6-MS-05 追われる者と時空牢獄5
―――メア王国王国領イート領主宮城
創生1316656489年
2月26日17時50分頃―――
赤茶けた大地が剥き出しになった広大な荒野で立ち話もなんだということになり、俺達はイート市の中央に建つ吸魔公の屋敷(領主の宮城)に移動した。
勿論、森組跡地に待機させていた人達も全員召喚済だ。
邪教或いは旧教(世界創造神創生教)の教王でガルネス神王国の神王ホノクレマ一世の近衛兵らしいサードノーン(純血のメアの民だがコルトで生まれの者・第三世代)の八人。
自称世界創造神創生教会の枢機卿、何処からどうやって見ても謁見の間で英雄誕生の儀と称し邪属性の魔術で俺に何かしようとした旧教のゼルフォーラ大陸大教区大司教クレメンス・オデスカル。
監獄島ことネットハルト島の教会で神父だった嫌味な男(老人)サルーカスこと自称マダーガスと、司祭を自称していたらしい強欲な男(老人)ブギーガンこと自称カーネギアンと、助祭だった口の悪い女(老人)リズヘイミーこと自称ジャスティンヌ。
メア(亜)下界の魍魎域に生息しているという水犬(荒ぶる濁流の黒き闇の犬)二百九十五匹と、水猫(死を運ぶ黒き闇の猫)二匹。
ドラゴラルシム竜王国の竜騎士隊の飛竜十匹。
彼等の身柄は、宮城の地下三階にある【鮮血大闘技場】通称【ブラッドアンドデスファイト】のバトルグランドの中央に浮かぶ蹂躙の浮島に時空牢獄に投獄したまま預かって貰っている。
宮殿の訓練場に彼等を移動させたところ二匹の水猫に恐怖した兵士や使用人がプチパニックを起こしてしまったからだ。
泣き叫ぶ者、声を失う者、腰を抜かす者、立ったまま気絶する者、勇敢にも立ち向かう者。宮城で働くそんな彼等を見ていてふと俺は思った。
メア王国の国王(半分神様)。
メア王国王国領イート領主七魔公の一角吸魔公。
吸魔公の弟で賢弟伯。
メア王国十二諸侯区ウェードカルンドーナ領主十二魔侯の一角竜魔王(正式には竜魔侯らしい)バハムート。
前竜魔王バハムート(半分神様)。
前竜魔王バハムートの実妹で現バハムートの叔母。
魍魎域の民、水人が二人。
王公侯に同行する普通に強者な存在大勢。
二匹の水猫なんかよりこの面々の方がやばいよね?
恐怖の対象は寧ろこっちだよね?
と……。
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メア王国王国領の領都領主宮城には、王が巡行の際に住まう施設が常置している。
施設内には君臨の間と呼ばれる王が座る椅子だけが置かれた広間がある。
君臨の間に大きな円卓を置き車座になって情報の共有と意見の交換を開始してからそろそろ一時間だ。
共有と交換に一時間もかかっているのには理由がある。それは譲り合う気が誰にもないからだ。
メア(亜)下界全土(悪魔域のみで魍魎域は含まれていない)を統べる王サザーランド・ボナ・サザーランド陛下の主張。
「一発で良い。たった一発で良いんだ。良いから殴らせろ」
コルト下界ドラゴラルシム竜王国の竜王クロージャ・ルードラゴ・ルーバーン陛下の主張。
「ホノクレマの身柄を渡す訳にはいかんのだ。奴には邪教認定された世界創造神創生教開教以前からの罪状が山積みでな。連れて帰らねば、それを理由に責任を取れ補償しろと騒ぎ立て集る低俗な国家も現れる。これは想像するに難しくない。個人的な遺恨でしかないお主等兄弟には悪いが諦めてくれ」
メア(亜)下界魍魎域の民で水人の兄弟、兄のハパミクノ・チャードンと弟のデパリザノ・チャードンの主張。
「チャードン家(魍魎域の一地方を治める男爵家らしい)が使役する水猫夫婦の娘(幼体)を攫い。夫婦の目の前で娘を凌辱した挙句忽然と目の前から姿を消した男だぞ。処刑はチャードン家が行う。こちらが黙って話を聞いているうちにホノクレマを渡せ」
「兄者が暴れる前に従った方が身の為だと思うけどなぁ~。それに母さんが言ってたけど、ホノクレマに辱めを受け身籠ってしまった水猫の娘は自身を恥て暗闇沼に身投げしちゃったてさ亡骸もなしに埋葬されたもんだから水猫夫婦がブチ切れて手が付けられない暴れっぷりでさ、州都で州軍の司令官をやってた母さんの父さんに母さんがお願いして討伐して貰ったんだってさ。家は使役していた水猫を三匹も失って、集落を四十以上住民を数万人以上失って、州軍に依頼したってことで派遣費用とか出兵費用とか行軍費用とか戦闘手当とか危険手当とかでもう火の車。母さんの父さんは州軍を私的に動かしたとかって処刑されちゃたみたいでもう大変だったんだってさ」
王国領イートの領主吸魔公の主張。
「弟よ。我等は全てを陛下に任せようと思う。もう寝ても良いかな?」
王国領イートの領主吸魔公の実弟で賢弟伯のトラヤヌスさんの主張。
「君臨の間に陛下をお迎えしているのですよ。統治者の兄さんがいなくてどうするのですか? それにです。全てを任せるに値する御方は陛下ではありません。トゥーシェお嬢様とリュシルお嬢様の伴侶であり古の世界の管理者でもあらせられるロイク殿こそ全てを任せるに値する御方ですよ。我々などと簡単に申されては困ります」
十二諸侯区ウェードカルンドーナの領主竜魔王バハムートの主張。
「四千年間もの長きに渡り前任のバハムート伯母上様の身柄を拘束し精神を蝕み堕に利用していたと聞いた。半神半竜伯母上様は神にも列なる尊き御方です。あの怪猫族は我がウェードカルンドーナで極刑をもって裁かれるべきです。ここは例えサザーランド陛下であっても譲ることはできません。古の世界を統べる王であらせられるロイク陛下には分かっていただけますよね?」
前任のバハムートの主張。
「たかが猫一匹のことではないか。我は雲丹の蒸し焼き忘れられなくてな。思い出すだけで涎が……、管理者ロイクよ。これが終わったら妹も連れて行きたいのだが良いだろうか?」
前任のバハムートの実妹(現バハムートの叔母)の主張。
「あら楽しみですわ。お姉様だけずるいと思っておりました。猫にきまぐれはいつもの事ですし、そろそろえっとろ、ば、たでしたっけ? それを食してみたいです」
こんな感じで、それぞれが主張する場として一時間が経った訳だ。
俺としては、旧教が絡んでいるであろう案件が解決し、旧教がコルトから無くなってくれればそれで良い。正直ホノクレマは余り関係ない。必要な情報さえ手に入ればそれで良い。
トラヤヌスさんの隣の席で美味しそうにお菓子を食べているトゥーシェが正直とっても羨ましい。出来ることなら俺も蚊帳の外対岸でのんびり眺めてる位の立ち位置で適当にしていたい。
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「ところでさっきから何をやってるんですか?」
「うん? 妾か? マルアスピーに頼まれた悪気結晶を生成しておる故」
「悪気結晶?」
「旦那様は悪気結晶を知らなんだか? 悪気結晶は悪気を結晶化した物でな安定した悪気の供給を可能とする優れものじゃ。生成するのが難しく故に希少とされておる。旦那様であれば可能だと思うが一つ生成してみるか?」
「……後ででお願いします」
興味はあるけど、今は不味いよね……。
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貴重な時間をありがとうございました。