6-MS-17 教貴族達と、その背景①
昼食と食後のティータイムの後に待っているのは勿論午後の執務の時間だ。
リビングルームから国王執務室へフリーパスで移動し、執務机の上に置かれた書類をタブレットに収納する。
タブレットの画面を手動で操作しながら重要案件のみを確認していく。
月末ということもあり今日は予算関係の書類が多い様だ。
これって重要か?
『空飛ぶ船改め飛空艇に関する補正予算』
船を創るのも直すのも俺だよな。わざわざ予算を組む必要ってあるのか?
これも重要か?
『橋梁定期点検補修費用』
創ったばかりだしそれに補修費用って何だ? あの橋って俺の自然魔素が干渉してる間は不壊のはずだよな。いったいどうなってんだ?
今日はこれから外せない用事があるし、仕方ないよね。
ということで、橋の件は、建設と街道の大臣職を務めるchefアランギー様にレソンネで丸投げした。
ドアの横に設置されたテーブルの上に書類を展開し、フリーパスで二階にある控えの間の一つエトワールドゥへと移動した。
―――アシュランス王国・グランディール城
地上2階・一般拝謁控えの間『☆2』
R4075年10月25日(風)17:00―――
控えの間には、ニューリートで保護しているガルネス神王国の教貴族(爾後の民)の代表達が待機していた。
一般用の拝謁の間で謁見しないで、一般用の控えの間で話をすることにしたのはトラヤヌスさんからの入れ知恵があったからだ。
***
「旦那様。旦那様は古の世界の王でございます」
「王じゃなくて管理者です」
「管理者様でございます。御身はメア全土を統べる王よりも尊くそして偉大です。メアの王ですら管理者様に拝謁する際は土が剥き出しになった外でございます」
「イヤイヤイヤイヤ城の中とかリビングルームで何度も会ってるし話をしてますよね」
「ですので、何処かその辺り、てきとうな場所で会って話をする程度で構いません」
「トラヤヌスさん、俺の話聞いてます?」
「はい、旦那様。このトラヤヌス、トゥーシェお嬢様の新緑の渓流が如く清く気高く美しくせせらぐ可愛らしい御声、リュシルお嬢様のエレガントビューティーでありながら初夏の高原を舞う一陣の風が如く凛とし確固たる信念と力強さを兼ね備えた愛らしい御声、そして旦那様の御声はいついかなる時であっても聞き逃すことは決してございませんのでご安心くださいませ」
……何を言っても無駄そうだな。トラヤヌスさんってこいう人だったのか。
メアにはメア、コルトにはコルト、豪には豪だ。
***
控えの間に控えていたのは、猿に猿轡の印象が印象的だった本名ザド・ゴンルードこと教公爵で副教王のゴンギーガァン・テル・エズヴェーネと、トルネスポートの領主で孤狼族の教公爵で旧教最高位騎士爵のペーターゲッディー・テル・バーゲィンと、他数人の教貴族だった。
「領主達の多くが白光の夜に巻き込まれずに済んだのは、秋の収穫を確認する為、神都を離れていたから、ですか。言ってる意味は分かるんですが、自領に戻るだけなのに軍を同行させていたのは何故ですか?」
・・・
・・
・
彼等の説明は矛盾だらけだった。
世界でもっと先進し優れていて安全な国だと主張していながら、広大な領土を持つ国が必ず抱える問題長距離での移動時における危機管理は常識だと主張。
安全だけど安全じゃない移動中の身の安全を確保する為に軍を同行させた。
そして、自領に戻ったら同行させた軍を完全武装のまま旧教の教会に駐屯させた。
竜王クロージャは、ポヴォーエスタから海岸沿いにガルネスまで移動したって言ってたよな。
移動中に城壁や城や教会寺院や軍港や砦からの攻撃は一度もなかった。
兵士が駐屯している気配どころかそもそも人の気配が無かったと言っていた。神都から同行させた軍もそうだけど領軍とか自警とか兵士は何処に行ったんだ?
戦う前に武具を捨て市井に紛れたにしても全員ってことは流石にないだろう。
「武装を解除し条件付きで解放した兵士は四万人弱でした。資料には、陸僧軍三十六万人、海僧軍三万人、後方支援補給僧軍一万人、将官近衛十三傑が十三人。って……でも捕虜の中にも保護した中にも戦神の如き英雄十三傑に該当するような人はいなかったんです。皆一般人に毛が生えた程度で兵役の義務を終えたら元の生活に戻るみたいなくらいだったんですよね」
「ガルネス神王国将官近衛十三傑またの名を英雄十三傑の第一席孤狼牙の大剣士バーゲィンを知らない? 神子様は私を知らなかったのですか?」
「トルネスポートの領主でガルネス神王国の教公爵ですよね?」
「そ、そうなのですが……」
貴重な時間をありがとうございました。




