6-MS-16 白光の夜の日の黄昏③ 父バイルの邪眼①
「おいロイクっ、俺さぁーおめぇーに何かしたかぁ~? 怒ってんなら直接言ってくれよぉー、なぁっ!! 狐の神様つかって口がくせぇーとか無いわぁー、俺ってこぉー見えてマジ繊細な方な訳よぉー、分かるでしょうぉー、ホラこのつぶらなお目目……なっなぁー、マジで傷付く訳よぉー」
数ラフン後、ユーコ様が戻って来た。どういう訳か親父を引き連れて。
「俺さぁー金が欲しい訳じゃない訳よぉー、誠意ってあるだろうぉー、それをちょっとばかっし見せて欲しい訳な訳よぉー、なぁー分かるだろう」
数千の爾後の民と数万のその家族。彼等の注目を一身に集めなる父バイル。他人のフリをしたいがもう遅い、というか初めからそんなチャンスはなかった。もう勘弁してくれよぉ~。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「俺も親になる訳だろぉー、だからよぉー、真面目に働いてた訳よぉー、そろそろ真面目にならなきゃなって考えた訳よぉー、分かるだろぉー親になるってのはそう言うことなんだよっ!!」
親になるねぇ~……、これからは真面目に生きるって言ってるし追求するのはやめておこう。……もって二日。イヤ数時間ってところかな。
「あっ、そうそうこれおめぇーに渡しとくわ」
父バイルは、腰に下げた革袋タイプのファルダガパオから黒光りした燭台を取り出し、俺に渡して来た。
「魔銀石製みたいだな。親父、これは?」
「二ヶ月くらい前になっかなぁー、拾ったのスッコーンって感じで忘れてたわ」
「拾ったって、何処で?」
「二ヶ月くらい前に入った迷宮中に決まってんだろうがっ」
必要な情報を聞き出すだけなのにどうしてこう……ハァー。
「二ヶ月前に入った闇の迷宮の中でこの燭台を見つけたってことで良いのか?」
「だからそう言ってんでしょうがぁー。このバカチンがぁー」
……我慢我慢。
「悪気を纏う、内包してるってのが正解か。これかなりヤバい代物だぞ」
「あん? だからおめぇーにやるって言ってんでしょうが」
親父……ふざけて……イヤイヤ親父はこれがこれで普通だったな。
「ありがとう。嬉しくないけど取り合えず受け取っておくよ。俺忙しいから親父はもう帰って良いぞ」
「はぁーん?」
「だから帰って良いぞ」
「ちょ、ちょっと待てよぉー、おめぇー俺のこと何だと思ってんだよぉー。良いか俺は、俺……は、あぁ―――何だ。えっと俺にだってちょっとばっかし意地ってもんがあんだよっ!! あん!? な、何だてめぇーら何見てんだよ見せもんじゃねんだよっ、あっち行けあっち。ったくよぉー、狐の神様に引っ付いて来たから薄々もしかしたらかもなぁーってやっぱそうかよぉー」
親父、恥ずかしいからもう止めてくれ。
オーバーアクションが痛々しい父バイルを意図的に見ないように視界から外し爾後の民達の様子を窺う。
うん。皆ドン引きだ。
「おいロイク、ここっていったい何処だ? 獣人種ばっかこんなにいるってこたぁー、ヴァルオリティア(帝国領)の何処かか?」
え? ちょ、ちょ、え、えええぇぇぇ?
「親父っ!! 親父にはこの人達が獣人種に見えるのかっ!?」
「う、うっせぇーなでけぇー声だすなやぁー。つうーかあったりめぇーでしょうがぁー。こいつらが獣人種じゃなぁったらいったい何が獣人種になんだよっ!! 頭つかえ頭。あん?……おいアンタその耳本物か? うわっホォーマジだマジでスゲェーウホホィこれモノホンだわ、ニュホォースゲスゲスゲェマジスンゲェー」
親父は一瞬で男の前に移動すると、鼻息荒くだらしない顔で何もない男の頭の上二十センチメートル程の所で両手をニギニギし始めた。
正直、見ていて気持ち悪い。いつもと余り変わらないが、興奮し過ぎてだらしない表情で奇声を上げている姿は流石に引く。
慣れたつもりになっていた。
実の父親だと思うと実に気持ちが悪い。
「や、止めてください。イタイイタイタタタタタタ」
「マジスゲェーな」
マジで止めて欲しい。
「親父、何考えてるんだ。止めろ。その人いやがってるだろうが」
「あん? 何って、見りゃーわかんでしょうが。これ兎だぞ兎の耳。獣人種に兎はいねぇーって聞いてたところにこれだぞマジありえねぇーだろうがよぉー。って、あっちにもいるじゃんか。って、何だよここもしかして俺死んじまったって落ちありかっ!! ま良いか、ここは天国だぁー!!」
仮に死んでたとして、何故に簡単にまいいかで流せるんだ? その前に親になるから真面目に生きるんじゃなかったのかよ。
じゃなくて、そういうことを聞いてるんじゃない。頼むから理解してくれよぉ~。
「おいおいおいおいおいおいおいマジカヨォー猪に蛇か、蛇までいやがるヨォー」
親父のテンションが何かいつも以上におかしい気がする。
「ロイクはん、止めた方がええあらへんでっしゃろか? 悲鳴が痛々しいどすぇ」
「ウッヒョー」
「俺としては悲鳴よりも親父の奇声の方が痛いです」
「あぁーそうかもしれまへんなぁ……」
「なんだか面白そうだぞぉー、おい遊ぶなら混ぜろ一緒に遊んでやるんだぞぉー」
爾後の民に迷惑行為を繰り返す父バイルに加勢し始めるユーコ様。悪狼神様と俺は彼等を放置し話をつづけた。
「親父には彼等の本当の姿が見えてるって考えて良いんでしょうか?」
「見えてるんやろうな」
親父の眼は邪眼。
「邪眼だから見えるとかってありますかね?」
「どうなんやろうな。うちにも見えてるさかい何とも言えへんどす」
「そうですか……」
神眼、神獣眼、精霊眼、聖邪獣眼、聖眼、邪眼、魔眼、眼にはこの他にも沢山の種類が存在する。
気にはなったが時間が無いので、時間に余裕がある時に気が向いたら調べることにした。
一先ず爾後の民をニューリートに移動させ考える時間を与えた。
長い人だと万年、短い人でも数百年。彼等には家族がいるし財産もある。
長い年月(ユマン視点だが)、彼等が育んで来た生きた証は、「来る日が来ました。帰界します」の一言で解決するほど簡単じゃない。
俺は、落ち着いた頃に迎えに来ると言い残し急いで帰宅した。何も言わずに夕食の時間に穴を開けてしまうと後が怖いからだ。
***********************
三度。
今までに俺が体験した回数だ。
「一時間前ですかぁ~有り得ませんなっ、はい。二時間前ですかぁ~ご冗談をっ、はい。三時間前ですかぁ~横暴が過ぎますですぞぉ~、はい」
……。
「パトロン殿よ。良いですかなぁ~、生きる上で大切な物、それは水酸素自然魔素栄養休養安全安心愛料理人なのですぞぉ~、食事を抜くなど論外議論する価値すらありません」
……。
「もしも仮にですぞぉ~、時間がないのであれば寝る時間を削り食事の時間を。それこそが心理であり理でありこのchefアランギーの神髄。デシャップそれは迷える子等と私chefアランギーとを繋ぐ心の架け橋。デシャップそれは...... ~ ......デシャップ...... ~ ......」
chefアランギー様の一度目の「デシャップそれは」は次の日の朝食の時間直前まで続いた。
二度目は午後の執務時間開始早々から終了間際まで。
三度目はもう兎に角長かったことくらいしか覚えていない。
***********************
貴重な時間をありがとうございました。




