1-31 フワフワトロトロの正体と、中央病院。
宜しくお願いします。
***********************
【タイトル】 このKissは、嵐の予感。
【第1章】(仮)このKissは、真実の中。
1-31 フワフワトロトロの正体と、中央病院。
***********************
――― パマリ侯爵領コルト
中央病院 A病棟 329号室
――― 6月5日 10:00
パフさんとマルアスピー様と俺は、パフさんの母親リディアさんが入院するコルトの町の中央病院に来ていた。魔術革命によって医学を根拠とした医療を施す医者や病院は2000年以上も昔に姿を消したが、回復治癒を目的として宿泊する施設を病院。回復治癒の魔術を施す者を医師や医者と呼ぶ文化習慣は残っていた。
コルトの中央病院は、コルト大聖堂と同じく歴史ある建造物で、ゼルフォーラ王国の中でも数少ない前時代の遺産。考古学の分野においてもその価値は高いそうだ。
病気や怪我の治療治癒程度なら一瞬で完治する時代において、現在の病院は精神を病んだ者や原因不明の病に冒された者。そして魔術によって状態異常呪いを受けた者の為の最終的な受け皿としての側面が強い。各集落や地区地域では手に負えない者、創生教会では手に負えない者を保護名目で隔離する事も病院に与えられた役目だからだ。
そして俺の予想通り、案内された病室は、状態異常患者が入院するA病棟だった。
・
・
・
≪トントン
「レイジィーさん。娘さんと御友人の面会希望です。面会しますか?」
「娘が!・・・会います。会わせてください」
「レイジィーさんは、昼食後に解呪の施しがあります。面会許可は昼食の前まです」
「分かりました」
≪ガチャ
「お母さん」
パフさんは、母リディア・レイジィーさんに勢い良く駆け寄った。だが、身体を気遣ってだろう抱き締めたい気持ちを抑え、優しくそっとレイジィーさんの両手を握り締めただけだった。
「おはようございます」
「パフちゃんにとても似ているわね」
親子ですからね・・・
『それもそうね・・・パフちゃんの数年後は美人決定ね』
ハハハ。
「パフ。こちらの方は?」
「旦那様のロイク様と奥様のマルアスピー様です」
「こちらの方が、私の入院費用を・・・」
リディアさんは、ゆっくりと身体を起こし、俺達に頭を下げた。
「ありがとうございます。何も出来ないこの子を雇っていただきましてありがとうございます」
「身体を起こしても平気なんですか?」
「動き回ったりは出来ません。呼吸が乱れない様にゆっくり動く分には何とか」
「パフさん。早速だけど、リディアさんのステータスを確認します。何があっても慌てずに、約束した通り俺達の指示に従ってください」
「は、はい。ロイク様」
「パフ?いったい何が始まるの・・・」
「お母さん、私を信じて。ロイク様は聖属性を扱える賢者様で、竜を御1人で殲滅討伐した英雄様なの。私と同じ呪いが原因でお母さんは体調を崩してる可能性があるって」
「私達の一族・・・大地石の巫女にかけられた呪いが、診えているのですか?」
「巫女の呪いですか?」
呪いって継承する物なんですか?
『子々孫々へ呪いを継承させる事は可能よ。でも、大地石の集落は4000年位前には、今のロイの場所に合ったはずよ・・・と、聞いているわ』
・・・そうですか。4000年以上も開く事の出来なかった開かずの扉がある位ですから、呪いがあってもおかしいとは思いませんが、執念深い巫女って有難くない存在ですね。
『呪いが4000年も続く何て人間種に出来るとは思えませんが、大地石の巫女にかけられた呪いと本人が言ってますしね・・・』
「何の呪いかは分かりませんが、以前パフさんを解呪した時より、俺自身の能力も経験も向上してます。今の身体の状態が呪いのせいなら、直ぐにも退院出来ると思います」
「娘の呪いを解除した時に、誰も石化しなかったのですか?」
「石になる呪いだったんですか?」
「・・・この病院に入院した最初に日に、診察してくださった院長先生が石になったまま戻す方法も分からず隔離病棟の病室に置かれているそうです」
「石化の状態異常があるなんて初めてしりました。後で、それも治せるか試してみます。パフさん、さっきの衛生補助士さんに、コルト大聖堂の開かずの扉を解放した英雄。全属性の賢者。竜殺しの英雄。ロイクが石化を解呪するからと伝えて院長先生や他に強力な呪いにかけられている疑いのある人を、受付の大ロビーに集めておくように伝えてください。もし俺の名前で動かない様ならそれまでです」
「分かりました」
パフさんは、病室を後にした。
「ロイク。今日はお医者さんごっこ?」
「ごっこって、折角病院に来たんですから、俺に出来る事位は・・・それに、聞いた事の無い呪いや状態異常の知識や情報を集める良い機会だと思うんです」
「私は、ロビーの売店で購入した。果物がサンドされているパンを、窓から外を眺めながら食べてますね」
「もう食事ですか?」
「あれは朝食でしょう。これは、おやつよ。おやつ。それに、ここは5階建ての4階部分なのでしょう。眺望が良いと思うのよ。聖域が見えるかもしれないわね」
「太りますよ」
「大丈夫よ。その分、運動するから」
「あれ?リディアさん。この病院って1階は診察室とか魔術専用のエリアですよね」
「はい」
「2階が200台で3階が300台で、4階も300台ですよね?5階は500台なのに」
「私は、入院してまだ7日なので」
「衛生補助士さんか医者にでも聞いた方が早いか・・・それでは、リディアさん解呪を施します」
「あ・・・はい。危険だと判断した時は直ぐに止めてくださいね」
「えぇそうします。ですが、大丈夫ですよ」
俺、状態異常無効だし・・・
『フフフッ』
俺は、リディアさんの状態を確認する。神眼はオートで切り替わるとても便利な神授スキルに更新されている。
名前は、リディア・レイジィーさんで......状態は、呪い継承4分の5?あれ、呪いの状態が1より大きいけどこれって段階とか強さを表してる訳じゃないって事か?
『呪いが発動しているからでしょうね』
なるほど・・・って、昨日の神授で共鳴の機能が向上したんじゃなかったでしたっけ?
『そうね。ロイクの考えている事が、前みたいに全部分からないもの』
これは、俺が無意識にマルアスピーに語り掛けてるって事ですか?
『そうね。・・・きっと、無意識の内に私を求めているのよ』
また、そうやって話をおかしくするんですから・・・
『フフフッ』
【オペレーション】発動 ≫
【パーフェクト・コピー】発動 ≫
この呪いの詳細を知りたいんだけどなぁ~・・・やっぱり呪いの種類とかかけた人は分からないや。呪いだけ別の場所に移して、力を付けて分かる様になったらまた調べよう。
可視化:表示・未処理魔獣・兎耳狼:取り出し ≫
≪・・・道具・未処理魔獣より、兎耳狼1匹を取り出しました。
「えっ?・・・あの、その魔獣は何処から・・・」
「ここに来る前に、仕留めて来た魔獣です」
「はぁ~・・・そ、そうですか・・・?」
まずは、リディアさんの、呪い継承4分の5を【schneiden】≫・・・綺麗に取れたよ・・・。状態の異常も無しに変わったし、【schneiden】に記憶してある呪いを、兎耳狼に【geben】っと・・・。仕留めた後でもやっぱり移動出来た。
『これで、ロイクは立派な御医者様ね』
魔術を施してませんけどね。
『私、胸の辺りが苦しいみたいなの、見て貰えるからしらぁ~』
それ食べ過ぎによる胸焼けですよ。きっと・・・
『何よそれっ!』
マルアスピー様は、頬を膨らませ胸の前で腕を組み俺を凝視する。その瞳は俺を見つめるいつもと同じ全てを包み込む様な優しさに溢れていた。だが、俺は・・・
凝視・・・あぁ~俺って・・・
『フフフッ』
・
・
・
あれ?
『どうかしたの?』
兎耳狼の呪いが、3分の1って・・・
『4分の5でしたよね?』
はい
「あ、あのぉ~・・・」
「あっ!はい、どうしました?」
「もしかしてですけど、もう呪いの解除に成功したとか無いですよね?」
「呪いは、こっちの魔獣に移したので、まだ体調に違和感がある様でしたら、原因は別にあると思います」
「急に身体の内側が軽くなったと思ったら、ずっと胸や肺が重い感じだったのですが、呼吸が楽になりました」
「良かったです。念の為、回復魔術をかけます」
「あ、ありがとうございます」
「【ベネディクシヨン】≫」
精霊聖属性下級魔法【ベネディクシヨン】レベル1・自然魔素:清澄聖属性166分の1:発動 ≫
リディアさんの身体が、柔らかな金色の光に包まれる。
「あれ?」
「ねぇロイク。それ聖属性の祝福なのよね?」
「簡単な【ベネディクシヨン】を制御して施しただけなんですけど・・・」
「でも、それ、繭・・・あっえっと・・・」
『その魔法は、聖母の繭【notredame】。聖属性と光属性の精霊で、精霊王様に次ぐ偉大なる大母精霊様の最上級魔法です』
え?でも、166分の1。つまり精霊魔法を適正のレベル1で発動させましたよ・・・
『集めた自然魔素は、レベル1用の量だったのかもしれませんが、発動の際に、神気を無意識に変換して、清澄魔力として放出してしまったのかもしれません』
何だか、前よりも魔法の扱い方が難しくなった気がします。
『つい先日まで、普通の青年だったロイクが、私達精霊の力を凌駕し、神の力を扱っている訳です』
はぁ~精霊魔法も満足に制御出来ていない状況なのに、更に神気の制御まで・・・
「あ、あのぉ~・・・今の温かな光は回復魔術の1つなのでしょうか?」
「聖属性の回復魔術は珍しいので、皆さん驚かれるんですよ」
『嘘が上手になったわよね』
ハハハ・・・褒められても嬉しくありませんよ。それっ!
「呪いの解除もそうですが、腰の痛みや、近視だったはずの目まで回復治癒したみたいです」
あれ?回復魔法しか使ってないのにどうしてだろう・・・
『だから、聖母の繭【notredame】よ』
そうなると、何を発動させると、ベネディクシヨンが発動するんだろう・・・魔法の確認もする必要がありそうです。はぁ~
「という事で、リディアさんの解呪と回復は終了です。魔獣に移した呪いは俺が貰って問題無いですよね?」
「貰っていただいた方が助かります。・・・・・・あのぉ~」
「どうしたんですか?」
「家にはお金がありません」
「あぁ~・・・やっぱり、パフさんのお母さんですね。パフさんも同じ事を言ってました」
「いえ、これは・・・親子とかは関係無いと思います。呪いの治療費は・・・こ、高額ですから」
「呪いを解呪したと言っても、リディアさんにかけられていた呪いを、俺が貰っただけですから、気にしないで良いですよ」
「そんな訳には・・・」
≪トントン
「ロイク様。副院長が挨拶したいそうです」
「副院長がですか?構いませんが、俺に何の用か聞いてますか?」
≪ガチャ
≪カツカツカツカツ
「ロイク殿。王都に発ったのだと聞いていましたが、まさか中央病院に来ているとは」
「ワルテール様。この病院の副院長なんですか?」
「院長が俺の父でね。石になってしまったって大騒ぎの末、俺が臨時で中央病院の責任者になったって訳。無役で大勢のスタッフに指示とか出すのは問題だって、ステファン次期侯爵様から副院長に任命されたって訳」
「ワルテール様が責任者なら話が早くて助かります」
「何をする気なのかだけは先に教えてくれないかな?」
「呪いをかけられて入院している入院患者さん達と、魔術を施して呪いを受けた医者達を折角なので治して帰ろうかと。ただ、呪いは全部貰って帰る予定です」
「呪いを持って帰る?」
「はい、回復治癒解呪の報酬は呪いを俺にくれる事で十分です」
「呪いを貰う!・・・良く分からないが、ロイク殿なら何でもありだろう。まずは俺の父の石化を解除して、医者の連中を納得させてからだ」
「分かりました」
「今直ぐ、父の病室へ行きますか?」
「昼食前に家に戻らないといけないのでお願いします。それと、リディアさんの呪いは解呪したので、体力検査を済ませたら退院で良いと思います。回復と治療と入院費用として病院に支払ったお金も、7日か8日の入院で退院だし結構戻りますよね?」
「治したのはロイク殿だしね。入院していただけになってしまうから、9割以上戻るかな・・・そう考えると、病室から患者が元気になって居なくなるのは嬉しいが、患者が一斉に退院したら経営が大変な事になりそうだよ・・・ハッハッハハハ」
「中央病院は教会や周辺の病院施設から患者さんを受け入れているんですよね?空いたら直ぐに埋まるんじゃないですか?」
「そうだね。ここ数ヶ月原因不明の病で入院する患者さんが急増しているんだそうで・・・まっ、父が喋れる様になったら、父から聞いた方が良いかな。行こう!」
「リディアさん。パフさんと話をしていてください。リディアさんは本屋さんなんですよね?」
「ど、どうしてそれを?」
「解呪中にSTATUSを確認したので、その時です」
「戻ったら、また話ましょう。マルアスピー行くよ」
「え?」
2人にしてあげましょう。
『そうねっ!』
「パフちゃん。ロイクが1人だと寂しがるから、一緒に行って来るわね」
「は、はい!ロイク様。母はもう大丈夫でしょうか?」
「昼過ぎの診察で許可が出れば退院出来るんじゃないかな?」
「ありがとうございます」
・
・
・
――― 隔離病棟 10:30
「あぁ~・・・とってもリアルな石像ですね・・・」
「元が人間ですからね」
「石像が砕けたらどうなってしまうのかしらね」
「興味はありますが、やったら激しく後悔する事になりそうなので、止めておきましょう」
「そうね」
「ロイク殿。今、サラっと恐ろしい会話が・・・」
「ハハハ。大丈夫ですよ。仮に砕けても、修復の魔術があるので、元の石像・・・あぁ~~~」
「な、何でしょう?」
「どうしたのよ」
「回復や治癒や修復や修繕って、有機物か無機物かって対象に違いがあるみたいなんですが、石になってる状態なら、修復や修繕のスキルが有効かなって閃いたんです」
「そんな魔術があるんですか?」
「はい」
『でも、それって3日以内が対象よね?』
あっ・・・! 諦めて、状態異常を普通に解除します。
『フフフッ。ガンバ!』
はい・・・
「石化を解除します。眩しく無い様に頑張りますが、一応、気を付けてください」
「分かりました」
「【ベネディクシヨン】≫」
精霊聖属性下級魔法【ベネディクシヨン】レベル3・自然魔素:清澄聖属性166分の1・・・じゃなくて、もう一段弱くして、180分の1:発動 ≫
石像の院長は、柔らかな金色の光に包まれる。
・
・
・
「おっ、身体が動く。確か足や手の先が石化し始めて・・・」
「父さん」
「どうして、お前がここにいる」
「どうしてって、中央病院の院長の父さんが呪いを受けて石化したって騒ぎになって、息子の俺が副院長として病院を切り盛りしていたんですよ」
「儂は、何年石化していた?」
「連絡を受けたのが、4月29日でしたので6日か?前の日に石化していたのでしたら7日です」
「6日や7日で、大地石の呪いと思われる呪いを解呪し、儂の石化の原因を突き止め解除までしたというのか!」
「原因は分かっていませんが。父さんの石化は、ここにおります英雄ロイク殿が魔術であっという間に解除しました。患者のリディアさんの呪いも先程あっさり解呪して今日にも退院予定です」
「いったいな、何が起きている?」
「父さん、6日や7日石化しただけでボケたのですか?」
「何がじゃ?」
「ですから、石化解除と呪いの解呪を、彼がやってくれたのです」
「ワルテール。お前は事の凄さが分かっておらんのか?」
「理解しているつもりです。彼は兎に角凄い青年なんです。現実を受け入れて前に進みましょう」
「儂も現実は理解しているつもりじゃ!だが、呪いや状態異常を原因を解明せずに解呪解除可能な魔術があるという事は、原因不明の病もその類の魔術による物の可能性があるという事だ。即ち儂等の手に負える次元では無いという事じゃ」
『どうするのこれ・・・?』
う~ん
「院長。先日実験した魔術の話なんですが、聞いていただけますか?」
「恩人の話を無下にする程、落ちぶれてはおらん。我が身の不徳過信が引き起こした石化の最中。終わりを覚悟したところまでは覚えておる。だがこうしてまだ生きている訳だ。感謝する本当にありがとう。盛大に礼をしたいところじゃが屋敷の物は全てワルテールにくれてやってしまったからのぉ~。ただの隠居の身では・・・・・・そうじゃボルニ―家が代々集めて来た書物を譲ろう」
「ワルテール様の資産なんですよね?」
「屋敷の物はな!」
「書籍類は、別の場所って事ですか?」
「そうじゃ。この病院の屋上に儂専用の部屋があってな。先祖達や儂が集めた本によって占拠されておる」
「院長やワルテール様がくれるというのでしたら、喜んでいただきますが良いんですか?」
「構わんよ」
「俺が持っているより、ロイク殿が持っている方が、王国の為になると思う」
古い書物もあるみたいだし、良い物を貰ったかもしれないですね。
『古い本ねぇ~・・・1万年前とかには、本とかは無いわよ』
1000年前でも十分古いですよ!
『そ、そぉ~ぅ~よね・・・』
・
・
・
俺は、院長にパフさんとリディアさんの時の解呪。そして、適当な話をでっち上げ説明した。
――― 隔離病棟 11:10
「ロイク殿。原因不明の病と思われる患者、非常に高度な呪いをかけられた患者はここに全員集まったそうです」
「ワルテール様、分かりました。それでは、呪いを受けた方から診たいと思います。念の為、彼等の治療治癒にあたった医者の状態も確認したいので、院長!関わった事のある患者さんの傍に医者を待機させて貰えますか?」
「分かりました。諸君聞こえたじゃろう。儂の様に石化したくなければ英雄殿の指示に従うのじゃ」
「院長、私はこれから診察があります。ヒーラーでも無い者の茶番に付き合う必要を感じません」
「チャン君。ヒーラーの定義を聞かせてくれんかね」
「院長・・・医師の皆さん。そして呪いに冒され藁にも縋る思いでここに入院している患者の皆さん。医師医者とはヒーラー。つまり治療・癒し・回復・治癒・解呪・解除。高い魔力を持ち優れた魔術を扱える我々の事なのです。私は水属性と地属性2つの属性を高度なレベルで施す事が出来る。数少ない多重属性のヒーラーです。院長や副院長は、魔術師でもヒーラーでも無いのですから理解出来ない事も多いでしょうが、属性を二つ以上所持する者を魔術師魔導士協会や宮廷魔術士では、敬意を持って『アンスタンルドゥーブル』と呼びます」
「チャン君。話は以上かね?」
「分かっていただけましたか?ここで最も優れた私ですら治癒解除出来ない物を、腕力や握力にまかせ魔獣を倒し英雄と賛美されている者に、何が出来るというのですか?」
「儂の石化を解除し、古代ロイの大地石の呪いと思われるリディアさん呪いを解呪したのは、ここにいる英雄ロイク殿なのじゃが、何か他に言いたい事はあるかね?」
「ぐ、偶然、地属性に関する知識があっただけでしょう。私がもう少し地属性を鍛えていたら、院長を助ける事が出来たのにと葛藤していました。無事に復職され心より安堵しております」
「話を逸らすでない」
「院長。俺達、他にも用事があるので、サクッと治して帰りたいので、始めてかまいませんか?」
「あぁ・・・済まないね。ロイク殿」
『フフフッ。何処から根拠の無い自信や自尊心があんなに湧き上がるのかしら?とても興味深いわ』
変わった人ですよね。
『STATUSを覗いてごらんなさい。面白いわよ』
うん?
俺は、マルアスピー様に言われるがまま、院長にチャンと呼ばれている2属性使いを覗いた。
名前はチャン・カルゼノイ。32歳。王民で子爵家一族......それで、LIFE・SKILLに、地属性と水属性をレベル3で所持している様ですね。
『年齢から逆算して、SENSE・SKILLに適性があるのなら、とっくに移行しているはずよね・・・』
それで、根拠の無い自信って言ってたんですね。って、さっさと終わらせて帰りますよ。母さんから料理を教わるんですよね?
『そうね。あの人間種より料理の方が大切です』
・・・
「それでは、呪いをかけられている可能性がある人から診て行きます。魔獣を1匹出しますが、仕留めてありますので危険はありません。どうか驚かないでください」
可視化:表示・呪い付与魔獣・兎耳狼:取り出し ≫
≪・・・道具・魔獣より、兎耳狼1匹を取り出しました。
俺の左手に兎耳狼が出現する。
「院長。呪いの患者さんは、こちらに居る13人で間違いありませんか?」
「中央病院が把握している限りではそうです」
まっ診れば分かるか・・・
【オペレーション】発動 ≫
【パーフェクト・コピー】発動 ≫
「今から、呪いを解除します。目を閉じてそのまま椅子に座っていてください」
「はい」(不安そうな声13人分)
まずは、御婆ちゃんからっと・・・状態異常の沈黙に似た呪いがあるんだぁ!
『そうみたいね』
【呪い・失語】・・・日常会話に支障を来し意思疎通に弊害を齎す。なるほど。【schneiden】≫で、切り取って、【geben】≫で、魔獣に移して、うん。綺麗に異常無し状態になった。
「まず、一番右の女性の言葉をおかしくする呪いを解除しました。はじめまして。エーフィさん。俺はロイクって言います。声を出して貰えますか?」
初老の女性は、恐る恐る口を開き声を発した。
「どうして私の名前を・・・あぁ~ちゃんと喋れる。・・・ちゃんと声が出ます」
「呪いは解呪しました。他に状態異常も無い様です。何処か身体に違和感はありませんか?」
「わ、分りません・・・」
「そうですか。何かあったら言ってください」
「ありがとうございます。この御恩は一生涯忘れません」
「気にしないでください」
次は・・・大きな人だなぁ~ベンヤミンさん24歳。うわぁ~体重201Kgって痩せた方が良いよ・・・
『過食症かしらね』
マルアスピーもほどほどにしないと危険ですよ!
『私は精霊よ。人間種と根本的なクオリティーが違うのよ』
・・・【呪い・樹木化】・・・皮膚が木の幹の様に変化しやがて1本の木になる。石化と同じ位質が悪い呪いだなぁ~【schneiden】≫で、切り取って、【geben】≫で、魔獣に移して、うん。綺麗に異常無し状態になった。
「あれ?身体が自由に動くぞ!」
「ベンヤミンさん。貴方の樹木化の呪いは解呪しました。樹木化していた関節部分がまだ完全に治癒していない様なのでまだ立ち上がったりしないでください。最後に回復を施します」
「は、はい・・・って、どうして俺の名前を?」
「STATUSを診てるからです。代々宮廷庭師の家系の様だし、呪いの出所も簡単に見つけられるかもしれないです」
「JOBまで分かるんですか?」
「えぇ。ステータスとスキルなら全部認識出来ます」
「僕の状態に左腕の慢性的な痙攣とかありませんか?」
「痙攣ですか?」
・・・状態異常は無いみたいだけど・・・
『ロイクきっとあれよ』
あれ?
『アルコール依存症とか』
ぶっ!アルコール依存症って!
『麻痺とか震えって、人間種や精霊種や神様でもアルコールを飲むとなるわよね?』
俺と同じ世代だし、期待や責任が影響している気がします。
『ふぅ~ん』
ちょっとだけ、分かり易い嘘で治ったって思って貰います。
『随分親切なのね』
乗りかかった船ってやつですよ。それに、何か少し前の俺を見ているみたいで・・・
「状態異常では無いのですが、頭の中、脳に小さな魔力の塊がある様です。チクッとしますが害はありません。彼を車椅子のまま俺の傍までお願いします」
「は、はい!ロイク様」
「様?」
≪ガラガラガラガラ
「ロイク様。ここで宜しいでしょうか?」
「えぇ・・・」
『ロイク信者1号かしらね』
止めてくださいよ。そういうの・・・
『私に言われてもねぇ~フフフッ』
俺は、ベンヤミンさんに手を翳す。
神気雷属性最下級天罰【petitfoudre】5万分の1:発動 ≫
ベンヤミンさんの頭上の宙から一筋の光が出現、ベンヤミンさんの頭部に吸収される様に消える。
「なっ何ですかぁ~今のは・・・詠唱も無しに、光?いや天空の稲妻の様な・・・院長。彼は何なんですか!危険すぎます」
「チャン君。彼は地水火風聖邪光闇無全ての属性を扱う全属性の賢者。君の言った通り、偶然英雄になっただけの青年じゃよ」
「ぜ、ぜん、全属性だとぉ~・・・そんな事ありえない。私は認めない騙されないぞぉっ」
チャン・カルゼノイ(30)は、俺の近くまで歩み寄ると、俺の右腕を掴もうとする。
≪ガツ
「ぎゃぁ~。何だこれはぁ!」
「チャン・カルゼノイさん。それは聖属性の結界です。悪意や敵意を持った者が俺に危害を加えようとすると、自動で守ってくれるんです」
「どうして俺の名前を・・・」
「家臣子爵家って事は、先日討伐戦闘で亡くなった子爵様の一族の方ですよね?」
「エリック・カルゼノイは私の兄だ」
『兄弟で面白人間種だったのね』
兄弟揃って変な人って意味ですか?
『変と言うか、見ていて面白いわ』
そうですかね・・・
「思い出したぞ。英雄ロイク・・・英雄ロイク。貴族領軍の奴等が、貴族達までお前を賛美していたが、私はお前の正体を知っているぞ。お前は我がカルゼノイ家の兵士だけを故意に見捨て全滅に追いやった悪魔だぁっ」
「何を言い出すかと思えば、チャン君。言い掛かりは止めたまえ」
「男爵家が子爵家に口答えする気か?」
「私は、副院長として家臣男爵家の当主として、君に話ているつもりだ」
「煩い煩い煩い煩い煩いぁ~!私は、兄の後を継ぎ、家臣子爵家の当主になる身だ。口答えするな」
「さっさと終わらせて帰りたいので、解呪と解除が終わるまで彼を拘束します」
「【レストリクシオン】≫」
精霊闇属性下級魔法【レストリクシオン】レベル1・自然魔素:清澄闇属性200分の1・発動≫
「ロイク殿。これはいったい?」
「院長、ワルテールさん、それに皆さん。安心してください、彼は俺の魔術で暫く身動き出来ないだけです。解呪の際に騒がれては集中出来ません」
・
・
・
――― アンカー男爵領マルアスピー
ロイクの実家 ロイクの部屋
――― 6月5日 13:00
俺は、13人の呪いを解呪し、9人分の原因不明の病(状態異常)を解除し、中央病院の関係者4人の状態異常を解除し帰宅した。
マルアスピー様と、パフさんは、俺の母親から料理を教わる為1階の台所だ。俺は自室で、回収した呪いと状態異常をタブレットで確認していた。
呪いって、マテリアル・クリエイトみたいに、自由度が高いスキルって事だよなぁ~・・・闇属性が呪いだとばかり思っていたけど、複合属性の呪いが多いのかな?
『病院の人間種達に解呪出来なかったのはね』
あ、はい。
『闇属性や邪属性による下級魔術による呪いでは無く、上位の呪いがかけられていたからよ』
呪いにも、下級とか上級があるんですか?
『えぇ。先程の病院での呪いの多くが、人間としての死を呪いを受けた者に与える物でした』
確かに、石や木にしたり、会話を困難にし記憶を混乱させたり、猿だと思い込んでいたり、人間として生きるには難しい物ばかりでした。
『闇属性をベースにして、他の属性を混ぜ合わせる事で、高度な呪いの魔法。人間種達なら魔術を扱う事が出来るはずです。本で読んで得ただけの知識なので正確かどうかは分かりませんが、本では......
***呪いの説明***
≪呪詛≫
下級の呪詛(呪い)
闇又は邪属性の自然魔力を利用し
状態異常や不運を対象に齎す。
中級の呪詛(呪い)
闇又は邪属性の自然魔力を基にし、
地水火風属性等の異なる属性を1つ混合し、
状態異常や不運を対象に齎す。
上級の呪詛(呪い)
闇又は邪属性の自然魔力を基にし、
地水火風属性等の異なる属性を2つ以上混合し、
状態異常や不運を対象に齎す。
闇邪属性2つの自然魔力を基にし、
状態異常や不運を対象に齎す。
***説明おわり***
......それで、下級だからといって軽視出来ないの。下級の呪いであっても死へ誘う事は出来るからよ』
なるほど。長い年月衰える事無く機能し続ける呪いと、近年の発想や考えから生み出された呪いの特徴が、今の話からも何となくでるが分かる気がします。
『新しい呪い?』
はい。古の時代から存在していると思われる呪いの多くは、闇属性に邪属性を加えた物をベースにして、そこに1つから2つの属性を加え呪いを成立させている様なんです。例えば、石化の呪いですが、闇属性に邪属性を少し混ぜ闇属性を邪の汚染状態にしてから地属性が発動する様に呪いが組まれていた様です。しかも、リディアさんにかけられていた呪いの呪詛に触れた者のみを狙った解呪防止の呪いがわざと目立つ様にです。
『パフちゃんやパフちゃんのお母さんにかけられていた大地石の巫女による呪いの正体は分からず終いという事ね』
残念ですが、タブレットで検索しても何も出て来ませんでした。
『そのうち分かるわよ。・・・さぁ~』
さぁ~って何ですか?
『今日の昼食を楽しみにしていて良いわよ』
母さんから教わってるんですよね?
『そうよ。もう頭の中では完成しているわ』
・・・まだ、実際に作って無いんですね・・・
『私はパティシエールよ。安心なさい』
ハハハ・・・今教わってるのってオムレツ・・・だし・・・