6-MS-04 追われる者と時空牢獄4
この数日間、睡眠は移動中に交代で取れる時のみ。休憩時間は全員で警戒と警護を行い。近衛八人の疲労は限界に近かった。
移動中に交代で睡眠?
本来の能力を発揮しきれていないとはいえ飛竜での移動中に?
体を固定する竜具(鞍や鐙)もなしに睡眠?
ドラゴラルシム竜王国の竜騎士隊でも難しいよね?
そう。つまり、近衛八人はほぼ寝ていない。この数日間、ほぼ寝ずに動き続けていた。
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「ん? なぁー、何か動いてないか?」
「あん? ……」
「いっ、いつの間に……」
「か、囲まれてるぞ……」
「こ、この荒野の何処に隠れて……」
「四、五キロ先から俺達に気付かれづに包囲した……のか?」
「あ、有り得ん。ずっと見ていたんだぞ」
「わ、湧いて出て来たとしか……」
「……ん!? な、何をしている、武器を構えろぉ―――!」
「……はっ! そ、そうだ。て、て、てて、敵襲ぅー! 敵襲ぅー!!」
「敵はっ! ……敵は……しょ、正体不明の獣、その数不明」
「敵はぜ……全方位っ! 我々は敵軍にか、囲まれ戦況は極めて不利な状況にあります」
「新採の三人は神王教王陛下のお傍を決して離れるな。良いか、何があっても離れるな」
「「「はっ!!!」」」
「フワァ~、どうかしたのですか? ここはガルネスではないのですよ。いついかなる時も警戒を怠ってはいけない地なのですよ。何処に危険が潜んでいるのかも分からない状況なのですからもう少し声の」
「神王教王陛下。現在我々は正体不明の獣の群れに包囲されています」
「豫が話をしている時に何ですか全く。まぁ良いでしょう。隊長、それで数は」
「な、何だこれ、見えない壁?」
「おい、俺も……お、俺達と、閉じ込められてないかっ!!!!」
「……た、隊長。だ、ダメです。叩いた感触すらありません」
「……隊長、躾がなっていませんね」
「申し訳ございません」
「まぁ良いでしょう。そこの三人。豫の身は豫が守りましょう、貴方達も戦闘に加わって構いません」
「「「はっ、畏まりました」」」
「??? この者達はこの状況で良く眠っていられますね。貴方達起きなさい。……隊長、枢機卿達を起こして差し上げなさい」
「はっ!!! 枢機卿閣下、敵襲で、で、あ? 何だ、こっこのっ!! でやっ!! はっ!!」
「何をふざけているのです」
「い、いえ私はふざけてなど……か、壁が見えない壁が私を囲むようにあるようなのです」
「馬鹿も休み休み言いなさい。……うん? 飛竜が怯えているようですね。どれ、私は飛竜を落ち着かせてあ???? な、なんですかこれは」
「ですから、見えない壁がぁーあはぇ?」
「な、ぶ、無礼者。豫が豫、豫の前に突然現れるとは何たる狼藉、た、隊長こ奴等を今直ぐ処け……きょ、きょ、卿種がこ、こんなに。あえ? ドラゴラルシムの王が何故ここに……」
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俺達は、俺の神授スキル【転位召喚・極】で、ホノクレマの目の前に姿を現した。
「お! 良い顔してくれるじゃねぇーか。これだよこれ我が期待しておったのはこれだ。ガッハッハッハッハ」
「なんじゃなんじゃ、面白うないのぉ、本当に怪猫族ではないか」
「御祖父様よ。嘘を申して妾に何の益があるのか?」
「そ、その通りだ。う、嘘は良くないなっ! うん、嘘はダメだ。そこの怪猫族は可愛いリュシルが教えてくれた通り怪猫族で間違いない。儂の眼に狂いはない」
「旦那様」
「なんじゃトラヤヌス」
「なんですか、トラヤヌスさん」
「おっとこれは失礼を致しました。私奴がお呼び致しましたのは古の世界の管理者であらせられますロイク様の方にございます」
俺であってたのね、良かった。最近呼ばれ慣れてしまったせいか、つい反射で返事しちゃったよ。
「紛らわしい呼び方をするでないわ」
「申し訳ございません旦那様」
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「つまり周りに居るのは魍魎域に住んでるはずの犬って事ですか?」
「その通りでございます。十匹から二十匹程の群れで生活する縄張り意識の強い種だったはずなのですが」
「三百匹以上の群れは本来おかしいって事ですよね?」
「はい」
「ふむ、あそこを見るが良い」
神眼を意識し、サザーランド陛下が指差す群れの奥を視る。
「猫?」
「あれがおるということはだ、この水犬の群れの何処かに魍魎域の水猫を使役する程の者が潜んでおるということだ。大方この水犬もそ奴が使役しておるのだろう」
「み、水猫ぉ~おっ!!」
悲鳴のような声を上げたホノクレマへと視線を移すと、何故か顔面蒼白で腰を抜かしていた。
この人って猫だよね? 猫なのに猫が怖いのか?
「今の口ぶりだと水犬より水猫の方が強いって事ですよね?」
「あ、ああああ当たり前だ。み、み、水猫を見た者はし、死ぬ。死を運ぶ黒き闇の猫の話も知らんのかっ! ん? 貴様悪人種いやコルトの下民か、下民風情が卿種の皆様と……」
「お! 邪教の親玉は大きく出たな。我等が連合の議長殿を捕まえて下民とはな。流石は邪教の親玉目の付け所が我とは違い過ぎる。ガッハッハッハッハ」
「き、貴様が神の犬かぁぁぁぁぁぁぁぁっ、豫豫の豫の、よ、良くも豫のななんなのだこの見えない壁はぁっ!」
ホノクレマは奇声を上げながら楽しそうに時空牢獄と戯れている。
「それ、時空牢獄って言う俺のスキルの一つで...... ~ ......何か良く分からないんで、水犬と水猫と逃亡を図った皆さんはそのまま入っててください。使役してる人が二人隠れてるみたいなんで、ここに呼んじゃいますね」
神授スキル【転位召喚・極】 拘束中のホノクレマ...... ~ ......枢機卿以外の人間種或いは悪魔種を俺の前に召喚 ≫
あれ? 何も起きないぞ。
「おっかしいなー……」
「お菓子? ロイクお菓子があるなら渡すのじゃぁ~」
「そのお菓子じゃなくてですね。トラヤヌスさんリュシル、人間種と悪魔種以外に人系の存在ってなんかありますか?」
「なるほど。この群れの何処かに魍魎の堕民、水人が潜んでいるのですね」
「旦那様よ、爺やの申す通り、妾も水人ではないかと思う。御祖父様もそうは思わぬか?」
「水人か。……コルトの管理者よ。この中に二人おるのだな? フ、ファッハッハッハッハ良い、良いぞ、実に良いぞぉーヌワッハッハッハッハ、こんなにも早くコルトで飲まされた水の恨みを晴らす時がこようとはのぉー、この際、水人であれば誰でも構わん」
「みみみみみ水人ま……」
「猫、うるさい故暫し……旦那様よ」
「何ですか?」
「死んだふりをする猫の話をしっておるか?」
「ん?」
「あれじゃ」
「ギャハハハハハハなのじゃ~、猫が泡をブクブク吐いて引っ繰り返ってるのじゃぁ~、ギャッハッハッハッハハ」
そういえば、前に絡んで来た怪猫族も泡を吹いて気絶してたような……、しっかし騒いだり気絶したり忙しい人だよなぁ~この人。
「よっしロイク、儂が許可する。儂の前に水人を連れて参れ、うむ」
うむ、じゃねぇーよ。一人で納得してないで俺にも分かるように説明を。誰か誰でも良いから俺に説明を……。
「さぁ~、拳が拳がウズウズしてもう辛抱たまらんのだよ。わかるであろう、はよせい。良いか儂の前じゃぞ」
……もういいや。何かもういいや。ここはメアだしもうどうにでもなっちゃえ。 拘束中の水人?をサザーランド陛下の目の前に召喚 ≫
「????? 何故ばれたのだ? ????? 宙の闇と水に隠れて……」
「兄者、やばくないか?」
「良くぞ参った水人よ。お前達に恨みはないが恨みを晴らさせて貰うぞ。儂を恨むでないぞ、恨むなら水人に生まれたお前達自身を恨むが良い。受けてみよ、儂の怒りの」
「あ、兄者っ! あそこで寝てるのホノクレマじゃないか?」
「マジで? ぬほっ、ホノクレマだ。ホノクレマ。俺の鼻に狂いは無かったようだな」
「兄者。俺が殺っても良いよな」
「だめだ。あいつは俺が八つ裂きにする」
「だったら兄者、兄弟で仲良く半分ずつにしないか?」
「半分ずつ仲良くか」
「兄弟は仲良く助け合いなさいっていつも母さんが言ってなかったか?」
「そうだったな。母さんはいつも言ってたな」
会話を続ける水人の兄弟らしい二人と、時空牢獄にパンチを連打し続けるサザーランド陛下。
「ちょっと、集合して貰っていいですか?」
「「「なんじゃなんじゃ」」」
「「「ふむふむ」」」
俺達は、拘束中の者とサザーランド陛下を放置し、状況の整理を優先することにした。
貴重な時間をありがとうございました。