・・
・
静寂が続くそん中。
「ア!? ア、アシュランス王!?」
この状況まずくないか? 非常にまずいよね? って、さっそく正体がバレたみたいだ。この国に知り合いなんか、いたわ。
「ア、アァ―――、アシュランス王よ。こ、これはどう解釈しるべきなのでしょうか?」
話し掛けて来たのは、ロジッドベリー侯爵家の当主ガウリック殿だった。
貴重な時間をありがとうございました。