6-MS-30 大きな視点と小さな視点と、多角的な視点①
書類仕事をタブレットでサクッと終わらせ、最新の調書と資料に目を通す。余り嬉しくないルーティンワークだ。
増え続けるだけで無価値に近い調書と資料。
ほんの少しの進展で良い、突破口はないものか。
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同じ質疑を繰り返し応答の変化を窺う安直な方法ではこれが限界のようだ。
真偽の魔導具を用いた取調ですら良い結果が出ていない。何故?
魔導具の機能は正常、故障の可能性は百二十パーセント無し。……なのに何故?
威力を下げ過ぎた?
でも、痛みなんて殆ど感じないはずなのに、あれよりちょっとでも威力を上げる、とか、シャレにならないんだよなぁ~。
ちょっと強くしただけで、泡を吹き出して気絶とか、失禁しながら奇声をあげ床を転げ回るとか、ホント目の前でやられると引くんだよなぁ~。
……鞭ばかりじゃダメなのかもな。
シュッ。
「...... ~ ...... ~ ......陛下。...... ~ ......ふむふむ、ふむ。なるほどなるほどなぁーるほど。素晴らしい集中力ですなぁ~。はい。それでは、……パトロン殿よ、聞こえますかな」
「えぇとっても良く聞こえています。で、後頭部に顔を押し付けて話し掛けるって、これ最上級の嫌がらせか何かですか?」
「いつものようにパトロン殿とエリウスの間若干パトロン殿寄りにではありますが姿を現したところ何やら物思いにふけ声が聞こえていないようでしたので頭に直接問い掛けてみた次第です。はい」
「あぁ―――なるほどね。って、なると思いますか? なる訳ないですよね。何度も何度も何度も何度も言ってますが、突然真後ろ至近距離に現れない、真後ろ至近距離から突然話し掛けない、辛い」
「料理はパトロン殿の痛覚を基準にピリッの三倍でしたな。このchefアランギー今は所持しておりませんが愛用の万能包丁に誓いましょう。一文字たりとも忘れていませんですぞぉ~、はい」
「で、いつまで俺の後頭部に話し掛けてるつもりですか?」
「おっと」
chefアランギー様は執務机の正面に移動し執務机の上に腰掛けた。
「私としたことが余りの楽しさ……誰かと話をする。一見当たり前のようにも思えますが大切なことなのですぞぉ~、ささやかな喜びと言いますか、心への刺激と言いますか、代わり映えのしない変化に乏しい世界に彩と言いますか、……落としどころとしては、塩を溶かした珈琲と言ったところでしょうか」
取り合えずスルーで良いかな……。
「……それで今日は何をしに来たんですか?」
「通常下界の生とは同じ下界の輪の中でのみ存在し異なる下界の輪の中では存在し得ないものなのですがぁー。ですが、極々稀に輪の中に不確かで不安定な存在が入り込んでしまうことがあります。神界ではこれを【異界転移・転生】と呼んでいるのですが、創造神様違いや中途半端な下界がこれに関わってしまうとヴァージョンが更新され【異界転移・転生。特典付要相談】となってしまうのです」
転移は分かるが転生って何だ?
「ここ最近コルトで生じている事象は正にDXなのですぞぉ~。はい」
ふむ。それって、
「沢山存在する下界の一つでしかないコルトの理と未完成の下界メアの理が干渉し合って境界域が曖昧になったり融合と侵食と拒絶と隔離を繰り返しなんたらって話ですよね?」
貴重な時間をありがとうございました。




