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このKissは、嵐の予感。(仮)   作者: 諏訪弘
ーメア・イート編ー
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6-MS-09 誤差3

 まだ一時間半も時間がある。一時間半もあればやれることは意外に多い。


 ……そうだ。魔導具をつくろう。だがただ闇雲につくっていてはダメだ。魔導具で寝室が埋もれてしまう。


 ……そうだ。売れそうな物と売れ無さそうな物。必要そうな物と必要では無さそうな物。片付ければ良いだけじゃないか。



 というわけで、俺はスカーレットの工房ロイスピー本店の三階と四階と五階に設けられた魔導具売り場を見に行くことにした。


 俺の神授スキル【フリーパス】で、経営者専用フロアーの七階へと移動し、業務の妨げになってはいけないので非常階段を使い従業員専用フロアーの六階を素通り五階の小物魔導具を販売するフロアーへと移動した。


 おっ! 何か賑やかで良い感じじゃん。


 おや。従来の物よりはかなり安価に設定してるとはいえ、十歳にも満たない子供が一人で買い物に? 子供のお小遣いで買えるような価格ではないと思うんだけど。……ちょと様子を見ることにしよう。


 個人情報プライバシーは非常事態緊急時でもない限り最優先で守られるべきだと俺は思う。なので、神眼や鑑定等のスキルを使ってステータスを覗く様なことはしない。


 気付かれないように怪しく思われないように程良い距離と立ち居振る舞いで小さなレディーの様子を観察する。


 小さなレディーは、獣人(セリアン)大樹豹(ジュヒョウ)族の特徴でもある長い尻尾をフリフリ揺らしている。


 下面は真っ白だが、毛並みは褐色と白色、梅花状の黒色の斑点がまたにくい演出をしている。フリフリと揺れているだけの尻尾にどことなく品を感じてしまう。


「お客様。本日はご来店ありがとうございます。私はここ五階のフロアー長を任されておりますマイリスと申します。お困りのようでしたので声を掛けさせていただきました」

「あ、あの……わた、(わたくし)はルゥルシィー・ニナフェルト・フェルゼンと申します。ご丁寧にありがとうございます。花の蜜よりも甘い香りにハチドリや蝶野兎のように小さくて可愛らしいお菓子、あ、憧れの工房ロイスピーにやっと来ることができて私は今とても幸せです」

「お褒めいただきありがとうございます。スィーツやデザート等の製菓は一階のフロアーのみとなっております。製菓をお探しでしたらご案内いたしますが如何なされますか?」


・・・

・・


 従業員に声を掛けられた小さなレディーは、子供らしからぬ綺麗な所作と子供らしい口調で楽しそうに会話を弾ませていた。


 ニナフェルト・フェルゼン。つい先日聞いたような気が……。


「ルルパでエクレアとシュークリームとガトーオーアブリコそれと」


・・・

・・


 飲食コーナー(ルルパ)で沢山食べてくれたようだ。楽しんで貰えて何よりだ。う~ん、何か俺ストーカーみたいな……帰るか。



 魔導具のフロアーに行ったのに何もしないままエルドラドブランシュ宮殿に戻った俺は三階のディナー専用の部屋【ソメ】(chefアランギー様命名)の自分の席に座り思案していた。


 夕食までまだ十五分程ある。そして部屋にはまだ誰もいない。


 静かな空間を有意義に静かに使う。静寂の中で巡らす思考はいつもよりも研ぎ澄まされていることはなく残念ながら正常運転のようだ。


 ニナフェルト・フェルゼン。フェルゼン、フェルゼン、フェルゼン。思い出せない。


 ちょっとカッコ付けて考えていたのは、そう、さっき工房ロイスピーで見かけた小さなレディーが名乗った名前についてだ。


 ガルネスとか白光の夜とかメアとか最近色々と色々あって何だか妙に忙しかったから色々と手付かずだったり忘れていることが多い。


 手っ取り早くタブレットで検索してしまえば良いのだろうが、タブレット無しでは何もできない子になってしまいそうで怖い。非常事態緊急時でもない限りは自分自身の力で解決しようと意図的に努めている。


 最近の俺は一味も二味も違うのだ。


「...... ~ ......ねぇロイク、ロイク、さっきから呼んでいるのだけれど、おかしいわね。聞こえていないのかしら。……起きてはいるようなのだけれど、それにしても変な顔ね」

「変な顔とは失礼な」

「そう。さっきからずっと呼んでいたのよ。今日は早いのね」


 変な顔呼ばわりした件は無視ですか、そうですよね、マルアスピーさんや貴女はそういう精霊様でしたね。


「えぇ時間に余裕があったんで早目に移動したんです」

「そう、良かったわね。ねぇロイク」

「はい何でしょう」


「これは言い難いことだと思うの。だから一度しか言わないわ」

「はい」

「呼んでも返事をしないアナタのことを心配した私はアナタの顔を覗いて驚いてしまったの」

「はぁ……」

「その顔はアナタには似合わないわ」


 ヒドイ。いきなり顔を否定された。


「一応言っておきますが、俺、生まれた時からこの顔なんですけど……」

「そうね。私の言い方が良くなかったようね。真面目に悩んでいる顔がアナタには似合っていないわ」


 言い直して、それですか。


「そんなアナタに私から提案があるの」

「はぁ何でしょう」


「もっと楽しく悩んでみたらどうかしら?」

「楽しく悩む?」

「そう。以前【人は所作で決定付けられる】という書籍を読んだのだけれど、その書籍に書かれていたの。寡黙な男性の横顔に女性は惚れる。はい、それうっそぉー。人は言葉を交わさずして心を通わせることはない。はい、これもうっそぉー。人は相手を思いやる思うことで心を通わせることができる。と、書いてあったの」


 うん? 随分と変な内容の本みたいだな。まぁ~何だ、マルアスピーが楽しそうだし野暮な追及はしないでおこう。


「ホント本って色々ありますね」

「そうね。フフフ」


 なんだろう。俺って気を使い過ぎてるような……イヤどちらかというと使われているのか? う~む、実に難しい問題だ。


「ホラ、その顔、また似合わない顔をしているわよ」

「……さっきも言いましたが生まれた時からこの顔です」


 うん。気のせいだな。


 大きく変化しないマルアスピーの表情だが俺には分かる。あれは楽しい時に見せる顔だ。これは俺をからかっているのだろう。


 そうに違いない。……だが、一先ず考えるのは保留だな。答えが出てきそうにないから食事の後で余裕があったらもう一度考えることにしよう。


 しかし、俺に似合う顔ってどんな顔だ?


「ホラ、また。とても変な顔をしているわ」


 え? あれぇ~?

貴重な時間をありがとうございました。

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