6-MS-64 共通点は悪気⑧ そうだ、次はジャスパットへ行こう②
神授スキル【タブレット】から取り出した杖を、薄い赤色の布を纏い長い烏帽子を被った西朝廷近衛府の長が手に取り見定めている。
「近衛大将、どうなのじゃ、早く説明致せ」
「はっ、し、暫しお待ちくださいませ」
「はよせ」
「はっ」
丸テーブルを挟み立つ西朝廷近衛府の長は近衛大将という身分にあるようだ。
「アシュランス王国国王陛下、杖はテーブルに並んだ物で全てでしょうか?」
「【MP】の消費が0の物はここにある九本だけです」
「改めてお聞き致しますが、この眼鏡は」
「一つしかないんで流石に差し上げられません」
「ですよね」
スキルのレベルが上限に達した人でも、この眼鏡をかければ二倍になることが分かった。収穫としては実に上々だ。
「魔導具とは言ってますが、半分神具みたいな感じなんでおいそれと差し上げられないんですよね」
「神具!?」
「えぇ、家では半神具の魔導具なんて呼ばれています」
「も、も、も、申し訳ございませぬ」
近衛大将は、壇に向かい勢い良く土下座を始めた。
何が起こったのか理解出来ず、ムーコン親王を見ると。
「まぁー見ておれ、直ぐに分かるからの」
「気にしておらぬ。それよりもだ、大朕は杖に付いて早く知りたい。説明せよ」
「で、でですが、天子様を差し置いて神器に触れてしまうなど、偏に我が身の不徳が」
「近衛大将、大朕はもう良いと申しておる。杖に付いて話して聞かせよ」
「近衛府長官よ。天子が長官に望まれていることは何か。土下座には思えぬが卿は続ける気かの」
「……で、ですが」
近衛大将は血の気のひいた青白い顔を上げ、ムーコン親王の問いに答えた。
答えというより何とか反応できたと言った感じだろうか。ここは俺が場の空気を……。
「近衛大将殿。何故九本か分かりますか?」
「……え、あ、えっと」
「大朕は全てを手に取るように理解しておる。だが、殿上の卿等はまだ全てを理解しておらぬと見える。近衛大将」
「は、はっ!!」
「向学の為じゃ、卿等にも理解できるよう明快に説明せよ」
「か、畏まりました。……あ、アシュランス王国国王陛下、何故九本なのか私には見当も付きません。申し訳ございませんがその真意をお聞かせ願えませんでしょうか」
「簡単な話です。杖はそれぞれ、無属性、地属性、水属性、火属性、風属性、聖属性、邪属性、光属性、闇属性に特化していて対応した属性の魔術を行使する場合に限り、【MP】を消費しないって仕様になってるんです」
「ブッ……こ、こ、この杖も神器っ!?」
改めて土下座を初めてしまった近衛大将。
「お、お許しくださいませ。三種の神器に列なるであろう神器に我が身はまたもや...... ~ ......」
・・・・
・・・
・・
・
色々あり過ぎたようで落ち着くのに時間がかかってしまったが、再開した西朝廷の天子との話は順調に進んでいた。
「天子殿は、光属性と水属性に特化されているみたいですね」
「そうなのか?」
「視た感じそうみたいですよ」
「……大朕が光属性と水属性の心得を高いレベルで所持しておることは一部の者しか知らぬこと。ムーコンか?」
「天子、我が国の天子を売るなど、その動機が私にあると?」
「そうであるな、では何故」
「あれ、もしかして隠してたんですか。普通に視えてたんで話を進めてたんですけど、あっ……貴族の人達にも今の聞こえちゃってますね」
「殿上の卿等は大朕の勅令なき声は聞こえぬ文字は読めぬ」
……あぁ、ここってそういう国なのか。色んな国があるもんだ。
「ま、それなら良いや。聖か水かどっちか差し上げようと思って話を進めていたんですが、何かやらかしちゃったみたいで申し訳ないんでどっちも差し上げます。ただ、杖は天子殿以外の人には扱えないように別の付与を施しますが問題ありま」
「なぁ―――――じ、神器を二つも僕オホン、大朕に献上すると申すのか…………殿上の卿等よ、皇家に列なる者よ、聞け」
「「「「ははぁ~」」」」
「ジャスパット王国の大朕とアシュランス王国の大朕は今より兄弟。大朕はアシュランス大朕を今より兄と慕うものとする」
「「「「ははぁ~」」」」
は? 何故、いきなり兄弟に?
「扈従。神器【大朕の神聖杖】と【大朕の神水杖】を大朕の寝殿へ」
「畏まりました」
「あ、それ無理です」
「どうしてじゃ、大朕兄上」
……大朕兄上って俺のことか?
「どうしたのじゃ?」
……俺のことを見てるし、やっぱり俺のことみたいだ。
「先程、二つの杖には【装備者指定武具】という効果を付与しました。天子殿以外が振れると瞬く間に眠りに落ちるようにしました」
「なんとそのようなことまで大朕兄上はできてしまうのか。近衛大将、そこの神器【大朕の神聖杖】と【大朕の神水杖】を手に持つ許可を与える」
「はっ!!」
バタン
「グーグーグーグー」
杖に触れた瞬間、床に崩れ落ち、眠りに落ちた近衛大将。
「「「おおおお」」」
さっきまで静かだった空間が初めて少しだけ騒めいた。
ここにいる人達、人形って訳でも天子を恐れてるからって訳でもなく、静かにしていたのか。
周囲を見回し貴族たちの顔色を確認し恐怖を敷いてこの静けさを維持していないことを理解した。
「抵抗の高い人なら三ラフン、低い人でも十ラフンくらいで目が覚めるはずです。疲れていると多少の誤差はご愛敬ってかんじですかね」
「多少の誤差は愛敬か。大朕兄上は面白いのぉ~」
・
・
・
「アシュランス王よ。献上の儀はうまくいったようじゃぞ」
「……そうでした。俺、白光の夜の怪事件と集団転移事件の真相を説明しに来たんだった」
・・・
・・
・
「近衛大将、起きたか」
「あ? はっ!! わ、私はいったい何を……ここは殿上??」
三十二ラフン後、近衛大将は目を覚ました。
ここまで眠りに耐性がない人を始めた見たかもしれない。俺が真相を説明している間グーグーと鼾をかいて眠る近衛大将には本当に申し訳ないことをしたと思っている。
何故かと言うと、「大朕兄上よ、近衛大将は寝過ぎてではないか」「どんなに耐性が低い人でも十ラフン位で目覚めるように付与したので、本人も知らないうちに疲れが溜まっていたのでしょう」「戦のことは全て近衛大将に任せておったからの」「戦いって気が休まる時がありませんからね」「戦うだけが生き甲斐の男だとばかり思うておったわ」「たまに休ませてあげないと、突然ポックリ逝っちゃうかもしれませんよ」「それは困るのぉ、あい分かった。殿上の卿等よ、近衛大将の眠りを妨げた者は厳罰に処す。今日より労りを持って接することと厳命する」「「「「ははぁ~」」」」。こんな感じのことがありました。
近衛大将は天子に声を掛けられても上の空。まだ寝ぼけているのか会話が成立していない。
「近衛大将よ、今のはすまなんだ、悪ふざけが過ぎた許せ。直ぐに目覚めぬは疲れが溜まっておるからだと大朕兄上が申しておった。そこで、そこのポーションをそちに下賜するものとする」
「ふあ……え?……あ……て、天子様っ!! わ、私はいったい何をして……も、申し訳ございませぬ」
「土下座はもう良い」
この件長くなりそうだなと判断した俺は、本日何度目かの近衛大将殿の額スリスリ土下座を見守りながら、説明の流れを復習していた。
「で、ですが宜しいのでしょうか?」
「近衛大将、大朕は一度下賜した物を卿等より取り上げるようなことはせぬ」
「で、で、ですが、ここここの回復薬は三本とも、霊薬神薬です」
「もうよい。黙って収め、今何と申した?」
「ここの回復薬は三本とも霊薬神薬です」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
沈黙が数カウン。
「近衛大将」
「はっ」
「卿に折り入って話がある。これが終わり次第大朕の下まで参れ」
「はっ、畏まりました」
貴重な時間をありがとうございました。




