6-MS-06 追われる者と時空牢獄6
こんな感じだし、日を改めた方が良さそうだ。時間の無駄だしな。ハァ~……。
「今日は」
「委細承知した。水人の兄弟よ貴様達を殴らせろとはもう言わぬ。代わりの者を用意しろ。さすれば猫の一匹や二匹貴様達にくれてやろう。ただし条件がある」
今日はこのあたりでお開きにしましょうと言いかけた時だった。サザーランド陛下がブレることなく阿呆をぶちまけた。
全然承知できてない上に、既に要求しているにも関わらず更に条件を付ける気なのか?
「あ、兄者……ど、どうする?」
「あぁあぁ……漢に二言は許さん、条件とやらを言ってみろ」
あれれ? 乗り気?
「ふむ。猫一匹にどうかとも考えておったが貴様達の話を聞き改めることにした。儂はメアの王であって鬼ではない。貴様達に同情する気など微塵もないが父を失った貴様達の母の気持ちは痛いほどに良く分かる。領民を失い集落を失い富を失い名声を失い信用を失い命を失った者をこれまでに沢山見て来た。愚か者達の末路とは瞬きの如く一瞬で哀れなものであった。儂からの条件は魍魎域全域を調査する許可だ」
これって水人の兄弟の家を馬鹿にしてるよね? 同情する気が微塵もない。うん、間違いない。
「良いだろう。その条件このチャードン男爵家が八男ハパミクノがしかと聞き受けた」
「兄者、全域の調査を勝手に約束しちゃまずいって、国に」
「分ってる。ここは口裏を合わせて適当に話しに乗れ。ホノクレマさえ手に入れば後はどうなろうと知ったことか」
「あ、兄者……全部聞こえて……」
はい。全部聞こえてました。さて、サザーランド陛下はどう出るのかなぁ~。
サザーランド陛下の様子を確認する。
「ふむ。貴様達が話の分かる水人で安堵した。では、猫の身柄を引き渡すにあたり貴様達に要求する。古の世界で儂が飲まされた水と同じ量の水を貴様達の王にも飲んで貰う。これは決定事項である。清く滑らかで実に旨い水ではあったが量が解せぬ」
「話が違うぞっ!! 男に二言はないと言ったではないかっ!!」
「兄者。兄者、落ち着こう。さっきの話が聞こえていたのかもしれない、ここは様子を見た方が良いと思う。今は話を合わせて機嫌を取るべきだよ」
「そ、そうか。機嫌だな」
弟さんの言う通りです。大きな声だったしサザーランド陛下にもはっきり聞こえていたでしょうね。って、サザーランド陛下ちゃっかりもう一つ条件を提示したけど、これって交渉って言うのか?
「儂はあの日一人寂しく水を飲み続けた。古の世界に強制召喚され水を飲み干せと命令され飲み続けた。貴様達にあの日の儂の気持ちが分かるか?」
「分かるぞ」
「兄者!?」
「そうか。あの日の儂の気持ちを貴様は分かってくれるか」
「ああ分かるぞ」
「あ、兄者……」
「申してみよ」
「何をだ」
「あの日の儂の気持ちを、この場にいる皆の前で代弁することを許す。あの日の儂の気持ちを申してみよ」
「兄者……や、やばいよこれ」
ここまで来たらもう黙って聞いてよ。
「この話は今まで誰にも話したことがない。そう母さんにもだ」
「続けよ」
話がずれてる気がするけど、続けて良いのね……。
「これは数千年前の話だ。一人の漢が筏に乗り海で釣りをしていた。全ての月が空に昇り海面に浮かぶ月に魚が集まる天気の良い素晴らしい釣り日和だった」
「ふむ」
「漢を悲劇が襲ったのはそんな穏やかな午後の一時だった」
「悲劇とな」
「あぁまさに悲劇だ。釣り糸が微かに動いたことに気付いた漢は、釣り竿を握る力を強め身構えた。そして海に落ちた」
「なんと! 海に落ちてしまったのか」
……サザーランド陛下。この話の何処にそこまで食い付ける要素がありました?
「ああ、漢は海に落ちてしまったのさ。まさに悲劇だ」
「そうだな悲劇だな」
「分かるだろう、海に落ちもがき苦しみ飲みたくもない水が喉を通る、あの死の恐怖が。聞こえるだろう、薄暗く閉ざされた水の世界に上も下も存在しない、あるのは死だ、死だけだ」
「そうだな死だけだな」
「その漢こそ、この俺だ」
「な、なんと。天気の良い午後の昼下がりに泳げもしないのに筏に乗り釣りをしていてあろうことか愚かにも海に落ち死の淵を彷徨い奇跡的にも生還を遂げた悲劇の漢とは貴様のことであったか」
「ああその通りだ。悲劇の漢とはこの俺のことだっ!!」
……馬鹿だろこいつら。
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結局、メアの夕飯時になったので、自動的に後日改めということになった。
拘束したのは俺なんで、ホノクレマの身柄はコルト側で預かった。俺達がホノクレマを逃がすかもしれないから監視すると言い張り水人の兄弟はコルトについてくることになった。
神様達に確認を取ったところ、特に問題はないそうだ。
貴重な時間をありがとうございました。