6-MS-23 取調中だけど神明裁判④ 茶番
ゲンベルジュンを新品の椅子に座らせ、取調机を挟み正面の椅子に腰かける。
ゲンベルジュンの後方にはロザリークロードが左隣には悪狼神様が右隣には悪狐神様が仁王立ちしている。
聖神竜のシリュー様が抜けたところで袋の鼠であることに何ら変わりはない状況だ。保安も極めて高度で厳重だし。
おっともう一柱神様がいたな。
振り返り後方に立つエリウスの姿を確認しゲンベルジュンへと向き直る。
神様と神獣様って根本的には違うけど基本的には違わないとかフォルティーナが言ってたけど根本的と基本的の使い方間違ってるよな。絶対。……まっ、今は良いや。まずは。
「昨日は良く眠れましたか?」
「……」
今日は昨日の失敗を踏まえて無視で通す腹積もりなのかな?
「貴方の側近達が謁見したいって言うんで、さっき会って話をしました」
「……」
「四千年以上も繰り返し行われて来た蛮行や愚行は、全て貴方の命令で行われていたそうですね」
「なっ、あ…………」
「どうかしたんですか?」
「……」
他人事には興味ないと言わんばかりに無表情を決め込んでいたゲンベルジュンの表情に一瞬だけ変化が見られたが直ぐに無表情に戻ってしまった。
足りないか。
「ガルネスの首都、神都って言うんでしたっけ? その神都ですがどういう状況になってるか知りたいですか?」
「……」
「大寺院の最下階大贄儀礼の間の床に前時代或いはそれよりも前の時代の技術で施されていたと思われる地属性の魔力陣を中心に半径六十キロメートル圏内に存在していた生ある存在全てがメア(亜)下界へと強制的に転位移動しました。ここまでは昨日話したんで知ってますね」
「……」
「メア(亜)下界で命を落としてしまった人と行方不明又は行方を晦ませてしまった人の名簿がどうなってるか知りたくないですか? 例えば黒暗部とか。……例えばアズ・ドリンガーホード・ガルデンとか」
「……」
ゲンベルジュンの視線が少しだけ右上に動いた。
ここはちょっと押してみるか。
「知ってましたか。彼アズ・ドリンガーホード・ガルデンの正体を。イヤァ~驚きましたよ」
「……」
「貴方も彼の手駒の一つでしかなかったんですからね」
MRアイズで目を合わせないよう意識しながらゲンベルジュンの表情を確認する。
もう一押しって感じだな。
「ホント、上手くやりましたよね。使徒様は……皇帝ですよ。皇帝」
「皇帝だと……」
「あっ、やっぱ気になりますよね」
「……」
まだ、無視を続ける気ですか。
「彼は民の支持を得て、ガルネス帝国の初代皇帝に即位しました」
「ア”ァッ!? ガ、ガルネス帝国だ……と……」
我が強いせいで、黙ってるつもりがついって感じなんだろうな。御愁傷様です。ホント。
「そうですよ。爾後の民えっと貴方達の言うノルテールノーンのことです爾後の民って。その爾後の民から本来の住民コルト下界の民を解放した英雄って表向きはなってるみたいです。実際には爾後の民の宿願メア(亜)下界への帰界を実現させた立役者で絶対神様の使徒らしいですよ。託宣だったか宣告だったかがあったみたいで、建国もそれで決断したんだそうです」
「う、嘘だっ!! 居もし…………世界創造神様の神授は豫のみが……」
良い感じで墓穴というか動揺してるな。
「これって神々様方では常識みたいなんですが、メア(亜)下界って、コルト下界とか数多の界や域を創造した創造神様の理の中の神格位を持つ邪を司りし生と死の女神ナナンフェルテリーナ様が勝手に創造しちゃった未完の下界なんだそうです」
「……」
良い感じで思考を巡らせているな。目が泳ぎまくってる。
「何が言いたいかって言うとですね。メア(亜)下界の絶対神様って結局のところ、コルト下界では邪を司りし生と死の女神様ってことじゃないですか。その女神様から神授じゃなかった託宣?ん?宣告か?、まっ言葉は何でも良いや、その女神様から建国しろって言われたってことは、何らかの意味があるだろうし、たぶん必要になるからだと思うんですよ。俺達程度が神意を推し量ることなんて不可能なんで、ガルネス神王国は有っても無くてもどうでも良いんで解体。で、その跡地に建国したらしいガルネス帝国を容認した訳です」
「な、な、何を言ってるのか分っているのか? 神の名を騙り建国し皇帝を名乗……」
「どうかしたんですか?」
「……」
また、だんまりですか。まっ、ここまで来たらもうそれで良いですけどね。騒がれるより遥かにましだし。
「さて、今から貴方に二つ質問します。無言は肯定とみなします。生死が関わる質問なんで迅速かつ慎重に答えてください」
「……。生死だと」
「はい。貴方の命に関わる感じですね。それでは、一つ目の質問をします。ガルネス帝国は世界創造神創生教会の教王でガルネス神王国の神王だった貴方を帝国民の前で処刑すると決定したそうです。それで貴方の身柄を保護している連合国家フィリーに使者が来ました。ようは俺に貴方の身柄を渡して欲しいってことなんですが、条件がちょっと……」
「奴が……もっと早く殺しておくべきだった。豫を真似ブツクサブツクサブツクサ……それで、ズドリンガーホードガルデンが提示した条件は何だ」
この状況でまだ偉そうに出来るって一種の才能、だよな? ……阿呆なだけか?
「条件はですね。ガルネス神王国時代の貴方の全ての財貨と貴方に縁のある者を全員呪印で奴隷」
「か、完成していたというのかっ!? ク、糞野郎。奴隷の印璽さえあれば……全ては豫の思いのままだったというに」
何か、一人で語り始めた感じだけど、聞く必要もないだろうし、進めてしまって良いよね?
「で、奴隷とか貰っても嬉しくないし。滅んだ国の王が持ってた程度の財貨なんて大したことないだろうから要らないし。なんで、建国したばかりで入用だろうから財貨はそっちで使ってください。奴隷も建国したばかりで需要があるだろうからそちらでお好きなようにって断ったんですよ」
「クッ……」
「一応、今の貴方が置かれている状況を説明はしたんですけど、何処も皆同じ様な反応でホント困りますよね。ハハハ」
「豫、豫はいったいどうなる?」
不安そうだがまだ余裕があるのか? 十二分に偉そうだ。よし、ここは。
「そうですねぇー。……水人に引き渡すと末永く拷問され最終的には処刑でしょうね。結構ねちっこい感じだし。バハムートさんに引き渡すと結構あっさり死ねるかもしれないですね。彼等って食べ物以外には余り執着しない感じだし。連合国家フィリーっていうかターンビット王国に引き渡すと即決裁判で死刑だろうし、ドラゴラルシム竜王国に引き渡しても略式の裁判でどうせ死刑になるだろうし。……分かり易くて良かったじゃないですか。早いか遅いかの違いなだけで結果は同じです」
「ふ、ふふふふ、ふざけるなっ!!!!」
「で、一つ目の質問ですけど、どの国に行きます?」
「は? き、貴様はなな、何を、豫、豫はガルネス神王国のい神王ホノクレマ一世」
「あーそれはもう良いです。選択肢が結構あって選ぶのに時間が必要だと思うんで、二つ目の質問を先にします。若干神頼みみたいな感じになってしまうんですけどたぶん大丈夫です」
さてと、ここからが本番だ。
貴重な時間をありがとうございました。
会話多目を意識すると進まない進まない。




