1-36 時の流れと、容姿と年齢。
宜しくお願いします。
――― 東モルングレー山脈
中空の避暑地 新居
――― 6月5日 24:30
500Kg以上の森熊を背負い、大樹の森の中を徹夜で歩き続け、極限状態にあったマリアさんとアリスさんを、パマリ侯爵領コルトにあるジェルマン・パマリ子爵邸へ転位移動で送り、大精霊のマルアスピー様、神獣のエテルネルスワン改めアル様、父バイル、母メアリーと、中空の避暑地の新居へ移動した俺は、運の神様や料理の神様chefアランギー様や妖精達によって絢爛豪華に飾り付けられた臨時の祝賀会場、新居のマルチパーパスルームに居た。
・
・
・
「やっと帰って来たんだね」
「ロイク、こちらの方は?」
「何だぁ~この滅茶苦茶ゴージャスで色気ムンムンな別嬪さんはよぉ~」
父は、運の神様の夢と希望を凝視しながら、感想を素直に口に出していた。
「こちらの方は、運の神様で遊びの女神様だよ。親父、失礼な事するなよ」
「お、おうよぉ~!俺はぁ~産まれる前っからぁー紳士と呼ばれてた男だぞぉ~任せておけてぇっ!」
神界から追放されると下界なら、下界から追放されたら何処に行くんだろう・・・
『君達のレソンネは常時解放状態なんだと思っていたね。ただでさえ男は分かり易い生き物だからね。常に共鳴していては浮気の1つも出来ないね!おっと、下界から追放された存在だね。魔界と呼ばれる悪魔や悪の存在が蠢く闇の世界だね』
もしかして、魔獣は、魔界の獣なんですか?
『それは考え過ぎだね。魔獣は魔の存在とは違うね。自然魔素の影響を受け易い存在だね』
魔界にも獣は居る訳ですよね?何か、神界の獣は全てが神獣ではくて聖獣や邪獣の方が多いとか、同じ呼称が多くて紛らわしいです。
『ロイク。君のその瞳は神聖文字を視認し、その口は神聖語を奏でるね。人間の言葉で理解しようとしてもダメだね。食事をしながら教えてあげるね』
ありがとうございます。
「それで、ロイク。こちらの調子の良い紳士と、清楚な佇まいにも関わらず品位と知性に溢れた淑女をあたしに紹介してくれないかね」
「はい。父のバイル・シャレットと母のメアリー・シャレットです」
運の神様は俺の両親に視線を移す。
「あたしは、フォルティーナ。運の神遊びの女神訳して運の女神だね。なるほどだね」
「おぉー!御眼鏡に叶っちまったかぁっ!俺はよぉっ!彷徨の冒険野郎。神様とだって冒険しちまえる紳士だぁっ!」
「親父・・・全部自称だったよな?」
「問題あっかぁっ!」
「紳士バイル。淑女メアリーに、創造神から預かった物があるね。右手をこちらに出すね」
「はい」
「おぅ」
父と母は、運の神様へと右手を伸ばした。
「掌を見せるね」
「はい」
「おうよぉ!」
運の神様は、父の手を右手で、母の手を左手で取りると、瞼を閉じた。
「これは、創造神から預かった言葉だね」
「神託という事でしょうか?」
「メアリー。君はなかなか教養がある様だね。そう、これは創造神よりあたしが預かった言葉神託。今あたしが語っている言葉は啓示だね。意味の違いを理解する者がまだ下界に存在していたんだね。嬉しいね」
「運の神様。まだ存在していたってどういう事ですか?」
『食事をしながら教えるね。まずは、創造神の頼まれ事を済ませるね』
はい。
「先に、神託を下すね」
運の神様は瞼を開け、両親を見つめながら一言。
「礼を言う」
神託を下した・・・
「あん?それだけかぁっ!」
「あなた・・・」
「創造神は、言ってたね。運命が課した使命は悠久にも似た時間だと」
「使命か!大変だなぁっ!」
「そうだね。だからこそ、創造神はあたしに預けたね。神授の神託を下す」
「ありがとうございます」
「何か貰えんのかぁっ!」
「最初の数年間は歓喜に溢れ、感謝と尊敬を忘れる事は無いね。以降は考え様によっては生き地獄になるかもしれないね」
運の神様と繋いだ父と母の手が白く眩しい光に包まれる。
「あれって、神気だ!」
「そうみたいね。運の神様は、メアリーママさんと義理の御父様に何をしているかしらね」
「今迄に感じた事の無い属性の神気みたいです」
「感じた事が無い?・・・あれは、全ての属性が・・・」
父と母の手に、光は吸い込まれる様に消えた。
「今のは、時を管理する創造の理だね。さぁ~新制中空の避暑地のお祝いを始めるね。妖精のお仕事の諸君。料理を頼むね」
≪バァーン
勢い良くマルチパーパスルームの扉が開かれると、妖精達5人が料理をテーブルに並べ始めた。俺達は、料理の神様chefアランギーのエスコートで席に着いた。席順は神界のマナーに従ったものらしい。
今日は、1番に運の神様が主催者として座り、2番に俺が座り、3番に父が座り、4番に母が座り、5番にマルアスピーが座り、6番にアルが座った。
そして、料理の神様chefアランギー率いる妖精のお仕事による至高の時間が始まった。
・
・
・
――― 6月5日 25:10
つまり、神界では無くて、神域の獣は全てこの世界で畏敬の対象になっている聖獣様や邪獣様と同格の存在って事ですか?
『そうだね。神界には神格を持った創造神の眷属と神獣のみが存在しているね。神域は、神格を持たない創造神の眷属や、眷属の眷属。神格を持たない神の獣が存在しているね』
精霊界には、精霊様しか居なくて、精域・精霊域には、聖獣様や邪獣様が存在していて、精霊の獣は精霊域にのみ存在して精霊獣と呼ばれる訳ですね?
『そして、下界の獣は、自然魔素の影響を受け易い、核を生命の源にしているね。創造神が下界よりも数十億年以上前に創造した精霊獣達をモデルに下界の獣は創造されたね。精霊獣は属性の影響を受け易く精霊域以外に存在出来ないね。創造神は緩衝材として下界の獣に核を埋め込んだね』
だから、魔獣は体内の核・魔晶石に自然魔素属性を秘めてるって事ですか?
『核・魔晶石に蓄えられた自然魔素は、下界の夫々の獣のモデルになった精霊獣の属性の記憶と結び付き属性を帯びるね。下界の獣が魔獣と呼ばれるのはその為だね』
魔界の獣は、魔界に存在する獣なら、魔獣って事になりませんか?
『魔界を生み出したのは、創造神の眷属で邪の神だね。邪の神は、魔界に悪魔と呼ばれる自身の眷属を生み出し存在させたね。だが創造神の創造の力を分け与えられた訳では無い邪の神が生み出した眷属達は、邪の神の支配を離れ争い始めたね。眷属達は力を得る為に眷属を増やし同族を増やし眷属を喰らい犯し殺したね。見かねた創造神は魔界に隔離の結界を張り魔界を2つに分けたね』
世界を2つに分けたんですか?
『そうだね。邪の神の眷属で悪魔と呼ばれる存在が蠢く悪魔域と、悪魔達によって生み出された悪なる存在や魍魎が蠢く魍魎域の2つだね』
魔界の獣は何処に行ったんですか?
『うん?悪なる存在や魍魎が魔界の獣だね』
あぁ~なるほど。
『魔界に存在する2つの域は、本来1つの域だね。この2つの域が1つになろうとする力は、長い年月をかけて邪の神の力よりも強大な物になったね。この力が他の界や域へ溢れ出し度々惨事を起こしたね。結局、創造神は無の神と闇の神に命令したね。闇の神を中心にして無の神と邪の神3柱で、魔界の2つの域を完全な2つにする様にとね』
創造神様は自分でやらなかったんですか?
『神は神に厳しいね。人間種が人間種に優しく無いのは神をモデルにしているからだね・・・』
責任は自分で取れって事ですか?
『そうなるね』
それで、その後、悪魔域と魍魎域はどうなったんですか?
『1つになったり2つになったりを繰り返しているね』
そうなんですね・・・
『これは神々の世界の話だね。脱線してしまったね。まとめるとだね。神界の獣は神獣。神域の獣は聖獣邪獣。精霊界に獣は存在しない。精霊域の獣は精霊獣。下界の獣は自然魔素を帯びた核を持つ獣は魔獣、核を持たない獣は獣。魔界の悪魔域に獣は存在しない。魍魎域の獣は魍魎、悪なる存在だね』
この世界で邪が漏れ出して大変な事になった場所を知ってるんですが、それって2つの域の力による物だったんでしょうか?
『ここ最近は何処にも漏れていないはずだね。前にコルト下界に漏れ出したのは、8166年前だった様な記憶があるね』
邪属性が大量に漏れ出している場所を見つけたら気を付ける様にします。
『それが良いね。次の質問に答えるね。神託を理解しているという事はだね。神が1柱では無い事を理解しその意味や理由を知っているという事だね』
えっ?母さんには運の神様や料理の神様の話を今日教えたんですが・・・
『良いかね。啓示の意味は分かるね?』
神様の御意思が俺達に下る事でしょうか?
『そうだね。では神託は分かるかね?』
神様の御意思が俺達に下る事でしょうか?
『それでは、啓示も神託も同じになってしまうね』
そうですね。
『世界創造神からの啓示の事を、神界では正式には神示というね。神格を持ったあたし達の様な創造神の眷属の意思を啓示というね。神示を神格を持った眷属が啓示する事を神託というね』
なるほど。
『神格を持たない眷属の君が、神示を家族や仲間に伝える事を何というか分かるかね?』
俺が神示を伝える事何てあるんですかね?
『タブレットだね』
あぁ~・・・あれって神示って事になりますね。何て言うんだろう・・・
『聖人の声というね』
聖人ですか?
『管理人であり守護者であり聖人。それが創造神に選ばれた者の立場だからだね。因みにあたしの様に創造神の眷属からの啓示を君が伝える事をだね。普通に開示というね』
へぇ~・・・
『ロイク。君の母があたしに神託と言ったね。あれは、あたしが創造神の言葉を預かったと伝えた後に出た言葉だったね』
はい。
『そういう事だね。そして、時を管理する創造の理を説明するね。これは、皆に話す必要があるね』
お願いします。
≪パチン
運の神様は立ち上がると、右手の指を鳴らした。すると、テーブルの中央に球体が出現した。
「運の神様。これは?」
「君達は見た事が無いかね?」
「はい」
エテルネルスワン改めアル以外の全員の声が重なった。
「アル。君は神界の存在だから、これと同じ物を幾つも知っているね?」
「はい」
「でっけぇー宝玉か何かかぁっ!」
「これ自体は何でも無い物だがね。これが表している物は確かに宝玉だね。それ以上の価値と可能性を秘めた物だね」
「うん?ゼルフォーラ大陸?」
「大樹の大陸だぁ~?・・・あぁ~言われて見りゃー海と大陸に見えなくもねぇーが・・・この形はネコトミサールだろうがぁっ!」
「あなた、私には、フィンベーラとベリンノックが見えます」
「あぁーん・・・」
「メアリーママさん。私には、ゼルフォーラとネコトミサールが見えています」
「運の神様これはいったい?」
「ロイク。これは、君達が暮らす下界コルトだね」
「え?」
「今からこの球体を動かすね。良く見ているね」
・
・
・
――― 10ラフン後
「つまり、この球体は俺達が暮らす世界を、縮小して見易くした物で、俺達は球体の中に存在しているって事ですか?」
「そうだね。あたし達が君達の世界をコルト下界と呼ぶのは、この球体。即ち君達が暮らす世界を創造神がコルトと名付けたからだね」
「球体だったなんて・・・驚きの事実だわ」
「マルアスピーも知らなかったんですか?」
「えぇ・・・」
「でもよぉー球体だとぉー横や下に居る俺達は落ちちゃわねぇーかぁ?」
「バイル。君は面白い事を言うね。大地を蹴って飛び跳ねた時、天の上まで天の遥か先まで行ってしまった事は無いだろう?」
「そりゃぁー空や宙でも飛べねぇ―限り無理だろうよぉ!」
「言い方を間違えたね。飛び跳ねても必ず大地に戻ってしまうね」
「浮けねぇー限り落ちるわなぁー!」
「それはだね、コルト下界の球体の中心にとても大きな自然魔素の核が存在していて、その核が自然魔素を内側に吸収しようと引き込んでいるからだね」
「コルト下界に存在する物には必ず自然魔素が含まれているからね」
「なるほどぉ~・・・だから、マルアスピーやアルや竜は常時浮いていられるんですね」
「大地に足を付けるという意味が良く分かっていませんでしが、そういう事だったのですね」
「そうだね。そして、この球体が1回転する事を1日というね。つまりこの球体は1回転が30時間という事だね。これにこの世界の陽、横陽と縦陽を加えてみようかね」
≪パチン
部屋の隅に、光輝く球体が2つ出現する。
「何で部屋の隅っこにあんだよぉ!」
「この球体の大きさのコルトに合わせると、あの場所が横陽と縦陽の場所になるからだね」
「どっちもコルトよりでけぇーじゃねぇーかよ!」
「横陽は、コルト下界より約13倍大きいね。縦陽は約10倍だね」
「でも、天にあるのはもっと小ぃーせぇーぞぉっ!」
「この状況の陽を、この球体の中の大地から天を見上げて見たらどうなるかね?」
「あぁ~・・・遠いって事だなぁっ!」
「マルアスピー。君はあの横陽を良く知ってるはずなんだね」
「光っている球体をですか?」
「近く移動しよう」
≪パチン
運の神様が指を鳴らすと、俺達は横陽の傍に移動していた。
「あれ?」
「あら、光輝いていないわね」
「おい、見ろよぉ!俺達のコルトって下界が眩しぃーぜぇー」
「これって、精霊界です」
「そうだね。コルト下界から見た横陽は精霊界の輝きなんだね」
「何かさっきから話の内容が難しくて意味がわかねぇーやぁっ!ハッハッハッハ」
≪パチン
運の神様が指を鳴らすと、俺達は元の席に着席していた。
「この1回転30時間を1日という事は教えたね。精霊界はコルト下界より13倍も大きな存在だね。蓄積した自然魔素もその分大きいね。コルト下界の感覚で表現すると1回転390時間で1日という事になるね」
「そのまま13倍なんですね」
「マルアスピー。こっちの世界に居ると1日が早くて、目が回ったりしませんか?」
「精霊界では、1日に何度も朝と晩を繰り返します。たぶんですが、13回位繰り返して結果的にこの世界と同じ感じになっているのではないかと思います」
「色んな事があるんですねぇ~・・・」
「そうね」
「そんでぇよぉー」
「運の神様ぁー俺達にこれを見せて何を教えようとしてんだぁっ!」
「人間種の寿命は約80年ね」
「そんくれぇーだなぁっ!」
「それは、コルト下界での時間の単位での話ね。精霊界に存在する精霊から見た時、それは何年ね?」
「うわぁっ・・・メアリーパスだぁ!俺はぁーちょいとばかし語り過ぎちまったぁっ!」
・・・親父・・・・・・
『フフフッ』
「1年が390日で80年間生きたとして、31200日間生きていた事になります。精霊界の1年は何日なのでしょうか?」
「メアリーママさん。精霊界の1年は501日です」
「1日が長くて1年も長いのね」
「はい」
「精霊界での80年は、40080日間生きた事になります。時間に換算すると、この世界では936000時間で、精霊界では15631200時間。精霊界の精霊様がこの世界を見た時私達の80年は4年と10ヶ月~11ヶ月でしょうか?」
「約5年という事だね。そしてあたし達から人間達を見た場合、人間達の80年は私達の1時間以下だね。具体的に言うと瞬きにも等しい時間だね」
「80年って短いって事ですか?」
「消して短くは無いね。種による感覚。進化や退化の時間は創造神が創造した界や域の大きさである程度は決まって来るらしいからね」
「俺の思った通りだったぜぇ!俺達の80年はぁー精霊様の5年くらぇーで、神様の瞬きだぁっ!」
「それ、母さんと運の神様がたった今言った事だぞ・・・」
「そうだなぁっ!」
「うんうん。益々気に入ったね。ロイク。君の父バイルは実に面白いね」
「それで、これは何の話なんだぁ?」
「創造神から預かった神授の神託の事だね」
「さっきの光かぁ~」
「時を管理する創造の理を紳士バイルと淑女メアリーに施したね」
「その時を管理する創造の理ってなんですか?」
「全ての存在の時間を管理する創造神の力の1つだね」
「それが何なのか分からないんですが・・・」
「明日、目覚めた時に、答えが出るね」
「どういう事ですか?」
「創造神から預かって来た、時を管理する創造の理は光輝かなかったね」
「つまり?」
「神授をあたしが神託したね」
「つまり?」
「預かって来た神授の効果の他に、運の神あたしの力。運任せという効果が加わったね」
「運任せって・・・」
「おぉ!何か面白そうじゃぁねぇーかぁっ!」
「親父、自分の事なんだぞ」
「神様プラス神様なんだろうーわりぃー事ぁー起きねぇーだろうよ!」
「身体に光が入って来た時に、温かい良い感覚だけを受けましたし、変な事は起きないと思いますよ」
「うんうん。この親で、どうしてロイク。君はそんなに心配症に育ったんだろうか不思議だね」
・
・
・
そして、次の日。
――― 東モルングレー山脈
中空の避暑地 別荘のリビング
――― 6月6日 07:00
「親父、母さん。おはよう」
「おはようございます。メアリーママさんに義理御父様」
「おぅ!」
「おはよう。昨日の夕食の片付けも、今朝の朝食の準備も、妖精さん達がやってくれたでしょう。空いた時間をどうしようかしらって・・・有意義な時間の使い方を考える為に時間を使ってしまったわ」
「それで、マルアスピーの杖をずっと持ってたとか?」
「アスピーちゃんの杖は家に置いて来たわよ」
「でも、・・・あれ・・・・・・?マルアスピーこれって」
これって・・・どういう事ですか?
『ステータスを見る限り、若返ってはいないわ』
「あん、どうしたんだよぉっ!」
「お、親父・・・その顔どうしたんだよ・・・」
「おいロイク。親の顔にケチ付けるってぇーのはどういう了見だぁっ!俺は悲しいぞぉ!」
「母さんも、親父も鏡見て無いのか?」
「アホかぁっ!見なくても分かるっつーの!男前が1人と美女が1人それ以外に何を鏡が映すってぇーのぉー」
「母さんの顔見たのか?」
「あーん。俺はよぉー寝起きはチラ見って決めてんだよ」
「そのチラ見で良いから、母さんの顔を見てみろって」
「なんだよぉーめんど・・・息子に言われて見るもんじゃねぇーだろうがぁっ!」
父は、母の顔へ視線を動かした。
「あ?・・・ぅえ・・・えぇぇぇぇ・・・・」
「あら、貴方。その顔・・・えぇぇぇぇ――――」
「ロイクさん。ロイクさんのお父様もお母様も、今気付いたのでしょうか?」
「アル、これって・・・何が起こったの?」
「生体の反応は、お父様とお母様の物で間違いありません」
「そうじゃなくて、どうして2人とも見た感じ若くなってるのかな?って」
「おぉ~諸君。おはよう、良い朝だね・・・ここは良い所だね。寝殿からロイクの別荘に引っ越そうかと思う位だね」
「近い引っ越しですね・・・」
「私の運の作用は運の低い淑女メアリーの方に大きく力を働かせたようだね。うんうん紳士バイルは予想以上に男前じゃないかね」
「おうよ。俺は美の伝道師だからなぁっ!」
「親父、恋とか愛の伝道師はどうしたんだよ」
「ロイクぅ―――恋や愛の伝道師はなぁっ!美の伝道師。美の冒険野郎なんだよぉっ!」
「はぁ?」
また、始まったよ・・・
「愛や若さに美は不可欠な存在です」
「そうなんですか?」
「私は、愛、美、若さを司る神鳥です。美の正しい追及は愛の正しい形でもあるのです」
「へぇ~・・・って、それで、親父と母さんに何が起きたんですか?運の神様!」
「鈍珍だねぇ~容姿が若返った様にしか見えないね」
「どうして若返ったのか聞いてるんですよ」
「時を管理する創造の理を創造神から2人に施したからだね」
「若返る神授を神託したって事ですか?」
「あらあら・・・」
「おぉ~!そういえば全体的に元気になったぁー様な気もする様なぁー・・・」
「創造神から預かって来たのは、時間の流れが20分の1になる理だったんだね」
「あら?それで、どうしてメアリーママさんと義理のお父様の容姿が若くなるのかしら?」
「それはだね、運の神であるあたしの力だね」
「運の神様。それって、つまり?」
「生体レベルで運が低い淑女メアリーは、あたしが神託した際に創造神の神気にあたしの神気が混ざって良い感じで10歳位若返ったんだね。運が高かった紳士バイルは8歳位若返ったね」
「ちっくしょー俺って何運高く生まれてんだよぉー。あぁーもう誰だよ俺の運こんなにしたのぉー」
親父・・・
「私、次の誕生日で33って事ね。創造神様にお礼をしなくては」
「年齢は変わっていないね。身体と容姿が10年前と8年前に戻っただけだね」
「だけって、凄い事ですよこれって、マルアスピー村にこのまま戻ったら大変な事になりますよ」
「その心配は無いね」
「どうしてですか?」
「それは、戻らないからだね」
「あら、大変」
「おーい待ってくれよぉー・・・ロイクから貰ったドリンクとか俺のコレクションがあんだぜぇー」
「それなら」
≪パチン
運の神様が指を鳴らすと、リビングに実家が現れた。
「・・・ちょ、ちょっと運の神様。こんな所に家を持って来てどうするんですか・・・」
「ロイク」
「なんですか?」
「義理のお父様と人間種2人が仕留めた森熊3匹もちゃんと来ているわよ。良かったわね」
「・・・良かったって・・・家が突然無くなったら村が騒ぎでになっちゃいますよぉ」
「大丈夫だね。同じ家をむこうには置いておいたね」
「え?」
「安心して良いんだね。こっちに持って来た物が住んでた家で、あっちのは全く同じに複製した家だね」
「あらあら、主人と私は人に会ってはいけないって事なのかしら?」
「違うね。問題の無い者には会っても構わないね」
「問題の無い人って例えば誰ですか?」
「簡単だね。ロイク。君の仲間、君を理解する者の事だね」
「それ、ここにほとんどいますよね・・・・」
「これから増やすと良いね」
「あん・・・待てよぉーなぁー運の神様よぉっ!俺の事を知らねぇー人間になら姿を見られても良いんじゃねぇーの?」
「目立たぬ様に程々であれば良いね。さて、この家だがね中空の避暑地の空中池に浮かぶ離宮の何処に置くかね?」
「なんだぁよぉーこんなすげぇー豪邸があんのにぃー俺は住み慣れたこの家な分けだなぁっ!」
「神宮殿の前にある東庭園が良いね」
「理由があるんですか?」
「あそこは、コルト下界の植物でだけの庭園だね」
「なるほど」
「運の神様。家が在っても私達が突然居なくなってしまったら、それはそれで問題ではないでしょうか?」
「大丈夫だね」
「なんだぁっ!大丈夫なら問題ねぇーやぁっ!」
「あっさりしてるなぁ~親父は」
「神様が大丈夫って言ってんだぜぇーこれ以上何を信じるのよぉー君は・・・」
「まぁ~そりゃそうだけど」
「人間達の記憶を書き換えたね」
「村の人達の記憶ですか・・・」
「簡単だね」
≪パチン
運の神様は指を鳴らした。
「あたしは、これだけだね」
「ハハハ・・・それで、話を合わせる為にも、どう書き換えたのか教えて貰えますか?」
「バイル・シャレットとメアリー・シャレットは、息子ロイク・シャレットが中空の避暑地と呼ばれる土地の領主になったから、そっちに引っ越した」
「はぁ―――あ?」
「ここ中空の避暑地は、ゼルフォーラ王国の王都モルングレーの面積と比べると半分程で狭いがね」
「広さの問題じゃないんです。・・・爵位も持ってないし領地も与えられていないのに、そんなでたらめを村の人に・・・」
「何を言ってるんだね」
「記憶を書き換えたんですよね?」
「人間達の記憶を書き換えたね」
「ですから、そのでたらめな記憶だと、俺領地も拝領していないのに領主って村の人に嘘ついてる事になってますよね?」
「安心するね」
「何をどうやったら安心出来るんですか!俺、後数日で王都で国王陛下に謁見するんですよ!」
「ロイク。君が会う事になっているイヴァン・ルーリンには、夢の中で啓示を与えたね」
「何やってくれてるんですか!」
「君は、公爵に叙勲され中空の避暑地領の領主になるね。人間というものは建前や肩書きが面倒だね」
「はぁ~?」
「それとだね。東モルングレー山脈とコルトの丘とコルト湖とルーリン湖はロイク。君の私物って事にしておいたから聖邪獣達は安心だろう。コルトに家を建てるのも自由だね」
「あ、ありがとうございます・・・」
「気にするな。君はあたしの大事な存在だからね」
「はぁ~・・・ゼルフォーラ王国の3公5侯の原則が・・・」
「4公5侯でも3公5侯でも大した違いは無いね。それとも、天爵の方が良かったかね?」
「それって王族の男子にのみ与えられる名誉爵位ですよ」
「細かいルールばかりだね」
「ゼルフォーラ王国にとって、それ細かく無いですから・・・」
「それとだね」
「まだ何かあるんですか?」
「20分の1の件だね。20年位生きると1歳分老いる訳では無いね」
「あらそうなのねぇ~」
「どうなるんだぁっ!」
「精霊と同じ感じだね」
「おぉーそっか」
「分かるのか?」
「いや」
「いいねぇいいねぇだね。ロイクが居なかったらバイル、君を選んでいたね」
「おうそうかぁっ!残念だったな!」
・・・この場合、親父がって事だよな・・・?
「マルアスピーから精霊の年齢と容姿について聞いておくと良いね。それと」
≪パチン
「家は、東庭園に移したね。大きな熊3匹も一緒だね」
「おぅ」
「2階の部屋のドアの説明をするね」
「また、ドアに何かやったんですか?」
「ロイク。君はあたしを何だと思ってるんだね」
「・・・神様です・・・」
「そうだね。あたしは、遊びの女神なんだね」
「おぅ俺でいっぱい遊んでいいぞぉー神様と冒険するのが生まれた時に決めた、目標なんだよぉっ!」
「ハハハハハハだね。君は素直な男だね」
「それで、運の神様。ドアがどうしたんですか?」
「あの家の2階の部屋だがね。手前のロイクの部屋のドアを潜ると、大樹の森の聖域の近くの森に出るね。夫婦の寝室はそのままだね。バスにはあたしの温泉を源泉かけ流しで繋いだね」
「おぉーメアリー温泉だってよぉっ!これ終わったら行こうぜぇっ!」
「あらあら、温泉だなんて贅沢ねぇ~」
「運の神様。確認なんですけど、家の2階の俺の部屋だった場所から大樹の森に出られるのは分かりました。戻る時はどうするんですか?」
「これを使うね」
運の神様は、胸の谷間から金色の鍵を取り出した。
凝視・・・あぁ~・・・俺って・・・
+
!熟視!
「そ、それでその鍵は?」
「この鍵を宙に差し込むと、自動で2階のロイクの部屋だった場所に移動するね」
「俺の部屋だった場所から出ると、普通に家だけど、俺の部屋だった場所に入ろうとすると大樹の森って事ですよね?」
「そうなるね」
「俺の部屋だった場所に入る為に大樹の森に1度行かないとダメなんですか?」
「この鍵を所持した状態で扉を潜らない限り大樹の森へは行かないね」
「なるほど・・・親父分かったのか?」
「若返った身体で温泉かぁー楽しみだなぁっ!」
「そうですね」
「おい、ちゃんと聞いておけよ」
「おぅ!任せておけぇっ!」
「何をだよ・・・」
「そうだったね。バイル」
「なんだなぁっ!」
「ロイクの部屋だった場所は解体加工専用の部屋にしておいたね。バスを広くする時に君の武具や私物が保管してあった書斎の物を専用の部屋に移動しておいたね」
「おぉ・・・そっかぁっ!」
「大人の為の書籍は専用の部屋の書棚に整理整頓したね」
「おぉ・・・」