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このKissは、嵐の予感。(仮)   作者: 諏訪弘
ーメア・イート編ー
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6-MS-63 共通点は悪気⑧ そうだ、次はジャスパットへ行こう①

 ララコバイア海洋王国への説明は既に終えている。


 国王のヴィルヘルム殿とルーヘン王弟君と老師ナディア、三人に神授スキル【タブレット】の画面を宙に展開させながらじっくり話して聞かせたから問題ないだろう。


 それに、老師ナディアなら俺が理解し切れていない部分もキット理解し関係者に分かり易く説明できるはず。


 ルーヘン王弟君は、「ムーコン親王(爺さん)のところと漢を磨き高め極める大会を開く約束をしたから忙しい。面倒な話は頭の固い大臣共、口を開けば魔術魔術の魔術馬鹿の連中、老師達に任せる」。ヴィルヘルム殿が引き留めるのを無視し、「英雄殿よ。これより漢の中の漢の男の候補ルーヘンは自らを儂と呼称する。海の漢が儂、と、思うかもしれん、皆疑問に思うだろう、だが問題ないガッハッハッハッハ、儂と成った儂の最初の願いだ。さっきの甲板まで頼む」。


 諦め顔のヴィルヘルム殿から瞬きで同意を貰い。神授スキル【転位召喚・極】で迎えに行った船の甲板へとルーヘン王弟君を移動させた。「俺も失礼します。何かありましたら国の方に一方お願いします。では」と、神授スキル【フリーパス】で国王執務室に戻ったのが、十五時(正午)四ラフン前だった。



 さっき解散したばかりで、もう会いに行くとか気が引けるけどしかたないよね。


『ムーコン親王、聞こえますか。ロイクです』

『ぬおっ、念話かっ、姿も無しに……どうにも慣れんのぉ、あーあーあー、聞こえていますぞ。どうぞ。これで良かったのかの』


『今から、西朝の天帝?天皇?……王様に会いに行こうと思ってるんですが、同行して貰えませんか?』

『あぁー言っておったの。今日とは思わなんだったが、構わんよ』

『ありがとうございます。では今から迎えに行きますんで、……そこって書斎ですか?』

『いや、ここは書籍庫、書斎の書庫じゃな』

『あぁあぁそれで椅子とか見当たらなかったんですね』

『そこまで見え……るんじゃったな』


『隣の書斎に行きます。……到着しました』


 ガチャ


 扉を開け書庫から書斎に入って来たのは、ムーコン親王だ。


「さて、天子に謁見する前に」

「ん? ムーコン親王は天使に知り合いがいるのですか?」


「そこからか。我が国ではのぉ、西朝廷の天皇陛下を天子と東朝廷の天帝陛下を帝と呼んでおる。謁見時の作法は元が同じ皇家で取り仕切る者達も元から仕えていた者達故変わらん。気を付ける点は、優劣を決めぬ献上同じ物が良いといったところかの」


 献上品を渡さないと会えない。って、ことか? 二つに割れてて一度で済まない癖に物まで二倍とか面倒な国だな。


「会った時に直接物を渡してから話をすれば良いってことですか」

「進行役がおる故難しく考える必要はないかの。目に余るようであれば、アシュランス王の好きなようにやってしまっても構わんと思うぞ。フォホッホッホッホ」


 ふむ。行って会ってから考えることにしよう。


 プレゼントは、……回復薬にしよう。そのうち大量に流す予定だし問題ないよね。それに、値崩れさせちゃってからプレゼントしても意味ないし。


 工房ロイスピーに卸そうと思って作ったのに、マルアスピーに、「ねぇロイク、その回復薬なのだけれど、もう回復薬ではないわ」「いやいやいや回復役ですよ。作った俺が言うんですから間違いありません」「欠損部位を復活させる薬は霊薬神薬と呼ばれるの」。高額過ぎて置いても売れないって言われた回復薬。安価にして意地でも売れることを証明してみせる。


 この状況、箔付けにも使えるし一石二鳥って言うんだっけ。俺にもたまには冴えてる時くらいあるんだってことだ。


「プレゼントは俺が作った回復薬にしようと思うんですが、どうですかね?」

「プレゼント?」

「献上品です」

「ああ、献上品に回復薬か。地味じゃが派手な物よりは差異の見分けも付き難く寧ろ賢明な判断とも言えるかの」


・・・

・・


 ムーコン親王に全てを任せた俺は特例で西朝廷の天皇こと天子に謁見することになった。


 大社造と呼ばれる曲線が美しい木造の古めかしい建物の中に入ると、黒白黄赤青紫色に薄い濃いの強弱はあるようだが、上下一色のみで縫製された服とも呼べないダホダホの布を纏った長い烏帽子を被った裾を引き摺る男達が立ち並んでいた。


「ムーコン親王。この人達って布を纏ってるだけみたいですが、ジャスパットって身分が高く成れば高く成る程、生地を愛でるとあるんですか?」

「そんなわけなかろうが。シッ」


「ムーコン両親王殿下、前へ」


「アシュランス王よ。何も言わず、天子が座する壇の手前まで進んでください」

「天子ってあそこに座ってる茶色っぽい黄ばんだ色の布を纏った人のことですよね」

「き、黄ばんだ……あれは黄櫨(ハジ)色、黄櫨染と言って、取り合えず進みましょう」


 私語が一つも聞こえない。徹底してるなぁ~。


 静まり返った空間を、関心しながら壇の下までゆっくりと進む。


 左右に立つ男達の布の色が、黒、白、黄、赤、青、紫と変わる頃ようやく壇の下まで辿り着いた。


「ここにいる人達って貴族達なんですよね。どんだけいるんですか?」

「シッ、あとで説明する」


「止まりゃれ」


 とまりゃれ?


 同じ壇の手前右側を見ると、濃い紫色の布を纏った、長い烏帽子を被ったギリギリ老人手前の男性が立っていた。


 あの人だよな、今の。しっかしぃーあの、ちょび髭はないでしょう。


「てんしゅしゃまのごじぇんでありゃせりゃれりゅ。おみょてをしゃげりゃれよ」


 は?

「ムーコン親王、あのちょび髭は何て言ってるんですか? 全ての言葉が理解できる仕様になってるはずなんですが、今の全く理解できませんでした」

「……今のがジャスパット王国の正式な言葉だとは思わんで欲しい」

「安心してください。だと思ってますから。ジャスパット王国の人とは何度も話をしてますが、あんな話し方の人はいませんでしたから」

「あ、あれは伝統と格式ある御公家言葉と言って、あのくらいの身分にある貴族達が宮中で好んで使う一種の身分言葉での」

「へぇ~何とも、摩訶不思議な文化ですね。通じない言葉で指示とか通じるんですか?」

「そ、その為の補佐秘書代筆官じゃ」

「喋るの止めるだけで無駄が省けそうですね」

「そ、そうじゃの」


「てんしゅしゃま。ムーコンりょうしゅんにょうでぇんきゃぎゃみゃいりゃれぇみゃしゅた」

「そうか、左丞相はもう良い、戻るが良い」

「で、でしゅが、()は謁見にょ進行をみゃきゃしゃれた身でぇありゃみゃすりゃば」

大朕(オオチン)はムーコンに話がある。左丞相も右丞相も不要」

「左丞相。てんしゅしゃみゃぎゃにょじょみゃりぇておりゃれりゅにょじゃ、みょどりゃれりゅぎゃ寛容きゃと」

「う、うぅ……右丞相にょみょうしゃりゅ通りゅでしゅにゃ、進言きゃんしゃしゅりゅ」


 同じ壇の手前左側と右側に立つ濃い紫色の布を纏った、長い烏帽子を被った男達は奇妙奇天烈な会話を終えると其々の列に戻って行った。

 

「フィリー連合王国宗主アシュランス王国国王ロイク陛下よ。上からで失礼する。大朕はジャスパット王国の天子である。ムーコンより既に話は聞き委細承知しておる。大朕は殿上の卿達にもこの話を聞かせたい。ここには昇殿間もない若人もおる。改めて明快に聞かせてくれ」


 周囲を見回してみたが、若人って呼べそうな人は一人も見当たらない。


「アシュランス王よ。天子は……あー何と申せば良いのか」

「もう一回、分かり易く聞きたいってことで良いですか?」

「……お、お頼み申す」


「その前に、西朝廷の天子陛下に俺じゃなかったアシュランス王国から献上品がありますので、是非受け取ってください」


 神授スキル【タブレット】から丸テーブルを目の前に取り出し、回復薬を三本並べる。


 一本だと地味だし、二本だとけち臭い。何となく三本だ。


「大朕には、回復水(ポーション)にしか見えぬのだが」

「ポーション?……あ、効果も性能も低い癖に高額だったあれのことですか。あれとは全く別物です。この回復薬は現在主流の工房ロイスピーの物より遥かに優れた代物で現時点では値段が高額過ぎて売るのを見合わせている物になります」


 嘘は言ってないしこれくらいならありだよね。


「ほう」

「献上します」

「目の前で鑑定する無礼を許して欲しい。後で何かあってからでは遅いのでな」

「構いませんよ。ただ、たぶん【Évaluation】のレベルがMAXでも鑑定できないと思います。そうだなぁー……もしMAXにプラスの効果が作用するなら、試してみるか。西朝廷の天子陛下」

「……き、聞こえておる。続けよ」

「鑑定する人にこの眼鏡をかけて貰っても良いですか?」


 神授スキル【タブレット】から右手に眼鏡を取り出す。


「魔導具の眼鏡か」


「はい。実験済なんで効果は折り紙付きです」

「折り紙付きの効果か……ふむ許す……して……」


「アシュランス王よ。天子は説明を待っておられる」


 ……分かり難ゥ―――。

「その効果は二つだけで、鑑定系のスキルなら何でもレベルを二倍まで引き上げることと消費する【MP】がなくなることです。本当は誰が作ったとか何時作ったとかも分かるようにしようと考えていたんですが、そこまでやっちゃうと気軽に貸し出せなくなるってchefアランギー様とかフォルティーナに言われてしまって」

「【MP】を消費しない……あ、あ、あ、アシュランス王国の国王陛下は杖にも同じようなことを」

「杖って言うか、【MP】消費(ゼロ)くらいなら(周囲の自然魔素(まりょく)を使えば良いだけだし)何にでも付与できますよ。まぁー戦いの道具に使う気はありませんけどね」

「そ、そうかっ!! そ、それを聞いて安心した。大朕は平和をこよなく愛しておる故殺伐とした物は好かん」

「前に母さんに杖をと思って幾つか自作したんですが、外の時の試作品で良ければ何本かあるんで」

「是非見せてくれぇっ!!」


 ……物騒な殺伐とした物は好まないじゃなかったっけ?


「天子よ。天上より殿上に降りてはなりませぬ」

「大朕は杖を見る。ここからでは良く見えぬ」


 玉座から立ち上がり壇から降りようとした西朝廷の天子陛下を後ろから羽交い絞めにしている扈従。


「見たいのだ」

「なりませぬ」

貴重な時間をありがとうございました。

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