6-44 再びメア(亜)下界へ⑥ 転移先を見て回ろう⑤
何て言うか。本当にアレから出て…………まぁーアレだ、この件は華麗にスルーすることにしよう。出した本人も出された本人達も立ち会ってしまった人達も、たぶんこれが一番幸せだ。
「老師達は山の南側の荒野グループと合流してからは竜王陛下達と一緒にいたんですよね?」
「そうなるのかなぁ~。急いで隊に戻る必要なんてなかったし、それに森組にはガルネスの首都とそっくりな生態系が広がってるみたいだったからって結果的にガルネスそのものだったんだけどねぇ~、まったくもぉ~最悪だよぉ~、全力で裏切られた気分ってこんな感じなんだろうねぇ~」
「ララコバイアの老師達が糞から這い出て来た時には流石に驚いたわ。哀れと言うべきか汚いと言うべきか、理解するのに何度見かする必要があったが凝視するのもアレでな、いやはやいやはや何ともグワッハッハッハッハ」
おっと糞って言っちゃったよ。スルーした意味ないや。
竜王クロージャの低く響く高笑いに、高く乾いたあっけらかんとした老師ナディアの笑い声が重なる。
「アハッハッハッハッハ。口から入って腹を割いて出るつもりが予想以上の硬さでさ、諦めて尻穴から出ることにした訳なのだよぉ~。汚物塗れになるのは想定の範囲内だったし、なにより貴重なサンプルが沢山採れたのが一番だったね。現状は及第点以上満点以下って感じかな。満点以下なのはまだ実験が終わってないからだよぉ~」
「森に行くと言って姿を消したっきり一度も見かけることがなかったが、まさか、救出されるまでの間ずっと森の中で実験していたのか?」
「何あたり前のこと言ってるのさ、アハハハあぁー分かったかも、もしかして、プッ……竜王陛下はうちの陛下よりユーモアのセンスありますね。アハハハ」
「こ、こらナディア。竜王陛下に何てことを言うんだっ! 竜王陛下、何卒何卒御許し下さい。娘には確り」
「よいよい。我にはララコバイアの王をもを上回るユーモアのセンスがあるらしいからな。グワッハッハッハッハ」
「アハハハ」
「こらナディア止めなさい」
「グワッハッハッハ」
「竜王陛下も……」
竜王クロージャと老師ナディア、二人の笑い声と、二人の態度に慌てふためく老師ナディアの父ユルキリル。と、それを見守る笑顔のその他大勢(俺達)。
誰も気にしてないというか、何か楽しんでるみたいだし。色んな意味で……。これって、スルーする必要あったのかな?
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「イート市は、ディッギングリーグさんの侵入にも気付かなかったんですよね? かなり優れた監視網だって報告書にはありましたが」
「イート市からの報告書によりますと、誤報を繰り返し発し業務に集中できない為、博士達の判断で該当パネルの映像とエリアの警報を切ったままにしていたとありました」
「トラヤヌスさん。それって良いんですか?」
「深刻な服務規律違反でございます」
「ですよね」
「はい。ですので既に」
「しょ、処刑しちゃったんですかっ!?」
「いえ、私奴の兄もそこまで愚かではございません。罪に問われることを恐れ逃亡を図った者の身柄とその者の一族郎党全ての者の身柄を拘束し、協力的だった者には何もせずそのまま身柄を拘束し聴取を」
「供述調書を提出せよとの勅令により、僕が直々に捕縛と聴取を執り行いました」
へぇ~、トラヤヌスさんのお兄さんが直接動いたんだ。気怠さ百二十パーセントでやる気の欠片が一欠片も無さそうな感じなのに、やる時はやる人なんだな……人を見た目で判断しちゃダメって奴だなこれ。
「懲戒処分は、古の世界を統べし偉大なる王と我等が陛下の心の闇が打ち消された後、満を持して行使する所存でございます」
違反だし、処分は免れられない、...... ~
「兄さん」
「何だい弟よ」
「十二人の博士全員を一時に処分するのは宜しくありません。監視する者がいなくては立ち行かなくなりますよ」
~ ......妥当だと思う。干渉し過ぎるのもアレだし...... ~
「それなのだが、我等は吸魔族であって魑魅魍魎鬼などという低俗な輩共とは違う。逃亡を図った愚か者とその一族郎党には安らかなる死を与え、供述調書の作成に協力的だった二人には鞭打ちの刑三ヶ月の後イート市追放の処分をと考えている。僕も優しくなったものだ」
「なるほど、処刑と追放……可もなく不可もなし、一応は及第点といったところでしょうか」
~ ......!?おいっ!!
「ちょっとちょっとそれ……」
って、危ない危ない。『結局処刑しちゃうんじゃないですか』って、勢いに任せて言わなくて良かった。
これは、立派な内政干渉だ。立場、立場、立場。
「陛下、如何なされました?」
「古の世界を統べし偉大なる王よ。このメアに王の発言を妨げるような不届き者は一人もおりません。どうか御存分にお願い致します」
え、えっと……。
貴重な時間をありがとうございました。