6-MS-57 共通点は悪気⑥ そうだ、ムーコン親王をガルネスで拾おう③
「...... ~ ......原因と言うか真相は確定してるんで急いで報告した所で結果は変わりません。てなわけで、救助と言いますか身柄の確保を急ぎたいなと」
白光の夜の怪事件(俺の中では魔力陣の暴走)の真相と、集団転移事件(俺の中ではメア亜下界の侵食)の真相。
メア(亜)下界に把握外の転位被害者が七千六百五十四人も存在している。
ただし、姿をくらませた者達がこの中に含まれているかは分からない。
この人数は、現時点での生存者の数で被害者の数はこれよりも多かった可能性がかなり高い。
そして、爾後の民はこの中に含まれていない。
俺のスキルも万能ではない。サーチにも限界があって、【氏名不詳】【情報不足】【干渉制限】【干渉規制】【神気】【理】が絡むとまず役に立たない。
だが今回は違う。
把握外の転位被害者達を救助保護すれば、一緒に居る可能性の高い帰界していない集落の民達の身柄を救助確保できる可能性がある。運が良ければ把握外の爾後の民から情報を得られるかもしれない。
使い熟せていないだけだが、何事にも抜け道は存在する。
それが今回だ。
ヴィルヘルム殿とルーヘン王弟君と老師ナディアを召喚しムーコン親王を加えた四人に要件だけを伝えた。
「今から、魔界……サザーランド王が統治するメア王国に行くということで良いのかな?」
「出来ればそうしたいと思っています」
「そうか。よしっ、私も機会があれば向こうへは行ってみたいと考えていた。ロイク君行くぞ」
「は、えぇ!? ヴィルヘルム殿??」
「今を逃したら、次がいつになるのかすら分からない以上この判断を覆すつもりはない」
「良く言った兄上、ガッハッハッハッハ海の漢としてはもう一緒に行くしかないなっ!! 英雄殿、大海に覇を唱える漢の生き様、荒野と化した大海原でも見たくはないか? ガッハッハッハッハ」
「いえ、そんなに」
「英雄殿に遠慮されては漢が廃ってしまうわ。何、我等兄弟年がら年中海の上にいる訳ではない一年の半分は陸の上だ」
ルーヘン王弟君が何を言いたいのか理解できない。
「その通りだ。良くぞ申したルーヘンよ」
「お褒めいただきありがとうございます。兄上」
「ララコバイアにも真の海の漢がおったとはの。海を敬い尊び畏れ愛する者は皆兄弟、正にその通りじゃ。決めたぞ、ジャスパットの一人の海の漢としてこの老残、再び彼の大海原へと飛びこもうではないか」
「おっ、良いねぇー海の漢は生涯漢死ぬるのは船の中か海の中だけだ、よしっ!! 一緒に行くぞジャスパットの爺さん」
「おぅ付いて来いララコバイアの若造」
「ガッハッハッハッハ」
「カッカッカッカッカ」
「あ、あ、あ、あ、あ、あのルーヘンがジャスパットと肩を組み楽しそうに笑っておる。これは、ゆ、ゆゆ、ゆ夢では……老師これは夢」
「任された」
バッチィ―――――ン。
「夢ブヘッ」
えっ!?
老師ナディアに魔導具の棒で殴られ、勢い良く丘を転げ落ちて行くヴィルヘルム殿。
気絶し落ちた場所が砂で良かった。……この状況、良くはないか。
「老師……いったい何を?」
「お兄ちゃんの所にはいないのかな? 時々、夢か現か分からなくなってしまう阿呆が」
「……」
「そんな時に、この棒なのさ。この棒は【ショックスティック】と言って触れた者が軽く痺れる魔導具なのだよ。勿論、製作者は私なのさ」
「そ、そうですか」
棒とヴィルヘルム殿を交互に見つめ、満面の笑みを浮かべている老師ナディア。満足気なその感じにちょっと寒気を覚える。
「ガッハッハッハッハ兄上はお茶目だな。相変わらずだ」
「カッカッカッカッカララコバイアの悪戯小僧は王となった今でも健在であったか」
「もう少し弱くした方が良いのか。気絶が早過ぎると楽になるのが早くて見てて面白なくないなぁ~♪」
……これが、海の民なのか? 難し過ぎる。
「ぬはっ!! ここは? 何故砂の上?」
ヴィルヘルム殿が意識を取り戻したようだ。上半身を起こし落ち着きなくキョロキョロしている。
「おっ!! 兄上ぇ―――っ!!」
「ルーヘンか。そこで何をしておる?」
丘の下の砂浜に落ちたヴィルヘルム殿を、手を振りながら大声で呼ぶルーヘン王弟君。
自身を呼ぶ声に気が付き丘を見上げながら大声で返答するヴィルヘルム殿。
「兄上ぇー、向こうに海が見えるだろう」
「あぁ」
「あの海の向こうには何があると思う」
「北の氷層壁だろう」
「チッチッチ甘いな兄上。あの海の向こうには」
「浪漫じゃ、儂はそこに海の漢の浪漫を置いて来た」
「気付けが早過ぎるか。気絶と気付けのタイミングを遅らせないと。……実験番号マルマルサンニィー鈍痛の改良に手応えと衝撃の分散に課題ブツブツブツブツブツブツ」
暑苦しい海の漢三人と、何だかちょっと怖い海の少女一人。……俺の周りって、これが、これで、普通なのかもな。こういうのを受け入れる勇気って本当に必要なんだろうか?
寧ろ、こういう空間に割って入る勇気が必要だと思うんだが……。
「メアに行くなら、そろそろ行きたいんですが」
「何をやっておる。儂はいつでも構わんぞ」
「ロイク君、こう見えて私も暇ではないのだよ。ロイク君が良いのであれば行くとしよう」
「ガッハッハッハッハ英雄殿よ。英雄殿もあの海の向こうが気になってしょうがないとみえる。だが、今はまだその時ではない。今は、まだ見ぬ大海原を目指す時だ。時は満ちた、いざ行かん我等がメアへ」
この三人にとってメアってそんな感じなの?
「お兄ちゃん、私は魔導具の実験があるから」
「ラワルトンクに戻りますか?」
「鉱石があるところで良いよ」
「鉱石?」
「前に居た場所でも良いけど違う鉱石も見てみたいからできれば別の場所でお願いするよ。さっ、お兄ちゃんは人命救助。私は日々の生活を豊かにする尊い実験を頑張るよ」
貴重な時間を本当にありがとうございました。
会話多目が仇となりまとまりが悪い話ですが、
お読みいただきありがとうございました。