6-31 メアと帰還者とコルト⑩ 王弟ルーヘン心の声①
今のは何だったんだ? って。
「ブフォッ、お、お前何て格好してんだ……あ、は?」
「殿、殿下こそ酒の席とはいえ飲み始める前からその様な格好になられるとはいったい何をお考えなのですかっ!! って」
「「ここ何処だよ!!!!」」
少し気が早いかもしれん。だが、思い立ったが吉日。兄上の寝室からくすねたラム酒で勝利の祝杯を挙げようと、イエルク(艦隊旗艦長)を魔導高速戦艦の自室(王弟専用の船室)に呼び出した。
つまみや余興など不要。漢は黙って酒を飲む。立ち上がり献杯しコップを口へと運ぼうとした瞬間。視界を白い光が覆った。白い光は一瞬で収まったのだが……。
「イエルクっ! お前に問う。ここは何処だ? 何故全裸だ?」
「分りません、殿下。……ただ一つだけはっきりしていることがあります。全裸なのは私達だけではないようです」
海の漢は夜目が利く。森の漢に後れを取ることはない。今回はそれが裏目に出てしまったようだ。
キョロキョロと周囲の状況を確認するイエルクと同じように周囲を見回し、ドアの外を警護していた四名の近衛、隣室に控えさせていた給仕係達、目の前のイエルク、自分自身を確認した。
全裸なのは私達だけではない。給仕係(若い女性)数名が悲鳴を上げながら体を抱えしゃがみこんでいる。体を隠そうとする行動から察するに彼女達も全裸だ。
目の前に立つイエルクと比較的近くに立つ近衛の姿は見たくもないが残念なことにはっきりと見えている。
少し離れた場所にいる使用人達の姿は薄っすらとしか見えてない。だが、申し訳ないがシルエットだけでも何となく事態は飲み込めてしまう。
海の漢は野蛮な紳士。潮流が如く力強く華麗に流してしまおう。
「落ち着け。状況が分らん時に大きな声を出すな。それに安心しろここからではほぼ何も見えていないに等しい。お前もだろイエルク」
「は、そ、その通りです。こちらからはそちらがどの様な状況になっているのか全く分かりません」
悲鳴を上げる給仕係達を落ち着かせようと、イエルクを巻き込み周囲を警戒しながら声量を抑え声を掛けた。
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小さな星が地平の彼方へと沈み、大きな星が空に昇った。明るくはなったがハッキリ言って薄暗い。
そんな闇の時間に響く給仕係達の鬼哭啾啾。押し切られる形で、もしもの時以外は火属性光属性の魔術を使わないと約束させられた。
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時が経つにつれ状況がだいぶ分って来た。
火属性光属性の魔術で明かりをともし駆け寄って来る側近や兵士からの報告を傍らから聞こえて来る罵声にも近い悲鳴の中、イエルクと精査し見えて来た。
自分達が何処にいるのか分からないことが分かった。
誰もが皆等しく全裸だと分った。
水も食料も衣類も武具も生活雑貨も船も何もかも無いことが分かった。
海の漢の多くは水属性の魔術が使える。荒事は日常茶飯事で火属性や風属性の魔術が得意な者も多い。食料さえあれば何とかなりそうだ。
様々な報告から最善を導き出し最初の命令を発する。
まずは。
「水は魔術で事足りる。ならば答えは一つだ。そこら中に落ちてる魚を片っ端から拾い集めろ。食料を確保しろ。まずは腹ごしらえからだっ!!」
「「「「はっ!!!!」」」」
「「「殿下? 何を仰っておられるのですか?」」」
「「「服ですよ。服」」」
「「「まずは服だと私達は思うのですが。違いますか? 違うんですか?」」」
「「「どうなんですか?」」」
「「「殿下はうら若き乙女が全裸で良いのですか? そのままの方が良いから放置するのですか?」」」
「「「そうですか。そうですよね。殿下はそういう人ですよね」」」
兵士達が散開する中、給仕係達が一斉に声を上げた。
服? 服だと。この女達は馬鹿なのか? ……遭難したかもしれんのだぞ。水は魔術で事足りるとして食料と安全の確保が最優先だろう。違うのか? あぁあぁ、あまりのことに思考が付いて来ていないのか? ハァ~、これだから女ってもんは。
「「「「「「これだから女はと思っていらっしゃいませんか?」」」」」」
「……いえ……ふ、服は確かに大切だな。そ、その通りだ、服だ服っ! お前等まずは服を何とかするぞ。この際ワカメだろうが葉っぱだろうが何でも良い。……念のちょっとだけ大き目の貝も拾っ」
「「「「「「何でも良くないです。それに何処見てるのですかっ!?」」」」」」
胸元や尻などに興味などないこともないが視線を逸らし思考する。
……非常事態かもしれんのだぞ。隠せりゃ何だって良いだろ。あぁあぁあぁ、めんどくせぇー。誰かこの女達を何とか。
「「「「「「めんどくせぇー女だなこいつら黙らせろとか思っていらっしゃいませんよね?」」」」」」
「……」
貴重な時間をありがとうございます。