6-38 じいや来訪③
トゥーシェの変顔についてはスルーするとして。
トラヤヌスさんの悪気スキル【血路】は移動先での姿の現し方に気持ち悪いという欠点こそあるがそれなりにそこそこ使えるスキルだった。
KANBE下界の牧場へ一緒に移動し血路でコルト下界のトゥーシェのもとまで戻って貰う実験は失敗。
プリフェスト下界(精霊界)の工房ロイスピーの支店へ一緒に移動し血路でコルト下界のトゥーシェのもとまで戻って貰う実験も失敗。
神域のドームココドリーロに移動し血路でコルト下界のトゥーシェのもとまで戻って貰う実験も失敗。
メア(亜)下界の無作為に選んだ三ヵ所から血路でコルト下界のトゥーシェのもとまで戻って貰う実験は全て成功。
コルト下界の工房ロイスピーフィーラ支店、モルングレー支店、ラワルトンク支店から血路でトゥーシェのもとまで戻って貰う実験も失敗。
トゥーシェをメア(亜)下界のジブリール城の最上階の無十楽礼拝堂へ移動させ、コルト下界から血路でトゥーシェのもとへと移動して貰う実験も失敗。
「旦那様よ。妾が思うに悪気の循環が足らぬ故、発動しないのではないか?」
悪気が足りない……それもそうか。……悪気スキルを使う為には悪気が必要。それなら。
「トラヤヌスさん。俺が悪気を補填するんで、もう一度血路を試しましょう」
「旦那様が私奴に悪気をですか。……失礼ながら旦那様は古の世界を統べし偉大なる管理者様ではありますがメアの者に非ず。悪気と魔素が別物であるとご存知ないのではありませんか?」
「そう思っちゃいますよね。トゥーシェというかリュシルの真似をして悪気スキルを使ってみたら使えちゃったんで実験がてら色々試したんですよ。そしたら、面白いことに魔術は全然使えないのに悪気スキルなら」
「旦那様よ。結論だけで良いとは思わぬか?」
おっといっけね。フォルティーナやchefアランギー様のこと言えないな。
「自然魔素の最小単位を一と仮定した上で話します。悪気スキルは、循環する邪属性の自然魔素一に内包する闇属性の魔素四が結合して発動してるみたいなんです。例えば、悪気を三十二消費するスキルを発動したとします。循環する邪属性の自然魔素の消費は幾つになりますか? はい、トラヤヌスさん」
「八でしょうか?」
「その通りです」
「旦那様よ……」
おっと、いっけね。
「つまりですね。循環してる自然魔素も内包してる魔力も結果的には循環してるしてた自然魔素ってことなんで同じゃないですか。だったら、内包側つまり内側で、邪属性一闇属性四を結合させて悪気一を作れるんじゃな」
「だ、だ、だだだだん旦旦旦那さ、ささ様は、悪気を体内で生みだだ出せるのですかっ!!!?」
そんなに驚かなくても良いだろうに。
「簡単なんで一度覚えてしまえば、こんな感じで、ホラッ」
右手の掌に悪気を出力する。一、四、十六、六十四、二百五十六、千二十四と出力し続ける。
「だ、旦那様。そ、そそあのたりでもうもう十分でございます。ですのでその大き過ぎる悪気を消し消し……」
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「前にステータスを確認できるスキル【イヴァリュエイション・ステータス】を試しましたよね?」
「はい。あれには正直驚きを隠せませんでした」
「初めて見たりするとそうかもしれませんね。でも、あれってこっちの仕様になっているんでメアだと必要な情報が欠落してるんですよ。悪気とか見られないんじゃ、メアでは意味ないだろうし」
「そ、そうかもしれません」
「因みに」
「旦那様よ。そろそろ実験を再開したいとは思わぬのか?」
おぉっとっとっと。
「お菓子を預けてあるとはいえトゥーシェを無十楽礼拝堂に一人で置いたままにするのは良くないですね。ということでトラヤヌスさん。悪気を送るんで血路でちゃちゃっとトゥーシェのもとまで行っちゃってください」
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結論。悪気スキルは、悪気さえあれば、どうとでもなる。
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トラヤヌスさんからウェードカルンドーナ帝国の斥候の証言をまとめたウェードカルンドーナ帝国の調査報告書とイート市の調査報告書を受け取り目を通したのは、夕食の少し前の事だった。
老師ナディア達魔剣隊と竜王クロージャと家の者達からと他の証言を裏付けるのに十分な内容だった。
が、夕食(大好物のグラタン)を楽しみ、ゆっくり睡眠を取って、確り朝食を摂って、明日の午前中の執務を終えてから、じっくり精査することにした。
夕食の後のティータイムでは、トラヤヌスさんに悪気の生成が導き出した結論やメアで闇属性が増幅している原因を、邪魔が入りながらも断線少な目で話した。
貴重な時間をありがとうございました。




